21話 箱庭の畜産準備
――翌日。
箱庭で、アイシスと真面目な話をしている。
念話でも会話は可能だが、直接話せる環境にいるのに対面で話さないのは、なんとなく違う気がするからだ。
今相談しているのは、箱庭で畜産ができないかということだった。
「それで、さっきの質問は可能なのかな?」
「可能です。
箱庭の拡張によって、今後同様の施設が追加される可能性もありますが、ポイントの節約にもつながりますし、名案だと思います」
「分かった。
それぞれの畜舎も作れるんだよね?」
「はい。
材料さえアイテムボックスに格納していただければ、私が作成いたします。
こちらが必要な材料と数です」
「分かった。
木の種類は何でもいいのかな?」
「適当な木で問題ありません」
「分かった。
じゃあ、集めてくるね」
今回考えているのは、鶏、豚、牛の3種類を箱庭で育てることだ。
フォルテシアで食べられている肉の種類は地球とほぼ同じで、鶏、豚、牛が主流となっている。
ほかにも珍味として扱われる動物や、魔物の肉なども食べられているらしい。
肉をその都度買うよりも、箱庭の中で循環させられたほうがいい。
そこで、フォルテシアから連れてきた動物でも、アイシスが家畜として飼育や繁殖の管理から、食用にするための解体まで行えるのかを確認した。
結果は、先ほどの会話の通りだ。
木材を集める前に、そもそも動物をどこで仕入れられるのか確認しておくことにした。
どこで生きた個体を仕入れられるのか分からないので、知っていそうなテイマーギルドへ向かう。
「たびたび、お忙しいところすみません」
今回は重要な相談ではなく、完全な私情だ。
ギルドマスター級の人に対応してもらうのが申し訳ない。
「君なら大歓迎よ。
それで、何かあったのかしら?」
「食用の鶏、豚、牛を生きたまま仕入れたいんですが、仕入れられる場所が分かればと思いまして……」
「ああ、ウルちゃんのこともあるから、まとまった数を仕入れたいってことかしら?
でも、それなら生きたまま仕入れる必要はあるの?」
「国の管理外の地域であれば、自己責任で開拓できると聞いたので、自分で育ててみようかと思いまして」
「そういうことね。
確かに、ウルちゃんのあの大きさだと食べる量もすごそうだものね。
ここなら、ある程度まとまった数を仕入れられると思うわ。
この紙を見せれば、きちんと対応してもらえるはずだから」
「ありがとうございます」
お礼を言い、テイマーギルドを後にした。
テイマーギルドのギルドマスターに教えてもらった店まで来たが、本当にここで合っているのだろうか。
大型のペットショップのような場所を想像していたが、外から見ると普通の店と変わらない大きさだった。
「すみません」
扉を開けながら声をかけたが、入ってすぐのカウンターには誰もいなかった。
カウンターの奥には広い空間があり、その先に扉もある。
店の人は、さらに奥にいるのかもしれない。
少し大きな声で、もう一度呼びかけると反応があった。
「ああ、うるせぇな!
何の用だ!」
おっさんが、ものすごい勢いで奥の扉から出てきた。
カウンターまで来ると、かなり酒臭い。
ギルドマスターからもらった紙をおっさんに渡す。
おっさんは紙に目を通すと、舌打ちをしてから言葉を続けた。
「面倒な奴からの紹介状を持ってきやがって……。
それで、何が欲しいんだ?」
一応、対応はしてくれるらしい。
「鶏、豚、牛を、それぞれ雄3匹と雌3匹ずつお願いします」
「ほらよ」
そう言ってカウンターに置かれたのは、ビー玉ほどの大きさの球体が18個だった。
「えっと……これは?」
また舌打ちをされた。
「そんなことも知らねぇのかよ。
それはカプセルシードっていう、1つにつき1回だけ、生きたまま動物を入れておける魔道具だ。
カプセルシードの中は、その動物にとって最適な環境になっている。
時間が経っても、弱ったり劣化したりすることはねぇ。
割れば中に入っている動物が出てくるから、間違っても店の中で出すんじゃねぇぞ」
「ありがとうございます。
お金はいくらですか?」
「お前に請求できねぇから、さっさと帰れ!」
そう言うと、おっさんは出てきた扉から奥へ戻っていった。
紹介状に、代金のことまで書かれていたのだろうか。
理由は分からないが、後でギルドマスターに確認してみよう。
それより、このカプセルシードは、アイテムボックスに格納しても問題ないのだろうか?
