第6話「ひとつの結末」
ドオン!
「何? この音は!?」
桃華が鋭く息を呑む。
「裕也……?」
遠く離れた場所で、怜花もまた弾かれたように顔を上げた。
星崎怜花、神楽桃華はそれぞれすぐに音のするほうへと向かうことにした。
いっぽう、如月るなは――。
「このニオイは、あの犬野郎?」
さらに空気を震わせる異様な気配に、るなは口元を歪める。
「この感覚……まさか、P・Z!?
すっごく弱っちいけれど(爆笑)
けれど……気になるわね。
いちおう調べておくか……」
「【HOP!(ホップ)】」
もえとは違い、るなは詠唱時間もなく瞬時にその場から消えた。
宙を舞う無数の鮮やかな紙吹雪と、目にも留まらぬステップはもえよりもはるかに上。
パッと弾けるような光の残像をその場に残し、るなはその場から瞬間移動した。
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一方――。
「きゃあ!」
「大丈夫だ、レン、あたしに捕まっていろ!」
「うっ、うん……ありがとう、ゆめ」
モングレル(鎌瀬)の放った攻撃は御堂裕也の背後の施設を破壊し、その轟音はスタジオ内の離れた箇所からも響き渡っていた。
「はっはっはっ、どうした御堂裕也! このあっしの本気の前には手も足も出ずに逃げ回るだけか!?」
「…………」
裕也が反撃できないと高を括ったモングレルは、次々と攻撃を繰り出していく。
と、その場に現れたシンセンス(氷室聖人)とカメオ(七瀬もえ)。
「はじまったみたいね」
「何とか間に合ったようだな。しかし……あのバカは何を考えているんだ。なんでもっと私のようにスマートにできないんだ」
「…………」
呆れる氷室の背後から、苦々しい足取りでもう一人の男が現れた。
「ちくしょう、あのバカ……。こんなに派手にやりやがって」
「あっ、スタリオン!」
「誰がスタリオンだ! カメオ! 俺はチェバロンだ!」
「あっはっはっ、そんなんだからミラージュからモングレルみたいのしか派遣されないんだよ」
「てめえ……」
「スタリ……じゃなかった、チェバロン」
「シンセンス……お前、少し変わったな。カメオの毒でももらったか!?」
「それよりどうする? プロテクトチョーカーを外してアレか?」
「仕方ねえだろ、あいつしか派遣されなかったんだから」
悪態をつき合う三人の背後から、静かな足音が割り込んできた。
「どうでもいいけれどキミたち、ちゃんと仕事をしないか。わたしは今回、監察官でもあるんだよ。きみたちのことも、もちろん監査対象だ。ミラージュからいろいろ頼まれていてね」
「あんた! 仲間を売るつもり!?」
「仲間?」
「そうよ」
「わたしは表向きはワルキューレとして監察官だよ。しかし……」
「?」
「わたしの真のコードネームが『ヴァルキリー』だということを忘れたのかい?」
「……ッ!(顔面蒼白)」
「任務失敗者には死を……」
穏やかだったワルキューレの表情が一変し、絶対的な死を告げる冷徹な執行人――『ヴァルキリー』の相貌が露わになる。
氷室も黒崎も息を呑み、金縛りに遭ったように沈黙した。
「…………」
「…………」
ドオン! ドオン! ドオン!
