15位目
読んでくださってありがとうございます。
学校というものはとても歪な代物なのだ。誰が考えたのかわからないけど、少なくとも女王陛下ではないんじゃないだろうか。偉大な人らしいし。
学校は勉強のために行く、彼女の認識が全部間違ってるわけじゃない。だけど、単に勉強だけだったらそんなに必要かといえばそうでもない。学校が出来る前は誰もが普通に親に勉強を習っていた。あるいは、親の横に居座ってその技を盗んでいた。それで十分だったんだ。
……まあその結果親に邪険にされた次男坊とかがろくに学ぶ機会も与えられなくて人に使われるだけの一生を送る……なんてことになったりしたんらしいんだけど。でもそれが問題なら親や長男に勉強を教えるようにさせたほうが無駄な税金も使わないし、場所もとらないし、時間的な拘束も少なくて教える側も習う側も楽だと思う。
ただ、学校を提案した人間はどうしても学校を流行らせたかったらしい。学校に職業紹介所を併設して、公に卒業相当資格試験というものを行うことにした。
学校に通っていると職業紹介所でその成績が参照されてある程度仕事内容がしぼられるし、この資格を持ってると職業案内所であるていど有利になるというわけだ。なんてったって国が用意した基準の一つを満たした立派な人間の証明であるからにして。あ、あと実は別に卒業相当資格試験に受かってなくても職業紹介はしてもらえるし、学校に行ってればやっぱり多少は有利になってるような気がする。まあ成績が参照できるならある程度何ができるのかわかるし、安心して送り出せるってことなんじゃないかな。
ただ、学校自体は税金で動いてるけどそこで使う筆記用具やなんかにはどうしてもお金がかかるし、諸々考えて結局学校に行かないで試験だけ受けるってことは珍しくもない。
「でもその見栄が村の人たちには大事なんだな」
そして、自自村の人間は、村の人間だって文化的に遅れてるとは思わないでもらおうか。やろうと思えば試験くらい通るんだぜ……! という見栄のために時々街に出没する。で、試験に落ちると難癖付けに来る。
つまり、彼らから見ると僕らが送られてくるのはきわめて不本意なのだ。
下手したら生徒(村に所属する本来なら良識あるであろう大人)総出で、僕ら(学校に行ってただろう人間)を小馬鹿にしてやろうと手ぐすねを引いて待っていることだろう。
ほんと難儀な仕事である。
「つまり向こうは勉強をしたいんじゃなくて、自分たちの知識を確かめたい……あるいは自慢したいってことですか」
「そうだよ。ちなみに国 は勉強させたいんだけどね」
それでおとなしく外の世界に出てきて欲しいんだ。人手が足りないからね、どこも。それに、国の側は別にそういうのと喧嘩する利点何もないし。
とはいえ。
とはいえ、だ。
大人になったばかりの15歳 を送り出して、本気でそんなことができると思っているだろうか? 国は。
自自村の人間たちの意識を改革して国に従うようにさせるとか、彼らに十分な知識を与えてどこに行っても通用するようにするとか。
もちろん|否(NO)だろう。というか|是(YES)だったら正気を疑う。学校作ったやつ以上に頭おかしい。
どっちも国の人間だけどな。
じゃあ何のために送り出されるのか。
「ええと、どういうことですか」
「そこはあんまり深く考えない方がいいよ? めんどくさいから。ところでお腹一杯になった?」
「あ、ええと、はい」
「そう」
ようするに僕らは生贄だ。
国にはそちらに歩み寄る気がありますよ、というか。まあ煮るなり焼くなり好きにしてください、というか。あるいはどんなに逃げようが補足し続けてるんでそこんとこよろしく、というか。
普通は、男の仕事なんだけどね。何で女の子を送り出したんだか。
「さて、これ以上説明続けると君の頭が破裂しちゃいそうだし、今晩はこの辺でお開きかな?」
「え、でもまだそんなに習ってないですよ」
そう? 誰に教えるのか、教えられる側が何を思ってるかって、結構大事なことだと思うけど。そういうのを自分でじっくり考えて今後のことを吟味してみて欲しいなぁ……と、思うわけですよ。老婆心ながら。
とりあえずまだ中身は残っている鍋の蓋を閉じて、玉杓と叉匙 を綺麗なはずの布で拭く。ええと、水をどっかで汲んできたいんだよな。荷物をおいてさっきの村まで戻るとか? たしか井戸があったはずだけど……でもこの桶で水汲んでくるのも帰りが辛いよなぁ。鍋は使ってるし……適当な大きさの瓶 が村に残ってることを期待するのも何だか不毛だしなぁ。
とりあえず桶持ってくしかないかな。よいしょっと。
「明日は山越えだからね。しっかり休まないと途中でへばるよ」
「山越え……ですか?」
「……さては地図を見せた時ちゃんと見てなかったな」
というか、普通の道だって丸一日歩かなきゃいけなかったら相応に体力を消耗すると思うけど。
さて、街道から丸二日、とは言ったけど直線でその距離なわけじゃない。間に山があって大きく迂回をしなきゃいけないからこその距離だ。いくら何でも家財道具持って徒歩二日の距離に村ごと引っ越しとかあまりに効率が悪いだろう。もちろん丸二日の距離を山越えで……となれば尚更なわけだけど。
じゃあどういうわけなのかといえば簡単で、彼らは魔王に世界が支配されていた頃に山の中の洞窟に隠れ暮らしていたのだ。正確に言えばドワーフの炭鉱跡。
当時の勇者一行の助力を受けて外の世界に村を作るとなった時、たまたま今でいう街道側に村を作ったというだけで、別にどちらに作ってもよかった、ということらしい。で、国に見つかったから山の反対側に引きこもった、と。彼らの移動には洞窟が使われていて、所要時間は平均徒歩4時間。それでも家財道具を抱えていたらどうかとは思うけど、無理な距離じゃなかったんだろう。
「じゃあその坑道を私たちも通ればいいじゃないですか」
「入り口も中の道順もわからないんだよ。この地図じゃ」
ほんと、これだけ調べられるならその辺も一緒に調べて欲しいものだけど、どういうわけかその手の情報は一切載っていなかった。調べられなかったのか、調べようとしたり調べたことがわかると村からの反発が大きそうだったから控えたのか。
ジスコさえいれば、と思ってしまう。
ここに勤めることになった時、俺だって色々考えた。馬鹿正直に1日かけて山越えなんてしたいわけない。そこで散々考えた結果が、ジスコの、風精霊の力だった。あいつなら空気の通る流れをたどって、洞窟内をあっさり通り抜けることができただろう。と、思う。
残念ながらアステラにはできなさそうなんだよな。うん。偶然洞窟の入り口見つかったら試すくらいで行こう。
「とりあえず僕は水汲んでくるから、先に寝ててもいいよ」
「あの、天幕一つしかないですよね?」
「悪いけど僕寒いのに弱いんだ。嫌だと言われても譲れないよ」
……まあ最悪の場合は角灯の火精霊にあっためてもらうけどね。
あらためて言いますが、主人公はこれで結構傲慢です。ついでにちょっと屈折してます。




