10話 冒険者ギルドの隠しランク
「初めまして、ゼオン君。私はギルドマスターのラヴィナ。君のことはマルコフから聞いているよ。まずは、わざわざ時間を作ってくれてありがとう」
ギルドマスターだったのか。
勧誘が成功したときの手続きをするための事務員さんだと思っていた。
「まずは確認したい。君がギルドに加入したくない理由は、自由がなくなる可能性と、ノルマを課されることによる精神的負担。あとは、お金に困っていないから収入源を必要としていない。この3つが大きな理由と思って相違ないかな?」
間違ったことは言っていないので頷く。
「君の情報は正しいよ。
まずノルマについてだが、ギルドに加入した場合、ランクに応じて活動実績が必要になる。
簡単な説明になるが、例えば中級冒険者なら中級の依頼を週に1回、もしくは月に5回の実績がないと、達成率に応じてペナルティが発生する。
これが君の言っているノルマの実態だね」
「次に拒否権のない依頼。これについても正しい。
国、もしくは一般人に大きな被害が出る恐れがある場合、冒険者は騎士団と合同でその対応を行う必要がある。
これは拒否権がなく、その国に滞在している冒険者すべてが対象だ。
それ以外にも、貴族や国からの指名依頼、ギルドからの個人依頼。これも基本的には拒否ができないものになる。
拒否をすれば、ギルドの評判にかかわるからね。
お金については羨ましい限りだから、君がギルドに入るメリットは大きくない」
自分の知識は間違っていなかったようだ。
週に1回以上の依頼をこなしていたら、楽しむ余裕がなくなってしまう。
「ただ、これは一般冒険者の話だ。君の情報は正しいものではあるが、すべてではないよ」
そう言うと、ギルドマスターは話を続けた。
「表向きには、冒険者は駆け出し、下級、中級、上級、最上級にランク分けされる。これも間違いない。
ただ、それ以外に2つランクがある。特級冒険者と影級冒険者だ」
フォルさんからもらった知識にないランクの説明だ。
「影級は隠密系の冒険者で、国の諜報機関などで情報収集を行う冒険者だ。
そして君に関係あるのは特級。
これは主に、冒険者ギルドから勧誘を受けた限られた者のみに与えられるランクだよ。
特級は、さっき君が嫌がっていたノルマと拒否権のない依頼がない冒険者だ。
表向きには一般人と変わらないが、ダンジョンへ入ることも可能になるよ。
ただ、ギルドからの調査を対応してもらうことがたまにあるだけだね。例えば、新たなダンジョンが発生したときの調査とかだね」
「それだと、どちらにしても依頼を受けないといけない状況になりませんか?」
「特級は一般的な依頼は受けなくていいし、依頼を受けるか受けないかも決められる。
特級には、この魔道具を渡すことになっていてね」
机の上に置かれたのは、銀色のイヤーカフのようなアクセサリーだ。
「特級冒険者は、それを付けておいてくれればいい。
君が旅をしていて、近くに対応してほしい依頼があるときに、この魔道具から音声が君にだけ聞こえる。
それに対して、対応するかしないかを選ぶだけでいいんだ。
気が向いたらすればいいし、気が向かないならいつまでも依頼をしなくていい」
それなら、冒険者として意味がないんじゃないだろうか。
「そんなランクがあるなんて知らなかったです。ただ、ランクだけ与えて依頼をしない冒険者なんて、意味ないんじゃないですか?」
「これを知っているのは、各国のギルドマスターと副ギルドマスターだけさ。
ダンジョン入り口を担当している受付は、登録証を魔道具で確認して入れるか入れないかを判断するだけだから、入った冒険者のランクなんて分からないしね。
ギルドのメリットとしては、強力な能力を持った人物といつでも連絡が取れる。それだけで相当な価値さ」
「この魔道具で通信も可能ってことですね。もしかして、居場所の特定なんかもできる魔道具なんて言わないですよね?」
「さすがに居場所までは探知できないね。
さっきの依頼の音声は、登録されている場所に近づいた場合に、その魔道具が受信して流すだけだから安心するといい」
嘘はついていない気がする。
ただ、この人は感情の起伏が少ないというか、感情にベールをかけて話している感覚で読みにくい。
「強力な能力とおっしゃっていますが、さっきの説明だと、クールタイムが少なく魔法が使えるってだけで、ここまでの待遇が得られるとは考えにくいです。
他に説明をしていないことはありませんか?」
自分の価値と待遇が合っていないと感じるし、何か根本を話していない気がする。
