第25話「怜花」
「オラオラオラオラァァァッッ!! 跡形もなく消し飛べェェッ!!」
狂乱した黒崎の絶叫とともに、ロッジの空間を圧殺せんとする禍々しい【P・Z】の暴威が、裕也と桃華へと容赦なく襲いかかる。すべてを失い、完全に理性を無くした四天王の自暴自棄な猛攻。裕也は奥歯を噛み締めながら【P・Z】を展開し、桃華は【BEAT】の物理衝撃波を連続で炸裂させて正面から迎え撃つ。歪んだ絶対支配領域同士が激突し、爆炎と激しい衝撃波がロッジの壁や天井を次々と吹き飛ばしていった。
泥泥の消耗戦の末、ついに裕也の決死の一撃が黒崎の領域を強引にこじ開け、その肉体を大きく弾き飛ばす。重い音を立てて床へ転がった黒崎は、ついにその禍々しいオーラを燻らせ、一回目の撃破を果たす。
「はぁ……はぁ……、やった、のか……?」
裕也が膝を激しく震わせ、肩で息をしたその瞬間だった。
ロッジの傍らに横たえられていたはずの神楽怜花の身体から、突如として禍々しい冷気が爆発的に立ち上った。
「――っ、怜花……っ!?」
ゆっくりと起き上がった彼女の瞳は、先ほど気絶する前よりもさらに深く、暗い闇の光に染まりきっている。黒崎が一度倒されたその事実が、彼女の内に組み込まれていた異能の出力と洗脳を、限界を超えた異常な領域へと再覚醒させたのだ。
「黒崎様……っ!!」
地を這うように起き上がった黒崎の元へと怜花は瞬時に歩み寄り、その大きな身体を抱きしめるように引き寄せた。二人の領域が不気味に同調し、ロッジの空間全体が完全な闇の絶対支配領域へと塗り替えられていく。
「怜花、お前を縛る檻を壊す……っ! 目を覚ましてくれッ!!」
裕也は限界以上の力を振り絞り、再び【P・Z】の重圧をぶつける。桃華もまた、タイクーンの元で過酷な修行を共にしたその誇りを胸に、闘気を最大まで引き上げて【BEAT】の衝撃波を乱れ撃った。しかし、能力が極限まで高まった怜花の暴威は、裕也たちの想像を遥かに超越していた。
防ぐ術のない全方位からの冷徹な闇の波動。どれほど領域をぶつけようとも、彼女の放つ凍てつく超重力はそのすべてを冷酷に喰らい尽くし、裕也と桃華の肉体を容赦なく引き裂いていく。
「くっ、うあぁぁぁッ!!」
「きゃぁぁっ!!」
激しい衝撃とともに二人が血飛沫をあげて床へと叩きつけられたその時、ロッジの破壊された天井から、桜と星の紙吹雪を纏った如月るながついに戦場へと舞い降りた。
「るな……っ!」
「遅くなってごめんね! 二人とも、合わせるわよッ!!」
るなは空間を自在に跳ね回る【HOP(ホップ!)】の瞬間移動で怜花の死角を突き、強制的な魅了【CHARM】の光線を放ってその動きを一瞬だけ確実にロックする。
「今よ、裕也くん、桃華ちゃん!!」
「おおおあぁぁぁッッ!!」
この決定的な隙を逃さず、裕也は【P・Z】の全圧力を一点に集中させて黒崎の防御領域を完全に粉砕し、桃華の渾身の【BEAT】が黒崎の胸元へとまっすぐに炸裂した。
「ガハッ……ば、バカな……この俺が、二度までも……っ!!」
黒崎が激しい血を吐いてよろめいたその瞬間、如月るなが容赦のない冷徹な追撃の異能をその脳髄へと真っ直ぐに叩き込んだ。
ドガァァンッ!!
「――あ、ぶ……っ」
るなの完璧なトドメの一撃をまともに喰らい、黒崎烈治は白目を剥いて床へと激しく転がると、今度こそ完全に意識を失い、物言わぬ肉塊となって完全に沈黙した。彼の【P・Z】の光も完全に霧散していく。
「黒崎様……?」
主が完全に沈黙させられたことで、怜花を包んでいた闇のオーラがにわかに揺らぎ、彼女はその場に静かに膝をついた。裕也は息を切らしながらも、今度こそ姉の洗脳を完全に解こうと、フラフラの体で一歩を踏み出す。
だが、悪夢の蹂躙はここからが本当の本番だった。
膝をついていた怜花が、ゆっくりと立ち上がる。その瞬間、黒崎が倒れた絶望と怒りによって、彼女の内に秘められていた規格外の生命力と適性が完全に暴走を始めた。
ドォォォォンッ!!!
