16位目
「あー……うー……いー……? うーん、あ、あ、あ、あ、あ……ある、あるは、あるふぁ、あるふぁー? ああ、わかった。アルファートでどうかな」
ふらりふらりと角灯の中で火の玉が揺れる。
気に入ったのかな? 気に入らなかったのかな。精霊が何を思っているかなんてどうやったってさっぱりわからない。せいぜいその姿を見て、その動きを見て、反応があるかどうかを確かめるのが精一杯だ。だから、このアルファートとつけた名前に反応して見せるのも、この言葉を使えばなんらかの反応を示すというだけで、気に入ってるのか気に入らなかったのかは判断できない。もしかしたらこの音が嫌いでめちゃくちゃ怒ってる可能性もある。
……犬の姿をとっているアステラにしたって、最低限の好意というか、同行してくれる意志があるのはわかるけど、犬のように尻尾を振っているからといって嬉しいんだとは限らない。いや、好意を持って同行してくれているのは確かだ。アステラに関しては。でもアルフォートは、もしかしたら僕を焼き殺すためについてきているのかもしれない、そういうものだ。僕らヒューマンに与えられた魔法は、エルフのように『言葉なきモノと対話する』魔法ではないんだから。
それでも、見た目で判断して、話しかけずにはいられないのが『ヒューマン』という人種なわけだけど。
「んじゃ、これから君のことはアルフォートって呼ぶから。そういうことでよろしく」
なにがどうよろしいんだろうね。ほんと。
いや、もうすぐ暗くなるからこの子の力が必要なんだけどね。それでもまだ必要じゃないから、角灯はとりあえず腰の細帯 に吊るす。
「できれば水だけじゃなくて食べ物を確保したいんだけどな……アステラにはさっき働いてもらったばかりだし……」
食べ物に興味がある風な割に、アルファートの方はおおよそ食べ物を探す能力がない。なんでかといえば……なんでだろう? 単に精霊としての特性の問題だろうか。それとも付き合いの長さの問題か。アステラはもともと農具を依代にしているから、収穫という言葉でこちらの意図を察してくれる節があるけど、アルファートにはそういうものがちょっと思い当たらない。そのせいか。
それとも案外、興味があるように見えるだけでそうじゃないんだろうか。うん、興味あるって言っても燃やしたがるだけだし、むしろ憎んでる可能性もあるか。
あるのか?
よくわからない。
うん、わからないことは考えるのをやめよう。しなきゃいけないことは決まってるんだし。
「しかし……荷物置いてきて桶だけの身軽な身とは言え、それなりにしんどいな。やっぱり」
しかも外套を天幕代わりに吊るしてきたから寒い。もちろん、だからこそアルフォートを連れてきたんだけど……あ、ヴァクシャサはちゃんと代わりに残した火を管理できてるかな? 薪を足し忘れて絶やしちゃって、寒さに震えてたりしないかな? 別に何も出来ない子だとは思ってないけど、だからと言ってそこまで信用できるわけでもないんだよね。どこか抜けてるし、僕がアルファートを竃から連れ出したことにも気づいてない可能性だってある。
……いや、そもそもあれか。まだあって二日目の人間を信用して、荷物全部預けて出てきちゃったのがそもそも大問題だよね。よく考えたら、別に彼女をそこまで信用する理由ないような気もする。
まあでも、僕は荷物取られたら困るけど、取って役に立つような荷物かといえば特にそうでもないか。
せいぜい酒が幾らかの値段で売れるとか、そんなのだ。今知ってる限りのあの子じゃ、その程度だってできるか怪しいところだけど。
「なあアステラ」
『Bow?』
「あの子の連れてる精霊、やっぱりお前には見えてるのかな」
『Woof-bof』
「そっかー。そうだよなー」
『Bow!』
「うんうん。わかってるわかってる。別にそいつに興味があるわけでもないんだよ」
『H.h.h.h.h.h.h......』
「だから違うってー」
……僕は何を言ってるんだろうね。というか気のせいだけど、さっきからアステラ、音を出してないか。まるで犬が吠えたりするみたいな感じで。
「アステラ?」
『……』
気のせいか。改めて声をかけて観察してみれば、することと言えばせいぜい顔をこっちに向けたり尻尾を振って見せるくらいだ。もちろんそれだって原型の精霊やアルファートと比べると比較にならない成長なんだけどな。
ああでも、アルファートもかなり成長が早い方かもしれない。今朝だって、ヴァクシャサの手の中の餅 に手を伸ばそうとしていたくらいだ。とっさに欲しがってるんだと思って手元からあげてしまったけど、実際は欲しかったのか燃やしたかったのかはわからない。でも問題なのはどうしたかったかじゃなくて、そのために自発的な動きがあったことだ。
「アルファート、料理は好きか?」
『……』
答えは当然ない。精霊には人間が言葉で交流を図る ことが理解できない。
いや。それより前だ。
動きがあれば意志が伝わる。動かなければ何も伝わらない。
人間にとって当たり前のことでも、精霊たちはそれすら知らないんだから。
「そのうち一緒に料理しような」
今でももちろん、一緒に料理してるとも言えるんだけど。
そんな僕の心の声に応えるように、角灯の影がゆらゆらと揺れた。
いつも読んでくださってありがとうございます。




