3話 神授
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的で緩く書いてます
虫の息……とはよく言ったものだ。
意識はある。
だが、未だ復調には程遠い。
俺の冒険はここで潰え、蛇の養分になるという現実に耐え難かった。
傲慢で奔放な魔物の腑は一体どんな物かと冗談混じりの諦めの境地をふと感じていた。
じりじりと蛇の大きな口が近づくと、何かの音が弾けた。
弾力性のあるクッションに巻かれながら俺は階層の天井を眺めていて刹那に聞こえる断末魔はどうやら俺自身の声じゃない。
―蛇だ。―
それも、かなりの絶叫。
実に五月蝿い。
叫びたくなるのは、散々甚振られて死の間際まで追い込まれていたこっちの方だ。
「間に合った!お前ら絶対死なせるな!かかれぇッ!」
誰かの声が階層に響いた後、地に堕ちて寝そべる俺の肌は多勢の足音による地の揺れを感じとる。
やがて一番槍の鬨が聞こえたが、それを見上げる気力も体力も未だに無く、堕ちた衝撃で改めて動けずにいたら馴染みのある連中の姿が視界を埋める。
「万年!生きてるか!?」
「返事しやがれ!死んだら承知しねぇぞ!」
「顔色やべぇって!これ!」
動揺交じりに忙しくなく飛び交うあらゆる言葉に対して何か言葉を返そうとしたが、先に餌付いてしまい上手く喋れない。
「良かった……!コウは無事だ!」
援軍の計ったかのような登場で死を間一髪回避する。
呼吸すらまともに出来ない状態である俺を囲むように複数の冒険者が立ち塞がり、周囲を警戒しつつ俺に対して回復魔法をあてがえる。
少し奥では甲高く、時に鈍く轟く撃音がする。
様々な罵詈雑言が宙を闊歩していたが、その殆どを俺は薄っすらとだけ受け止めていた。
見上げる天井と俺の間に防護障壁の膜が顕現し聞き慣れた怒鳴り声が俺の耳を貫く。
「1人で【一眼水蛇】を相手にするとか馬鹿なんですか!?死に急ぐつもりですか!?」
その声に俺はどう返そうか思考を張り巡らせたが生憎機転の利いた知的な言葉は持ち合わせていない。
「……既に死んでいるさ……リース。とっくの昔に死んでた……俺。」
珍しくも本音を吐いてみたが、普段の俺や喜怒哀楽の俺を知る馴染み達はどうやら本音とは思えなかった様でたじろきながらただこちらを見つめていた。
寸前の慌ただしさなんてものは無かったかのように静寂に。
常軌を逸した急性の魔素中毒は熟練の魔法使いによる回復手段を嘲笑うかのように阻害し手を焼かせる。
幾ら緊急時とはいえ禁忌を冒した蛮行の果てはあまりにも代償が大きすぎたか……リースの眼光は淡い光を溜め込んでいて、その表情はかつての過ちの日に見たそれだった。
「……コウ、普段の貴方ならどんなに辛くても飄々として間抜け面を晒してきたじゃない……それなのに……なんでこんな無茶をしたの!?」
感情が昂ぶっているのか俺にそう問いかけた魔素能力に長けたエルフ族の女魔法使いであるリース。
「いや、あの馬鹿蛇に一発焼き入れねぇと……ってな。」
少しずつだが、身体の自由が戻ってくる。
「馬鹿な事を……それよりも何があったの?随分と懐かしい表情をしているというか、なんというか……貴方変よ。」
「変なのは昔からだろ。」
「変人が野蛮な奇人に進化したか。」
「顔色やべぇって、人族辞めた?」
周囲にいる冒険者はどいつもこいつも馴染みがあるからか辛辣な言葉を平気でぶつけてくる。
「馬鹿なのは昔からだ。んでまた馬鹿な事を言うぞ……ジェノとロゼリアに会った。」
熟練の冒険者達は、その一言に驚嘆し絶句する。
間抜け面を晒しているのはどっちだよと、言いかけたが、火に油を注ぐ結果しか見えず、その言葉を静かに呑み込んだが、俺自身その僅かな動揺やら雑念を覆い隠す事は難しく傍からすると異様なまでの表情を晒していたのは自覚できた。
俺が口走った名に懐かしむ者が居たり、なんて言葉を返せばいいのか戸惑う者も居たり、魔素中毒の症状である幻聴覚なのではと言う者もいればあり得ないと一言漏らす者も居たりして場の空気は少し変わり始めると、やがて数人の冒険者は息を密かに呑み、それは一段と変化する。
