第8話「下克上達成?!」
いま会場内は割れんばかりの大歓声と熱気で満ち溢れていた。
「わんだーわーるど」のオーディションは、ますますの盛り上がりを見せようとしている。
わああああああああああ!!!!
「え~~、みなさん、とりあえず落ち着かれましたでしょうか?! さて、続いては地方インディーズグループからここまで駆け上がって来た、空原レンさんとディープ・タウン・シンデレラ(DTシンデレラ)のみなさんです!」
司会進行の神尾Dがマイク越しに煽り、会場から野太い怒号のような歓声が上がった。
「なお、リーダーのレンさんは今年大学受験を控えている中での参加となり、このオーディションに並々ならぬ意気込みで挑んでいます!」
「ほう……」
審査員席の皇Pの目が鋭く光り、低くつぶやいた。
ステージ袖で、ゆめが短く声をかける。
「レン……」
「ゆめ……」
「健闘を祈る」
「ありがとう、ゆめ。先に行ってくるね!」
レンたちはゆめたちからの熱いエールを受け取り、ステージ中央へと歩みを進めた。
マイクを手に、すっと背筋を伸ばす。
「わたしたちディープ・タウン・シンデレラは、結成以来アイドルの登竜門とも呼ばれ、なかなか固定メンバーが定まらず、相次ぐメンバー離脱で何度も解散の窮地に立たされてきました。それでも何とか歯を食いしばって、ここまで来ることができました。そんな中、いままで諦めずにやってこられたのは、今ここにいるメンバーのみんなと、何よりもわたしたちを信じて支えてくれた最高のファンのみなさんのおかげです!」
地鳴りのようなコールがホールを震わせる。
「レ~ン!!!」
「レンちゃ~ん!!!」
「今日こそ一番になってくれ!!!」
レンは静かに歩みを止め、胸の前で拳を握りしめた。
(今度こそ……今度こそ、この最高の仲間と一緒に光を掴んでみせる!)
「とうとうこの日が来た……いくわよみんな! ここからがあたしたちのステージよ!!!」
「「「はいっ!!!」」」
レンの差し出した手の平の上に、メンバー全員がぎゅっと手を重ねていく。
「ディープ・タウン・シンデレラ~~~!!!」
「「「ゴーーー!!!」」」
高々と掲げた手を一気に中央へと振り下ろすと、レンを中心に残し、メンバー全員がそれぞれの立ち位置へと散っていく。
地方アイドル時代からずっと支え続けてきた古参を中心とするファンたちのボルテージは、すでに限界を突破していた。
自分たちの推してきた泥臭いアイドルグループが、とうとうメジャーの最高峰へあと一歩のところまで辿り着いたのだ。
自ら瞼を閉じ、歓声が収まるのを待っていたレンが、静かに目を開いた。
ファンからの大声援のすべてを、エネルギーとして全身に注ぎ込んでいるかのようだった。
一瞬の静寂が会場を包み込み、次の瞬間――。
「空原レンとディープ・タウン・シンデレラ、いままでの感謝の想いとこの愛を胸に、みなさんへ届けます!」
普段はおっとりとしているレンの顔つきが一変した。甘えや迷いが完全に消え去り、凄まじい闘志が宿っている。
「それでは歌っていただきましょう! 空原レン&ディープ・タウン・シンデレラで――『All Mine』!」
神尾Dのコールとともに、テーマである「全部私のもの」に基づいた、スタイリッシュなメロディと舞台演出が幕を開ける。
一瞬暗転したステージに全方位からレーザーライトが照射され、レンの姿が眩い光に包まれていく。
照明が落ち着くと、レンは左手にマイクを握り、天井へ向けて高々と突き上げた。
「空原レンとディープ・タウン・シンデレラ、いままでの感謝の想いとこの愛を胸に、みなさんへ届けます! 『All Mine』!!!」
唸りを上げるスラップベースに乗せ、スタイリッシュで魂の籠もった熱唱が会場を貫く。
歌い切ったレンは、やり遂げた充足感とともに高々と右手を掲げた。
その大きな瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「みんな、ありがとう――!!!」
ステージ上から放たれる熱い光に、会場中が飲み込まれていく。
「レーン!」
「レンちゃーん!!!」
「今までで一番最高のステージだ!!!」
審査員席の舞織が身を乗り出した。
