03話 アルヴェリア入国
目を開けると、林の中にいた。
服装は、ネイビー系のパーカーに近い上着と、黒っぽいパンツ。
足元はスニーカーのような靴だった。
この世界の平均的な服装なのだろうか。
パーカーにもパンツにも、それぞれポケットがある。
近くに道があったので出てみると、その先に大きな門のある城壁が見えた。
道沿いに歩いていけば、10分もかからず着くだろう。
アイテムボックスを使うために指輪へ意識を向けると、頭の中で何が入っているか理解できた。
とりあえずお金を数枚とスマホ、イヤホンを取り出し、音楽を聴きながらフードを被って城壁を目指して歩き始めた。
神様の言っていた通り、国に入るために門の前にできている列の最後尾に並んだ。
イヤホンは外して、周りの人の話に耳を傾けてみる。
ただ、知らない単語が多く、あまり話が入ってこなかった。
並んでいるのは15名ほど。
耳の長いエルフのような人、ドワーフのように身長が140センチほどでガタイのいい4人組、ケモミミのある人、普通の人間に見える人もいる。
ゲームやアニメの世界に来たような感覚で、少しだけワクワクした。
20分ほどかかり、ようやく順番が回ってきた。
「身分証は?」
事務員のようなおじさんと、その後ろには兵士だろうか。
防具を付けて槍を持った人が2名控えていた。
「すみません、自分は転生者で身分証を持っていないんです。代わりに――」
「身分証がないなら帰んな。アルヴェリアに入る資格はねぇよ」
話している途中で遮られた。
感応感知魔法のおかげか、面倒くさいといった感情がはっきりと読み取れた。
「ちょっと待ってください。身分証の代わりに、これを見てください」
そのまま次へ進められそうだったので、右手の甲に浮き出たエンブレムを見せる。
その瞬間、おじさんと後ろの兵士の感情が大きく変わった。
驚き。
その直後、おじさんからとてつもない焦りが伝わってくる。
「も、も、申し訳ございません!! 別室での対応になりますので、こちらへどうぞ!!」
案内に従ってついていくと、応接室のような部屋に通された。
テーブルを挟んでソファーが置かれている。
「ささ、どうぞおかけください」
案内されるがまま座ると、おじさんは即座に土下座した。
「先ほどの無礼な態度、誠に申し訳ございませんでした」
伝わってくるのは恐怖心だけだった。
ただ、なぜそこまで恐れられているのか分からなかったので、理由を聞くことにした。
「そんなに畏まらなくても大丈夫です。正直、自分もこの加護の証がどういう扱いなのか分かっていないので」
そう伝えると、おじさんは恐る恐る顔を上げた。
「女神様の通常加護を受けた方は、貴族と同等に扱われます。ましてや、手の甲に紋様が浮かぶ加護は正式なものです。不敬を働けば、処罰されてもおかしくありません」
どうやら、神様の加護というのは想像以上に重いらしい。
話を聞くと、神界には下級神、中級神、上級神、最高神という階級があるらしい。
下級神未満の存在は天使と呼ばれ、神族は女性しかいないとのことだった。
女神の加護は、下級神以上であれば与えることができる。
加護にも簡易加護と通常加護の2種類があり、手の甲に紋様が出るのは通常加護を受けた証らしい。
加護を受けている者の多くは貴族階級で、平民の加護持ちは少ないとのことだった。
「教えていただきありがとうございます。身分証を持っていなかった自分にも落ち度はありますし、不敬だとして処罰するつもりはありません。
ただ、事情を確認する前に追い返されそうになったのは、少し困りました。忙しいのは分かりますが、次からは相手の事情を確認したうえで判断してもらえると助かります」
嫌な思いをする人が、これで少しでも減ればいい。
そう思って伝えると、おじさんは何度も頭を下げた後、退室していった。
しばらく待たされた後、扉をノックされたので声をかけた。
入ってきたのは、しっかりした服装の男性と騎士が2名。
男性は向かいのソファーに座ると、板をテーブルの上に置いた。
