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冒険者は再び夢をみる 〜序章〜  作者: ユキ サワネ
一章 優良なる平凡
5/18

5話 秘める者達

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的で緩く短めに書いてます

 以前ここへ足を運んだのは何年前かと想いふけると、あの日から数日後の夜だった事を思い出したが、記憶違いかと思うほど工房は豪華で立派な造りをしている。


 看板名はマウベルから聞いていた〝()()工房〟で間違いない。


 (総合?ノームズ工房じゃないのか……。)


 中に入ると当時より遥かに客でごった返し、記憶よりもかなり広く、上品で洗練された店内。


 床はクリスタル石で敷かれその中には柔らかな光を放つ魔核が埋め込まれ実に綺羅びやか。


 荘厳な雰囲気の壁は漆黒調に整えられ、所々に飾られている魔核の灯りをより鮮明に感じさせる。


 整然と並んでいる陳列棚も高級さを助長しているのか実に見事だ。


 何よりも展示されている鍛冶品の質も品数も桁違いに多く、鍛冶製品のみならず魔素薬や魔道具など多種多様多彩な色味がそこかしこに溢れ、華やか。


 つい来る場所を間違えたかと思うほど戸惑う。


 「息災だったかい?コウ。」


 いの一番に声をかけてきたのは土竜(ノーム)族の女で店主の妻である【バラ】だ。


 店内の対応は若い従者達に任せてたバラに地下へと案内されるのだが、やはり記憶していた場所よりも構造も広さも別物。


 少し歩くと魔核の作用で動く巨大な昇降機に乗る。これもまた記憶とはかけ離れた優れモノ。


 「驚いたかい?コウが最期に訪れてからもう20年くらいかね……やんちゃ息子が帰ってきた気分だわ。随分稼がせてくれたお陰で今では国一番の工房と呼ばれるまでになった……お帰りなさい、コウ。」


 バラの表情は背後から立つ俺からは見えない。


 気のせいか、少し小刻みに肩が震えていた気がした。


 地下に着くと大きな廊下が続き、それを挟むように鍛冶場が点在して熱気を少し感じ取った。


 甲高く響く音は幾重にも連なり、あちらこちらから聞こえ、加えて何人どころではない活気に満ちた声も重なる。


 通い続けていた頃は店主の土竜(ノーム)族の男〝ジルゴ〟と〝バラ〟それに弟子の〝ギラン〟の3名の鍛冶師しか居なかったが今ではそこかしこに鍛冶師が居る。


 20年……流石に長すぎた。


 「貴方、お客様よ。」


 バラの一声に奥の卓で、一杯()()()()()()()立派な白髭をたくわえた懐かしい風貌の男が無言で振り返る。


 再会。


 それも無言のままジルゴは相席を指差す。


 バラは嬉しそうに手を口元に当てながら籠もった声で『ごゆっくり』とだけ伝え上階へと戻っていく。


 指定された席に座るや否やミスリル製の淡い碧色の光沢を放つタンブラーに酒を注ぎ込みきると、自身の側にも注ぐ。


 それを終えて卓上で低くそれを掲げる。


 視線はじっと俺を見据えている。


 無言の再会は()き止められていた時を一気に雪崩れさせ、一口含んだ酒が喉を潤し過ぎた頃、一度だけ深い吐息をつき、それまで鋭く睨みを利かせていた眼光は穏やかに天井へ向く。


 「どうだ?調子は。」


 俺は彼の意外なる第一声に意表を突かれた。


 彼の性格を知っていたからてっきり罵声を浴びるものかと覚悟していたが、そうはならなかった。


 「あぁ、晴れやか……とは言えないが、まだ死んでないとだけ言えるかな。」


 俺なりに調子を伝えたわけだが、即座にジルゴは怪訝に返す。


 「そいつぁ、妙だな。俺が聞いた話じゃ先日、黄源迷宮で水蛇とやり合った死に損ないの命運もついに尽きたってな……じゃあ、なんだ?今俺が話している相手は亡霊か?その割には魔霊種(レイス)とは違い脚がしっかり存在してるな……まさか新種か?」


