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第7話「ヒロインは誰だ?!」

挿絵(By みてみん)


「うそ、何でふたりが……」

「桃華、すまん! 怜花! 待ってくれ、怜花!」


桃華が裕也に唇を重ねているのを見た怜花は、一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。


「くっ……」


その大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「信じていた……信じていたのに……!」


怜花はすぐさま踵を返し、その場から逃げ去っていった。


すると、ようやく桃華の身体から不可思議な力が抜け落ち、ハッと我に返る。


「裕也くん……」

「桃華、正気に戻ったのか!?」

「う、うん……」

「すまない、話はあとだ! 今は怜花の誤解を解かないと……」

「待って!」


慌てて怜花を追おうとした裕也の腕を、桃華がガシッと力強く掴んだ。


「桃華!?」

「行かないで!」

「しかし……!」

「行かないで、裕也くん! 確かに今あたし何者かに操られたのは事実だけど……あたしは、あなたにキスしたことをぜんぜん後悔していない!」

「!」

「むしろ、嬉しいと思っている!」

「桃華……」

「これがあたしの、本当の気持ちでもあるの!」

「……っ」

「だって……」

「…………」

「だって、あたしは裕也くんのことが、昔から大好きなんだから!!!」


初めて見る桃華の剥き出しで真剣な想いに圧倒され、裕也はその場から一歩も動くことができなかった。


「裕也くん、あれから怜花ちゃんは……?」

「いや、まだ戻らない。携帯もつながらないんだ」

「うん、あたしからも繋がらないの……」


◇


それから数十分後――。


伶花と連絡の取れないまま、いよいよ新作ドラマ『わんだーわーるど』のオーディションの火ぶたが切って落とされた。


厳正なる事前審査を通過した出場者の中には、星崎伶花、神楽桃華、如月るな、空原レン、有瀬ゆめの名前が連なっていた。


オーディションの司会者を務める皇プロダクションの神尾ディレクター(神尾D)が、ステージ上へ颯爽と現れる。


「え~~~、みなさま大変長らくお待たせいたしました!」


神尾Dの声に、会場中の視線が一斉に集中する。


「これより皇プロダクション主催、次回新作ドラマ『わんだーわーるど』のメインヒロイン公開オーディションを開催いたします! 司会進行を務めさせていただきます、皇プロダクション所属の神尾誠(かみお せい)と申します。どうぞよろしくお願いいたします!」


割れんばかりの拍手の中、神尾Dが胸を張る。


「さて、みなさまお待ちかねの本日の審査員ですが……」


テンポよく審査員の紹介が続いていく。


「そして、我が皇プロダクションからはもちろん、総監督兼プロデューサーの皇創一(すめらぎ そういち)! 同プロデューサー補佐兼秘書の神楽坂舞織(かぐらざか まおり)! さらに、本ドラマへの出演がすでに決定している『HED』から、天咲弥勒(あまさき みろく)、皇野音緒(こうの ねお)、不二貴典(ふじ たかのり)、城亜聖(じょう あさと)、多々木(たたき)ナナミの計七名になります!」

「そして特別ゲストとして、圧倒的なファン投票により主演男優に内定している御堂裕也さんをお迎えしております!」


名前を呼ばれた面々は、次々と観衆へ向かって一礼していく。


裕也「(弱ったな……これじゃあ怜花を探しに行くことすらできない)」

弥勒「裕也くん、少しは落ち着きなよ」

裕也「!」


思わず硬直した裕也は、隣に腰掛ける大先輩・弥勒へ視線を走らせた。


裕也「弥勒さん……」

弥勒「何があったのか、あえて野暮なことは聞かないさ。でもね、これだけは胸に刻んでおきたまえ」

裕也「?」

弥勒「ここにいる子たちはみんな、主演女優――つまり、君の隣に立つ『相方』を目指してステージに立っているんだから」

裕也「……!!!」


神尾D「それでは、さっそく審査を始めさせていただきます!」

皇P「舞織くん、予定通り【SPV(Song Power Voltage / ソング・パワー・ボルテージ)】の測定準備を」

舞織「はい!【VOICE VIEWER(ヴォイス・ビューワー) 】の用意を!」

スタッフ「ハッ、準備完了しております!」

皇P「よろしい」


神尾D「トップバッターは、現 "Le nostre dee" のひとり、芸能界における『光の象徴』――神楽桃華さんです!」


わぁぁぁぁぁぁぁっ!!

