13話 森の調査と黒い悪魔
軽く食休みをした後、改めて移動すること2時間半で反応があった。
(付近に特級依頼、ゼストリアの森の調査の対象地域があります。
内容は、生息地外での魔物の発生原因について、ゼストリアの森の内部に原因がないかの調査です。
依頼を受けますか?)
と、機械音のような無機質な声が聞こえた。
これが特級用の魔道具の案内らしいので、承認する意思を示すために考えると、
(承認いただきありがとうございます。
お気をつけて対応してください)
とアナウンスが流れた。
その後30分ほどで、おそらくゼストリアの森へ着いた。
おそらくという理由は、特に看板などはないのだが、境界線のように植物の葉の色が変わっているからだ。
今までは通常色だったが、ここから先は同じ植物でも色が深緑色になっていて、森全体が暗くなっている。
時刻としては17時前でまだ明るいので、今日は暗くなるまでの2時間を目安に探索してみることにした。
入ってみると、なんとなく空気が重い感じがする。
何度か探知魔法もしてみたが、魔物らしい反応はなかった。
入り口付近は、そこまで魔物の群生地というわけではないのかもしれない。
探索速度を上げて深部に向かって進んでみると、ようやく魔物に遭遇した。
木に擬態する魔物で、探知魔法で分かっていなければ不意打ちを受けていたかもしれない。
火の刃で切ると、あっさりと倒すことができた。
断面を見ると普通の木のように見えるが、真ん中に穴が開いているので何かの器官なのかもしれない。
ただ、木の魔物は中身も木ということが分かった。
周辺に何体も同じ魔物がいるので、ここから先が本番になりそうだ。
その後、木の魔物にそれぞれの属性で同じ魔力を込め、同じように攻撃した。
水は吸収されてダメージにならず、氷と土は少し傷ついただけで、風は切ることができるが再生した。
続いて鏃をそれぞれ貫通率を上げて試すと、どれも貫通はしたが、火以外はすぐに塞がった。
結果、木の魔物は火魔法でないと攻撃が効きにくいということが分かり、今日の探索を切り上げることにした。
箱庭に戻ると、アイシスが出迎えてくれ、風呂を勧めてくれた。
この世界に来て湯船につかるのは初めてかもしれない。
風呂から出ると、脱衣所にタオルと着替えが用意されており、用意されているものをそのまま使わせてもらった。
晩ご飯は唐揚げとご飯を用意してくれていて、それも美味しくいただいた。
揚げ物ができることにも驚いたが、元の世界のものと遜色ないものが食べられて嬉しかった。
その後は、PCで映画を見ながら軽くお酒を飲んでから眠った。
―――翌日。
木の魔物の群生地を抜けると、探知魔法で魔物が見つけられるようになったが、調査対象になりそうなものは引っかからなかった。
その後も探索し、ダンゴムシのような魔物や、カマキリの魔物に蜘蛛、アリと虫系の魔物ばかりと遭遇した。
どれも巨大で、虫が苦手だった自分的にかなり精神的に辛かった。
虫以外の魔物を探知しても引っかからないので、木の魔物の近くは昆虫系の魔物の生息地なのかもしれない。
探索をしていると、何かがすごい勢いで横切ったのが見えた。
探知魔法で確認すると、周りに10体ほどいて、どれも昆虫系だった。
経験上、アリ系の魔物は集団で行動し攻撃もしてきたので、今回も同じだと思っていた。
昆虫系は火に弱いと分かっていたので、まずは牽制のつもりで火魔法を放った。
鏃とか刃ではなく、ゲームなんかでいうファイヤーボールのような魔法だ。
だが、意外にも避けられ、こっちに向かってくるのが分かった。
姿が見えたら火魔法で応戦すればいいと思っていたが、姿が見えた瞬間、咄嗟に飛び上がった。
飛び上がったのは比喩ではなく、実際に飛行魔法で20メートルほど飛び上がった。
昆虫系が多い地域ならいてもおかしくないが、完全に失念していた……。
飛び上がるほど嫌いな昆虫。
そう、冷蔵庫の裏とか、夜のシンク周りに現れる黒い悪魔……ゴキブリだ。
しかも、めちゃくちゃでかかった。
あんなもの、拡大したらいけない……。
そのまま見なかったことにして離れようとしたところで、
パララララララ……と音が聞こえた。
うん……そうだよね……
君たち、飛べたもんね……
その後、大きな爆発音がしばらく続くことになったのは言うまでもない。
本当に長い戦いだった。
何なら、転生してから一番魔力を使って攻撃した。
最初は火魔法で応戦していたが、生命力が強く即死しないので、下手にダメージを与えるとかえってスピードが上がり、なおかつランダム性のある動きになるので力技で燃やしまくった。
燃えているときもキィィィィっと甲高い音が出るので、余計に辛かった。
ゴキブリ対策用の商品で凍らせるものがあったことを思い出し、物語などにある空間を一瞬で凍らせる魔法を使うことにした。
冷静に考えれば術者にデメリットがある可能性があるが、そんなことを考える余裕はない。
探知魔法で周辺20メートル以内に8体いることを確認し、
「コキュートス・ゼロォォォ!」
と、物語の技名そのままを叫んで発動。
結果、魔法はイメージ通りに発動し、8体まとめて凍らせることに成功した。
何なら植物たちもすべて固まって、5秒後には砕けて、周り20メートルは更地になった。
その後、ひどい目眩が起きたので箱庭に転移し、ベッドで少し休むと目眩は回復した。
魔力がなくなっている感覚はないが、若干頭が重く、痛みもある。
「かなり大きな魔法を使ったようですが、そんなに強い相手だったのですか?」
アイシスが水を持ってきてくれ、質問された。
「手ごわいというか、トラウマ相手で余裕がなくて大きい魔法を使った感じだね。
アイシスは外の情報とかって分かるの?」
「今の私では、外の状況まで見ることはできません。
ですが、この箱庭も、私もマスターの魔力を動力源にしているので、魔力が荒れると影響が出ます」
「そうなんだ。大丈夫だった?」
「問題ありません。空が一瞬虹色になっただけでした」
「それは……まぁ、大きな影響じゃなくてよかったのかな?」
「はい。あと、失礼します」
そう言うと、アイシスはおでこに手を当ててきた。
「ただの魔力酔いのようですので、あと10分もすれば回復しますよ」
「魔力酔い?」
「はい。魔力酔いは、巨大な魔力を一気に使うことで起きる反動のようなものです。
普段は水路に一定量の水を流しているのに、一瞬だけ水門を全開にして大量の水を流したような状態ですね。
水路そのものは壊れていませんが、流れが乱れたせいで、しばらく正常に水が流れにくくなっています。
本来なら、その場で気を失ってもおかしくないレベルです。
立てないほどの目眩が起きたのは、一気に使いすぎた反動ですね。
ちなみに、魔力の乱れで起きている体調不良なので、回復魔法は逆効果です。
時間が経たないと回復しないので注意してください」
アイシスから現在の症状を教えてもらい、もうしばらく休むことにした。