ロッジの床一面が、一瞬にして分厚い永久凍土の氷床へと変貌する。解き放たれた圧倒的な才能の圧力の前に、裕也、桃華、そしてるなの3人は、防御の構えをとる暇すらなく、その場に激しく叩きつけられて圧し潰された。
「が……はっ……身体が、起き上がら、ない……っ」
激しい痛みに全身の神経を焼かれ、地面に伏したまま指一本動かすことすらできない。
静まり返ったロッジの室内、氷の女王のような冷徹で美しい表情を浮かべた怜花は、倒れ伏す3人の前を、ゆっくりと左右に歩き始めた。その足音が、凍りついた床にコツ、コツ、と残酷に響き渡る。
「帰る……? どこへ? ……裕也? ふふ、誰かしらそれ。昔あたしの視界の隅にいた……青臭い過去の男のこと?」
「怜、花……お前……っ」
裕也は血の涙を流しながら、地面に顔を伏せたまま呻いた。しかし、彼女の冷徹な眼差しは、実の弟をただの汚らわしい塵芥として見下ろしている。
「今のあたしを愛し、満たし、最高のステージへ引き上げてくださったのは黒崎様ただお一人……。あたしの心も身体も、ぜんぶ黒崎様のもの。あなたといたら、あたしは一生この安らぎを知らないまま、ただの子供で終わっていたわ。あんな青臭い思い出、何の価値もない」
怜花は、倒れている黒崎の元へと視線を戻し、その頬を思い出すように自身の細い指先でそっとなぞる。その横顔は、恐ろしいほどの悦びと恍惚に満ち溢れていた。
「ねえ……ほら、いまのあたしはこんなにも幸せ。いまのあたしは、こんなにも黒崎さまに愛されているのよ……♡ 過去の亡霊は、ここで黒崎様のために、あたしが綺麗に消し去って差し上げますわ」
(※ただし、この激しい惚気セリフを言い放つ瞳の最奥、黒崎の手が届かない深淵でだけ――)
『(裕也……ちがうの……たすけて……お願い、あたしを……この汚れたあたしを……殺して……っ!!)』
深層心理のわずか1%だけで、彼女の本当の魂が血を吐くような悲鳴を上げていた。しかし、肉体の快楽と精神の依存に屈服しきったその美しい器は、倒れた3人へと冷酷にその手のひらを向け、容赦のない絶対零度の魔力を収束させ始める。
「終わりよ、亡霊たち」
絶体絶命。誰もが完全な終焉を覚悟した、そのコンマ数秒の瞬間だった。
「――そこまでよ!!」
ロッジの破壊された入口から、鋭い少女の叫び声が響き渡った。
「【SHIELD】ッッ!!」
眩い光の防壁が、地面に伏せる裕也たちの前へと瞬時に展開される。直後、怜花から放たれた容赦のないトドメの凍結魔力が光の壁へと激突し、凄まじい轟音とともに爆発四散した。怜花の決定的な一撃が、完璧に防ぎきられたのだ。
「みんな、待たせたね……っ!!」
息を切らしながら飛び込んできたのは、有瀬ゆめ、あるいは空原レンの二人だった。桃華、健人とともに、かつてタイクーンの元で過酷な荒行と修行を積み上げてきた心強い仲間たちが、遅れて戦場へと駆けつけたのだ。
「レン、お願い!!」
「任せて!!【LIFE】ッッ!!」
レンがその手を掲げると、根源的な生存能力と活力を呼び覚ます神聖な癒やしの光が、地面に倒れ伏していた裕也、桃華、るなの3人の身体を優しく包み込んだ。
瞬時に全身の傷が塞がり、減りきっていたぶんの活力が小回りの利く圧倒的な速度で注ぎ足されていく。レンの回復魔法によって、肉体の自由と爆発的な闘気を取り戻した3人が、一斉に地面を蹴って力強く立ち上がった。
「ゆめ……っ、レン……っ!」
「さあ、一気に形勢逆転といくわよ、裕也さん、桃華さん!!」
(第25話「怜花」おわり / 第26話へ続く)
メインヒロインのひとり空原 レンが歌う、らいだ~くの挿入歌です
『Delicious & Devoted』
架空アニメ 「らいだ~く」 挿入歌
歌:空原 レン & ディープ・タウン・シンデレラ
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