「SPVの数値は!?」
「なんと1020! 現在第三位です!!」
「1020ですって……?! あの神楽桃華に、ここまで肉薄するなんて……!」
「想像以上だな……」
皇Pも唸るように呟いた。
ステージ裏へ下がってきたレンたちを、ゆめが出迎える。
「やるな、レン。面白くなってきたわ!」
「ええ、そうね……ゆめ!」
「じゃあ、行ってくる」
「うん、がんばって!」
戦友からのエールを受け、ゆめが不敵に口元を歪めたのを、相棒の立花花梨は見逃さなかった。
「花梨……」
「どうしたの、ゆめ?」
「宿命のライバルであるレンたちが、最高のステージをやり遂げやがった」
「うん!」
「あたしたちも負けていられないよな! そうだろう、みんな!!!」
「もちろんよ、ゆめ!」
「「「おうっ!!!」」」
花梨がメンバーたちを鼓舞するように振り返る。
「いい、みんな。わたしたちはずっと自分たちの夢を追ってきた……そう、ゆめの背中を追って!!!」
「「「おうっ!!!」」」
花梨とメンバーたちの闘志が限界まで燃え上がっているのを、ゆめは背中越しに確信した。
(いける、こいつらとなら、絶対に光を掴み取れる!)
メンバーたちへの絶対の信頼と、自分たちの楽曲への確固たる誇り。
「いくぜっ、野郎ども!!!!」
「「「おおっ!!!」」」
ゆめに続いて、アングラサスのメンバーたちがステージ上へと駆け出していく。
わああああああああああ!!!!
地下アイドル時代から支え続けてきた、脱落者が一人も出ないことで有名な熱狂的ファンたちの怒号のようなコールが巻き起こる。
「続いては、ユニット結成以来、一人の脱落者も出したことのない鉄壁のチームワークを誇る地下アイドルグループ――有瀬ゆめさんとアングラサスのみなさんです!」
審査員席の皇Pの視線が、鋭くステージへ注がれる。
会場の照明が一斉に落ち、重低音のSEが空気を震わせた。地鳴りのような歓声の中、ステージ中央にスポットライトが集中する。
そこにはすでに、サブリーダーの立花花梨と絶対的リーダー・有瀬ゆめを中心に、メンバー全員が完璧な布陣を敷いていた。
おどろおどろしくも美しい黒と紫の衣装を纏った少女たち。
フォーメーションの頂点に立つゆめの背後で、花梨がマイクを強く握り締め、客席へと吼えた。
「さあ、みんな!! ここまで来たよ!!」
バッと片手を前に突き出し、絶対的センターであるゆめの背中を力強く見つめる。
「ゆめ、お願い!!」
その叫びを受け、有瀬ゆめは不敵に、そして世界一眩しい笑顔を浮かべてステージの最前線へと踏み出した。
「もう何も言うことはねえ! ……野郎ども、行くぜぇぇぇッ!!」
「「「おおおおおおおおおおおッ!!!」」」
ゆめの凄まじいシャウトと共に爆音のイントロが弾け、墨染灰、狛犬吽、逆巻針、宵闇鴉、五月雨蛙の5人が、キレ味抜群の激しいダンスで客席を煽り立てる。
決して大衆向けではないが、誰一人脱落することなく付いてきた熱狂的なファンたちの地響きのようなコールが、会場全体を呑み込んでいく。
あまりの大歓声に、審査員席の桃華やるなすらも目を見張った。
「なっ、何なの一体……?!」
「すごい……レンちゃんたちの時と同じように、確かな光が見える……!」
神尾Dが興奮気味にマイクを握り直す。
「それでは歌っていただきましょう! 有瀬ゆめ&アングラサスで――『Midnight Cinderella Rebirth』!」
テーマは「深夜0時の魔法が解けても、自らの力で再び輝き続けるという決意」。
ピコピコとした電子音と超重低音ラウドロックが絡み合う、狂乱のステージ演出が幕を開ける。
暗転したステージを、黒、紫、そして真紅の光条が貫き、中央の有瀬ゆめを照らし出す。照明が定まると、ゆめは誇らしげに右手のマイクを天井へと突き上げた。花梨とメンバーたちも息を合わせてそれに続く。
ピコピコしたシンセサウンドから、一気に地を這う重低音ギターリフが炸裂した。
「アングラサース……」
「「「ファイアーーーッ!!!」」」
「いくぜーーーっ!!!」
「「「おおおーーーっ!!!」」」
「『Midnight Cinderella Rebirth』――ッ!!!」
Oi! Oi! Oi! Oi!
