19話 ウルの正体と従魔契約
説明を聞き終えたギルドマスターは、頭を抱えていた。
「まず、ゼオン君はゼストリアの森についてどの程度知っているの?
特級依頼で行ったことはこちらも把握しているけれど……」
冒険者ギルド以外のギルドマスターにも、情報は回っているのか。
特級と影級を知っているのは、各国のギルドマスターと副ギルドマスターだと聞いていた。
各国の冒険者ギルドとは言っていなかったので、説明に齟齬はないし気にしなくていいか。
「オークの生息地であるという情報以外は、何も知らずに行きました」
「そう。それなら、各地にある森の意味も分かっていないのかしら?」
「地図に書いてある森のことですか?
意味は分かってないですね」
「なら、そこから説明するわね。
まず、人界には名前の付いた森が全部で6つあるの。
ゼストリア、ヴァルディス、ザルディス、メルザード、リグマール、ガルゼニア。
それぞれの森には、幻獣と呼ばれる種族がいるわ。
そして、今回のゼストリアの森に生息している幻獣はフェンリル……。
ゼオン君が出会った巨大なウルフ系の魔物は、フェンリルで間違いないわね」
……フェンリル?
「ウルはフェンリルなの?」
そう聞くと、「そうだよ」と吠えてきた。
「すみません、そんなこと知らずに……。
近くの森でウルフ系の魔物を討伐したことがあったので、その上位種くらいにしか考えていませんでした。
でも、そんなすごい種族なら、なんでウルは家族に迫害されたんでしょうか?」
「知らなかったのであれば仕方ない……のかしら?
そもそもフェンリルの子供なんて、なかなか出会えるものでもないし……。
ただ、フェンリルの子供にしても小さめだから、弱い個体として群れに存在する価値がないと見られたのかもしれないわね」
そういった話は、前世の動物にもあった気がする。
「そもそも幻獣は、寿命が存在しないと言われている種族なの。
だから、子供を作ることも少ないわ。
それに、種族としての格やプライドがあるから、品格を下げるものは不要と考える個体もいる。
そのため、生まれた子供に見込みがないと判断すれば、見限ることもあるわ。
これについてはほかの魔物にも言えることだけれど。
寿命や病気では死なないだけで、普通に怪我をすれば死ぬことはあるから、不死ではないけれどね。
昔、フェンリルが国で暴れて、討伐戦の末に討伐された記録もあるわ」
ん?
寿命で死ぬことがない?
ああ、だから一緒にいると話したとき、不安そうにしていたのか。
意図していなかったとはいえ、結果的に最適な答えを返していたんだな。
「さすがに幻獣を従魔登録なんてしたことはないけれど、フェンリルが認めてくれれば可能よ。
公的にも無害な魔物として認められるので、城門で問題になることもなくなるわ。
従魔登録は、魔法陣での従魔契約と同時に行うことになるわね」
「従魔契約と登録って、何が違うんでしょうか?」
「従魔契約は、テイマーと魔物の間に結ばれる契約ね。
従魔登録は、契約した魔物を公的に登録する手続きという形になるかしら。
だから、テイマーの間では登録よりも契約と略すことが多いわね」
説明を聞いてから、ウルを見る。
「ウルは、俺の従魔になることに問題はないんだよね?」
元気よく吠えるウルを見て、ギルドマスターも納得したのか、従魔契約を進めてくれることになった。
地下へ案内され、魔法陣が描かれた場所にウルと一緒に立つ。
淡い光に包まれ、しばらく経つと消えた。
「はい、これで従魔契約と従魔登録は終了よ。
身分証にも従魔が表示されているはずだから、確認してみてくれるかしら」
確認すると、適性魔法の下に『従魔:フェンリル』が追加されていた。
「登録されてますね。
でも、フェンリルって登録されていたら騒ぎになりません?」
「なるでしょうね。
今回の件は、ギルドマスターの連絡網で共有する必要があるわ。
それに、貴族に目を付けられる可能性もあるから、そこにも気を付ける必要があるわね。
幻獣の従魔なんて、これ以上ないステータスになるから」
貴族にまで気を使わないといけないのか。
面倒だなと考えていると、ギルドマスターが言葉を続けた。
「一番注意が必要なのは、難癖を付けさせないことね。
