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第5話「新たなる風」

挿絵(By みてみん)


「るなるな~ちゃんねるっ!

るなメイツのみんな、おまたせ! 今週も『らいだ~く』の時間がやって来たよ!

るなるなチャンネルでは、何か大トピックがあった時に放送するからね。

ね~ね~それより聞いてよ! るなメイツのみんな!

それで、前回のお話なんだけど、皇プロデューサーの『わんだーわーるど』が正式発表になったことでるなたち芸能界は大騒ぎ。そしたら、鎌瀬っていう怪しい男にるなたちが絡まれたんだけど、何だかんだ言って怜花と桃華にちょっかい出すことに失敗したら、よりによって最後にるなのところに来たんだ。はぁ、何コイツ、うざいから消そうか? と思ったところに裕也が来てくれて、鎌瀬を追い払ってくれたんだ。

と、ここまではいいんだけれど、この後が大問題!

なんと裕也がるなのことを一人の女の子扱いして、

【頭をぽんぽんと優しくなでてくれたの!】

ふわあああ~~~っ! るないままでこんなことされたことないから、頭の中が真っ白になって、正直、もう裕也のことをただの友達だなんて見られなくなっちゃったよ!

う~~~ん、どうしよう? 裕也の周りには怜花や桃華、おまけにレンやゆめたちまでまとわりついているみたい。

うん、こうなったら、るながとっておきの魔法で裕也のことをるなだけのものにしてみせるんだから!」


黒崎と鎌瀬が打倒・御堂裕也の怨嗟の炎を燃え上がらせていたその頃。


スタジオの熱気から遠く離れた近郊の某所――闇野プロダクション氷室エリアマネージャーが統括するオフィスでは、まだ夕暮れ前だというのに、到底仕事場とは思えない甘ったるい空気が漂っていた。


「ねえ~、シンセンス~~~♡」

「う~~~ん……なんだぁ、もえ……?」


ソファーの上でぴったりと体を寄せ合い、まるで世間知らずのカップルのようにじゃれ合う一組の男女。カメオこと『もえ』と、氷室エリアマネージャーこと『シンセンス』である。