「深夜0時、魔法なんてなくても、私たちはここにいる!」
爆音のラウドロックとコール&レスポンスが、会場を熱狂の坩堝へと巻き込んでいく。
曲の幕引きとともに、ゆめはマイクを握りしめた右手を高々と突き上げた。
「やったぜ……野郎ども、礼を言うぜーーーーっ!!!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
再びステージから放たれた眩い光に、会場中が包み込まれていく。
「ゆめーーー!」
「ゆめちゃーん!!!」
「最高のステージだったぜーーー!!!」
「SPVの数値は!?」
舞織の問いに、スタッフがモニターを凝視しながら叫ぶ。
「なんと1020! 現在、同率第三位です!!」
「ゆめさんたちも1020ですって……?!」
「同率三位か……」
皇Pが腕を組み、低く唸った。
「どうされますか?」
「残る出場者は?」
「星崎怜花さんだけです。ですが、まだ会場に到着していません」
「まさか、Le nostre dee のひとりともあろう者が不戦敗ですって……?!」
「仕方あるまい。ここはプロの世界、弱肉強食なのだ。いかなる理由があろうともな」
「し、しかし……」
ステージ裏へ下がってきたゆめたちを、レンたちが出迎えていた。
「ゆめ、最高のステージだったわ!」
「ああ、ありがとうレン! これで、あとは……」
一方、ステージ上では、いまだ姿を見せない星崎怜花について、関係者たちが緊急の協議を行っていた。
「う~ん、Le nostre dee のおひとりである星崎怜花さんですが、まだ到着されていないようです。このままでは規定により、不戦敗という扱いになってしまいますが……」
神尾Dの困惑した声に、客席からも動揺が広がっていく。
「怜花ちゃん……!」
「怜花!」
「怜花……!」
桃華、るな、そして裕也も息を呑んでステージ袖を見つめていた。
「仕方あるまい」
皇Pが冷淡に言い放ち、舞織が青ざめる。
「そんな……」
会場のざわめきが限界に達したその時、ギィと重い非常扉が開く音が響いた。
「待ってください……」
青ざめた顔、泣き腫らした瞳。ボロボロの状態で姿を現したのは、星崎怜花だった。
「あっ、あれは……!?」
「星崎怜花……!」
生気を失いながらも、Le nostre dee の一角たる矜持だけで、何とかここまで辿り着いたような痛々しい姿だった。
「よかった、間に合ったんですね!」
駆け寄る神尾Dに、怜花は力なく頷く。
「ええ……」
「あ、あの……体調がすぐれないようですが、本当に大丈夫ですか?」
「…………」
答えられない怜花を見かね、皇Pが口を開いた。
「面白い。歌わせてみよう」
「皇プロデューサー?!」
「構わん。招待状はすでに送ってあるのだからな。自信があるなら参加したまえ」
「ありがとうございます……」
「しかし……」
皇Pはすでに歌い終えた桃華、るな、レン、ゆめたちのほうへ冷ややかな視線を向けながら言い放った。
「果たして、その状態でいま絶好調の彼女たちに勝てるのかな?」
怜花の肩がビクッと跳ねる。
張り詰めた沈黙が流れる中、神尾Dがマイクを構えた。
「そ、それでは歌っていただきましょう! 現 Le nostre dee のひとり――星崎怜花さんです!」
漆黒の煙がステージ上を這うように広がっていく。
それは光を象徴するこれまでの怜花のイメージとは、あまりにもかけ離れた闇の演出だった。
煙が晴れると、怜花は右手に持ったマイクを、まるで糸の切れた操り人形のように力なく掲げた。
ステージ中央に立つ怜花。スポットライトを浴びながらも、その輪郭には濃い影が落ちている。
「星崎怜花で――『ミッドナイト・ベルベット』!」
重苦しく、毒のように甘いピアノソナタが会場に響き渡る。