 皮肉を口走るジルゴだが、その表情は明るい。


 剥き出しになった白く大きな歯が映える屈託ない笑顔を見たのも随分久しい。


 はにかむ俺にジルゴは話を続ける。


 「あれからこの領地だけじゃなく国中大変だったんだぞ?〝明星〟のみならず三星が一片に消えちまったからな。各地の迷宮で溢れ出た魔物群の対処は当時の冒険者やら軍では中々に骨が折れたもんよ。崩れかけた均衡を保てたのは、今を支える連中の賜物よ。だから、俺はそんな彼奴等に鎚を目一杯振るう。ま、金はちゃんと取るけどな。」


 酒場で言われたリースの言葉を思い出す。


 迷惑かけてしまった。


 「だが何故か、あの時、黄源からは唯一溢れ出てこなかった……お前さんの仕業だろ?コウ。」


 当時、国一番……いや三つの冒険団が互いに頂点に君臨していた。


 その頂点は虹の迷宮攻略にあたったのだが、奇しくも敗北し、ほぼ壊滅した状態でガルフ領冒険者宿舎(ギルド)に戻ったが、数日後国家の存亡が危機を迎えた。


 傷も癒えきらぬ内に対抗せざる得なかったこの街の冒険者や国内各地のギルドで救援にあたった冒険者らにも甚大な被害が出て、鍛え抜かれた国軍の精鋭達も無事で済まなかったと聞いている。


 そして【卯月の騒乱】と後に呼ばれるそれの後始末には国外からの助力もあり分析されると、意外にもある事実が浮き彫りになる。


 魔物の死骸のなかに黄源産の魔物が一匹も居ないと。


 当時俺はどうしようもなく荒れに荒れ黄源迷宮に籠もった。


 ―単独で入るべからず―


 と大きく掲げられた看板があったのも最早気にも留めず。


 死に場所を求めてそこに居た。


 「事態を鑑みた国内外の賢人らが腕利きを集める為に尽力し、一つの調査隊を編成、数日後に黄源迷宮に派遣したんだが、中層前半までは魔物は鼠一匹おらず中層後半から床一面に魔核が尋常じゃないほどの量で埋め尽くされていたらしくてな。それが下層へ向かうほど更に増えていき全て後始末が終わってから判明したが、回収できた黄源の魔核量は地上の魔核の数より遥かに多かったらしく、各国の要人、賢人らが腰を抜かしてたってな……それと最下層に棄てられていた黄金色の魔核も見つかった。そいつは未だに解明されていない。お前さん、どんな迷宮主と対峙したんだ?」


 ジルゴは興味深気にそう語りながらタンブラーを口元に添え、俺は当時を追想する―が心当たりが無い。


 なんせ20年前の話の一部で断片的にしか覚えていない。


 「そうか……なら仕方ねぇのな。」


 それからは積年の想い出をあれこれ話す。


 思いの外、酒も進み再会の時間はかなり経過していたが時計の針は正午を少し回ったばかり。


 「そういや、ギランの姿が見当たらないが?」


 「彼奴ならここじゃなく王都に居る。王宮筆頭鍛冶師としてな。信じられるか?あの洟垂(はなた)れ小僧が今では偉そうにふんぞり返っとるときたもんだ。偶に俺が雷落としに行くけどな。次行く時は良い土産話も出来そうじゃわ。そんな事より話があるのだろう?」


 ジルゴの愛弟子についてはとりあえず脇において本題に入ることにした。


 俺は負い目を感じつつ折れた鋼鉄製の剣を差し出す。


 それを見てジルゴは呟いた。


 「こりゃまた派手にやらかしたもんだな。」


 罪悪感に苛まれたのは、酒場でギルドマスターからここの話を聞いた頃からだ。


 折れた鋼鉄製の剣(元相棒)は購入したわけでなく、一悶着の末に預かっていた……事を思い出してしまったわけで……。


 「すまない。愛剣を折ってしまって……。」


 「なに、気に病むな。剣も本望だったろう。あの時黙っちゃいたがこいつはな、あの時のお前さんに付き添わせるには丁度良い奴だったんだ。死に急ぐ馬鹿者を死なせない様、護るために生まれて来たようなもんでな。死に損ないの終焉、1人じゃ寂しかろうと冥土まで連れ添った。それだけで充分じゃねーか?」