「ちゃんと考えて話せるのはいいことだね」
そう言うと、ギルマスが手を差し出してきた。
握手しろってことだろうか。
契約成立って既成事実を作られそうで嫌なんだが……。
「警戒しなくていいよ。ラドにした回復魔法を、同じように私にもかけてみてくれ」
自分の回復魔法の考え方は、目に見える傷があったら、それを治すイメージで使っていた。
フォルさんのときも、切った木を治したときの使い方もそれだ。
冒険者へ使った回復魔法は、魔力の流れを確認して、おかしなところを自分の魔力で補いながら繋げるようにした。
この差が何に繋がるのか分からない。
ただ、同じようにということなので、ギルドマスターの手を握り、魔力の流れを確認した。
特に問題はなかったため、すぐにやめる。
「ラヴィナさんは、自分が使える回復魔法で確認しましたが、特に異常はありませんでした」
そう伝えたが、ギルマスの顔は、自分の答えに反して笑っていた。
「やっぱり思った通り、君は特級にふさわしい実力者だよ。
もちろん、クールタイムなしで魔法が使えることも素晴らしい。けれど、君の本当の評価は回復魔法だ。
回復魔法なしなら、正直、最上級冒険者でも似たようなことができる者はいる。
……が、回復魔法は別だ」
すごい地雷を踏んでしまった感じがする。
「……すみません、言っている意味がよく分かりません」
「おっと、すまない。私としたことが、冷静さを欠いてしまった」
そう言うと、ギルマスは少し息を整えてから説明を続けた。
「通常の回復魔法は、傷を治す魔法だ。骨が折れていればくっつけ、切り傷があれば治す。
ただし、それはあくまで外側から傷を塞ぐ応急処置に近い」
イメージ通りの説明なので頷く。
「でも君の魔法は違う。
君は私の手を握ったとき、傷の有無ではなく、体内の魔力の流れを確認した。そこから異常を探して、内側から整えようとしていたんだろう?
それは、傷を塞ぐ回復魔法じゃない。
身体そのものを正常な状態へ戻そうとする魔法だ」
言われてみると、重症冒険者に対してやったことは、確かに目に見える傷を治すというより、魔力の流れを整えることだった。
「帰ってきたラドの状態を確認したが、健常体と言っていい状態だった」
それのどこに問題があるんだろうか。
傷がなくなれば健常体になるのが当たり前のように聞こえるが。
「装備の破損状況から見て、骨折、内臓損傷、かなりの出血があった跡も見受けられた。
それなのに、私が見ても結果として問題がなかった」
そんな重傷だったのか。
確かに魔力の流れが途切れたりしていたから、本来はありえない状態だったのかもしれない。
自分の反応が不服だったのか、ギルマスは前のめりになって説明をしだした。
「いいかい?
本来の回復魔法はあくまでも応急処置で、怪我によって失われた血や、骨をくっつけるために使った栄養素が枯渇するから、健常体になることはありえないんだ。
それが、あんな重傷だったであろうラドがその日に健常体だよ!
今君にかけてもらった回復魔法で確信した。
君は完全回復魔法を使っている。
失った血液、必要となる栄養素を魔力で補い、補給し、身体になじませる。
こんなことができるなんて聞いたことも見たこともない!
それこそ魔力量によるかもしれないが、瀕死の味方を完全回復できたり、四肢を欠損した冒険者も治せるかもしれない!」
ここまで聞いて理解した。
どうやら、余計なことをしてしまったらしい。
「だからこそ、冒険者ギルドは君を特級として迎えたい!」
最初は冷静な人かと思ったら、すごい饒舌にしゃべるな、この人。
「ギルドマスター、落ち着いて。ゼオン殿が引いてるから。
申し訳ない。ギルドマスターは回復魔法の第一人者でね。
本当は自分だけが今日のこの場で話をするつもりだったんだが、ラドの状態を確認してから、自分も行くの一点張りで……。
回復魔法に目がない人なんだ」
「ええ、分かりました。
特級になるにあたり、ノルマなし、特級依頼も受けなくてもペナルティがないのであれば、特に断る理由もありません。
緊急事態の呼び出しも、応じる気がなければスルーでいいんですよね?」
「もちろん問題ないよ! 受けてくれるかい?」
ギルドマスターから聞かれたので、断る理由もなくなった。
こうして、自分は自由でいるために、表向きには存在しない特級冒険者になることになった。
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