息を呑むような静寂の中、怜花はプロとしての意地で最後まで歌い切った。
しかし、客席から返ってきたのは大歓声ではなく、深い困惑の沈黙だった。
「なんだ今の歌……?」
「いつもの怜花ちゃんじゃない……」
右手を突き上げたまま立ち尽くす怜花の表情は、どこまでも暗く沈んでいる。
「何だこの歌は……!?」
かつて彼女が放っていたような、希望に満ちたアイドルソングでは決してなかった。
「まさに闇、だな……」
皇Pが呟き、舞織がモニターへ視線を走らせる。
「SPVの数値は!?」
「そ、それが……皇コンツェルンが求める『光』の属性値が一切検出されず、計測不能です!!」
「つまり……!?」
「データ上は無得点となります」
「あの星崎怜花が無得点だなんて……!」
「仕方あるまい。私情で心を乱すからだ。所詮、今の彼女は我々の求める歌姫ではなかったということだ」
神尾Dが気を取り直し、声を張り上げた。
「以上を持ちまして、すべてのヒロイン候補によるオーディションステージを終了いたします! これより最終審査に入ります!」
客席がざわざわと波打つ中、控室や客席ではそれぞれの想いが交錯していた。
「大丈夫、あんなに練習したんだもの。絶対に負けない!」
「メンバーやファンのみんなとここまで来たんだ。あたしたちが負けるはずがねえ!」
「るなるな~~~♡」
「あたしは負けない……負けるわけにはいかない!」
だが、怜花だけは俯いたまま、ぴくりとも動かなかった。
「それでは、結果を発表いたします! まず第一位! やはりこの人、魅惑の妖精こと――如月るな!」
割れんばかりの歓声に包まれ、るなは胸をなでおろす。
「ふう……(内心、ちょっと焦っちゃったな……)」
「続いて第二位! 神楽桃華!」
黄色い歓声が飛び交う中、桃華も深く息を吐き出した。
「ふう……よかった……」
祈るように手を組むレンとゆめ。
「またダメなのかな……!?」
「あたしたちはあんなに特訓したんだ!」
「自分たちの力を信じよう……!」
「あたしたちならいけるはずだ!」
「そして第三位ですが……なんと1020ポイントの同率スコアが二組存在します!!」
神尾Dの叫びに、会場中が息を呑んだ。
「空原レン&ディープ・タウン・シンデレラ! そして、有瀬ゆめ&アングラサスのみなさんです!!」
会場が爆発的な歓声で揺れた直後、客席から疑問の声が上がり始めた。
「でも、合格枠は三名だろ?」
「同率の場合はどうなるんだ?」
神尾Dがすかさず説明を挟む。
「同率三位の判定につきまして、皇プロデューサーより説明がございます」
皇Pがマイクを手に取った。
「今回の審査は非常に難航した。周知の通り本来の合格枠は三名だが、この同率三位の二組はまさに甲乙つけがたい熱演であった。よって特例として――両者ともに合格とする!」
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!」」」
「やった! やったよ、みんな!!」
「「「レン! やりましたね!!」」」
嬉しさのあまり、レンの澄んだ瞳からは大粒の涙がポロポロと流れ出した。
「うん、ありがとうみんな! さあ行こう、ファンのみなさんのところへ!」
放心していたゆめの目からも、大粒の涙がとめどなく溢れ出していた。
「ゆめ……?」
「大丈夫だ、花梨……やったんだ……!」
「「「ゆめ! 花梨! やったよ!!」」」
「ああ、今までの苦労が報われたんだ! さあ行くぜ、ずっと支えてくれた最高のファンのところへ!」
「「「おーっ!!!」」」
ステージ中央へと駆け出すレンとゆめを追うように、二つのグループのメンバーたちが雪崩れ込む。
「レ〜ン」
「ゆめ〜」
