31話 箱庭での球遊び
――目が覚めてアイテムボックスを確認してみると、地球で使っていたサッカー道具一式とゴールが追加されていた。
宿の1階で食事をした後に箱庭へ移動して、アイテムボックスから一式を出して広げてみた。
サッカーボールが2つに、スパイクが4足。
フットサルで使っていたトレシューが1足。
よく気に入って着ていた地元プロチームのプラクティスシャツに、ショートソックス、ロングソックス。
それに、自分が着ていたユニフォームに脛あてまである。
驚いたのは、それらがすべて新品同様にきれいになっていたことだ。
ほつれていたり、剥がれ始めていたプリントやつま先もきれいに直っている。
ただ、新品になっているわけではなく、足の形に馴染んだ革の状態はそのままという、まさに神業な状態だった。
さっそく着替えて、ショートソックスとスパイクを履き、久しぶりにボールを蹴ってみる。
リフティングなんかをしてみたが、久々すぎて20回もできなくなっている。
確か最高記録は中学で出した1192回だったっけか?
部活で2人1組になり、リフティングする人と数える人に分かれて、全員で一斉にリフティングを始め、最後まで残れるのは誰かという、練習というか遊びに近いものをやったときの記録だ。
結果は2位で勝てなかった。
けれど、自分で数えていたらきっと数えられなかったと思うし、ここまでやったのもこれが最初で最後だったと思う。
ふと横を見ると、ウルがお座りした状態で尻尾を振りながら、ボールをじっと見ている。
そういえば、犬ってボール遊びが好きだもんな。
何なら、海外のサッカー選手が庭で犬とサッカーしている動画もあったっけ。
「ウルも一緒に遊ぼっか」
そう言うと、ウルは嬉しそうに吠えた。
ちょうどいいので、ロングボールを蹴ってウルに取ってきてもらうというのもいいかもしれない。
現役時代はハーフラインからゴールラインまでまっすぐ蹴れていたのだが、右足で蹴ったボールは思い切り左方向にカーブしていった。
ウルは楽しそうに追いかけてボールを取り、自分のもとへ持ってくる。
そして、少し離れた場所まで移動すると、「次の早く」と言わんばかりに吠えた。
自分の劣化にショックを受けていたが、試合形式をするわけでもない。
ただの気分転換なので、切り替えて気にせずにどんどんボールを蹴ることにする。
どれくらい蹴っただろうか。
無心で蹴っていたので本数は覚えていないが、感覚が戻ってきたおかげか、当たるべきところに当たって、真っすぐ飛ぶようになった。
いつもだったら古傷が痛みだすところだが、そんなこともなく気持ちよく蹴れている。
ウルはさすがというか、一切疲れた様子もなく次を要求してくる。
ロングボールはいったんやめて、今度はゴールを出してみる。
ちゃんとしたゴールだった。
ウルに向かってシュートするのは気が引けたので、ゴールを外したボールを取りに行ってほしいと指示を出した。
最初はゴールを外すことも多く、ウルの出番も多かった。
だが、しばらくすると枠外に飛ぶことが少なくなり、ウルが我慢できなくなったのか、自分からゴール内に立つようになった。
さすがにウルへ向けて強いシュートを打つのは心苦しい。
そう思っていたところに、アイシスが来た。
「ウルなら、マスターのシュートが当たったところで問題ありません。
仮に同じ速度で鉄球が飛んできても、余裕で止められます」
と、さらっと問題ないことを教えてくれた。
確かにフェンリルだもんな、と納得する自分がいた。
枠外に飛んだら全力で取りに行き、枠内のシュートは楽しそうに止めるので、ロングボールとは違った楽しみ方ができているようだ。
ウルは直線的な速いボールは喜んで取るが、枠外へ飛んだように見えてゴールへ入るカーブには弱いようで、枠外と判断してゴール裏に走ろうとして、そのままゴールを許すということが何度もあった。
まあ、ゴールを守るという意識がなく、ボールを取るというのがメインになっているので、その差は仕方ないと思う。
