06話 箱庭の管理者と出会いました
「それが、そんなこともないんだよ。人族が考える罪と、神族が考える罪って違うからね。
お金を複製したり、偽の硬貨を作ったりするのはダメだけど、お金を横領したり、人から盗んだりすることは人族のルールだから、神族は不干渉だよ。
貴族はずる賢いというか、直接手を下さないで、配下が汚れ役を請け負うことも多いから、うまくいかないのが現実かな。
世界法を取り締まるのが神族で、各国法を取り締まるのは各国の機関って感じだね」
神界の神族の役割は分かった。
けれど、逆に魔界はどういう場所なんだろうか。
「魔界についても、人界とほとんど変わらないよ。人界の5倍の領土があって、種族の種類がとてつもなく多い。しかも別種族と結婚して混血の子も多いから、種類だけなら管理できないくらい多いよ」
人界の5倍の領土!?
「驚くよねー。この世界を作ったときに、それぞれ生態系を変えて作ったんだけど、魔族は長寿な種族や不死の種族もいて、人界に比べて数の減りが少ないんだよ。
結果、落ち着く領土の広さを調整していったら、人界の5倍になったって形だね」
「そうなると、人族の場合は寿命が短くて差別になったりしないんですか?」
「人族って言っても、種族はいろいろあるからね。
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、水人族、獣人族とかいろいろ。水人族や獣人族の種類もかなりいるしね。
寿命でいったら、ヒューマンが100年、エルフは10000年、ドワーフは1000年、獣人族は150〜500年、水人族は1000〜8000年って結構広いよ。
ただ、長寿な種族ほど成長スピードがゆっくりって傾向があるから、ヒューマンの成長速度は他の種族に比べるととてつもなく早いね。
魔族なんかは生まれつき強い場合もあるけど、比較的ゆっくり成長していることが多いかな。精霊族なんて、生まれた年数が魔力量や強さになるからなおさらね」
「あと、転生は人族に与えられた特権でもあるね。特定の条件がそれぞれ必要だけど、残したい記憶を保持したまま転生することはできるからね」
多種多様な種族がいるのも大変そうだ。
長寿な種族もそうだけど、不死の種族なんて逆に気が狂いそうだけど。
「その辺りは、常識の違いとしか言えないね。神族に至っては寿命がないから、増えも減りもしないからね」
この話については終わりが見えなさそうなので、そろそろ切り上げたほうがいいかもしれない。
「確かにそうだね。
他でいうと……あ、用心深くてびっくりしたけど、アイテムボックスは高価ではあるけど持ってる者は多いから、そんな慎重にならなくていいよ。
転移魔法も使える人は使えるし、アイテムボックスの代わりに収納魔法って魔法を使う人もいるからさ。
注意が必要なのは、収納するときと、出すものの大きさかな。何なら、君が泊まっている宿にもアイテムボックスと冷蔵用の魔道具があるからね」
なるほど……。
けど、何かの拍子にやらかすのが怖いんだよな。
「話に聞いていたけど、慎重すぎない? まあいいや。
そんなに気になるなら、この世界で生活するうえで最低限必要な常識だけ、頭に入れておくよ。必要なときに、なんとなく思い出せるようになるはずだから、明らかに変な行動は避けられると思う。
ただし、専門的な知識や国ごとの細かい事情までは無理だから、そこはちゃんと自分で確認してね。
あと、君のスマホに相談できるチャットアプリを入れておいたから、分からないことがあったら聞くといいよ。自動で知りたいことを教えてくれる案内役みたいなものだと思ってくれればいいかな。
イメージでいうと、AIアプリが近いかも!」
AIアプリって、間違いも普通に言うから信用ならないんだが……。
「実際はAIじゃないから大丈夫だよ!? あ、そろそろ目覚めるみたいだね。それじゃ楽しんでおいで!」
「――――っんーーー」
伸びをしながら、とりあえず身体を起こす。
机の置時計を確認すると、8時20分を指していた。
本当に時間部分が、見慣れた1から12の表示に変わっている。
ちょっとしたもので神様を感じられる世界というのも、感覚として不思議だった。
1階に下りると、女将さんが他の宿泊客に料理を出しているところだった。
「おはようございます」
「おはよう! 空いている席に座って待ってておくれ!」
そう言われて、指示通り適当な席に座って待つ。
しばらくすると、カボチャのスープと少し硬めのパン、オレンジのような果物が出てきた。
味は普通に美味しい。
ただ、なんとなく米が食べたいと感じるようになっていた。
部屋に戻り、まだ試していない箱庭を使ってみることにした。
腕輪に意識を向けると、転移していいか脳内に確認が来たので了承する。
先ほどまで部屋の床だった足元が、一瞬で芝生のような草原に変わった。
周りを見ると一面緑で、地面に凹凸もなく、ただただ広い草原があるだけだった。
「おかえりなさいませ、マスター」
後ろから声をかけられ振り返ると、ロングスカートのメイド服を着た、栗色の髪の女性が立っていた。
「えーっと、君は……?」
