09話 冒険者ギルドからの勧誘
―――翌日。
ギルドへ行く時間は特に指定されていなかったので、昼過ぎに行くことにした。
朝食を食べているときに女将さんに声をかけて、さらに10泊分の料金を支払った。
特に追加での作業はないらしく、料金を支払っただけで連泊継続の対応は完了した。
箱庭に転移し、アイシスに状況を聞いてみると、田んぼは順調であと2時間ほどで収穫可能とのこと。
収穫後の処理も短縮可能なので、夕方にはできたお米を食べられるようになるらしい。
「そういえば、家の中にキッチンはあったけど、キッチン道具はないよね? 調理用に道具は買ってきておいたほうがいい?」
気にしていなかったが、調理道具以外にも、収穫には刃物なんかも必要なはずだ。
「私が使う道具については、ご心配無用になります」
そう言うと、アイシスの手に包丁が現れた。
「箱庭の管理、マスターのサポートに必要な道具は、利用者が私に限り生成し利用可能となります。調理道具や収穫道具については、必要に応じて生成、破棄がその場で可能なので、ご心配には及びません。
ただ、マスターやこの箱庭の住民が使う道具は仕入れる必要があります。購入品のリスト作成もできますが、しますか?」
さすが世界の管理者といった感想だが……。
「それって、アイシスが料理してくれたものを盛り付けるお皿はどうなるの? 利用者がアイシスから俺に変わることになるけど」
アイシスの動きが止まり、2回連続でまばたきをした。
さっき気が付いたことだが、アイシスには感応感知魔法が適用されず、感情などの動きが分からない。
だけど今のは、表情で何となく「やらかした」って感じの反応な気がする。
「申し訳ございません。マスターのおっしゃる通り、料理を提供する食器などについては用意する必要があります」
「分かったよ。必要な食器を買ってくるから、種類と数をリストに出してもらえる?」
すぐにリストを渡された。
本当にすぐ。
何なら、言った直後に。
得意げな態度をした直後に失敗した子供が、失敗を取り返したくて急いで用意したような表情が微笑ましく感じた。
箱庭から宿の部屋に戻り、女将さんに食器類を売っている店を教えてもらう。
店は宿と冒険者ギルドの通り道にあるようなので、食器を買ってギルドに向かうことにした。
アイシスが用意してくれたリスト通りに食器を購入し、アイテムボックスへ収納する。
店員の目の前で収納したが、特に反応されなかったので、当たり前の光景のようで安心した。
昼時を過ぎていたので、露店でフランスパンに味の付いた肉を挟んだ料理を買い、それを食べてからギルドに向かう。
受付で、副ギルドマスターに来るよう言われていることを伝えると、応接室に案内された。
しばらくすると、副ギルドマスターが入ってきた。
「待たせてしまい申し訳ない!」
「いえ、部屋に通されてからそんなに時間は経っていないので、気にしないでください」
そう言うと安心したのか、副ギルドマスターは自分の向かいのソファーに座った。
一緒に入ってきた青い髪の女性も、副ギルドマスターの隣に座る。
「早速本題で申し訳ないんだが、ゼオン殿、冒険者ギルドに入ってはくれないだろうか」
フォルさんに入れてもらった常識を思い返す。
冒険者ギルドは各国にギルドを構えていて、その国で発生した依頼を、適した冒険者に割り振る組織だ。
この前の護衛なんかもそうだが、下級依頼だと採取などが中心で、中級以上になると、魔物の調査や討伐、盗賊退治なんかもあるらしい。
場合によっては騎士団と協力して立ち回ることもある。
国や商人、貴族から依頼を受けて人を派遣する組合、という認識でいいのかもしれない。
ランクごとにノルマがあり、未達成の場合はランクダウン、もしくは資格剥奪もある。
冒険者の特権は、ダンジョンへの出入りが可能になること。
ダンジョンは、魔力が高い地域に発生する一種の魔物のような存在らしい。
中に入った生物や魔力を養分として成長し、内部に魔物を生み出す。
