14話 ゼストリアの森と魔法検証
箱庭で昼食を食べてからゼストリアの森へ戻った。
時間にして1時間半くらいしか経っていないのにもかかわらず、すでに草が生え始めていた。
魔力濃度の影響なのか、成長速度が速いのかもしれない。
そのあとさらに深部に行くと、今度はムカデの魔物が出てきた。
ムカデは、これまで遭遇した昆虫系の魔物の中でもかなり強かった。
硬い殻に覆われていて、基本的に魔法が弾かれる。
有効打であろう火魔法も、大したダメージは通らなかった。
貫通率を上げた鏃も貫通せず、殻の表面を滑るように流れてしまった。
動きも意外と速いため、大きめの魔法を当てるにも一苦労だ。
そのため、なんちゃって重力魔法で動きを抑えつけて止める。
先ほどのコキュートス・ゼロを思い出し火魔法の応用を試してみることにした。
サッカーボールほどの大きさのファイヤーボールを作り、ムカデに向けて放つ。
ムカデにぶつかると同時に爆発した。
爆発のおかげで殻が砕けたので、火魔法でとどめを刺した。
ムカデを倒してからは、トカゲ系やカエル系、ネズミ系の魔物が出てくるようになった。
昆虫系も大きかったが、それらを捕食するためか、トカゲやカエルもかなり大きい。
ただ、昆虫系と違ってどの魔法も効くので、スムーズに進むことができた。
一番厄介なのはムカデの魔物だったが、遭遇率は低いのでかなり助かっている。
外側から深部にかけて魔物が強くなっていくのは、自然なことなのか、異常なのか。
今の自分には判断できない。
ただ、外側から順に、餌になる魔物、その捕食者、さらにその上位の捕食者がいるようにも見える。
これが異常なら、深部に向かえば何かあるかもしれない。
今は探知魔法でも魔物の反応以外はなく、さらに奥に行くとトカゲやカエルが減った代わりに、ネズミ系や角の生えたウサギ、イタチのような魔物が増えてきた。
大きさでいうと1メートルはないくらいではあるし、虫系の魔物に比べて魔物側からの攻撃が少なくなってきている。
何なら逃げられることのほうが多いので、そこは昆虫系と動物系の思考の差なのかもしれない。
感応感知魔法で昆虫の感情は全く感じないが、地球でいうところの小動物系の魔物は、出くわしたときに焦りや恐怖の感情をわずかに感じることができた。
どれくらい先があるのか分からないので、一度飛行魔法で上から見てみる。
だが、今まで進んできた距離は全体でいう3割程度だった。
まだまだ先は長そうだ。
地上に降りてから、ここまでの探索で分かったことを整理する。
本来の目的である魔法の実践はある程度済んでいて、正直帰っても問題ない。
ただ、まだオークに出くわしていない以上、問題のある地点まで辿り着いていない可能性が高い。
最低限の調査はするべきだと思い、とりあえず進んでいる。
今回の魔法実践で分かったことは、魔法でイメージできることは大体できそうということだ。
最初は鏃と刃を飛ばしていたが、ボール系での攻撃も可能だった。
氷や土を剣などの武器の形にして飛ばすこともできる。
水はウォーターカッターといわれるものがあるように、水圧で対象を切断することも可能だった。
面倒だったムカデは後半この魔法で対処していたし、火魔法の応用で爆発魔法も使えた。
ただ、イメージできても、必ず思ったとおりの結果になるとは限らない。
なんちゃって重力魔法も、実際には重力を操っているのではなく、魔力で押しつぶしているだけだ。
一応、複数の異なる属性魔法を同時に使うことはできるが、自分は苦手かもしれない。
イメージとしては、右手で絵を描いて、左手で字を書きながら、目の前にいる人と話すような感覚だ。
思考分割などの魔法があれば使えるかもしれないが、それは今の自分には難しい。
魔力で相手を抑えつけて、別魔法で攻撃するのがギリギリできる感じだ。
ただ、同じ属性の同じ魔法を複数同時に出すことは可能だった。
マシンガンを連発するようなイメージで、発生場所や着弾箇所を決めるだけだからだ。
一方で、複合魔法は意外と難しくない。
風魔法の竜巻に火を追加するファイヤートルネードは、1つの現象としてイメージできる分、1つの魔法として認識しやすく発動できる。
コキュートス・ゼロやファイヤートルネードのように、ゲームや物語で見た技も、イメージさえ固まっていれば再現できるらしい。
今後は、漫画やアニメ、ゲームを参考に使えそうな魔法を試してみてもいいかもしれない。
まだまだ調べればいろいろなことができそうだが、今の自分で思いつくのはこれくらいだった。
アイシスに相談してみるのも1つの手かもしれない。
無変換魔法でいうと、飛行魔法や探知魔法、回復魔法と、魔力で圧をかけるなんちゃって重力魔法くらいしか使っていない。
ほかに有効に使えるものはないか考えて、遠くを確認できる千里眼をイメージして使ってみた。
が、見えるのは葉っぱの緑だけだった。
イメージとしては1キロメートル先の状況を見られるつもりで発動したが、実際には望遠鏡のような魔法になり、目の前の葉っぱが拡大されただけという結果だった。
便利そうな名前のわりに、見えたのは葉っぱだけだった。
あとは、どれほどの威力の魔法を使うと魔力酔いが発生するかが、自分の中で分かっていないことも不安要素ではある。
先ほどの魔力酔いは、力の限り魔法を発動して起きた。
ただ、そもそも生命体を一瞬で凍らせること自体、かなりの魔力を使う気がする。
コキュートス・ゼロの場合、魔力酔いの原因が範囲なのか、対象になった数なのか。
そこは検証を進めないといけないと思う。
あとで多対一の状況があれば、範囲と対象を絞って凍らせることができるか確認しよう。
そんなことを考えていると、こちらに向かってくる1体の魔物を感知した。
ちょうどいいので、その魔物で試すことにしよう。
そう思い構えていたところに現れたのは、棘を逆立てて威嚇しているヤマアラシのような魔物だった。
棘の先にギザギザと返しが付いていて、刺されたらかなり痛そうだなと観察していたら、棘を飛ばしてきたので急いで回避する。
今までの魔物は、地球にいた近い生物と大差ない行動や攻撃パターンだったので油断した。
だが、魔物なのだから攻撃手段が多くあっても不思議ではない。
しかも、飛ばした棘がすぐに生えそろっているし……。
ヤマアラシとの距離は5メートルほど。
さっきは円形の範囲すべてを対象に魔法を発動したが、今回は自分からヤマアラシのいる場所まで、扇状の範囲をイメージする。
直線でも選択できそうだが、回避された場合の保険として少し広めにしておく。
自分を起点にした範囲魔法というイメージが根底にあるせいか、ピンポイントでの発動はできないようだった。
「コキュートス・ゼロ」
発動は成功し、イメージ通りの範囲が凍りついた。
しばらく待ってみたが、先ほどのように勝手に砕けずにそのままだった。
さっきの砕け方は、急激な温度差による崩壊だったのかもしれない。
火魔法で攻撃すると、あっけなく砕けた。
範囲指定の対象1体での魔力酔いはなかったが、発動後の経過には差があった。
範囲や対象の数以外に、温度も関係しているのかもしれない。
探索も4割まで進んでいるし、時間もちょうどいいので今日はここまでにして箱庭に戻ることにした。




