11話 完全回復魔法の実証
「受け入れてくれてうれしいよ。ありがとう。早速登録を進めようと思うので、この魔道具を耳につけてくれるかい?」
ギルドマスターに言われた通り、耳に挟むように取り付ける。
すると自然に自分の耳にフィットするように変化し、違和感がまったくなくなった。
「今のでゼオン殿の魔力が魔道具に登録された。この魔道具は登録者の魔力に反応する。
ゼオン君以外が付けても、ただの銀のアクセサリーにしかならないよ」
副ギルドマスターの説明にギルドマスターが続ける。
「あと、先ほど説明した特級と影級のランクについては極秘の情報になるから、他言無用でお願いするよ。
故意に漏らした場合はギルドへの敵対行為と見なされる。
状況によっては討伐対象になることもあるから、メリットはまったくないと思ってくれていい」
「漏れたって判断は、この魔道具がするんですか?」
「その通りだけど、盗聴などをしているわけじゃないから安心してほしい。
詳しくは言えないが、正確に情報を管理したうえで、漏洩したかの判断が下される形だ」
女神の判断に近いものなのだろうか。
まぁ、守秘義務というものだろう。
「あと、ギルドと特級冒険者の立ち位置は、所属というより協力者に近い。
毎月、ギルドから金貨10枚を支払う形になる。
いつでも連絡が取れる状態を維持してもらうための契約金と、極秘情報を共有することへの対価だと思ってくれればいい」
金額としてはありがたいが、ギルドからしたら繋がりを維持するための契約金に近いのだろう。
「特級依頼についてだが、依頼を受けるか受けないかのステータスはこちらで確認できるようになっている。
報告期限はないが、受けた場合は立ち寄ったギルドで報告を入れてくれるとありがたい」
受けても報告期限がないのであれば、個人的に気負うこともなさそうなので助かる。
「特級の説明は以上だが、質問事項はあるか?」
「特にはないですね。近くの特級依頼ってどんなものがあるんですか?」
「近くだと東にあるゼストリアの森だな。
魔力が濃くて強力な魔物の群生地だ。オークの生息地でもある。
本来ゼストリアの森に生息している魔物が、昨日のように出現することがあるので、森の中で異常がないか調査してほしいという内容だ」
オークレベルの魔物がいるなら、魔法の練習として使うのはいいかもしれない。
特級登録は終わったが、ギルドマスターから時間があれば付き合ってほしいと言われ、承諾するとフード付きのマントのようなものを渡された。
「認識阻害の魔道具だ。それを被ってついてきてほしい」
ついていくと、ある部屋に着いた。
中に入るとベッドがあり、5人が眠っていた。
「ここは重傷を負った冒険者の治療部屋だ。
私が対応しているので、特に状態の重い者たちが集められている。
一命はとりとめて、痛みを感じないように麻痺の魔法を使っているから静かに眠っているが、本来なら痛みで眠れない状態の者たちばかりでね。
私からの依頼で、この者たちに回復魔法をかけてもらえないだろうか」
そう言うと、ギルドマスターは頭を深く下げた。
さっきの説明通りだと、応急処置済みだが、回復するための栄養素を入れることができていないのかもしれない。
見た目は傷もなく、眠っているだけに見える。
「分かりました。魔力をどれだけ使うか分からないので、1人ずつ対応してみます」
まずは1人目の手を取り、魔力の流れを確認する。
見た目には眠っているだけに見えるが、中身はまるで違った。
魔力の通り道は途切れ、ねじれ、ところどころで潰れている。
昨日の冒険者の途切れている経路が、まだ簡単に思えるレベルだった。
1人、また1人と、同じように魔力の流れを確認していく。
感覚やイメージになるが、途切れていても、バラバラでも、もともと魔力が通っていたであろう経路が自分には分かる。
そこを対象相手の魔力を集めつつ、正しい経路通りに補修し、繋げていく作業がギルドマスターの言う完全回復魔法であれば、全員の回復は終わった。
「全員分、対応できたと思います」
1人当たり30分ほどかかったので、全員の対応が終わるころにはかなりの時間が経っていた。
魔力の減りはそこまで感じなかったが、どちらかというと集中する作業だったので、気持ち的な疲れが多い。
ギルドマスターは、眠っている人の胸のあたりに手を当てて、1人ずつ確認していく。
「まさか、こんな短時間で……。
間違いなく全員が完全回復しているうえに、容体は安定している。
ゼオン君、君は一体どんな魔法を使っているんだ?」
あり得ないものを見たような顔で、ギルドマスターは自分に問いかけた。
ギルドマスターの部屋へ移動して、自分の回復魔法のイメージを伝えた。
すると、そもそも自分が見ている魔力の流れは魔力経路と言って、人間の血管レベルで細かいうえに、人によって経路もバラバラで、正しい経路自体分からないのが普通だそうだ。
だから、もともと通っていた経路通りに補修し、繋げること自体が難しいと説明を受けた。
たぶん、自分ができるのは、最初にフォルさんから身体の魔力の流れを教えてもらったからだと思う。
「1つ気になったんですけど、今日みたいに寝込んでいる人に対しての栄養の補給ってどうやって行っているんですか?
ギルドマスターの話だと、回復魔法があくまで応急処置というのであれば、その後の回復は本人の回復力が鍵になるということですよね。
回復力を上げるには、食べ物などで得たエネルギーが必要だと思うのですが」
「そういったものはないね。
目が覚めた者から食事をとってもらうか、毎回少しずつ修復魔法をかけていくという形だ」
「修復魔法? 回復魔法とは違うんでしょうか?」
「回復魔法は傷を塞いだり、折れた骨をくっつける応急処置的な魔法だ。
傷を塞げば止血になり、骨をくっつければ安全地帯まで自分で移動できる。
骨折を例にすると、回復魔法で治した骨はもろく、歩くことはできるが、走ったりするほどの強度までは回復できないんだ。
それを走れるまで回復させるのが修復魔法。
もろい部分を少しずつ固くしていき、走れるようにするまで強度を上げる魔法が修復魔法だ。
ただ、やっぱりちゃんと食べている人と比べると回復スピードは違うけどね」
魔法の世界とはいえ、人間の回復に必要なエネルギーは食事になるみたいだ。
自分が入院して食事ができないときは、点滴だけで2〜3日過ごしていた気がする。
「できるできないは別として、自分の師匠が話していたことなんですが、寝ている相手の血管に最低限の水分と栄養素を流すことで、少量ではありますが回復する可能性があると話していたことがありました。
ギルドマスターなら、そういった方法を実現できそうですか?」
少し考え込んでから、ギルドマスターは口を開いた。
「そういった考えも面白いが、できるかどうかは分からない。ただ、試してみることは可能だと思う。
いろいろ確認は必要だが……」
正直、点滴の成分なんかを調べたとして、自分に実現できるかは分からない。
回復魔法の第一人者のギルドマスターなら、別の方法で食事ができない状態の人に使える何かを作れるかもしれない。
その後、自分の回復魔法についていくつか質問され、ようやく解放されることとなった。