 無様を晒し続けた俺の積年。


 唯一、片時も離れていなかったのは相棒だけだ。


 ―武具には魂がある。―


 ジルゴが昔からずっと言い続けてきた言葉の意味がようやく理解できた。


 ずっと護ってくれていたんだな……と。


 〝晴雨 耕(ハルサメ コウ)〟はこうして生きているが、相棒の知っているハルサメ コウは蛇と共に死んだ。


 だから役目を終えてくれたのだと。


 「そういう話なら新しい武器が必要だな。今の〝明星〟にぴったりな装備を造ってやる。」


 なら剣を一丁と言いかけた矢先にジルゴは言う。


 「言ったろう?武器じゃねえ、『装備』だ。」


 長年愛用してきた軽装鎧は蛇に無惨に叩き割られ篭手は自身で手入れしてきたが年季の寿命はとうに過ぎ、ミスリル製のサバトンも既にガタついていてジルゴでなくとも傍から見ればその格好は本気で冒険者なのか疑うところのようだ。


 「本当にいいのか?金はいくら用意すればいい?」


 俺の言葉を鼻で笑い返すジルゴ。


 「なぁ……お前さんにどんだけ恩があると思ってんだ?装備一式ごときでガタガタ言うとでも思ってんのか?」


 ジルゴの性格はよく知っているが、今回はそれに甘える形で話をまとめると、徐にジルゴは付いてくるよう促し、再び昇降機に乗る。


 「そういや、地下増えたな。」


 「おうよ、工房ツアーだ。ありがたく思えよ?なんたってこの永世国宝級鍛冶師が直に案内してやるってんだ。本来ならば金かかるんだぞ。」


 「永世国宝級!?……そうか、登り詰めたんだな。良かったじゃないか、夢が一つ果たせて。で、幾らかかるんだ?」


 思わず面食らった勢いで金の話をしたが、即座にジルゴは金貨100枚からと答えた。


 ぼったくりとすぐさま返すが、おいそれと工房見学の案内人なんて永世国宝級鍛冶師がやる事じゃないし、国内外からの依頼に追われる身となれば時間が惜しいのは当たり前か。


 「まずは、ここだ。」


 地下三階にある、工房関係者の地下街、通称【ワークエリア】。


 薬師、錬金師、魔道具師などの関連施設の他、住まいやライフラインも完備されており、ガルフ領で唯一の複合型工房の階層である。


 地上の看板が〝総合〟と変わっていたのも理解できた。


 「領主様や国王様が地上の業師(クラフター)の土地を買い取って、この街の再開発を為されたんだがその時に満場一致でこの場所に決まった。」


 魔物群の襲来で多くの被害が出た経験と是迄に移り住んできた民の住居確保の為に業師の無駄にデカい工房を一点に集結させたと教えられる。


 ただでさえ工房は倉庫もあったり店舗もあったりで土地は1件とはいえ広くないととても経営出来ないのは知っていたが……。


 「まあ、あの日を経験した者は皆、迷う事はなかったからな。それに、工費は国が出した。誰が文句言えようか。」


 経緯を聞きながらとある工房の前で立ち止まる。


 「グランツ!俺だ!」


 懐かしい名前を聞いた。


 リンデルフェル・フェーンズ・グランツ。俺と齢は同じだが、実年齢的に言えばおよそ3倍にあたる男のエルフ族。


 「なんだ、珍しいなジルゴ。さては森酒をもう呑みきっ……!!」


 彼ともまた再会を果たす。


 グランツは大手を広げ飛びついてきたが俺にはおっさん、もとい爺さんとのハグは遠慮願いたい。……が、その表情を見てしまうと、そう言えなかった。


 「グランツ。感動の再会の所悪いが、鑑定魔具でコウを鑑定してくれ。ちゃんと知っておきたい。」


 二つ返事で工房の奥に消えると直ぐ様鑑定魔具を持ってきて作業台の上に展開した。


 初めて観るその魔具は神託で触れたそれとは違いかなりの大きさで、より精密。


 先天的な能力と後天的な能力を鑑定する為の装置らしく、国内外の主要ギルドに卸しているらしい。


