20話 ウルとの暮らし方
発現した魔法はすぐに確認することを心に決めたところで、今後の方針の続きだ。
「基本的に、ウルは俺が国内にいるときは箱庭で過ごしてもらって、国外に出たらフォルテシアで一緒に過ごしてもらおうと思うんだけどいいかな?
国内だと街に入る機会も多いし、ウルは目立つからね。
国外へ出たときは、一緒に旅をするつもりだよ」
ウルに質問すると、「いいよ」と吠えてくれた。
「そういえば、あまりにも自然で気にしていなかったけど、ウルの返答のニュアンスが前よりはっきり分かるようになったのも、眷属になったから?」
「その通りです。
ですが、眷属になったから可能になったというと、少し齟齬があります。
マスターの感応感知魔法による部分が大きく、マスター以外には感じ取ることができません。
眷属となって結びつきが強くなったことで、以前よりも明確な意思を受け取れるようになったと思われます。
ウルには人の言葉を理解できるだけの知能がありますが、人間でいうところの赤子なので、今は簡単な返答のみ伝わるようです。
成長していけば、より明確な意思疎通が可能となります」
「そうなんだ。
それはちょっとうれしいな。
ちなみに、ウルが成犬……じゃなくて、大人になるにはどれくらいかかるのかな?」
「フェンリルは寿命で死ぬことがないため、成犬になるまでの時間はかなりかかります。
人間でいう1歳分の成長に、ウルの場合は100年かかります。
成犬になるまでは2000年ですね」
「犬じゃないから言い直したのに……」
「見た目が犬なので問題ないかと」
「そーですか……。
でも、ウルが大人になるまで2000年か。
長いけど楽しみだな!」
そう言うと、ウルも「楽しみ」と返事をくれた。
「マスターが望むのであれば、ウルの成長を早めることも、(おそらく)可能です」
「ちょっと待って、アイシスさん。
なんで『おそらく』を小声で言ったのかな?」
「成長促進については制限がありません。
そのため、ウルの成長も早められる可能性が高いです。
マスターがよく行っている確認と同じです」
「それ、確認じゃないからね!?
生物実験だから、絶対にやったら駄目だよ!?」
「マスターがウルとの意思疎通を望まれているようでしたので」
「できたらうれしいけど、リスクを負ってまでやる必要はないでしょうよ……」
「リスクがあるとは説明しておりませんが?」
「説明しなくても、小声で『おそらく』って言っている時点で、それが答えでしょうよ……」
「はて……?」
とぼけやがった、このメイド……。
最初は淡々としていて、感情の起伏がないものだと思っていたが、ずいぶんと変わったものだ。
これもウルが眷属になって、箱庭が成長した結果なのだろうか?
淡々としているよりも、人間味のある今のほうがいいとは思う。
ただ、普段は突っ込まないのに突っ込んだせいで、ちょっと疲れた。
大人になるまで2000年か。
幸か不幸か、時間はとてつもなくある。
ゆっくりと成長を見届けていこう。
「そういえば、ウルは今何年生きてるの?」
首を傾げられた。
そりゃそうか。
年数なんて単位は、魔物にはないもんな。
「ウルは生まれてから半年ほどですね。
生まれて1年も経っていません」
「そうなんだ……って、なんでアイシスが分かるの?」
「私は箱庭の管理者です。
箱庭に関する情報はすべて分かっています」
「住人になったことで、ウルのことも箱庭の情報になったってことかな?」
「その通りです」
「俺の好物が分かるのも、箱庭の情報だから?」
「はい。
ですが、マスターは箱庭の最上位者となるため、必要以上の情報は確認できないことになっております」
なんとなく食べたいものが食事として出ていたのは、そういうことか。
「じゃあ、基本方針はさっきので決まり。
確認だけど、ウルの健康管理なんかもアイシスはできるの?」
「箱庭の管理者として、住人の管理は私の仕事ですので当然可能です」
胸を張って言っているが、先ほどの発言があるため若干の不安がある。
「マスター、冗談を冗談として処理できないと苦労しますよ」
「誰のせいだ!」
アイシスがメイドじゃなくて駄メイドになった。
まあ、打ち解けられたとプラスに考えよう。
気を取り直して、最近は森の探索で忙しかったので、箱庭でまったり過ごすことにする。
ちょうど昼頃だったので、昼食を食べてから果樹と畑の状態を確認し、その後はウルと戯れていた。
戯れていて分かったが、ウルは自分を乗せて走ることが好きらしい。
一緒に走り回っていると、首を傾げながら「なんで乗らないの?」といった感情を向けられた。
今後の移動は、ウルの背中に乗ることがメインになりそうだ。
そういえば、冒険者ギルドのギルドマスターに、ウルがフェンリルだったことを報告しておいたほうがいいのだろうか。
テイマーギルドのギルドマスターが連携すると言っていたので必要ないかもしれないが、一応、自分の口からも報告することにした。
箱庭から出て冒険者ギルドへ向かい、ギルドマスターにウルがフェンリルだったことを伝えた。
まだ連携前だったようで、かなり驚かれた。
「経緯については分かったよ。
仮に同じ状況だったとしても、フェンリルを手懐けられる者は少ないだろう。
ゼオン君の完全回復魔法があってこその成果と言えるね。
ただ、フェンリルの子供が、ウル君を含めて4体確認されたのか。
これもかなり有力な情報になる。
幻獣の個体数が増えるということは、縄張りが広がる可能性もあるからね」
「縄張りですか?」
「ああ。
魔力濃度の高い森には、決まって幻獣種がいると一般的には説明されている。
だが、正確には幻獣がいるから魔力濃度が高くなっているんだ。
森の色が変わっている理由も、幻獣種の魔力の影響だよ。
その幻獣種が増えるということは、森の範囲が広がる可能性があるということになる。
数十年で変わることではないが、注意が必要なことに変わりはないからね」
「フェンリルは、成長がかなりゆっくりだと聞きました。
ほかの幻獣もゆっくりなんですか?」
「幻獣に限った話ではないが、寿命を持たない種族は基本的に成長がゆっくりだね。
同じ森にいる幻獣でも、家族とは限らない。
縄張り争いの結果、逃げて森から出ることもある。
フェンリルが国を襲ったときも、原因はこれだと言われているね」
「そうなんですね。
確かにウルのこともありますし、同じ種族だから仲間という認識は薄いのかもしれませんね。
ちなみに、幻獣ってどんなものがいるんですか?」
「その通りだね。
魔物に限らず、今はないけれど、人界も昔は戦争が多かったからね。
幻獣は、フェンリル、グリフォン、バジリスク、フェニックス、ナイトメア、ワイバーンだね」
「バジリスクは、蛇系の魔物ですかね?
イメージできるものも多いですが、ナイトメアはどんな魔物なんでしょうか?」
「バジリスクは蛇の魔物で合っているよ。
ナイトメアは馬系の魔物だね。
催眠魔法を得意としていて、かかってしまうと厄介な魔物だと言われている」
森の近くに国がない理由が分かったところで、報告は終了となった。
「そうそう、依頼達成報酬以外にも、フェンリルの子供が生まれたという情報について報酬が出ることになる。
3日後に用意できるから、また来てほしい」
「分かりました。
3日後の夕方のほうがいいですかね?」
「時間は、都合のいいときに来てもらって構わないよ」
ギルドマスターの回答に返事をして、宿へ戻ることにした。