ウルが噛んでもボールはパンクしないので、フォルさんの状態保存の加護があってよかったと思った。
もしかしたら、見越して付けてくれていたのかもしれない。
最後にウルにもボールを蹴れないか教えてみたが、蹴るより取るほうが好きなようで上達はしなかった。
ただ、ドリブルは好きなようで、鼻先を使ってドリブルして遊んでいた。
自分がドリブルしているボールを取ろうと来たときに、何度かウルを蹴ってしまい謝ったが、ウルは何とも思っていないようだった。
遊んでいる中で当たっただけくらいにしか認識していないのだろう。
見た目が大きな犬なので、故意ではないのは当たり前だとしても、蹴ってしまうと罪悪感がすごい。
しばらく遊んだ後、箱庭の家で風呂に入り、さっぱりしているところでアイシスに質問する。
「昨日から気になってはいたけど、あそこにできてる森は何?」
そう、箱庭の一区画が森になっているのだ。
林と言えば規則正しく並んでいるイメージだが、見た目は完全に自然に生えているように見えるレベルの森だった。
「材木の確保のために、マスターが収納してくださった木の枝を地面に刺して成長促進しました。
これで木材不足の心配もありません」
ちょっとドヤっている感じで話しているが、アイシスがいろいろ作るときに、自分に依頼しなくてもいいように配慮しての結果なのかもしれない。
昨日ウルがプリンを食べた大きな皿も木でできていたし、アイシスが管理できる範囲なら問題ないか。
ただ、畑の管理に果樹の管理、家畜の管理。
それに、自分のサポートから森の管理まで、忙しくないのだろうか。
「いろいろ管理してもらっているけど、時間は足りてる?
休みとか取れないなら、相談してくれてもいいからね」
そう言うと、アイシスは不思議そうな顔をしている。
「管理は私の仕事ですし、何なら暇を持て余していますよ。
それに本気を出せば、箱庭の管理作業に限り、時間操作で遅らせたり止めたりしたうえで作業できますので、もっと増えても問題ありません」
「なんかさらっとすごいこと言ったね……。
時間操作して、世界に影響はないの?」
「全く問題ありません。
箱庭の管理作業として行う範囲であれば、動いているのは私だけなので他に影響はありません。
遅らせたとしても、マスターの目からは倍速で私が動いているように見えるだけです」
このメイド、チートスペックすぎないか。
フォルさんもスペックは女神と同等って言っていたし、フォルテシア風に言うと箱庭の女神とでも言うのだろうか。
心配しなくていいのと、無関心は違う。
時々、管理について聞いてみるのもいいのかもしれない。
「アイシスの戦闘力ってどれくらいになるの?
フォルさんからは、女神と同じレベルって聞いたけど」
「戦闘力が何を指すかによりますが、ウルであれば簡単に蹴散らせます。
箱庭内であれば、上神に近い権限を行使できます」
「箱庭内なら上神と変わらないって話だけど、フォルテシアから箱庭への転移みたいに、フォルテシアが関わる場合はどうなるの?」
「女神には、権能と呼ばれる世界への干渉が許される力があります。
その権能下にないものであれば、私から箱庭へ転移が可能です。
そして箱庭へ転移させた場合、箱庭から出る場所はマスターと同じ場所になります」
なるほど。
言われてみれば、箱庭を通しての転移はできないという話だった。
だが、ウルを箱庭に戻して、改めて召喚するときは自分のもとへ転移される。
眷属召喚の効果だと思っていたが、起点が自分になるから可能になっていたのか。
「よく分かったよ。
箱庭内の戦闘力だと、アイシスが一番強いってことだね」
「いえ、一番強いのはマスターです。
私はマスターに手を出せませんので、私を従えているマスターが箱庭で一番強いと言えます。
なので、マスターが私の身体を求めるなら抵抗せずに――」
「了解、聞きたいことは分かったよ」
変な方向にふざけ始めたので、話を切って終わらせた。
油断すると、いきなりぶっ込んでくるな、このメイドは。