 「鑑定か……神託の儀以来だな。」


 思わず懐かしむと、グランツは自慢げに話す。


 今ではその儀式で使われる魔具も実はグランツ製作の物らしく、他国でも評価されている程、精度が素晴らしいと。


 「どう見ても、お前さんの纏う魔素は以前の比じゃないからな。正確な数値を知っておきたい。」


 展開された装置に身を委ね、魔力を介して分析、解析が始まる。


 鑑定を終えて映し出された結果に2人は驚いていた。


 端的に言えばどうやら俺は人族を辞めたらしい。


 おまけに厄介なのは【禽困覆車】の下に見覚えも聞き覚えも無い神授能力があった。


 「コウちゃん。今迄、何処で何してきたの?」


 「中位の上位迷宮の地下都市で20年暮らしてきたことくらいかな。あと、数日前に魔素薬打ち込み過ぎて急性中毒起こした。」


 「禁忌冒して生きてんの?なんで?普通死ぬよ?」


 そこからはグランツの一方的な質問攻めにあうがジルゴを交えて今後の計画を進める目処が立つとツアーの続行となる。

 

 薬師のマリン、錬金師のナタ、ここには店が無い料理人のガナッシュにグランツとはまた違った専門分野のグリムなど、次々と再会を果たすのだが、皆一様に涙を見せて迎えてくれた。


 本当に、俺と言う奴は……。


 「ドタバタしててちゃんと言えなんだが、グランツ達も心配していたからな、悪く思わんでくれ。特にグランツはお前さんが居なくなってから腑抜けになっていた時期があってな……皆思うことはあれど、これから一つ一つ応えて行けば良い……また賑やかになればいいが。」


 今回判明した鑑定結果にしばらく没頭したいと言っていたからその心配は杞憂だと思った。


 「グランツの性格もよく知っているから心配ないさ。まーた人を実験体に使う気満々だったし。」


 「だっはっは!違ぇねぇ!」


 「再会してみて今迄皆が俺をどう思っていたのかが解った。もっと責められても可笑しくないのにな。それに、皆元気そうでいるし、いい暮らしを出来てそうだし、なんつーか……安心した。ありがとな、ジルゴ。」


 ジルゴの口元が一瞬緩んだのは内緒だ。


 これは俺の立場でどうこう言うのは野暮というもの。


 その後、地下4階へ案内されると一面、あらゆる素材がびっしりと整理整頓されている倉庫階に着く。


 その光景は実に壮観だった。


 それもそのはず、あらゆる業師が住まうこの施設だ。共同倉庫が無い方がおかしい。


 「新装備に必要な素材を運ぶの手伝ってくれ。」


 いつの間にかジルゴは素材運搬用の車輪の付いた魔具を操作しながら俺を荷台に乗せ運転し、必要な素材前に停めては回収して周る。


 「こんなもんだろ。おい、そういや気になったんだが迷宮に20年も居たらお前さんも稀少素材の一つや二つあるんじゃないのか?」


 確かに今は持ち合わせていないが黄源迷宮地下冒険者宿舎で間借りしている部屋には幾つかある。


 後日それらも含めてジルゴは何を製作するか決めるつもりらしい。


 そしてジルゴの工房へと帰ると、バラが何人もの人に忙しなく指示を出していた。


 ジルゴ曰く今夜は宴らしい。

 「感じるぞ……この気配は、確かに……間違いない。ようやくか……待っていたぞ、英雄よ……我を……我を……。」


 薄暗く静かな部屋の奥で誰かの声が無情にも響く。


 四方に配置された魔核の間には魔素が通電するかの如く鮮烈に走り続けている。


 その光景はさながら闇夜に浮かぶ〝明星〟の如き。


 妖しく、されど神々しくもあるそれとの邂逅にまだ知る術はない。


 

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


書き溜め… …_φ(・_・

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