エピローグ
出張で、東京に居た筈だった。
朝から神田、日本橋、大手町を回った帰り道。
成果はまずまず、少し嫌なこともあったけれど、仕事って常にそんなものだと思う。
社会人になって早数年、わたしは現代社会を悟り始めていた。
それでも、日のある内に早く終わって今日は週末。
ちょっと良いお土産を買って、家に帰ってゆっくり過ごせる。
休日に入れた友人との約束も楽しみだ。
わたしは少し浮ついた気持ちで、地下鉄の入り口に向かってビルの谷間を歩いていた。
都会のアスファルトにヒールの音が鈍く響く。
ここは車通りは多いけれど、人の姿はまばらだった。
夕方だから人だってもう少し歩いていても良い様な気がするけれど、定時にはまだ少し早い。
近くには皇居のお堀もあって、辺りはオフィスビル街にしては静かだと思う。
地下鉄の入り口は近くにもあった筈なのに、そこに向かったのは何故だったか。
何となく足が向いて、気が付いた時には少し遠い所まで歩いてしまっていた。
東京はどこも同じ様なビルばかりで分かり辛い。
慌てて地図アプリを見ると、思っていたよりは近くに駅の入り口がある様で一安心した。
アプリを見ながら更に少し進むと道の先に地下鉄の入り口を示すマークが見えて、足取りが少し早くなる。
そうして夕陽を反射するビルの間を通り過ぎようとしていると、その一角に、鬱蒼とした小さな森のような空間が現れた。
木々に光が遮られて暗く、まるでそこだけもう夜が来たみたいだ。
低い階段を登った先にある小高いその一角には、何か史跡を示すような石柱が端に一本建っている。
赤いのぼりも見えるから、ここは神社か何かだろうか。
砂利敷きを左右に隔てる様に真ん中に石畳が伸びていて、その先を辿ると墓石のようなものが置かれていた。
鳥居は無いのでどうやら神社ではない様だ。
高層ビルの立ち並ぶ一等地、地価を考えただけでも恐ろしい。
こんな所にあるなんて、一体何だろう。
何となく気になって、わたしは石畳に踏み入った。
石畳に沿って先まで歩くと、そこにあったのはやはりお墓の様で、きっちり花まで供えてある。
墓石のような石には文字が掘ってあるけれど、辺りは暗いし、石は古いものなのか全体がくすんで読み辛い。
大体、石に彫られたような文字って旧字体とか毛筆っぽい書き方で、わたしの様な若者にはちょっと難しい。
諦めて帰っても良かったけれど、せっかくここまで来たのだし、何なのか分かるなら知りたいと思った。
好奇心の勝ったわたしは、仕方なく少し屈んで目を凝らす。
「何て書いてあるんだろう、これ…?」
そう呟いて更に墓石に近づいた瞬間、わたしは急激な眩暈に襲われた。
あ、と思った時にはもう遅く、平衡感覚を失って慌てて前に出した手が、ひんやりとしたものに触れる。
ごつごつとしたそれは、あの墓石。
あんまり触りたく無かったな。
そう思ったその端、視界までぐにゃりと歪んで、堪らずわたしは石畳の上に倒れ伏した。




