表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/43

25位目

「ど、どうしよう……」


 明後日の方向を向いたまま熊手 ピッチフォークの男がつぶやく。体格に見合わず情けないことだ……というのが、第一印象だった。きっと第二印象もそう変わらないものになるのだろう。相手を情けなく、哀れに思えば判断が鈍る。

 そう冷酷に審判を下し、彼のことを考えるのをやめる。

 どちらにせよ、どういう形にせよ、彼をなんとか ・・・・しない限り、僕の道は開かれない。

 できることなら、やり過ごすという形であってくれ……そう祈るのが精一杯だ。だけど、自分を殺すための道具を持って山狩を行うような人間のために、何を祈ることがあるだろうか。僕は兄や弟たちと違ってそこまでお人好しじゃ無いつもりだ。いや、彼らならいっそ見ず知らずの人間のためにすら命を使ってしまうかもしれないけれど。


「どうしよう、俺、死にたく無い……」


 じゃあもう逃げてくれ無いかな……難しいことは言わないからさ。

 あ、でも、たとえばこいつが逃げたとして、後を追いかけてってガロンガルの村に入ったら、こいつはさっきのもう一人の相方に色々言われるのかもしれない。死神を連れてきた……というのでなかったとしても、僕らを村に連れてきてしまったって。

 そう思えば彼には行き場が無いことになる。せいぜい早まった選択をしないで欲しいものだ。


「こうなったら……いっそ埋めてしまえば……」


 せいぜい早まった選択をしないで欲しいものだ。


「うん、そうだ。見なかったことにしよう。全部埋めて仕舞えばいいんだ。死体はそうするのが決まりだもんな。耳飾りはちょっと惜しいけど……」


 せいぜい……ともう唱えるだけ無駄だな。

 おおきな熊手の柄を両手で握って額に当て、一心不乱に自分自身に言い聞かせるような姿はおおよそ正気の人間らしい振る舞いとは見えない。多分こういうのを覚悟を決めたとは言わないんだろうな。少なくとも僕はこれを『狂った』と言う。たかが人の姿形を見るだけで狂うというのもどうかと思うけど、そもそも人殺しに慣れていないのになんらかの形で初めて済ませた後にここに連れてこられたんだろう。

 今更だけど少しかわいそうに思う。

 思うよ。君のためには何も祈らないけど。


「『火精霊 アルファート』」


 彼は発条 バネ仕掛けの玩具が跳ね起きるように振り返る。多分、僕のつぶやきが聞こえたんだろう。

 だけど遅い。

 地面に倒れ、身動きできなくなっていた分折り重なった感情が、きっと何よりも早く火精霊に伝えていたんだろう。

 僕の悪意を。

 急激に周囲の温度が上がり、真っ赤な炎が空に渦巻く。


「え、お、あ……」

「ごめん、何言ってんのかわかんないや」


 あるいは驚愕か苦痛か何かの意地か……彼の口から一言の言葉らしいものは出てこない。ただ口が開閉するだけだ。それとも口から漏れる空気を全てアルファートが焼いてしまっているのだろうか。

 まさか燃料もなくこれほどの炎を起こせるものとは思わなかった……そんなぼくの呟きも、だとすれば彼には届かない。

 アルファートに飲み込まれてしまった彼には、何も。


 精霊とは偉大な力を持っている。

 人間にはとても御しきれない力を、気まぐれに振るうことができる。

 だけど本来はそこに人間に対する『気まぐれ』なんてものは無い。何人かと関わらない限り、まぐれる ・・・・ようなというものを精霊は持たないからだ。いや、興味と言い換えるべきか。

 だからこそ精霊は誰にでも与えられるというわけでは無い。日々ヨゼウさんが接してきた精霊が同調する相手、その上街から出る人間にしか与えられないのだ。なにより街で変な真似をしないかは、それぞれの街に設置された精霊の館に住まうヨゼウさんが監視しているだろう。

 だから本来ならそれより前に館に訪れ通うような人間をヨゼウさんはさほど歓迎しない。精霊の情が人に移れば、それだけ精霊は『まぐれ』やすくなる。そういう意味で僕はあの人に認められてたってことだと思う。というか、思いたい。こいつなら精霊に影響するほどの存在感は無いだろうとか、ちょっとの不安には目をつぶってこき使ってやれとか思われてない、はずだ。

 炎は一際強くなると、空へと大きく広がった。


「この村に来る教師が何人目かは知らない。だけど、街というものを舐めすぎてたね。君らが君らの小さな小さな価値観を守るのに必死なのはわかるけど、僕はそれと同じくらい必死に生きてるつもりだ」


 次の瞬間には火柱が消え、彼の姿はどこにもなかった。

 深呼吸をする。

 彼は死んだんだ。腰に下げた角灯に火の玉が入り込み、空気も急速に冷えていく。もはやここで何があったのかを示すのは、焼けただれ地面に転がる熊手の刃だけだろう。

 それにしても、火精霊の炎というのはここまで強力なものだったか。

 地精霊 アステラが落としていった兎を拾い上げ、衣嚢 ポケットから取り出した胡桃のかけらを角灯の中に入れてやり、最後になったけどヴァクシャサの眠る担架の柄を掴み直す。


 どういうわけか、彼女は微笑んでいた。

 眠ったまま、微笑んでいた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

更新が立て続けに遅れて申し訳ありません。

ちなみにヴァクシャサが微笑んでいたのは、一時的に気温が上がり暖かくなっていたからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