難癖を付けて没収しようとするのは、常套手段よ」
「分かりました。気を付けます。
ちなみに、ギルド等級ってどのギルドでも共通なんですか?」
「ああ、それについては、特級と影級は共通よ。
ギルドごとの等級は、それぞれ別になるけれど」
「だから、最初に自分の等級の話をしていたんですね」
「そういうこと」
そう答えてもらい、今日は解散となった。
ウルを箱庭に入れてもいいのだが、すでに目立っているので難しい。
急に姿を消したら、それはそれで不審に思われるだろう。
召喚魔法のようなものがあればごまかせるのだが、ほかのテイマーはどうしているのだろうか。
聞いておけばよかったな。
久しぶりに宿へ戻り、ウルのことを説明すると、部屋に入るのであれば問題ないと言われた。
ギリギリ入れるかと思ったが、扉で引っかかった。
仕方がないので、一度箱庭に転移させてから、部屋の中で転移し直した。
――翌日。
ウルには宿の部屋で待機してもらい、テイマーギルドへ向かった。
ギルドマスターが対応してくれるそうで、部屋に通された。
「突然すみません」
「問題ないわよ。
何かあったかしら?」
「ちょっと確認したくて、従魔契約した魔物って、一般的なテイマーはどうしているのかなと思いまして……」
「ああ、そういえば、フェンリルが衝撃的すぎて説明してなかったわね。
大きく分けて3つあるわ。
まず、従魔契約が成立すると、従魔召喚という魔法が発現するの。
発現しても、実際に使えるかどうかは本人の資質によるけれどね。
1つ目は、テイマーギルドが管理している従魔用の施設で過ごしてもらうこと。
従魔召喚はどこからでも従魔を呼び出せるから、テイマーギルドの施設からも召喚可能よ。
体調管理もきちんとできるからおすすめしているわ。
ただし、年間契約で利用料金が発生するわね。
2つ目は、自分の管理している土地で過ごしてもらうこと。
これはペットに近い感覚ね。
家で一緒に過ごして、旅先で従魔が必要になったら召喚するという形よ。
3つ目は、フェンリルの場合はおすすめできないけれど、そのまま一緒にいるパターンね。
従魔召喚が発現しても、使う資質がなかった者は、そのまま一緒に行動することが多いわ。
あと、特殊ではあるけれど、普段は自然界で生活させている場合もあるわね」
なるほど。
従魔契約が成立した魔物なら、テイマーの指示を守る。
事前に言い聞かせておけば、第三者が管理しても問題ないということか。
「ウルちゃんはどうするの?
ギルド管理にするなら、環境を整える必要があるから、少し時間をもらう形になるけれど」
「ありがとうございます。
今のところは、ギルド管理より一緒にいたほうがいいかもしれないので大丈夫です。
従魔召喚ができるか、戻って確認してみます」
「そう?
何か相談があったら、またいらっしゃい。
特級は基本的に、副ギルドマスター以上の者が対応する必要があるからね」
「分かりました。
それでは失礼します」
知りたいことは聞けたので、テイマーギルドを後にした。
テイマーギルドを出てから確認してみたが、従魔召喚の魔法は発現していなかった。
ただ、その代わりなのか、『眷属召喚』という魔法が、ウルを箱庭に登録してから使えるようになっている。
従魔召喚の上位互換なのかもしれない。
召喚すること自体は不自然ではないと分かったので、普段は箱庭で自由に過ごしてもらうのもいいかもしれない。
宿に戻り、ウルと一緒に箱庭へ転移する。
アイシスも含めて、今後の方針について話すことにした。
まず眷属召喚について確認すると、箱庭は自分の世界になるため、住人は眷属となるらしい。
眷属というと、魂や血を分けた忠誠心の高い部下というイメージがある。
ただ、箱庭への出入りが可能になっている時点で、自分の力の一端を受けている扱いになるとのことだった。
ただし、アイシスは箱庭の管理者なので、眷属召喚の対象にはならない。
ウルが箱庭とフォルテシアのどちらにいても召喚できるので、従魔召喚が発現していなくても、眷属召喚があれば困ることはなさそうだ。
やっぱり、手に入れた魔法はすぐに確認したほうがいいと実感した。
次からは、すぐに確認しよう。
そうしよう。