だから、ダンジョン内の魔物はダンジョンが作るため、倒すと核となった魔石がドロップする。
ダンジョン内の魔石は魔道具に使われるため、需要が高い。
ただ、個人的にお金がある。
ノルマの内容は分からないが、そういうものがあると、性格上ずっと頭の片隅に残ってしまうタイプなのでやりたくない。
「申し訳ないですが、冒険者ギルドへの加入は考えていません。なぜ昨日の1件からこの話になったかの理由を聞かせていただけませんか?」
やりたくはない。
ただ、縋るような、助けを求める感情が伝わってくる。
売上や成果が欲しくてこの場を設けたわけではないのだろう。
だから、理由を聞かずに切り上げるのがなんとなく心苦しく、理由を聞くことにした。
「ゼオン殿の事情も聞かずに、一方的な勧誘をしてしまい申し訳ない。
まずギルドが魅力に感じたのは、回復魔法と火魔法だ。ギルドにも回復魔法が使える者を常駐させているが、対応が間に合っていないのが現実だ。
そして、見せてもらった火魔法の発動速度だ」
副ギルドマスターの説明だと、魔法の発動速度には個人差があるが、多少のクールタイムが必要になるらしい。
魔法熟練者でも、魔法の発動には3〜5秒ほどのクールタイムが必要で、冒険者の平均は10秒ほどかかるのが一般的。
そしてこのクールタイムは魔法の威力によっても変わり、威力が強い魔法を使えば、クールタイムも伸びる。
それを自分は、クールタイムなく連続で鏃と刃を出したため、昨日2人が驚いていたというわけだ。
……そんな常識知らないよ……フォルさん……。
「次に、2年ほど前から魔物が活発化していて、冒険者の被害ももちろんだが、行商や流通にも影響が出ている。
今日の朝早くにラドに案内してもらって昨日の現場を見たが、オークは本来生息していない地域での被害だった。
こういった、本来生息していないはずの魔物が現れて被害を受けることが多く報告されている。
対策として護衛依頼に上級冒険者を1名帯同させることもしているんだが、そうなると費用も上がるし、本来上級冒険者が受ける依頼が溜まっていく悪循環が起きている。
どこの国のギルドも人手不足なんだ」
「そんな中で、上級冒険者同等の魔法を使える人が現れた。しかも回復魔法も使えるなら、ぜひとも加入して力を貸してほしいと思い、この場を設けさせてもらった」
「的外れなことを言っていたら申し訳ないのですが、騎士団に護衛を任せることはできないんでしょうか?」
知っている情報だと、冒険者ギルドは騎士団の下請けに近い関係だし、上が動けば人手不足も解消できるんじゃないだろうか。
「その意見はもっともだと思うが、騎士団はあくまで国を守る目的の機関だ。そして、個としての動きよりも集団戦術に長けているので、少人数での護衛や突発的な魔物対応には向かないことが多い。
それに、不確定な内容で騎士団を動かすこともできないから、その考えは難しい」
そうなると、ギルドの負担が大きいことも理解できる。
「こちらからも質問してかまわないか?」
問題ないので頷くと、副ギルドマスターが続ける。
「ギルドへの加入を考えていない理由があるなら、教えてくれないだろうか」
「自分の知っている情報だと、ギルドに加入するとノルマが発生し、対応しないとペナルティがあると思っています。
自分は世界を旅して、いろいろな文化に触れていきたいと考えているのですが、自分の性格上、そういったノルマがあると気になって心から楽しめない可能性があります。
依頼も、場合によっては拒否権がないものもあると聞いているので、動きに制限がかかる可能性は残したくないという思いもあります。
正直、今現在はお金にも余裕があるので、依頼などで収入を得る必要もありません。気ままに動ける状況が望ましいので、加入を考えていない理由はそこですね。
今回のように、たまたまそういった場面に出くわした場合は、対応することは問題ないですが……」
「なるほど……」
自分の回答を聞いた副ギルドマスターが、隣に座る女性に視線を送ると、ゆっくりと頷いた。




