24位目
いつも読んでくださってありがとうございます。
遅刻が多くて申し訳ありません。
「わかり易すぎるぞ? 欲しいものがあると『だめかなだめかな?』ってちっさい餓鬼じゃるまいし」
「あはは、でもさぁ、なんかこう、なぁ?」
餓鬼扱いされた男の同意を求める声に、もう一人は『はいはい』と気の無い返事を返す。一人で規則を破るのが怖い、ってことかな? 情けない男だな。まあ、そんな情けない男がうろうろして足音を立ててくれるのは、僕としてはありがたい限りだ。死んだふりのために目をつぶっているから、そうして気配がわかるのはほっとする。とくにもう一人は少し前に動きを止めたみたいで、足音は一人分になっているしね。幸い声は頭側だから、ヴァクシャサに無体な真似を働いていたりはしないだろうけど、どこにいるかわからないと少し不安だ。
「それで、何が欲しいんだよ」
「うーん……それなんだけどさぁ、えーとぉ……」
それにしても情けない男は何を見てるんだろう? 僕の服は簡素な上下、彼女は担架のせいでどんなものを身につけているかはわからないはず。あとは僕の荷袋と、大鎌と……一目見て欲しいと思えるようなもの、あるとは思えないんだけど。大鎌に至っては不吉なものとして扱われてるわけだし。
いや、ちょっと待てよ。あまりにも情けない男の気配が動きすぎてないか? 欲しいものがあるなら、それを見つめて動きが止まったって不思議じゃない。なのに統一感なくあっちに行ったりこっちに行ったり……探しているのか? だとしたら何を? というかどうして?
「やっぱりそこかぁ……」
「おいお前、何を!」
声が正面側に戻ってきた。今まで頑なに避けてきた、大鎌の側。なんだ? そこってどういうことだ。探してる、ってことは、あることは知ってても見てないってこと。つまり……ええと、匂い……か、音?
思考がまとまりかけた瞬間、脇の側でガツリと音がして、何かが当たる……棒のようなものが差し込まれた感触がする。血の気が引いた。とっさに浅く息を吸って呼吸を止めると、同時に強い力がかかって体をひっくり返される。脇を殴られたというか、肋骨を殴られたというか。痛い、けど悲鳴はあげなかったし目も開けなかった。でもどうしよう? 死んだふりのために息を止めたけど、こんなのいくらも続かない。呼吸云々以前に、痛みに顔をしかめないだけで奇跡的なのに。第一お腹を見せてる状態で寝っ転がってるなんて、いざという時ここからどうやって巻き返せばいいんだ? 何を使ってひっくり返されたのかわからないけどそれで一突きされたら……蛙の標本にはなりたくない。
Clunk!
さっきの棒のようなもので顔を殴られた。痛い。と同時に耳元で銀鈴の鳴る音がする。この男が欲しがってるのは僕の左耳の……
「やっぱりあった……これならララトも……」
「なんだそれ? 鈴か?」
「たぶん。いい音してると思ったんだ」
ちょっと、その発言は良くないな。
とっさに大鎌の柄を掴み直そうと思ったけど、ひっくり返された拍子に手放してる。左手は……まっすぐ下に伸ばしてたか。掴みにいったらバレるだろうな。せめて大の字に倒れてたらこんな風にひっくり返されることもなかっただろうに。顔を殴られるのは避けようがないけど、呼吸は出来てた。
いや、やめよう。この男の目的が銀鈴 である以上、僕は抵抗するという選択肢を選ばざるおえない。これをとられるのだけは嫌だ。幸い男たちは今僕の左側と頭側にいるわけだし、ヴァクシャサが人質に取られることは考えなくていい。
……明らかに病気だもんな。いくら女の子でも、近づくのは躊躇われるか。
「ちょっと待てよ、いい音? それでこっちに来たのか」
「おう、それがどうかしたか」
「なんで音がしたんだ?」
「あ?」
「それ、こいつの頭の下にあったんだぞ? なんで音がするんだ」
気づかれたな。どうする。アステラはいるだろうけど、大鎌 が少し遠い。エリクシルは何を考えてるかわからない。あとは、
「それにこの角灯 、今までこいつの下にあったのに火がついてるぞ……」
アルファート……ってあれ? なんだか雲行きが怪しくないか。情けなくない方 の声がやたらと震えてるぞ。
「こいつ、やっぱり本物の……」
「嘘だろ!? お前なんてことしたんだ!」
「だ、だって本物だとは思わなくて」
「殴ったのも、無理にひっくり返したのも全部お前だ! ここに俺を連れてきたのもお前だぞ! 一人でなんとかしろ! 俺はもう知らん!」
「お、おいちょっと待てよ!」
言い争う声。走り出す足音。声を大にして言いたい。死神じゃなくて教師ですが。とりあえずこっちに関心がないだろう今のうちに左手を伸ばして大鎌の柄 に触れる。
指先だけでいい。
(あいつの後を追ってくれるか。うさぎは後で持ってくから)
『Bow!』
言葉にならない伝心に、確かに答える声。
元気のいい返事だ。半日僕らをほっておいて兎に夢中になってたとは思えないな。
まあいいけど。あとは残ったこの男をどうするか。というか、この男が僕をどうするかだな。後を追って逃げるのか、それとも僕らを始末しようとするのか。どちらにしろ、これ以上目を閉じている理由はない。
そっと目を開き目をやると、そこには肉付きのいい頑丈そうな男の姿があった。
手に持つ熊手 がいかにも恐ろしげなんだけど……これがあの情けない言動を繰り返してた男なんだろうか。素手だって僕より強そうなんだけど。
……さっきまで死体だと思ってた人間が、大鎌に手を伸ばして目を見開いてる……またもや死神案件です。
ちなみにピッチフォークとは、馬の飼料を運んだりする巨大なフォークのことです。よくデフォルメされた悪魔が持ってたりするアレですね。