もえは潤んだ瞳で氷室を見上げると、手元のタブレットPCをその鼻先へと突きつけた。画面には、海を見下ろす超一等地の高級リゾートレストランが映し出されている。


「もえね~~~、今度ここへ行ってみたいんだけれど~~~?♡」

「こ、これは……?」

「でね~~~! 行くときにこのバッグを持っていきたいの~~~♡」


すかさず画面をスワイプし、今度は年相応の少女には到底釣り合わない、目の眩むような桁の並んだ高級ブランドバッグの写真を誇らしげに表示させた。


「………………」


氷室はその両方の金額を視線でなぞり、そのまま息を呑んで沈黙した。


「ね~~~~、いいでしょう~~~?♡」

「い、いや……もえ、これはいくら何でも……」

「え~~~! いいじゃな~~~い、もえからのお・ね・が・い♡」


上目遣いに身をよじり、甘ったるく絡みつくもえの攻勢に、氷室はタジタジと言葉を濁す。


「そんなこと言ったって、もえ、この間だって今使っているバッグを買ってやったばかりじゃないか。先週だって高級ホテルのディナーに連れて行ったし……」

「え~~~? いいオトコはそんなこと言わないんだよ~~~? あたしのだ~い好きな『氷室 聖人』っていう男は、そんなこと言わないんじゃなかったっけ~~~?」


底なしの物欲を無邪気な笑顔の裏に隠し、本名で甘やかに揺さぶりをかけてくる。その強欲なまでの小悪魔ぶりに、氷室はついに白旗を掲げた。


「……わかった! わかったから!」

「きゃああ~~~~、本当!?」

「さすがに今すぐは無理だが、今動いている仕事が終わり次第連れて行ってやる! バッグも買ってやる!」

「きゃあああ~~~! だからシンセンスって大好き!」


大喜びのもえに首元へ抱きつかれて、氷室は照れながら頭を掻いていた。


まさに、二人だけの甘美な世界に浸りきっていたその瞬間だった。


『――……え、もえ……』

「!?」


脳裏に直接響き渡る怜悧な声に、もえの顔から一瞬で先程の甘ったるい表情が消え失せる。


『もえ、聞こえているな?』

「まっ……舞!? いったいこんな時間にどうしたの?」

『どうしたもこうしたもない。いったいお前たちは何をやっているんだ!?』

「えっ、えっと……」


頭の中に直接響く神楽舞の声音は、絶対零度の冷たさを孕んでいた。


「い、いや~~~今日もお仕事頑張ったから休んでいました~~~~」

『休んでいただと?』

「ほ、ほら、もう定時過ぎているし……(冷汗)」

『ほう……』

「だ、だからそういうことなんだって。うちは基本残業禁止だし(汗)」

『そういうことは、きちんと仕事をしてから言うことだと思うが?』

「うぐっ」

『・・・・』

「舞こそ、こんな時間までお仕事していたの???」

『ああ。お前たちのような優秀な部下がいるからな……』

「おつかれちゃん(汗)」

『おい……』

「はい……」


逃げ場を完全に塞がれ、もえは喉を詰まらせた。


『貴様、私が人事評価担当でもあるということを忘れているようだな』

「えっ、ちょっと待って!?」

『貴様とシンセンスのふたりは、黒崎のサポートも任務のはずだが、皇Pの発表会以外で何か行動したのか?』

「うぐっ」

『何か言うことはあるか?』

「・・・・・」

『どうやら何も言えないようだな』

「ま、まあ、今度頑張るから今回は見逃してよ」

『カメオ!』

「びくっ」

『いくら同じ姫香様側近のRoyal Fangsロイヤル・ファングスだとしても、勤務時間中での組織上の序列と立場をわきまえろ!』

「……も、申し訳ございません、ミラージュ(神楽 舞)」

『あんまりふざけていると姫香様に言うぞ』

「! そ、それだけはお許しください!」


絶対の主である姫香の名を出された瞬間、もえの瞳に本物の恐怖が宿った。


『なら、今から私が言う、シンセンスと共に場所に急ぎ急行せよ。お前なら奴を連れて瞬間移動できるだろう』

「はい」

『場所は……』

「かしこまりました、ミラージュ。カメオ、これよりシンセンスと共にチェバロン(黒崎)のサポート、及び【監視】の任務に就きます」

『早く行け』

「はっ!」

『カメオ……』

「は、はい……」

『あんまり私や姫香様を、失望させるなよ……』

「・・・・・・・」


冷酷な通告を最後に、頭の中を支配していた精神通信がぷつりと切断された。

舞からのテレパシーが終わると、もえは顔面蒼白となって立ち尽くした。

そのやりとりが聞こえなかった氷室は、心配そうにもえに話しかける。


「もえ! どうした!」

「シンセンス……ミラージュからの指令よ」

「えっ、ミラージュ……舞様からか!?」


氷室の表情が青ざめる。


「もう話は終わったわ」

「?」

「いいから早く用意してあたしに捕まって! これから指定された場所へテレポートするから!」

「う、うむ」


事の重大さを悟った氷室は急ぎ用意すると、もえに捕まった。

もえは息を吸い込み、暗殺者としての鋭利な眼光を宿す。


「行くわよ! ――【HOP!(ホップ)】」


宙を舞う無数の鮮やかな紙吹雪と、目にも留まらぬステップ。

パッと弾けるような光の残像をその場に残し、もえと氷室はその場から瞬間移動した。


一方、スタジオのレッスン室。

壁一面の大型ミラーの前で、レンは黙々と入念なストレッチをこなし、手元の台本に鋭い視線を落としていた。一分の隙もないその横顔からは、現場への凄まじい気迫が漂っている。


