08話 オーク討伐の後始末
「……これは、ひどいな……」
悲惨な状況を見て、男性は絶句している。
「まずは助太刀、感謝する。私はイベルトリア国の子爵、サレム・ハイリンヒだ」
男性はそう名乗ると、一度周囲を見回した。
「アルヴェリア国のオストリッチ伯爵邸へ赴く途中だった。だが、道中で盗賊に襲われ、逃げるために山道へ入ったところで、今度はオークに出くわしてしまった」
そこまで話すと、貴族は倒れている冒険者たちへ目を向ける。
「冒険者も、盗賊との戦いで半数を失った。残った者たちも、この通りだ」
嘘はついていないようだ。
けれど、護衛していた冒険者に対して、弔いのような感情がないのが気になる。
「この状況を打開できた君にお願いがある。アルヴェリアまで護衛をお願いできないだろうか。もちろん、礼はする」
魔物と周辺の道に対象を絞り、探知魔法で確認する。
近くに魔物はおらず、少し先には道も確認できた。
次に周辺に人がいないか確認したが、反応はない。
盗賊も追ってきてはいないようだ。
飛行魔法でここまで来てしまっているので、歩きとなるとアルヴェリアまで7時間ほどかかりそうだ。
「護衛については問題ありませんが、アルヴェリアまでかなり距離があります。歩いて行くとなると、城門の対応時間を過ぎてしまうかもしれません。近くに道があるので、そこ沿いに歩いて、途中で馬車に拾ってもらうのが現実的かもしれません」
「それなら早く向かおう。ただ、妻と娘にこの惨状を見せるわけにはいかない。片付けてくれないだろうか」
やはり、さっきの違和感は正しかったらしい。
護衛の冒険者たちのことは、道具くらいにしか見えていないようだ。
考え方として好きにはなれないが、この世界の価値観の違いもある。
それを表に出さないように返答する。
「冒険者の生き残りがいます。その方が目を覚ますまで、しばらくここで待ちませんか? 仲間の方たちの弔いもあるかもしれないですし」
「そんな時間があると思っているのか! ただでさえ遅れているんだ! 早急に向かえ!」
助けてもらった相手を怒鳴りつけ、言うことを聞かせようとするなんて、この貴族は馬鹿なのだろうか。
焦りの感情が大きいので、正常な判断ができていないのかもしれない。
「そうおっしゃるのであれば、道まで案内しますので、ハイリンヒ様のご家族のみで先に向かわれてはいかがですか。亡くなった冒険者たちの対応もありますし、怪我人を放置してこの場を離れることは、私にはできません」
「護衛はどうする!?」
自分たちだけで向かえと言われたことに、困惑した様子の貴族。
「受けることは問題ないと言いましたが、正式な契約はしていませんよ。あくまで質問への回答をしただけです。私の優先順位は、怪我人の看病、遺体の対応、護衛です」
むしろ貴族がいなければ、転移魔法で今すぐにでも帰れるので、受けないほうがメリットは大きい。
「……冷静さを欠いていた。君の言う通り、冒険者が目を覚ますのを待とう。ただ、妻と娘を外に出せないから、遺体を目立たないところに移動できないだろうか」
横転した馬車は、通常の扉が上を向いている状態だった。
あそこから出ようとすれば、どうしても外の惨状が目に入ってしまう。
だが、反対側の壁に穴を開ければ、馬車を盾にする形で外へ出せるかもしれない。
それなら、周囲の惨状を直接見せずに済む。
「この馬車に穴を開けても問題ないですか?」
「ああ……それについては問題ないが……」
「失礼します。私の後ろに回ってください」
許可をもらったので馬車に入り、中にいる2人に声をかける。
魔法で、馬車の天井だった部分とは反対側の壁に穴を開けた。
そこから外に出てもらえば、馬車そのものが視界を遮ってくれる。
少なくとも、外の惨状を真正面から見ることは避けられるはずだ。
貴族が2人を抱きしめ、冒険者が目を覚ますまでこのまま待つことになったと説明していた。
10分ほど経つと、冒険者は目を覚ました。
状況を伝えると、亡くなった3人はパーティーメンバーだったようで、ショックを受けていた。