レンとゆめの目には最高の舞台で最高のパフォーマンスをした戦友の姿がハッキリとと映っていた
お互いに肩に手をやると、お互いを見つめ合ってコクンと頷きあった後、ステージへと進んでいく
そして、ステージ中央で、涙を流しながら互いの健闘を称え合うレンとゆめが強く抱きしめ合った。
顔を見合わせ、満面の笑みを交わすと、二人は天へ向けて高々と手を突き上げた。
「「下剋上、達成ーーーーッ!!!」」
会場中が揺れるような熱狂に包まれる。
「すごいな……!」
「すごい……!」
「ふ~ん、やるじゃん(るなのファンにも、ここまでの熱気はなかなかないかも)」
ステージ上は、レンたちとゆめたちの下剋上達成の熱狂で埋め尽くされ、同じ合格者である桃華やるなの存在感すら霞んでしまうほどの爆発力だった。
そしてその傍らで、怜花はただ一人、暗闇に突き落とされたように立ち尽くしていた。
(負けた……)
裕也がハッと我に返る。
「そういえば、怜花は!?」
「怜花ちゃん!」
走り出そうとする二人を、るなが制した。
「やめときなよ。いまあんたたちが声をかけたって、今の怜花には届かないよ」
「それでも、放っておけないだろ!」
「わたしも行く!」
二人が駆け出そうとした瞬間、神尾Dのアナウンスが響き渡った。
「それではオーディション合格者の如月るなさん、神楽桃華さん、空原レンさん&ディープ・タウン・シンデレラのみなさん、有瀬ゆめさん&アングラサスのみなさん、そして特別ゲストの御堂裕也さん、ステージ前方へお集まりください!」
「……っ!」
怜花を追おうとした裕也と桃華の足が、無情にも止められてしまう。
◇
その頃、かつて自分が頂点のひとりとして君臨していた光輝くステージを去り、怜花は重い足取りで薄暗い非常口通路を歩いていた。
脳裏に焼き付いて離れない、裕也と桃華のキスの光景。
「これで……もうあたしはステージの上でも、裕也の隣に立てなくなっちゃった……。裕也……」
静まり返った出口の脇に、以前の企画コンペで皇プロデューサーに煮え湯を飲まされた男――黒崎プロデューサーが待ち構えていた。
「残念だったな、星崎……いや、怜花くん」
「……何か用ですか」
「以前持ちかけた、わたしの専属女優になる件だがね」
「それなら、あの時きっぱりとお断りしたはずです!」
「だが、あの時と今とでは君の置かれた立場がまるで違うのではないかい? わたしが付きっきりで大成させてあげると言っているんだがねえ」
「結構です! いくらオーディションに落ちたからって、仲間を裏切ってまであなたのところへ行く気はありません!」
「まあまあ。人と話をするときは、きちんと相手の目を見るものだよ。そうだろう?」
不意を突かれ、怜花はうっかり黒崎の瞳をまっすぐ見つめてしまった。
黒崎の瞳の奥が、怪しく禍々しい光を放つ。
「あ……」
脳裏に優しく微笑む裕也の面影が一瞬よぎり――次の瞬間、怜花の意識は深い闇へと沈んでいった。
「ゆ……裕也……」
膝から崩れ落ちる怜花の華奢な身体を、黒崎が逃がさぬよう力強く抱き留める。
「行こう、怜花くん。これからが君の本当のステージだ」
意識を失った怜花を抱え、黒崎は薄暗い闇の奥へと姿を消していった。
遠くステージの方角からは、熱狂に沸く「下剋上達成」の歓声が、ただ空しく響き続けていた。
(第8話「下克上達成?!」おわり / 第9話へ続く)
メインヒロインのひとり空原 レンが歌う、らいだ~くの挿入歌です
『All Mine』
架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌
歌:空原 レン & ディープ・タウン・シンデレラ
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