表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

第1話:見ていただけのはずだった

そのスレッドを、開かなければよかった。


――本気で、そう思っている。


***


マウスを持った右手が震えている。


やっと見つけた。


智恵美が、いなくなる前に言っていた“場所”を。


***


最初にそれを見つけたのは、ただの偶然だった。


海岸。

知らない道。

音がしない。


よくある話だと思った。


作り話。

創作。

どこにでもある、ありがちなネタ。


――そう思っていた。


***


俺の名前は、渡瀬。


年齢は三十手前。

どこにでもいる会社員だ。


そして、智恵美は――恋人だった。


***


三週間前。


智恵美は、友人と鹿児島に旅行に行っていた。


温泉に行くとか、海を見に行くとか、

そんな、普通の旅行だった。


最初の数日は、何もおかしくなかった。


写真も送られてきた。


食事。

景色。

海。


『めっちゃ綺麗』

『今度一緒に来ようね』


どこにでもある、普通のやり取り。


***


最後に連絡が来たのは、三日目の夜だった。


やけに遅い時間だった。


LINEの通知音で目が覚めた。


画面を開く。


智恵美からのメッセージ。


***


『ねえ』


それだけだった。


続けて、もう一件。


***


『変な道見つけた』


***


寝ぼけていたせいもあって、最初は軽く流した。


観光地なんて、そういうのいくらでもある。


『どこ?』


そう返した。


既読は、すぐについた。


でも、返事は少し遅れた。


***


『わかんない』


『なんか』


『静か』


***


ここで、少しだけ違和感を覚えた。


でも、その時はまだ、気のせいだと思った。


眠気の方が勝っていた。


***


『怖いなら戻れよ』


適当にそう返した。


***


既読は、またすぐについた。


そして。


***


『でも』


『近い』


***


その一言で、目が覚めた。


何が、とは聞かなかった。


聞くべきじゃない気がした。


***


『ホテル戻れ』


そう送った直後だった。


電話が鳴った。


智恵美からだった。


***


出ると、最初に聞こえたのは――音だった。


波の音。


それも、やけに近い。


***


「ねえ」


智恵美の声は、小さかった。


風の音はしないのに、波の音だけが強い。


***


「変なの」


「さっきまで、なかったのに」


***


何が、と聞こうとして。


その前に、智恵美が言った。


***


「音、しないの」


***


意味が分からなかった。


さっきから、波の音は聞こえているのに。


***


「でも」


「聞こえるの」


***


その瞬間。


通話の向こうで、音がした。


***


ザッ


***


砂を踏む音。


明らかに、人の足音だった。


***


「今」


「後ろで――」


***


そこで、通話は切れた。


***


それが、最後だった。


***


警察にも連絡した。


同行していた友人にも話を聞いた。


でも、その時間、智恵美は一人で外に出ていたらしい。


どこに行ったのかは、分かっていない。


***


そして今。


俺は、そのスレッドを見ている。


海岸。

音がしない。

近づいてくる何か。


***


一致している。


――いや。


一致している“気がする”。


***


スクロールする。


指が、止まる。


怖い。


でも、やめられない。


***


「……ここだ」


誰もいない部屋で、呟く。


***


あの時の言葉と。


画面の中の言葉が。


重なっていく。


***


『変な道見つけた』


***


そのメッセージを、もう一度開く。


何度も見たはずなのに。


***


――違和感があった。


***


こんな文面だっただろうか。


***


画面を見直す。


***


『ねえ』


『道が見える』


『近い』


***


息が止まる。


***


書き換わっている。


***


そんなはずはない。


スクリーンショットも残っている。


履歴も確認した。


***


なのに。


***


もう一度、開く。


***


『ねえ』


『道が見える』


『近い』


***


指先が、震える。


***


画面の向こうで。


何かが、近づいてくる。


***


――このスレッドを、最初から読むべきじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