05話 神様をあだ名で呼ぶことになりました
武器屋を出てしばらく歩いていると、今度は魔道具屋を見つけたので、中に入ってみる。
武器屋とは違い、店内は品物を見ている人が何人かいた。
奥のカウンターには店主のおばさんがいる。
今日入る店は、全部おじさんかおばさんな気がする。
若い店主さんは珍しいのだろうか。
入り口付近の棚には、同じような魔道具がいくつも置かれていた。
カウンター付近には、ショーケースに入った魔道具がいくつかある。
高価なものは、厳重に管理されているということだろう。
魔道具にもいろいろあった。
ライターのように火を出せるもの、扇風機のように風を送るもの、マグカップ型のもの、大きいものだとコンロ一式なんてものもある。
家具や家電に近い道具ばかりではなく、魔法が登録されている魔道具もあった。
例えば、火の範囲魔法が使える魔道具は、1回使用すると再使用まで3時間かかるらしい。
魔法が使える代わりに、クールタイムが必要ということだろう。
ショーケースの中に、アイテムバッグと書かれた商品を見つけた。
ただ、値段を見て驚いた。
金貨30枚。
容量は、大体1辺2メートルの立方体くらいらしい。
ちょっとした倉庫くらいの容量で金貨30枚と考えると、自分の持っているアイテムボックスの価値が恐ろしく感じる。
転移魔法が登録されている魔道具もあった。
ただし、移動制限は3名まで。登録できる地点は2つまで。クールタイムは12時間。
値段は白金貨1枚だった。
魔道具の相場は、ちょっとした消耗品なら小貨5枚から。
日常的に使う道具は、ものによるが銅貨3枚から。
魔法が登録されている魔道具は銀貨5枚からで、かなりピンキリみたいだ。
相場が知りたかっただけなので、魔道具屋では特に何も買わずに店を出ることにした。
宿に戻ると、女将さんから身分証の登録をしてほしいと言われた。
どうやら、宿泊者の登録に必要らしい。
そういえば、さっきは部屋を取ることばかり考えていて、身分証を出していなかった。
さっきの登録板とは違い、身分証カードに表示される情報の詳細は本人が設定できる。
最低限の名前とステータスのみ表示するようにしているのは、カードを受け取ったときに推奨されたからだ。
言われた通りに設定しただけなんだけど。
お金を入れた魔道具の隣にある別の魔道具にカードをかざすと、登録が終わったらしく、すぐに返却された。
「夜の営業時間は18時からで、もう少しかかるから部屋でゆっくりしてな。最終は22時までだから、それまでには下りてくるんだよ」
何だか実家でのやり取りを思い出し、ほっこりした気分になった。
部屋に入ると、ベッドに簡易的ではあるが椅子とテーブル、トイレとシャワーまでついている。
物語だと、体を拭く桶とタオルを渡され、トイレは共用部にあるイメージだった。
普通のホテルみたいな作りで驚いた。
アイテムボックスに意識を向けて、中身を確認する。
タブレット、お金、置時計、身分証カード、イヤホン、衣類系。
今日買ったものと、神様にもらったもののみといった感じだ。
一度シャワーを浴びて、ベッドで一休みすることにした。
ベッドの上で適当にスマホをいじっていたところで、そろそろお腹も減ってきたので、1階へ移動することにした。
カウンターに座り、鶏肉料理を注文する。
せっかくだし、お酒も飲むことにした。
しばらくすると、鶏肉のスパイスステーキのような料理とエール、そしてマッシュポテトが目の前に置かれた。
今日のサービス品はマッシュポテトらしい。
食事が合うか心配していたが、そんな心配が杞憂だったと思えるくらい美味しく、あっという間に食べ終わってしまった。
追加でお酒と軽くつまめる料理を注文し、カウンターからテーブル席を眺めてみる。
家族で食べに来ている人たちや、冒険者グループだろうか、酒をたくさん飲んではしゃいでいる人たちもいる。
今までは、周りを眺めるような余裕もなかった。
けれど、楽しそうにしている人たちを眺めるのも、悪くないと思えた。
部屋に戻り、スマホで動画を見ていた。
けれど気が付くと、また白い空間にいた。
「やあ! 今日はどうだったかな?」
神様が感想を聞いてきた。
「当たり前ですけど、全てが新鮮でしたね。前世だと生き急いでいたというか、周りを見る余裕なんてなかったなって気が付いた気がします」
「良い気づきだと思うよ。あと、君には特別にボクを名前で呼ぶことを許すから、名前で呼んでね」
