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冒険者は再び夢をみる 〜序章〜  作者: ユキ サワネ
一章 優良なる平凡
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7話 鬱憤

 「ハァッ!?調査隊と共に既に迷宮に向かっただと!?それも三日前!?」


 「不味いなリース。南方騎士団といえばナーブ様だろう……これはひょっとすると、()()()()()()()やも知れんな。」


 地下冒険者宿舎(ギルド)の受付場でセリーヌから現況を聞き、ハゼは一抹の不安を握りリースは歯茎が見えるほど歯を食いしばり憤慨している。


 「仕方ない。リースよ、諦めて帰りを待つとしよう。」


 「待つわけないでしょ!行くに決まってるでしょ!」


 浅く溜息を吐いた後ハゼは諭すように答えた。


 「考えてみろ。南方騎士団といえばあの小竜人族だ。幾ら我々が追ったところで追いつけるわけなかろう。それこそ命懸けで下層まで潜り会えなければ無駄骨よ。」


 「ぐっ……!!」


 ハゼの落胆交じりの諭しに一度、言葉を呑み込むリースだが、それでも納得いかないと激昂する。


 「リースよ。貴様は昔からそうだ。沸点が低く、熱くなりやすい。冷静にならねば失わなくて良いものまで失う。貴様も何度もそんな奴等を間近で見てきただろう。」


 三日前、確かに調査隊と合同パーティで迷宮内調査を今日にでも行う予定だったとマウベルから直接聞かされていた。


 だから急遽、日程を調整し頂点冒険団としての責務を果たすべく奔走するも、その苦労は泡となって拍子をすり抜け落ちる。


 今やガルフ領のみならず国内全域でその名を知らない〝双璧〟を置いて勝手に調査へと迷宮に向かった南方騎士団の行動に対しては実のところそう怒りはないリースは元々調査隊もとい南方騎士団に対してあまりいい印象は無く、専ら団長ナーブに対しては何処か敵対心がある。

 

 問題は双璧の団員もハゼもリースも実のところ復活を遂げたコウと冒険が出来る期待と過去のように冒険したい気持ちが高まっていて興味が湧くのは、山々であるのだが立場上、今やガルフ領きっての看板冒険団と成長した彼等には成すべき事は山ほど有り、遊んでいられるほど暇ではない現実にある種のジレンマ(選択不可)も抱えていた。


 元頂点に君臨して名を馳せていたのは間違いないコウとはいえ、今や冒険団も持たぬ一介の冒険者にすぎない彼といくらなんでもそう簡単に拠点から抜け出せるはずがなく、仮に申請しても格の違いや規則からしてマウベルも難色を示すのは確実。


 そこに南方騎士団の調査隊はそれを知ってか、はたまた約束自体をすっぽかす何かがあったのか、いや、そんな事はどうでもいい。


 コウを連れ出している時点でリースの心中は穏やかじゃない。


 主軸冒険団を差し置いてよもや彼と冒険している真実は今回の双璧に対する事実上の裏切りや侮る行為であり、何よりもリース個人としてそれが南方騎士団による一方的な連れ出しと知ってからは尚更、怒りに輪をかける。


 その怒りの根源を知ったハゼや双璧の団員達は口を開け、呆気にとられる。


 双璧の団員達はリースの心境を察するも現状を鎮めるようまずヤンヌを頼ったが、ヤンヌはこうなったリースに何を言っても火に油を注ぐ事にしかならないと反論し、そうとならばハゼに頼み込む。


 ハゼもまたヤンヌと同感であるはものの場を鎮める立場にある以上仕方なくリースを再び諭す。


 「黙っていられるか!」


 逆鱗に触れたのかリースが命の危険時以外に取り乱す事は珍しく殆どの団員はその憤怒の様子に尻込みするが、馴染みであるハゼもここ数日の彼女に対して思うところがありついに堪忍袋の緒が切れて感情を溢れさせた。


 「いい加減に駄々捏ねるのはよせ!それが団長のとるべき行いか!醜態を晒し続ければ皆に示しがつかぬわ!だいたい貴様はどうしてコウが絡むとなると毎度毎度、餓鬼のように喚きおるのだ!南方の連中が三日前に出立しておるのだぞ!いいか、三日前だ!連中の実力と正気を取り戻した奴が手を組めば明日か明後日には最下層に到達して三日後には帰って来おるわ!そんな事も判らんほどそんな表情までして耄碌するでないわ!」


