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目覚めた場所は


倒れ伏した……筈なのに、目眩が収まって目を開けたわたしが今居るのは、何故か一面大草原の真ん中だ。

遮るもののない大地には、燦々と陽が降り注ぐ。


 場所は草原というか川の中洲とか湿地帯の縁のようで、背の低い木々や草が生い茂り、足元は染み出した水でぬかるんでいる。

わたしが倒れていたのは低い木の根元。

木が水を吸うのか、この辺りだけは地面が乾いていた。


虫の季節じゃなくて良かったと心底思った。

幸い服が大きく汚れる事はなかったけど、出張用の綺麗めオフィスカジュアルには、草やら跳ね返りの泥やらが付いて汚れてしまった。


 近くに人の姿もないので、仕方なくわたしはこの河川敷のような場所を歩き始めた。

ヒールがぬかるみに取られて歩きづらい。


 ここは一体何処だろう。

 浅瀬で狩りをする、サギに似た鳥を眺めながら考える。


一緒にここへ飛ばされてきたバッグの中のスマホは、圏外どころか何度触っても電源も入らないので、位置情報はおろか、時間さえも見ることはできなかった。

わたしが倒れたのは確かに夕方だった筈なのに、今は真昼間のようだし、此処が何処なのか全く検討が付かない。


何か事件に巻き込まれたにしても、だったらスマホが手元にあるのはおかしいし、何事もなくこんな場所に放置されているのもまたおかしい。

ぬかるみにはわたし以外の足跡は無かったし、誰か人間が関わっている様には思えなかった。


 大体この場所は遠くに山は見えるけれど、家屋の一軒も無ければもちろんビルも無い。

遠くに橋も見えなければ、空には電線も見当たらない。

こんな整備されていない河川敷、現代ではあり得ないと思う。

わたしはここで、一つの仮説にたどり着く。


 もしかして、わたしは過去に来てしまったのではないか、と。


 いつの時代かは今のところ分からない。

場所は、順当に考えれば大手町なのかもしれないけれど、あの辺は昔は海だったと聞いたことがある。

ここは潮の匂いはしないので、海の近くでは無いような気がした。

その他の判断基準は、遠くの山とこの川しかないので、結局のところ分からない。

山と川なんて、日本全国どこにでもありすぎる。

ただ、河川敷の幅がそこそこ広いのと、基本なだらかな平原が広がっているので、山間部ではないことは確かだ。

 

 何となく下流の方へ下り、やがて川の支流が合流して川幅の広がった場所へ出た。

ふと川の先を見ると、遠くに人影と小舟が浮いているのが見える。この場所に来てから、初めて見る人の姿。第一村人発見に、わたしの心は一気に浮き足立った。


「あの、すみませーん。」


 ぬかるみを避けながら人影の近くまで寄ってみると、その人々の様相を見て、わたしは仮説が正しいと立証されてしまったことを悟ってしまった。

 明らかに和装。

 ボロボロの簡素な着物の農民風の男数人と、少し小綺麗な腰に大きな刀を差した男が一人。

彼らの鋭い雰囲気に足を止めたのも束の間、あっという間に囲まれたわたしは首元に刀を突き付けられた。

刀なんて間近で初めて見た。

なんだかずっと夢を見ているようで、こんな事をされても妙に冷静でいられる。

それでも、先端恐怖症って訳って訳じゃ無くてもこんな事されれば普通に怖い。

そもそも、わたしの服装は確かにここの人とは違うけれど、声を掛けて近づいただけで刀を向けられるなんて理不尽だと思う。


 そう思っていると、刀を突きつけた男が低い声で、何か話し始めた。

口調からして、何者だと言いたいのだと思うのだけれど、どうしよう、全く言葉が分からない。

行ったことがないから分からないけれど、江戸時代辺りなら多分ある程度は言葉が通じるんじゃないかと思うので、本当にわたしがいま過去に居るのだとしたら、恐らく江戸時代よりももっと前の時代なのだろう。

こちらも、「せめてゆっくり喋って」とか「怪しい者ではないです」とか弁解してみるものの、向こうに全く伝わらない。

 段々互いにヒートアップして来たところで、後頭部に衝撃が走って、堪らずわたしは崩れ落ちた。

何が起きたのだろうと思いながら崩れ落ちながらも振り返る。


失いかけの意識の中で辛うじて見えたのは、河原の大きな石を両手で持った、農民風の男の姿だった。

 


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