「じゃあ、フォルシア様で」
「えー! 様はいらないし、どうせならあだ名で呼んでほしいなー」
「じゃあ、フォルさんでどうでしょう?」
「仕方ない! それで許してあげよう!」
納得されたみたいだけど、なんでまたここに呼ばれたんだろうか。
感想を聞きに来たのか。
それとも、他に話があるのだろうか。
「それじゃあ、早速本題に入ろうか。ちなみに、現実世界での君は寝ているよ。だから夢の中に干渉してお話している、っていうのが今の状況だね。
それでボクが来たのは、フォルテシアの説明はしたけど、常識的なことを伝えていなかったからだね。今日1日で困っているみたいだったから、説明しに来たよ」
確かに、それは助かる。
「転生の影響で記憶が曖昧で」と言い訳するのも、若干面倒に感じていたところだし。
「それを言われると申し訳ないなぁ……。今日の中でいうと、お金を管理する魔道具とか、身分証カードについて話そうか。
三界共通なんだけど、宿屋で見たお金の魔道具は神界管理の魔道具なんだ。もっと言うと、金融や通貨を管理している女神たちが管轄しているから、基本どこのお店にも大小さまざまな箱が置いてあるよ。
通貨箱って呼ばれていたり、通貨認証箱って呼ばれたりもするみたいだね」
なるほど。
どこの店にもあるなら、この世界でのレジのようなものなのかもしれない。
「同じように、身分証カードも女神管轄の魔道具だね。登録板が瞬時にかざした者の情報を読み取るようにできているから、偽造もできない。
それに、偽造したら重罪で、女神からの神罰があるよ」
神界の仕事は、お役所仕事みたいなことをやっているのだろうか。
「それに近いね。
世界法と各国法がある。君の世界でいう法律に近いものだね。
神界は世界法を基準に罪を裁くけど、各国法については国ごとの憲兵とか国王とかが仕切ってる形になるかな。
国ごとにおかしな法ができないように、各国法は神界が確認して、承認されたものが法律になっている。だから極端なものはないよ」
そうなると、神界の仕事量は凄そうだ。
どんな女神がいるのかも気になる。
「仕事については、大体のことは自動化できているから問題ないよ。不正があったときだけ分かるようになってるから、不正がない限りは仕事がない女神もいるね。
例えば、結婚などの承認をする恋愛の女神、天候を管理する天空の女神なんかもいるね。一番身近なのは、時計を管理している時の女神かな」
世界基準のものは、基本的に女神が管理しているのか。
上級神、中級神、下級神の下に天使がいるって聞いたけど、天使は連行とか捕縛をする役割になるのかな。
「うん。基本的に権能を与えられている女神は、人界や魔界に直接出向いて裁くというより、天使に連行させて神罰を受けさせることが多いよ」
じゃあ、今日言われた加護は、天空の女神の加護とか、そういう表記になるのが正常ってことか。
そうなると、フォルさんの加護って何になるんだろう。
「ボクは何も管轄してないからねー。あえて言うなら、創造神の加護って感じかな?
基本的に女神は自分の名前は語らないし、許可しない限りは呼ばせないからね。
ちなみに、加護の効果は全女神の上位互換にあたるみたい? これはボクも加護を与えたことがないから、よく分かってないけどね」
そう言いながら笑っているフォルさん。
そういえば、犯罪を犯せば加護が消えるって言っていたな。
悪いことをしたら、自分の加護も消えるのだろうか。
「君の加護は消えないよ。
そもそも加護っていうものは、女神の名において、その存在に力を与え、守るための制度なんだ。けれど、犯罪者に力を与えて守る意味はない、っていう考えみたいだね。
女神たちにとって名前は重要で、その名を汚される行為は、場合によっては万死に値する屈辱なんだ。だから、女神個人が処理することも多いね。
ただ、君の場合は消してしまったら意味がないし、ボクの名前なんてどうなろうと何とも思わないから、何があっても加護は消えない。そこは安心していいよ。
もちろん、国の法を破れば普通に裁かれるよ。ボクの加護が消えないってだけで、何をしても許されるわけじゃないからね」
加護を受けたほうが悪いことができないのなら、貴族階級に上がる人は加護を持っていることを前提にすれば、綺麗な社会になるのかもしれない。
そう考えた瞬間、フォルさんが少しだけ困ったように笑った。
「そう簡単なら、きっと苦労しないんだけどね」
その言葉の意味は、すぐには分からなかった。