 双璧の頂点同士の衝突に気が気じゃないのは団員のみならずその場に居合わせていた団員外の冒険者達も固唾を呑んだ。


 「五月蝿い!ハゼ!貴様に……貴様だけには言われたくないわ!私の気持ちが貴様に解ってたまるか!」


 「あ!?なら言わせてもらうぞ!あれから今迄貴様は何をしとった!?コウを立ち直らせもせず黙って遠慮して、いなくなったロゼリアにいつまで気を遣っているつもりだ!えぇ!?言っちゃなんだが、端から見てれば毎度毎度踏ん切りもつけれず、もじもじしおって!そんなに奴を好いているなら()()()らしい、振る舞いをしてこれば良かったろう!それが答えじゃないと解っていたからこそ貴様はコウのために今を築き上げてきたのだろう!ここ数日の貴様は芯がブレにブレていて腹立たしいわい!儂も含めて()()()を経験した者達は皆、一様に同じ気持ちだ!気持ちが解らないだと?立場は違えど今生きていられるのは全てはゼルファークとミナイ様が寸前で我等を救ってくださったからだ!あの方達の想いを……最期の言葉を忘れたと言わさんぞ!だからコウも……ええぃ!クソっ!」


 ハゼの怒涛のまくし立てに、全ての者達は固まり空間を支配する雰囲気は重々しく、そして幾ばくか哀しみを纏う。


 その空気に水を差すようにギルドマスターが上階から声をかけた。


 「さっきから騒がしいぞ。お前らが喧嘩するのは自由だがあまり周りを巻きまんでくれ。たかが、コウ1人くらいで剣幕してんじゃねーよ。」


 『あぁ!?貴様(あんた)は黙ってろ!!』


 憤怒の二人は声を自然と揃えて上階へ飛ばすと、八つ当たりを喰らったマウベルは幾分苛ついたが、そこは大人の対応で聞き流し、ストレスを和らげる。


 マウベルからすればリースもハゼも()()()までは伸び悩む青年冒険者だった。


 当時からハゼは三傑の一つ【魔封戦斧】の団長ゼルファークの補佐として実力は既に折り紙付き、かくいうマウベルも【魔封戦斧】の副団長であり、ハゼとは、ともに(しのぎ)を削る仲でもあったが、一枚上手はマウベルと周囲は評価していた過去がある。


 だからこそ、ハゼを良く知るマウベルは彼の言い分に深く理解でき一方リースに関しては、別の冒険団といえども、当時〝奇想天外〟と〝魔封戦斧〟は事ある毎に共に冒険していた経緯があり〝奇想天外〟の内部事情はよく三傑の主軸同士の会話の話題に上がっていたので把握は済んでいたもののマウベル自身その理解に苦しむ形となる。


 当時は特にロゼリアからの相談は頻繁にあった。


 〝奇想天外〟の団員達が暇な時や休日において色恋沙汰について盛り上がる事が多い為か、近頃団内の空気や士気に支障をきたし半端な気持ちのまま探索や調査に出向くことが増えてきている……確かそんな類の内容だった。


 中でも団長のコウに色目を向ける者が多く、ロゼリアは頭を痛めていた。


 三傑の会話では終いにコウと〝ロゼ〟が、とっとと、くっつけばいいとさえ言う始末。


 今思えばロゼリアは満更でもなかったろうが、コウは昔から冒険にしか興味ないと飄々としていた。


 それにその手の話をする度にジェノが何処か根暗く尖ってしまうのでマウベルはいつも話を取りまとめる役を買っていた。


 〝奇想天外〟は男女の仲がやたらと近くなるのが原因で公私を分けずにいた事が仇だった。


 それもこれも全部その辺ひっくるめての感情に疎いコウに責任がある。団内の感情を引き締める役割をせねばならない。


 ど天然の鈍感力はこの件に関しては最早狂気。


 気にも留めずにというか、お節介さが仇になっていると考えずに接してしまうものだから、格下冒険者とりわけ新人冒険者に近い女性陣ほど勘違いしがちになる。


 後に公然に色恋は興味無いと言い放ったが時既に遅し。


 対応が遅かった。


 かつての懸念が今リースを蝕まんとしようとしていると感じたマウベルは決意し、罵り合う二人の衝突に一矢放つ。


 「お前ら、表に出ろ。そんなしょうもない理由で揉め続けるなら、ギルドマスターとして見過ごない、鉄拳制裁だ。セリーヌ、君は悪いが立ち会ってくれ。見物したい奴らは自由だ好きにしろ。」


 両手の指関節を軽快に鳴らなしながら冒険者宿舎の庭に向かって歩き出すマウベルは一つの条件を二人に推しつけた。


 それは、『冒険者なら勝った者に従え。』


 たったそれだけ。


 気合充分に三人は庭へと降り立つと、その殺気じみた狂気に野次馬達は邪魔にならない場所へと陣取りヤンヌもセリーヌもただ黙ってギルドの入り口扉前で見届ける。


 「勝利条件は最期までこの場に立っている事とする。戦い方は自由。お前らが手を組んで俺を討つも良し、不意をつくも良し、何でもありだ。本気でこい、殺すつもりで。」


 「それでいいのか?儂らは現役冒険者だぞ?本気だせば貴様なんぞ一捻りよ。」


 「マウベル。あんたは確かに強い……いや強かった。第一線を離れてから随分と経つが、それでも余程の自信があるのか?舐めてくれたものだな。」


 「ふっ、御託はいい。やれば解る。これが一番解りやすくていいからな。お前等も周りで観てる連中も。それに、お前等が負けた時に言い訳出来ない様に仕掛けたまでだ。」


 マウベルは対人戦への準備運動をしながら二人との会話を終えると、一つの深い呼吸をして丹田に落し込む。


 『さぁ、来い。』と一言だけ吐くと、それまで保たれていた平穏な圧は一気に殺気に染まる。


 それをまざまざと感じた周囲の見物者達は立ち所にざわめき動揺する。


 対峙するリースとハゼはマウベルが、それまで此方の煽りに耐えかねて一時の感情だけで単に強がっていたとものかと思っていたが、そこから放たれている圧は決して冗談ではないと即座に理解した。