「私は、この箱庭の管理と、マスターのサポートを行うために生成されました」
淡々とした口調だった。
機械的、というほどではない。
ただ、感情の起伏はかなり薄く見える。
「箱庭の管理者ってことか。理解した。君の名前は?」
問いの意味が分からないのか、彼女はわずかに首を傾げた。
「私自身の個体名はありません。1号でも管理者でも、好きなようにお呼びください」
「1号ってことは、君と同じような管理者は他にもいるのかな?」
「現時点では、管理者は私のみとなります。箱庭内の環境や大きさによって、新たに管理者が発生します」
これから2人目、3人目が現れる可能性があるなら、分かりやすい名前のほうがいい。
最初は管理者だし、アドさんと呼ぼうかと思った。
けれど、2人目が現れたときに困りそうだ。
「じゃあ、アイシスって名前はどうかな?」
「承知しました。私の個体名は、以降アイシスとなります。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アイシスさんはどんなことができるんですか?」
「敬称、敬語は不要です」
質問の答えを待ってみたが、敬称を外さないと答えてくれないみたいだ。
フォルさんが用意してくれた人?なら、自分に敵意や悪意を向けてくることはないだろう。
「アイシスはどんなことができるの?」
「はい、私はこの箱庭の管理と、マスターのサポートを行います。例えば、箱庭で育てている作物の管理、収穫、家畜の世話、環境の整備などです。
マスターのサポート面では、箱庭の説明、食事、洗濯など、生活面のサポートまで可能です」
「箱庭内の万能メイドって感じかな。箱庭内に何もないけど、まずはどうしたらいいかな」
「どこでもいいので1点を見つめ、魔法を使うように意識してみてください。管理画面が出ますので、それを操作していただければ家が作成可能です」
目の前に意識を集中すると、半透明なメニュー画面が浮き出てきた。
左上には10ポイントと書かれていて、下のほうには作成可能な一覧が表示されている。
家(家具付き) 0ポイント
果樹 2ポイント
畑 1ポイント
成長促進 3ポイント
とりあえず家を選択。
設置位置を決められるようだが、正直風景も変わらないため適当に設置した。
ログハウスのような作りの家で、中を確認するとダイニングキッチンと3部屋、トイレと風呂がある平屋だった。
家の中で管理画面を開くと、今度は家具が表示された。
家具付きではあったので、一通り設置していく。
一覧の中にPCセット一式もあったので、1部屋はPCを設置し、1部屋は寝室、残った部屋はアイシスの部屋となった。
家具もグレードアップしたければ、ポイントが必要なようだった。
「このポイントってどうやったら増えるの?」
「ポイントは、この箱庭にマスター以外の方が定住する場合に加算されます。家畜は含まれませんので、あくまでこの箱庭に出入り可能な方が増えると、定住とみなされます」
「家畜は含まれなくても、ペットなら含まれるのかな?」
「ペットは含まれます。ただし、付与されるポイントは少なくなります。
箱庭が定住者として認識するかどうかは、マスターとの関係性や、箱庭内で生活する意思の有無が基準になります。家畜はあくまで飼育対象として扱われるため、定住者には含まれません」
「なるほど。この果樹と畑、成長促進について説明お願いできる?」
「はい。果樹と畑については、1回の生成につき1種類の作物を育てることが可能です。成長促進は、果樹や畑の成長速度を変化させることができるもので、最速で1日で収穫可能にすることもできます」
即収穫可能になるなら、収穫してアイテムボックスに入れておけば問題ないか。
「畑や果樹でできない作物はある? 例えば、自分がいた世界にはあったけど、この世界にないので作成できないものとか」
「そういった規定はありません。フォルテシアは、地球のファンタジー作品の元になっている世界でもありますので、地球にあったものはフォルテシアにも実在します」
「じゃあ例えば、畑を田んぼに変更も可能なのかな」
「可能です。補足を伝えますと、フォルテシアにも米はありますが、一部地域でのみ作られています。ですが、マスターのイメージされている米とは違い、パサパサな食感で、基本的にスープに入れて食されるものになります」
「じゃあ、この箱庭で作られる米も同じものになっちゃうのか?」
「ご安心ください。この箱庭で作られるものは、マスターの好みに合わせたものを作成いたします。田んぼと成長促進を選択していただければ、明日には食べられるようになります」
表情の変化がないと思っていたアイシスだが、若干ドヤ顔になっているのが微笑ましい。
「じゃあ、田んぼと成長促進を選ぼう。田んぼの位置はアイシスにお願いしてもいいかな?」
「お任せください」
そう言うと、アイシスは家の裏手に消えていった。
しばらくすると、家の裏から少し離れたところに、学校のプールほどの田んぼが1面できていた。
ログハウス1つと田んぼが1面。
箱庭ゲームだとしたら初期も初期だけど、ポイントにも限りがある。
少しずつ必要なものを追加していけばいいか。