そこへ、カチャリとドアを開けてゆめがひょっこりと顔を覗かせた。


「レン、お疲れ〜! お茶飲むか?」


手にしたペットボトルを差し出しながら、ゆめがふわっとした足取りで歩み寄ってくる。

レンはタオルで額の汗をぬぐうと、少し呆れたように息をついた。


「……ゆめ、呑気に差し入れなんて配ってる場合? 皇Pの新作、ミユキ役だけじゃなく天使役のオーディションだって始まってるのよ。あたしは絶対に役を獲りにいく」


張り詰めた空気の中、ゆめはペットボトルのキャップを開けながら、へらっと笑って応じる。


「もちろん、わたしも頑張るよ! でも、レンはちょっと根を詰めすぎだからな。……それに、あのドラマ、主演は裕也だろ? レンも、裕也の相手役……気になるんじゃん?」

「なっ……! べ、別に私は、役者として御堂裕也という男の隣に立ちたいだけよ! 変な邪推しないで!」


図星を突かれたのか、レンは勢いよく顔を背けた。その横顔を見て、ゆめが悪戯っぽく口元を緩める。


「ふっ、耳が赤くなってるよ? わたしだって負けないんだから。裕也の隣は、渡さないぜ?」

「……フン、言うようになったじゃない。受けて立つわ」


視線を交わし、バチバチと火花を散らす二人。互いに負けられない想いを胸に、静かな闘志を燃え上がらせていた。


スタジオ裏の薄暗い通路。

首元をさすりながら歩く鎌瀬の全身から、淀んだ紫色のオーラが陽炎のように立ち昇っていた。


「う~~~、昨日はひどい目にあったぜ……。だが、プロテクトチョーカーを外した今のあっしは一味違う。感覚が……全身の神経が研ぎ澄まされていくのが分かるぜぇ!」


クン、クンクン……!

鎌瀬は鼻を小刻みに鳴らし、空気に漂う微細な匂いを嗅ぎ分けるように顔を突き出した。


「フンス……フンスッ! 嗅ぎ慣れた女どもの匂いがしやがる……! 星崎怜花の気取った匂いに、神楽桃華の甘い香水、それに如月るなの小賢しい匂いまで……全部丸見えだ! 待ってやがれ、今度こそ失敗したらただじゃすまねえからな……!」


犬のように地面へ鼻先を近づけながら獲物を追おうとした、その時――。


「また、お前か?」


前方の角から、冷徹な声と共に御堂裕也が姿を現した。


「げっ、御堂裕也!?」

「まったく、犬みたいにうろうろしやがって」

「なにっ!? このおれ様を『犬(=モンテグレル)』だとおぉぉッ!!! おのれ~~~っ! 御堂裕也ッ! プロテクトチョーカーの封印を解かれたこのおれの真の力を見るがいい!!!」


鎌瀬の身体が禍々しく発光し、両目が濁った黄色へと変色する。


「勝負だ、御堂裕也! はああ~~~っ!!! ――『P・パーソナルゾーン』発動!!!」

「!?」


鎌瀬がニューマンの力を発動させ、異形の怪人――モンテグレルの姿へと変貌していく。

周囲の大気が激しく歪み、重圧となって裕也の身体へと伸し掛かる。


「何っ、P・Zパーソナルゾーン!?」

「P・Zパーソナルゾーンっていうのは、おれたちニューマンが相手と対峙するときに自分のゾーン(領域)を開放して圧倒するものだ! もっとも、ここで死んじまうお前には関係ない話だがな!!!」


歪んだ空間のただ中で、怪物の咆哮が轟いた。


「はああ~~~っ!!!」


モンテグレルの放った凶悪な遠距離攻撃が、空気を切り裂いて裕也の頬をかすめ、背後のコンクリート壁を爆砕する。


「ニューマンの真の恐ろしさを見せてやる!!!」


(第5話「新たなる風」おわり / 第6話へ続く)

メインヒロインのひとり有瀬 ゆめが歌う、らいだ~くのキャラクターソングです


『Shooting for the Zenith』


架空アニメ「らいだ~く」 挿入歌


歌:有瀬 ゆめ(あるせ ゆめ) & アングラサス


https://suno.com/s/SeXzBH4xIfnl9726

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