……あ、おっさんもアイテムボックスらしき場所から出していたな。
カプセルシードをアイテムボックスに格納し、店を出た。
初めて来た区画だったが、最初にいた区画と比べると街が汚れている気がする。
治安もあまり良くなさそうな雰囲気だ。
道の隅に座り込み、物乞いをしている人もちらほら見える。
店に商品が並んでいなかった理由も、泥棒対策なのだろうか。
この区画にはもう用がないので、宿へ戻ることにした。
宿へ転移するため、ひと気の少ない場所を探して裏路地へ入ると、怒鳴り声が聞こえた。
「てめぇらは、何度言ったらまともに金を持ってこられるんだ!」
怒鳴り声と同時に鈍い音が聞こえ、目の前に獣人の男の子が飛んできた。
年齢は10歳くらいだろうか。
腹部を蹴られたのか、その場でうずくまっている。
「おにぃ!」
そう言いながら、うずくまっている男の子へ駆け寄る、8歳くらいの女の子が続いて現れた。
女の子は男の子を心配していたが、奥から足音が聞こえ、その姿が見えてくる。
現れたのは、ずんぐりとした大男だった。
人間のようにも見えるが、身長は2メートルを超えている。
太っているように見えるものの、脂肪だけではなく筋肉もかなり付いていた。
大男は女の子の髪を掴み、そのまま自分の顔の前まで持ち上げる。
「約束を守れねぇなら、分かってるよな?」
男の子は痛みに耐えながら、何とか立ち上がろうとしている。
女の子は「嫌、嫌」と言いながら泣きじゃくっていた。
見ていて気持ちのいいものではない。
大男はまだ自分の存在に気付いていないようだったので、声をかけた。
「どうかしましたか?」
ようやく大男と目が合った。
目を見て分かったが、ヒューマン種ではないようだ。
白目にあたる部分が黒く、瞳は赤い。
目を合わせるだけでも、かなりの迫力があった。
大男は、自分の服装と腰の短剣に視線を向けた。
面倒そうに舌打ちすると、女の子をその場に落として去っていった。
この区画の人間ではないことと、武装していることから関わると面倒だと判断したのかもしれない。
女の子も痛いはずなのに、すぐに兄のもとへ駆け寄り、心配そうに寄り添っている。
2人に近づくと、警戒の感情が強くなった。
一応助けたのに、とも思ったが、この年齢で大人からあんな扱いを受けていたのなら人を信じられないのも仕方がない。
まず、うずくまっている男の子の背中に手を当て回復魔法を発動する。
魔力の流れに問題はないので、怪我は治ったはずだ。
それでも、男の子はうずくまったままだった。
今度は女の子の肩に手を当て、回復魔法を発動する。
女の子の怪我が治ったところで、男の子がものすごい勢いで立ち上がった。
自分にタックルするようにぶつかって距離を取り、妹らしき女の子を背中に隠す。
その手には、自分の腰に付けていた短剣が握られていた。
向けられた目には、むき出しの殺意が宿っていた。
感応感知魔法から伝わってくる感情も同じだ。
回復魔法への感謝もなく、向けられるのは殺意。
耳と尻尾の形を見る限り、猫の獣人だろうか。
「その短剣が必要ならあげるよ。
ただ、短剣があったとしても、さっきの大男には勝てないと思うけどね」
そう言って、鞘が付いたベルトを外し男の子の足元へ投げる。
「何が目的で、俺たちを助けた?」
男の子が初めて口にした言葉は、助けられたことへの礼ではなく、その目的を問うものだった。