 マウベルからは冒険を辞めて十数年経過した者の持つ雰囲気ではなく、未だに冒険者として活動していても何ら不思議ではないほどの風格を感じさせる。


 「セリーヌ。君は()()をどう見る?」


 「マウベルさんは()()()の悔いをずっと秘めていましたからその気持ちを傍で観てきた私からすると、はっきり言ってリースさんやハゼさんらとは比較するのは野暮ですよ。毎晩夢に見るらしく、1日も忘れた事は無いほどですから……それにゼルファークさんとミナイ様との約束だからと言ってずっとこの冒険者宿舎を支えてきたのも充分知っています。何時だったか冒険者達を見て羨ましがっていましたからね。溜め込んできたものを吐き出すには丁度良いかと。」


 才色兼備の彼女しか知らない一面にヤンヌは静かに視線を庭の中央に向け返す。


 「()()()我々は確かにゼルファーク殿とミナイ様から託された、あの言葉を忘れてはいない……が、こうして観るとマウベル殿もブレずに生きていたのだな。誰もが想いを胸に秘めて吐き出せてこなかった。それは案外良き日々だったのかも知れぬ。いい機会だ、ここで吐き出せるだけ吐き出してもらおう。」


 ヤンヌの穏やかな表情を目の当たりにしてセリーヌは安心する。


 ヤンヌの様に過去を受け入れ意味をしっかりと理解して先へと歩みを止めないでいる冒険者達がいる事に、この国の冒険者は未だ真の意味で死んではいないと。


 「おら、どうした?かかってくるなら来いよ。まとめて相手してやっていいんだぞ?」


 マウベルの見え透いた挑発にリースとハゼは互いに視線を合わせて豪語した。


 「まずは、奴を叩く。一時休戦だ、リースよ。」


 「あぁ、あれからどれだけ血の滲む想いをしてきたか思い知らしめる必要があるわ。マウベルには悪いけど遠慮はしない。その後で決着つけるわよ、ハゼ。」


 三者の殺気が、譲れない誇りと矜持が衝突する。


 漆黒の大斧をいとも容易く振り上げて肩に担ぎハゼはマウベルに向かって駆け出す。


 その間は、まさに〝雷神〟と呼ばれるだけあって雷の如くの速さ。


 瞬く間に距離を詰めて頭上脇から一閃、斧を振り下ろすと地は荒れ割れ衝撃から生まれた破片諸々は後方へと退いたマウベルを掠めるように飛散した。


 ものの一瞬、刹那ではあるが、にやりと笑うハゼの口元に気づいたマウベルは自身の両脇から尋常じゃないほどの魔素を感じとると、それらは予測していたのか、はたまた計ったかの様に向かってきた。


 ―風属性魔法、鎌鼬(かまいたち)


 無数の魔素が刃の形状に変化し、物質を切り刻むその魔法は大抵の場合せいぜい1人分の範囲に集中するが、そこは曲がりなりにもこの街頂点の魔法使い冒険者が放った代物。


 精度も威力も範囲も非の打ち所がないほど強烈強大。


 巻き上がる大きな砂塵でマウベルの姿は視えず、視界に人影を捉えられたのは、ほんの少し後。


 「まさか、それだけで勝ったとか思ってないだろうな……あぁ、くそ!煙たい!」


 双璧が仕掛けた呼吸の合ったその戦法は代名詞と言えるほど計算され、これまで多くの魔物を屠ってきたが、マウベルには、さほど通用していないのは彼の余裕のある態度で理解出来た。


 邪魔くさい砂塵を手で払いながら軽く何度か咳き込むマウベルが姿を見せると言い放った。


 「遠慮は要らんと言ったよな?」


 その視線と口調に幾分の苛立ちが込められていた。


 ハゼは挨拶代わりと言い、リースはこれからが本番だと言い放った。


 そうか……と一言だけ返すとマウベルは次は此方の挨拶だと言い、二人を瞬時に急襲する。


 ハゼはその一撃に斧の石突部位で防ぎ、リースは魔力で障壁を生み出し捌く……が、想定していたよりも威力が強く二人共驚きを胸に秘めた。


 瞬間の出来事で周囲の見物者らは呆然とした表情を示し、一部の冒険者らは、しかと動きを目で追っていた。


 気迫に塗れる空気がより一段と増す。


 

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