亡くなった冒険者の対応について聞くと、装備や遺品を回収し、遺体はその場で土葬するのが一般的らしい。
火魔法が使えるので、火葬して骨を持ち帰ることも可能だと伝えると、可能であればお願いしたいと言われた。
外せる装備を外してから火葬し、残った骨は土魔法で作った骨壺に入れて渡した。
骨壺はこっそり作ってアイテムボックスに入れておいたので、目の前で作成はしていない。
オークの死体については自分は不要だったので、冒険者に任せることにした。
必要な素材を剥ぎ取った後に、残りは燃やして処理した。
一通りの対応で1時間ほど使い、歩いてアルヴェリアまで向かうこととなった。
ただ、運がいいことに乗合馬車が通りかかり、乗せてもらうことになった。
18時前に城門へ着いたが、貴族用の門から入国することになった。
目的地に着くと、貴族から礼として金貨10枚を受け取った。
冒険者は貴族に依頼達成の書類を書いてもらい、貴族一家とはそこで別れた。
命を助けた礼として高いのか安いのか、今の自分には判断できない。
ただ、彼にとってはこれで区切りをつけた、ということなのだろう。
冒険者ギルドで説明が必要なので同行してほしいと頼まれ、そのまま冒険者とギルドに行くことになった。
冒険者ギルドは、石造りの大きい建物だった。
そこで別室に連れていかれ、事情を聞かれることとなった。
「副ギルドマスターのマルコフだ。今回の護衛依頼で、パーティー『ガルゼニス』が全滅、『ウィールズ』はラドだけが生き残ったわけか。それで、この素材がオークのものってことだな」
副ギルドマスターは素材を確認してから、机の上に書類を置いた。
「まずは2パーティー分の報酬と、パーティーメンバーの死亡手当だ」
ギルドでは、パーティーで死亡者が出た場合に死亡手当が支給される。
ただし、第三者の証言や証拠がない場合は、真偽確認が必要になるらしい。
2つのパーティーは、最近中級冒険者になったパーティーだった。
だが、オークは上級冒険者の攻撃でようやくまともにダメージが通るほど皮膚が硬く、中級パーティーなら全滅してもおかしくない相手だった。
そんな相手を倒したとなると、自分に話が向くわけで……。
「ゼオン殿、まずは助けてもらったこと、ギルドからも感謝する。ありがとう」
副ギルドマスターはそう言って、こちらを見る。
「冒険者ギルドに所属していないことは確認しているが、どこかの騎士団や団体の所属かな? オークを1人で2体も討伐できるなんて、かなりの手練れだと思うんだが、情報がなくてね」
自分を刺激しないように、言葉を選んで会話してくれているのが伝わってくる。
「いえ、どこにも所属していないただの平民ですよ。生まれたときから魔力が多かったですが、それ以外は特に普通です。オークも食事に夢中になっているときに、不意打ちで1体ずつ仕留めただけです」
「魔力が多いって、どんな魔法が使えるんだ?」
「師匠が特殊だったので基準は分かりませんが、火魔法と回復魔法が使えます。今回は火を鏃の形にして仕留めたのと、火の刃で焼き切って倒しました」
「なるほど……。できればなんだが、魔法を使っているところを見せてもらうことは可能だろうか?」
何か考え込んでいるのは分かるが、その理由までは分からない。
ひとまず了承することにした。
地下に闘技場のような訓練場があり、そこで魔法を見せることになった。
「じゃあ、用意した的に魔法を撃ってくれ」
言われた通り、まずは火を鏃の形にして的に向かって放つ。
その後、火の刃も放った。
火の刃は、温度を上げたものではなく通常版で放った。
結果、的は鏃で穴が開き、その後、刃で切れてぽとりと床に落ちた。
副ギルドマスターと助けた冒険者から驚きが伝わってくるが、驚かれている理由が分からない。
「以上が、オークに使った魔法です」
何も言われなかったので、これ以上魔法を使わないという宣言も込めて、副ギルドマスターへ伝えた。
結果的に、今日はもう遅いので明日改めてギルドに来てほしいと言われ、ギルドを出ることになった。




