04話 異世界で初めての買い物です
街の風景は、思ったよりもきれいだった。
道もしっかり石で舗装されていて、馬車なんかが通れるように、車道と歩道がざっくりではあるが分かれているようにも見える。
入り口付近だからか、露店も多かった。
歩いていると、肉を焼いているいい香りがした。
香りに誘われて行ってみると、元気のいいおばちゃんがやっている串焼きのお店だった。
値段は1本小貨5枚。お腹も減っていたので、2本購入した。
そのまま渡されるかと思ったが、コンビニでよく見るスナック袋に近いものに入れて渡してくれた。
露店でも衛生面がしっかりしていることに、少し感動した。
1本取り出して食べると、塩コショウが効いていて美味しかった。
露店でもこの味なら、調味料系が貴重で平民の食生活では使われることがない、なんてこともなさそうだ。
よく見ると街灯のようなものもある。
国の中は、自分のいた世界と大差ないのかもしれない。
勝手に生活の質が下がると思って覚悟はしていたが、そんなことはなさそうなので安心した。
地図の通り歩くと、「宿木亭」と書かれた建物が見えてきた。
中に入ると、食事をしている人や、お酒を飲んでいる人たちがいて、賑やかなテーブルもあった。
「いらっしゃい。食事かい? それとも宿泊かい?」
「宿泊の予定です」
そう伝えて、地図とサインの書かれた紙を女将さんに渡す。
「ブリッゾさんの紹介かい。あの人、よくうちで飲んでいく常連でねぇ。料金は素泊まり銅貨8枚、食事付きなら銀貨1枚だよ。食事は朝に出て、夜はここで食事するなら1品サービスが付くよ」
「食事付きでお願いします。3日分で銀貨3枚ですね」
「3日だね。ちょっと待ってな」
そう言うと、女将さんは受付で渡した硬貨を、貯金箱のような四角い箱に入れた。
すると一瞬、箱がふわっと緑色に光った。
「確かに料金はいただいたよ。これが鍵だ。2階から上が宿になってて、あんたの部屋は3階だよ」
そう言って、鍵を渡された。
「すみません、あの箱って何ですか?」
「あれを知らないのかい? どこの店にも置いてある硬貨の判別機さ。偽物の硬貨が使われていないか確認するための魔法具で、あれに入れて問題なければ指定金庫に転送されるのさ。おつりが必要な時は、登録された人が操作することで金庫からおつり分を引き出せる仕組みになってるよ」
「そうなんですか。転生後で覚えていることが少ないんですよ。また何か気になることがあったら聞くかもしれません」
「そういうことかい。聞きたいことがあるなら、どんどん聞いておくれ」
「それじゃ、ついでと言っては何ですが……」
生活用品などを買うために、女将さんに教えてもらったお店をいくつか回ることにした。
神様に移動式の自宅を貰っているが、家具などがあるかも分からない。
そのため、明日国の外の開けた場所で確認する予定だ。
最初は服を取り扱っているお店に行き、下着と靴下、普段着と寝巻をそれぞれ10着ずつ購入した。
全部で金貨1枚と銀貨2枚だった。
神様は、銅貨1枚、つまり1リルが日本円で100円くらいと言っていた。
ただ、実際に買い物をしてみると、感覚が少し違う。
串焼きや宿はかなり安く感じるし、一方で服はまとめて買ったこともあって、それなりの値段になった。
単純に円へ換算するなら、1リル100円でいいのだろう。
けれど、この世界で暮らす感覚としては、小貨1枚、つまり0.1リルを百円くらいに感じる場面もある。
元いた世界でも、国が違えば同じ金額で暮らせる期間はまったく違う。
そう考えると、フォルテシアも日本円にそのまま当てはめるより、この世界の物価として慣れたほうがよさそうだ。
次は雑貨屋で時計を見ることにした。
スマホの時計はすべて表示が消えてしまっているため、時間が確認できず不便に感じている。
商品棚を見ると、腕時計はなかった。
テーブルに置くのにちょうどいい置時計、懐中時計、壁掛けの時計のみが並んでいる。
時計の表示は、元の世界と同じアナログ時計に近い。
ただ、数字が13から24までの表示になっていた。
「時計を探しているのかい」
雑貨屋のおじいさんが話しかけてきた。
「はい。できれば腕に付けられるような、コンパクトなものがいいのですが、そういったものはありますか?」
