12話 箱庭の食卓
宿に戻り夕食を食べた後に、部屋で人界の地図を眺めていた。
地図はギルドで無料配布していて、大まかだが主要国の位置とダンジョンの場所、名前の付いた森が記載されていた。
人界は大きく分けて5つの国があって、自分が滞在しているアルヴェリア、昨日助けた貴族の言っていたイベルトリアのほかに、ウィグスリア、エヴァクリア、オベリストリアがあった。
オベリストリアの近くにはダンジョンが5つほどあるので、ダンジョンの国なのかもしれない。
話題に上がっていたゼストリアの森は地図上で少し離れた場所にあるが、どれくらい時間がかかるかイメージがつかない。
ギルドマスターに今日のお礼は明日するので改めて来るように言われているので、朝にギルドへ行って、そのままゼストリアの森に向かってみよう。
明日の方針が決まったところで箱庭に移動した。
「マスター、おかえりなさいませ。お米ができていますが炊きますか?」
出迎えてくれたアイシスが、早速できたお米を炊くか聞いてくれたが、晩ご飯は食べてしまっているので、明日の昼に食べると伝えた。
「あ、頼まれていた食器類はどうしたらいい? 家の棚にでも入れる?」
「それについて、マスターに説明と許可をいただきたいと考えていました。説明してもよろしいですか?」
何か説明が漏れていたのだろうか?
内容を聞いてみると、自分のアイテムボックスへのアクセスを許可してほしいとのことだった。
本来であればアイテムボックスを2人が共有することはできないが、別世界である箱庭とフォルテシア間なら可能で、自分が許可しないとできないらしい。
クラウドみたいな考えだろうか。
オーナーが許可を出せば、クライアントがアクセスできてデータの出し入れが可能になるイメージをしたので聞いてみると、その通りとのこと。
ただ、できるのは自分と箱庭管理者のみで、今後住人が増えてもアイテムボックスの共有はできないと説明を受けた。
アイシスに許可を出すと、アイシスの目の前のテーブルに今日買った食器類が現れた。
アイテムボックスを確認すると食器類は消えていたので、どうやら共有は成功したようだ。
そして便利なことに、食材と調味料を入れておけば、アイシスが箱庭で料理してくれるらしい。
さらに、魔物を入れれば解体まで可能とのことだ。
有能すぎないか……
ゼストリアの森へ行く前に、調味料や食材を買い込むことにした。
翌日。
朝食を食べ、女将さんに調味料や食材を売っている店を尋ねると、またもや冒険者ギルドの近くだった。
補足で、冒険者ギルド周りの店に行けば大抵のものは揃うとも言われたので、今後買い物があれば冒険者ギルド付近で探すことにする。
最後に女将さんに1日か2日くらい帰ってこない可能性があると伝えて宿を出た。
冒険者ギルドに着くと、受付の人がギルドマスターの部屋に案内してくれた。
「おはよう。今日は早く来たんだね」
「おはようございます。早すぎましたかね?」
挨拶をしながら、ギルドマスターの座っているテーブルの前まで歩く。
「今日来てくれと言ったのは私だからね。時間の指定はしていないし問題ないさ。そして言っていたお礼だが……」
そう言いながら、5センチくらいの木箱を2つ渡してきた。
受け取ると、開けるように言われた。
何かもらったものをその人の目の前で開けるのは行儀が悪い気がして、少し気が引ける。
木箱の1つは白金貨が1枚。
もう1つの木箱には、黒いひし形の石が付いたネックレスが入っていた。
「お金は少なくて申し訳ない……。すぐに用意できる金額となると、それが限界でね……。
ネックレスは認識阻害の魔道具で、任意のタイミングで切り替えができる。必要ないかもしれないが、君が回復魔法を使うときに使えたら便利だと思って用意した」
「別に少ないとは思わないですよ。ありがたくいただきます。ネックレスも使わせてもらいますね」
そう言うと、ギルドマスターは微笑んだ。
「昨日治療してもらった連中はまだ起きていないが、起きたらお礼するように伝えたいところなんだが……」
ちょっと困ったような感情を読み取ったので、先に答える。
「それは不要ですよ。立場的にもやらないほうがいいでしょうしね。ラヴィナさんが治療したってことで丸く収めてください」
「察してくれて非常に助かる。ありがとう。また何かあれば頼らせてもらうよ」
「分かりました。ただ、毎回こんな大金だとギルドも大変でしょうし、お金は大丈夫ですよ。自分がお金に困ったときまでツケにしておいてください」
そう言うとギルドマスターは笑って、困ったときなら全力で助けようと言ってくれ、対応は終了となった。
その後は、調味料系、スパイス系、野菜に肉を買い込んでアイテムボックスへ収納してから、ゼストリアの森へ向かった。
人目につかない高さと経路を選びながら飛んだせいもあり、思ったより時間がかかった。
飛行魔法で4時間ほど飛び、進捗は6割ほど、さすがに疲れたので箱庭に移動した。
お昼はとっくに過ぎていたので、お腹も減っていた。
アイシスが出迎えてくれ、料理を作ってくれるとのことなので、しばらく待つことにする。
そういえば、フォルさんにわがままを言って用意してもらったPCを、転生してから触っていなかったことに気が付いた。
生前なら帰宅してすぐにPCを起動するのがルーティン化していたのに、環境が変われば生活も変わるものだと少し感心した。
久しぶりにPCの電源を入れると、生前と変わらない状態で、ゲームなども言っていたとおり利用可能なようだった。
久しぶりにゲームを起動し遊んでみるが、なんとなく身が入らなかったので早々に切り上げ、配信されているバラエティーを見て時間を潰していると、アイシスから呼ばれた。
ダイニングに行くと、テーブルの上にご飯と生姜焼きが置かれていた。
生姜焼きって地球の食べ物だよな?
こっちにもあるのだろうか。
「ありがとう。これって生姜焼きだよね? こっちの世界にもあるの?」
「いえ、フォルテシアにはない料理ですが、マスターの世界の料理は材料さえあればすべて再現可能です。何ならケーキやプリン、お菓子も再現できますので、希望があれば言ってください」
何だろう……。
感情も読み取れないし、言い方は淡々とクールな感じなのに、褒めて褒めてってしっぽを振ってる犬が見える気がする。
「アイシスはすごいね。ありがとう。それじゃいただきます」
そう言って食べた米と生姜焼きは、とても美味しかった。
生姜焼きが大好物というわけではないが、久しぶりに食べるお米と最高に合っていた。
あっという間に食べ終わってしまった。
「ありがとう。とっても美味しくて、あっという間に食べちゃったよ」
「マスターに満足していただけたなら私も嬉しいです」
そう言って、アイシスはテーブルの食器を下げてくれた。
そういえば、誰かに作ってもらった料理を食べたのは何年ぶりだろうか。
もちろん、宿の料理も手作りなのは分かっているが、自分のために作ってくれた料理となると、かなり食べていなかったと思う。
そんなことすら忘れていたのだと知り、自分がどれだけ狭い世界で生きていたのかに気付いた。




