22位目
声は二人分、どちらも低くて太い男性のもののように聞こえる。
ただの持論だけど、山の中で男性の声という状況はあまり良く無い。
まず山の中にいる人間の代表格は狩人、それにエルフだ。狩りをしているのだったり、移動しているのだったりするけれど、まずもって彼らはほとんど喋らない。前者は獲物を逃さないために、必要だからそうしない。後者は目的が無い限り会話しない人種だ。よって、山中で彼らの声を聞くことは滅多に無い。それにすぐに静かになる。
次に山賊。以下略。
三つ目に山狩中の近隣の村人。山狩って言葉には二つの意味がある、一つは山にいる人間を追い立てること、二つ目は山の木の実や茸、薬草などを求めて探索すること。前者はともかく、後者は基本的に男性の仕事では無いとされているので、個人で無い限りは女性のみで構成される。要するに男性同士の会話はほぼ無い。
結論から言って、山中でする男性同士の会話というのは、山賊か人間を追い立てるための山狩だ。
山賊なら最悪の状況なのは言わずもがなだ。じゃあ山狩だったら? 山狩に来るのは近くの村の人間だ。ここならまず間違いなくガロンガルだろう。
で、何のための山狩なのか。最有力候補は……僕らだ。迎えに、なんて生易しい話じゃない。面倒くさい国の監視役が来る前に山に埋めてしまおう、という話だ。都市在住の人間からすると恐ろしい話だけれど、閉鎖された小さな共同体には共同体なりの決め事がありその中には罪人の処刑を担当する人間もいる。
何を大げさな、と思うかもしれない。でも世の中そういうものなのだ。
だから、村の教師という仕事は人気が無い。
だから都市から出て働きに行く人間には精霊が与えられる。
それでも定期的に査察がくるから、死ぬよりひどい目に会う機会は滅多に無いらしいというのが幸いなところか。ここ のように、近場に地図に記されてない坑道とかあったらまた別かもしれないけど。なんというか、殺して大丈夫な相手とそうじゃ無い相手の見分けをするくらいならそもそも殺さないで欲しいものだ。
「さて、来てるのかねぇ奴 さん方 」
「さあな。森の中でおっ死 んでくれてたら、楽なんだけどな。まあでもいるとしたらもっと山裾を回った方じゃ無いか?」
「そういえば……そうだな。俺たちは抜けてきたけどあれは俺たちしか知らないし……おい、もっと早く言えよ」
「あー、すまん。あんまり探す気なくて」
「まあそうだよなぁ。見つけたらめっけもんてぐらいだし」
だいぶ近くまできてるらしい。ざわざわとしていた話し声がかなりはっきり聞き取れる。
そして案の定山狩だった。でもこれはどっちかっていうと良心的な山狩だと思う。村から出た犯罪者などを追い立てる時に大声を出すのは、帰る場所が無い犯罪者に精神的な圧力をかけるためだけど、この場合はよそ者にあらかじめ村に来ても歓迎はしないと警告してくれているんだ……と思う。じゃなきゃいるかいないかわからない相手を探すのに、こんな悪意ある会話を大声でしながら歩き回ったりしないだろう。
……当然だけど、この会話の内容で普通に迎えに来てくれたって線は消えている。
身を守らなければいけないけれど……でも一ついいこともある。彼らだっていつまでもここにはいられないだろう。つまり村に帰る彼らの後についていけば、最短で村にたどり着けるのだ。やったね。問題はそれまでいかに身を守るかということだけど、この際一ついいことがある。道がわかるのなら、坑道の探索を頼んでいた地精霊 を呼び戻すことができる。
「……あ、すて、ら」
この際、何を考えてるかわからない水精霊 より、たった二日程度でも慣れ親しんだ 地精霊に頼りたい。
頼む。来てくれ。
祈るような気持ちはちゃんと届いたらしく、瞬く間に目の前の地面が盛り上がり慣れ親しんだ大型犬 の姿が現れた。ただしその口には二羽の兎を咥えている。なぜか尻尾をぶんぶんと振り回しているんだけど……ちょっと待てよ。
「お、まえ、まさ、か……」
思わず呟いた言葉に、アステラは如実に反応した。
さっきまで得意げに立っていた尻尾がみるみる垂れさがり、耳を伏せ。鼻をならすような甘えるような声で訴えかけてくる。これは間違いない。途中で兎の巣穴見つけて夢中になってたな……もっと早く呼び戻せばよかった。信じた僕が馬鹿だったとは言わない。だけどアステラだって外に出るのは初めてなんだってことを考慮しなくちゃいけなかった。
っと、そんな場合じゃ無い。早く隠れないと……
そう思った次の瞬間、アステラとエリクシルが姿を隠した。同時に、すぐ近くで落ち葉を踏みつけ歩く音が聞こえる。これはまずい。
「あ、行き倒れか?」
普通に見つかってしまった。
僕は黙っていれば死体に見えるかもしれない。だけど彼女は……ヴァクシャサは違う。うわ言が口からこぼれているし、明らかに呼吸している。顔が見えている以上、死んだふりはできない。どうしよう。というかこの人たちが僕らをどうする気か、だな。もしかしたらほっておいたら死ぬと思って無視してくれるかもしれない。死体漁りをしない程度の良識を求めるばかりだ。
その場合、兎を持ってかれちゃうかもしれないけど……贅沢は言っていられない。足音がどんどん近づいてくる。
すぐそばまで来た。頭の上から声がする。
「いや、なんだこれ。死神が生贄でも運んでるのか?」
「……何かの呪いかもしれないけれど、ここら辺に他の村は無いぞ」
「だよなぁ」
……死神? なんの話をしてるんだ?
いつも読んでくださってありがとうございます。
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ここのところ更新時間が遅くて申し訳有りません。