「腕につけるような時計なんてないと思うぞ。持ち運び用なら懐中時計、部屋に置くなら置時計か壁掛け用が主流だな」
「そうなんですね。ちなみに、表示されている数字って午前と午後で変わるんですか?」
「そりゃそうだろ。時計は時の女神様の権能で管理されているからな」
「じゃあ、ずれたり自分で調節したりとかもしない感じですか?」
「馬鹿言っちゃいけないよ。時の女神様の恩恵なんだから、調節するなんて罰当たりだぞ。この世界の時計はすべて同じ表示で、時の女神様が管理している。周りのデザインなんかは自由にできるが、時刻が表示される場所は世界共通だ」
「ありがとうございます。世間知らずな質問でご迷惑をおかけしてすみません。そしたら、この置時計と、この懐中時計を購入させてください」
「毎度。商品説明の延長だから、別に気にしちゃいないさ」
置時計が銅貨8枚、懐中時計が銅貨6枚だった。
時刻は15時半を回ったところだった。
ひとまず必要な買い物は済んだので、街中を散歩することにした。
不思議なもので、今までは外に出るときは、音楽で外の音を遮断していないと落ち着かなかった。
それなのに今は、目に映るものすべてが新鮮で、イヤホンで音楽を聴かなくても穏やかな気持ちで歩けている。
ただ、この世界の常識的なものは、事前に知っておきたかったと思う。
冒険者ギルドや魔法学校などもあるのだろうか。
魔物はいると言っていたし、ダンジョンなどもあって攻略したり、物語で見たことを実際に体験できるのではないか。
なんて少しワクワクしながら街を回っていると、武器屋を見つけた。
「いらっしゃい。何を見に来たんだ?」
中に入ると、ガタイのいい40代くらいのおっちゃんと呼ぶのが似合いそうな店主が声をかけてくれた。
「武器らしいものを持っていないので、護身用に何か買おうと思いまして。おすすめってありますか?」
何を聞いたらいいのか分からないので、とりあえずおすすめを聞いてみた。
「おすすめって……あんちゃんは何の武器が使えるんだ? 短剣、片手剣、両手剣、大剣、双剣、投剣、レイピア、弓矢、アックス、槍とか、種類なんていくらでもあるんだぞ」
「とりあえず、短剣と片手剣で初心者が使いやすいものを見せてもらえますか?」
中途半端な質問をしてしまったようで申し訳ない気持ちになりながら、いくつか見せてもらうことにした。
店主は、短剣4本と片手剣2本を用意してくれた。
短剣は20センチから30センチくらいの長さのものが多く、片手剣はイメージ通りだった。
持ち運びについては、アイテムボックスがあるから問題はない。
ただ、武器はすぐに取り出せないと意味がない気がするし、短剣を1つ購入することにした。
見た目は似ているのに、1つだけ軽い短剣がある。
それが気に入ったので、聞いてみることにした。
「この短剣が気になっているんですが、他の短剣よりかなり軽いですよね。その分、壊れやすかったりするんでしょうか」
「いや、重さが違うのは使っている素材が違うからだな。その短剣は魔鉄って呼ばれている、魔力を含んだ鉄を使っている。普通の鉄より軽くて頑丈って特徴がある。金額は180リルってところだな」
180リルってことは、金貨1枚と銀貨8枚か。
「あの、ちょっと気になったんで伺いたいんですけど、お店によって支払いの伝え方が硬貨の枚数だったり、単位だったり変わるのは、何か法則があるんでしょうか?」
「特に決まりはないが、大体は2種類以上の硬貨を使う場合は単位、1種類だけの場合は硬貨を使うことが多いな。金貨1枚と銀貨8枚って伝えるより、180リルって伝えたほうが早いからな。逆に銀貨だけで支払いの場合は、枚数で伝えたほうが双方分かりやすいんじゃないか」
「そういうことなんですね。ありがとうございます」
宿や服を買ったときに、金額の伝え方が違って少し気になっていた。
どうやら硬貨の種類が複数になるかどうかで、自然と使い分けられているらしい。
この説明を聞いて、少しだけ現地の金銭感覚が掴めた気がした。
「この短剣を買おうと思います。腰に付けたいと思ってるんですけど、ベルトみたいなものってありますか?」
「腰につけるって、横か? 後ろか?」
「後ろに付けたいですね。横につけると、バランスがおかしくなりそうなんで」
「じゃあこれだな。合わせて金貨2枚だ」
支払いを済ませ、お店を後にした。