会場を埋め尽くした桃華ファンから、地鳴りのような歓声が轟いた。


神尾D「それでは歌っていただきましょう! 神楽桃華で――『ヒカリ・エモーション』!」


ドッと湧き上がる熱烈な「桃華コール」。

一瞬の暗転の後、全方位からの鋭利なレーザーライトが桃華を貫き、ステージ中央に眩い光の柱が立ち昇る。

左手のマイクを高々と突き上げる桃華。アップテンポなピアノのアルペジオが炸裂した。


桃華「『ヒカリ・エモーション』!」


――♪

圧倒的な存在感を放つ歌声が響き渡り、会場全体が眩い光の粒子に飲み込まれていく。

ラストのロングトーンを完璧に歌い切り、高々と両手を広げる桃華。会場のボルテージは一瞬で跳ね上がった。


るな「さすがね、桃華」

レン「すっ、すごい……!」

ゆめ「さすが、"Le nostre dee" のひとりだけのことはある……」


舞織「SPVの数値は!?」

スタッフ「1120です!」

皇P「素晴らしい。まさに『光の象徴』たる輝きだな……」


神尾D「続きまして、同じく現 "Le nostre dee" のひとり――(自称)魅惑の妖精こと、如月るなさんです!」


るな「るなるな~~~っちゃおっ♡」


観客「ウオオオオオッ!」


すたすたと神尾Dの前へ駆け寄るるな。


るな「ちょっと~、そこのキミ! たしか神尾さんだっけ? ダメじゃん、(自称)のカッコの中までご丁寧に読み上げちゃ!」

会場(ドッと爆笑)

神尾D「す、すみません! つい本音が……」

るな「まったくもう、キミはいつも一言多いよ! 気を付けてよねっ(ぷうっと頬を膨らませる)」


神尾D「そ、それでは気を取り直しまして! 如月るなで――『ぴゅあぴゅあ・ハピネス・マジック!』!」


閃くカラフルなパステル光線。

次の瞬間、重力を無視するようにるなの華奢な身体がふわりと宙へと浮き上がった。

ステージ上空に展開される、夢のような『るなるなわーるど』。

出現した大型ステッキを軽やかに振りかざし、BGMの炸裂とともにマイクすら使わず超常的な歌声を響かせる。


るな「L・U・N・A! るなるな・まじっく! せーの、はいっ!」


――♪

キュートでマジカルなポップチューンがホール全体を震わせる。

歌い終えたるなが宙からふわりとステージへ舞い降り、客席へ完璧なウインクを飛ばした。


るな「ありがとね♡」


地響きのような大歓声が巻き起こる。


桃華「会場全体を完全に支配している……。やはり最大のライバルは、るな……!」

レン「す、すごすぎる……まるで本当に魔法を見せつけられているみたい……。わたしたちとは次元が違う。でも……!」

ゆめ「こ、これが "Le nostre dee" 最高峰の実力か。しかし、あの演出はいったいどうなってやがるんだ?」


舞織「SPVの数値は!?」

スタッフ「し、信じられません……1600です!!」

舞織「1600ですって……!?」

皇P「やはり、彼女が『最高の歌姫』か……。さて……」


レン・ゆめ「(まだだ……まだだっ! "Le nostre dee" の指定席は三つある……あと一つ!!)」


瞳に闘志の炎を宿し、ディープタウン・シンデレラとアングラサスのメンバーたちの表情が鋭く引き締まる。


会場の熱気が爆発寸前の臨界点へ達しようとする中、審査員席の裕也だけが、空席のままのステージ袖をじっと見つめていた。


裕也「怜花……」


波乱と熱狂を孕んだまま、『わんだーわーるど』ヒロインオーディションはさらなる激動の展開へと突き進んでいく――。


(第7話「ヒロインは誰だ?!」おわり / 第8話へ続く)

メインヒロインのひとり神楽 桃華が歌う、らいだ~くの挿入歌です


『ヒカリ・エモーション』


架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌


歌:神楽 桃華


https://suno.com/s/t654auTy3HttMX3o

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