その音を聞いて、レンの身を案じてディープタウン・シンデレラの面々が、ゆめの身を案じてアングラサスのメンバーが続々と駆け寄ってきた。
「ゆめ~~~~っ、大丈夫!?」
アングラサスのサブリーダー・立花花梨があわてて声をかける。
ディープタウン・シンデレラのメンバーも声を張り上げた。
「レン、大丈夫ですか!?」
「ああ、花梨にみんな、あたしもレンも大丈夫だ」
「ゆめもレンも、二人とも無事でよかった……」
いまでこそTV放送に出るようになった彼女らも、元は地方インディーズバンドや地下アイドルバンド。その旗揚げ時からお互いをライバルとして認識している上に、ある意味、家族のような関係であった。
「みんな、花梨、ありがとう」
「とりあえず、ここは危険よ。安全な場所に避難しましょう!」
「ああ……。いったい何が起こってやがるんだ?」
花梨たちに促され、レンとゆめがバンドメンバーたちと共に避難していく背中を、裕也は見届けた。
周囲から人気が消えたことを確認すると、裕也の瞳に鋭い光が宿る。
「……周囲の避難は済んだな」
「あぁん!? 何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
反撃を受けないと高を括っていたモングレルが、紫のオーラを滾らせて猛然と突進してくる。
だが次の瞬間、裕也の身体がブレた。
放たれた剛腕の軌道を紙一重で見切ると、鋭く懐へと踏み込み、強烈な一撃を怪人の鳩尾へと叩き込む。
「ガハッ……!?」
息を吐き出し、たまらず膝をつくモングレル。
「バ、バカな……あっしのP・Zが……」
その圧倒的な戦闘力の差を見下ろし、通路の物陰から戦況を伺っていた氷室が冷たく舌打ちした。
「やはり鎌瀬程度では時間稼ぎにもならんか。……だが、最初から奴に倒させるつもりなど毛頭ない」
その様子を、さらに離れた高台の死角から冷ややかに見つめる目があった。
「あれは……もえ? 何でアイツが……?
るなの敵じゃないけれど、めんどくさくなってきたな。さ~て……」
一方、通路の中央。
「P・Zっていうのは、こうやるんだ!」
「なっ!?」
「まあ、お前相手には使わなくていいけどな。――はあっ!」
「ぐえっ……!」
放たれた追撃の一閃を受け、モングレルは呆気なくその場に崩れ落ちた。
「あのバカ……」
「ふむ……」
「やっぱり」
吐き捨てる黒崎、眉根を寄せる氷室、冷めた目を向けるもえ。
その前へ、ワルキューレが静かに歩み出た。
「どうやら、ここまでのようだね」
ワルキューレがスッと右手をかざす。
掌が眩い光を放った瞬間、数十メートル離れていたモングレルの巨体が不可視の衝撃に包まれ、悲鳴を上げる間もなく光の塵となってこの世から消滅した。
「い、今いったい何を……!?」
「こわ……マジ……!?」
「姫香様の面汚しめ……」
氷室が瞠目し、もえが怯えて後ずさる。冷たく呟いたその佇まいは、完全に戦慄の執行人・ヴァルキリーそのものだった。
「あっさり消しやがった……。(けっこう笑える奴だったのに……)って、これでおれ様の部下はまたいなくなるのか?」
頭を抱える黒崎の横で、氷室が瞳に冷酷な光を宿した。
「シンセンス、やるの?」
「ああ。肉体をいくら鍛えようと、精神の楔までは防げまい。――見せてやろう」
氷室の両目が妖しく紫に発光し、見えない精神操作の波が通路の奥へと伸びる。
標的となったのは、物音を聞きつけてまさに今、角を曲がって飛び込んできた少女――神楽桃華。
「裕也くんっ! 無事な――……あっ……?」
異変を察知したるなが、物陰で息を呑む。
「ちょ、ちょっと……!」
駆け寄ろうとした桃華の足が、ピタリと止まった。
その瞳からふっとハイライトが抜け落ち、虚ろな光が宿る。糸の切れた操り人形のように、ふらふらと覚束ない足取りで前へと進み始めた。
「桃華!?」
倒れ伏した鎌瀬が消えた空間から視線を外した裕也が、ただならぬ桃華の異変に気づき、慌てて歩み寄る。
「おい、桃華、大丈夫か――」
言葉は最後まで続かなかった。
吸い寄せられるように間合いを詰めた桃華の両手が、裕也の首元へと静かに回る。
抵抗する間もなく引き寄せられた顔と顔。
そっと重なる、熱い唇。
「……っ!?」
裕也が驚愕に目を見張った、まさにその瞬間だった。
通路の反対側の角から、息を切らして星崎怜花が駆け込んできた。
そして、その瞳に飛び込んできたのは――非常灯の薄暗い光の中、固く唇を重ね合う裕也と桃華の姿だった。
信じられないものを見るように、怜花の息が止まる。
絶望と衝撃に染まる空間の中、裕也を巡る女たちの運命の歯車が、狂おしく狂い始めていた――。
(第6話「ひとつの結末」おわり / 第7話へ続く)
メインヒロインのひとり神楽 桃華が歌う、らいだ~くの挿入歌です
『最上級の Present Day』
架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌
歌:神楽 桃華
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