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21位目

「え」


 もう一度言おう。彼女は弾け飛んだ。そんなに今の名前気に入らなかったの? そう問いかけたくとも、その姿は既にどこにも無い。


「ええー……?」


 一応周囲を見回してみてもそれらしき影はどこにも無いし、荷袋から取り出した水筒も中身はそのままだった。いや、確かに水のある場所に現れて見た感じ水そのもののようであるけれど、別段水精霊を構成しているものは水そのものでも無い。従って水筒の中身を確認するのはあんまり意味が無い。無いんだけど、とっさにこういう場所を確認してしまうのはしょうがないことだよね。だいたい、水そのものに居場所を依存してることは間違いないのだし。

 しかし水筒の中にいない、周囲にその気配はない。だとしたら彼女は一体どこに消えてしまったのだろうか……? 弾け飛んだのはまだいいとしても、契約した精霊が何の前触れもなく姿を消すなんてことは無いはずだ。それとも今まで会話ができていただけに印象が違って理解できないだけで、弾け飛んだのが何らかの前触れ ことばだったのだろうか。


「……そうだ、アルファート」


 腰元に目をやると、角灯の影がゆらゆらと揺れる。どうやら元気なようだ。水精霊と契約したことにも特に文句は無いらしい。こいつが何かをした……ってわけじゃ無いよな。

 ううん。だめだな、精霊を疑っちゃ。

 多分どこかに出かけたんだろう。もともと行きたい場所があって、迷子になるのが怖いから基準点となる場所が欲しくて僕と契約したのかもしれない。依り代の場所は離れてもわかるはずだからな……依り代が何なのかわからないけど。


「そういえば……アステラ?」


 ……。


 うん、地精霊アステラも帰ってきてないみたいだ。

 しょうがない、あいつと合流できるまで進み続けるしか無いな。正直、そろそろ休みたい。お腹が減った。だけど食べ物を探すにしてもヴァクシャサを連れたままで歩き回るのは無理だし、何かしら目印がある場所を中心にして行動しないと再び合流できなくなるかもしれない。できれば……できればアステラが坑道の入り口を見つけてくれたら、そこのそばの木の上にでも担架ごとヴァクシャサを吊って、安全を確保しつつ行動したいところだ。

 あれ、縄足りるかな? 途中で植物の蔓とかがあればできるだけ回収しよう。


「……」


「……」



「……」




「……うう?」


 っとだめだ。意識が飛びかけてた。

 ええと……どれくらい歩いたんだっけ。なんか周りは薄明るいのに目の前が暗い……というか妙な圧迫感というか、お腹と腿と鼻とおでこがしっとり冷たい。これ、地面の感触だな。つまりこれはあれだ、僕は今地面に伏せているってことか。ちょっと気が抜けて意識が飛んだ拍子に転んだってところかな、もしかして今のうなり声は僕じゃなくて担架のヴァクシャサの声なのか。

 ……地面がひんやりして気持ちいい。ああ、もう結構歩いたよな。そろそろ森が途切れたり、山の麓にでも辿り着いていい頃なのに。もしかして僕は道に迷ったのか? アステラも一向に戻ってこない。融通がきかないから単にまだ見つけてないってだけだろうけど、ここまで時間かかると少し心配にもなる。

 でもそれ以上に寒い。疲れた。何だろう。僕、自分の体力を過信してたのかな。やっぱりお腹減った。

 なんかこう、都合のいいことでも起きないものか。ヴァクシャサじゃ無いけどお迎えが来たりとかさ。

 ……いや、過信なんかしてなかった。ヴァクシャサのことを知った時、一度思ったはずだ。僕は彼女を養うような力は無いって。それでも見捨てられないとは思ったけど……結果これか。情けないにもほどがある。


「誰か……」


 いや違うな。助けを求める相手なんか限られてる。アステラか……アルファートか……って、そもそも僕が倒れたのにアルファートは無事なんだろうか。角灯を踏んづけてる感触は無いけど、地面に押し付けられてるかもしれない。


「アルファート?」


 声に応えたのか腰元が少し暖かくなった気がする。無事だと思っておこう。だけど、今決定的に助けてくれる力があるわけじゃ無いのか、そこまでまだ僕に肩入れしてくれるわけじゃ無いか、そもそも僕の危機を感じ取れていないかのか。あったとして、どう助けてくれるのかは想像もつかないけど。

 あー……あとはエリクシルか。弾け飛んで消えたけど、それしか無い。呼んで、来てくれるのかな。


「……エリクシル?」


 ふわりと風がまた頬をなでるような感触があって、空気が少し冷たくなった気がした。顔を起こすと目の前にはエリクシルがいる。どこからかはさっぱりわからないけど突然。何だ、名前呼んだら来てくれるのか。早く呼べばよかった。何をしてほしかったわけじゃ無いけど、消えないで欲しかった。そばにいて欲しかった。


「エリクシル」


 彼女は笑顔だ。それに意味があるかどうかはわからないけれど、笑顔だ。


「エリ」

「せんせぇ?」


 僕の声に反応したのか、ヴァクシャサが何かを呟いた。『せんせぇ』って、確かに彼女の先生役はしたけど、一度もそうは呼んでもらってない。寝ぼけているのか、熱の辛さで意識が退行しているのか。多分そんなところだろう。


「せんせぇ……あついです」


 ただのうわごとかもしれないけれど、暑いなら、水精霊 エリクシルに出来ることがあるかもしれない。


「エリクシル、聞こえるか……? 頼む、ヴァクシャサが苦しんでる。助けてくれないか」


 地面にふせたまま頼みごとするというのは、人としてどうなんだろう? とは思うけど。今ちょっと緊急事態だから大目に見てくれると嬉しいな。

 けど、エリクシルの反応が芳しく無い。

 というか、今僕を見てないのか? どこか遠くを見ているような……どこかを指差した?


「……が…………で、この……に」

「しょ………………もだ…………い……おれ……」


 人の声? まさか、こんなときに、野盗が!?

いつも読んでくださってありがとうございます。

遅くなってすいません。

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