騎士たちは、ソファーの両脇に1人ずつ立っている。
「初めまして。身分証の発行手続きのために参りました。こちらの登録板へ魔力を流していただけますでしょうか」
言われた通り、テーブルに置かれた登録板に魔力を流す。
「ありがとうございます。確認いたしますね……ん?」
男性は登録板を見て、少しだけ首を傾げた。
「失礼ですが、お名前は? 本来であれば登録板に表示されるのですが、名前の項目が空白でして……」
そういえば、名前はどうなっているのか聞いていなかった。
前世の名前を使ってもいい。
けれど、それをそのまま名乗る気にはなれなかった。
せっかくなら、少し考えてみるか。
「すみません。一般的な名前って、家名と名前がセットでしょうか? 転生したばかりで、そういったことも覚えていないので、この場で決めようかと思いまして」
「そうですね。平民でも家名はあります。家名が同じになる場合もありますが、親族になるわけではないので、そこまで気にしなくても大丈夫ですよ」
「分かりました。そうしたら、名前をゼオン、家名をグラフィアスで登録をお願いできますか?」
「承知いたしました」
男性は登録板に手をかざし、何かを操作するような仕草をした。
「差し支えなければですが、加護を受けた女神様は何を司る女神様でしょうか?」
この世界を作ったと言っていたから、神の中でも1番偉いのだろう。
ただ、それを言うとややこしくなりそうだ。
「すみません、自分も覚えていないんですよ。そちらも登録が必要なんでしょうか?」
「いえ、そういったわけではありません。ただ、通常ですと登録板に、どの女神様から加護を受けたかも表示されるのですが、ゼオン様の場合は文字化けしておりまして。もしかしたら、記憶の欠損が原因かもしれませんね」
「文字化けしていても問題はないんでしょうか」
「登録板の表示を不正に書き換えることはできませんので、加護を受けている事実さえ確認できれば問題ありません。それに、魔法についても回復魔法に適性があるようで、羨ましい限りです」
「回復魔法に適性があるとメリットがあるんですか? 登録板を確認してもいいですか?」
「ええ。回復魔法の適性があれば、まず仕事には困りませんからね。こちらをどうぞ」
登録板の内容はこうだった。
名前:ゼオン・グラフィアス
年齢:20歳
適性魔法:火・回復
ステータス:青
社会階級:平民
備考:◆*=▼の加護
「このステータスは何ですか?」
「ステータスの色ですね。青は正常、赤は犯罪者、黄は問題行動あり、紫は状態異常や呪い等を示します。
身分証がない場合、犯罪歴や状態異常の確認ができません。そのため、通常は入国許可が出ません。ですが、今回は女神様の加護を確認できましたので、問題なしと判断し、登録作業を進めています」
「女神様の加護は、犯罪者や問題行動がある場合はつかないんですか?」
「このステータス情報は、女神様の判断で更新されるものになります。女神様が自ら加護を与えた者が問題を起こすと、その女神様の責任になるため、処罰と加護の剥奪が行われます。
そのため、女神様の加護は身分を証明するには有効な手段となるわけです」
男性は説明を終えると、1枚のカードを差し出してきた。
「こちらが発行した身分証です。発行手数料として、銅貨5枚をいただけますでしょうか」
手数料を支払い、身分カードを受け取る。
ポケットに入れたタイミングで、そっとアイテムボックスに収納した。
アイテムボックスが一般的なものなのか分からない以上、人目につかないようにしておいたほうがいいと思ったからだ。
「以上で手続きは完了となります。泊まる宿はお決まりですか? 決まっていないのであれば、ご紹介しますよ」
国のこともよく分かっていないので、そのままお願いすることにした。
すると男性は紙を取り出し、この門から宿までの簡単な地図を書いてくれた。
そこには宿の名前と、おそらくこの男性の名前だろうサインも添えられている。
表情には出ていないが、わずかな喜びが伝わってきた。
紹介料のようなものがあるのかもしれない。