「とにかくだ……俺はあの蛇に一発やり返さなきゃならねぇ。」
普段の俺を知る者達からしてみれば、軽口を叩く程度の悪態だけならまだしも、その名や過去の出来事なんてものは一切口にしなくなっていた事ぐらい解りきっている。
その上で、彼等の名前が俺の口から出てきたのは明らかに異常だと感じ俺の隠す気が無い蛇への執着……いや、殺意を交えた視線に動揺し、彼らの視線は護るべき対象としてではなく、底しれぬ不快感を与える存在として俺を認識する視線そのものに変わっていた。
そんな折、蹌踉めきながら立ち上がる俺を見て必死の形相で睨みを利かせながら制止する格好で立ち塞がるリース。
「行くんですか?これまで散々皆に心配をかけさせてきた貴方が、そんなボロボロになってまで今更何をしようというのです?」
「今まですまなかったな、リース。詳しくは後で話すわ。……今はあのデカ物に一発焼き入れてやらねぇと本当の意味で俺は……死んじまう。」
視界の端で意味がわからないと狼狽するリースを諭すように同じエルフ族のヤンヌが止めに入るのが視えていたから俺は安心して腐りに腐っていた魂を、否、腐らせていた魂というべきか雁字搦めにしていた部屋から引きずり出しては叩き起こして利き手に持つ剣にありったけの魔素を圧縮した。
咄嗟に前線で気張る連中達が察して散らばるように道を空けてくれた。
付き合いが長いお陰で俺の性根をよく理解してくれているから手間が省けて助かる。
開かれた道程を飛び立つ様に、なぞる様に駆け抜けると、すれ違い様に様々な熱い視線を貰っていた。
露骨に期待をする視線。
心配そうに見守る視線。
何かを懐かしむ視線。
挑発気味に煽る視線。
それぞれの視線に改めて感心すると同時に感謝した。
―冒険者でいる事に―
いや、違う。
〝冒険者として居させ続けてくれていた事に〟
幕開けを予兆させる綺羅びやかな魔素は駆け抜ける俺の全身から一粒、また一粒と零れ落ちてゆくが、それは有り余る魔素が中位冒険者の器、許容範囲を超え溢れ出している証拠でもあった。
上位冒険者へと昇華していればもう少しマシな輝き方をしていただろうか。
周囲の手練達に少しでも近づけた事実は喜ぶべきだろうが、魔素薬の打ち込み過ぎの影響も当然あって素直に喜べない。だが、存外、死地を越えたのか、気分は悪くない。
駆け抜ける最中に思い返し、映し出していた記憶に今度こそ報いるべきだ。
✦✦✦
「【禽困覆車 】って非常時発動じゃねーか……。」
初心冒険者が中位冒険者に昇華すると誰もが少なくとも一度は受ける神託の儀にて、俺は物理特化型職の神授能力に期待していたというのにまさかの非常時発動型神授能力を授かり、冒険者宿舎内にある資料室で詳細を調べ、項垂れる。
―神授能力―
それは、剣士や戦士などの物理特化型職ならば戦神から授かり、魔法使いや魔法剣士などの魔素特化型職ならば精霊神、非戦闘型職ならば豊穣神や女神などから祝福として授かる特殊能力の事。文献によれば、その者が元来持つ素質に見合う能力が与えられるらしく、磨き方次第ではそれはそれは大層強力な切り札となる……らしい。
だが、俺に与えられた神授能力はかの英雄達のような常時発動型のそれではない。
「落ち込む事は無いですよ、コウ。」
「そうだぜ、非常時発動型は常時発動型よりもかなり優れてるって話だしな。」
不満を垂れる俺に冒険仲間で人族女魔法使いロゼリアと人族男戦士のジェノは慰めるようになだめる。
「お前らが羨ましいよ常時発動型だから。」
ジェノは物理特化型職の癖に魔素特化型の神授、ロゼリアは聖属性神授。不公平だ。
ジェノの神授はかなり特殊な組み合わせなのだが近距離戦士に魔法使いの能力が足されるだけじゃなく常に身体能力全般の向上、特に魔素量の上昇が半端ない【魔戦狂】を得て、ロゼリアは世界で最も希少で最高の支援者として羨望される【聖者】を得ていた。共に希少価値が高い神授能力で有名で、それと解った途端に冒険者宿舎にて多くの勧誘活動がしつこいほど巻き起こっていたほど。
「でもよ、神授は磨かなきゃ真に意味ないからな。それよかコウ。非常時型神授を持つ人族なんてそれこそ超稀少なんだからな?」
「言い伝えによれば非常時発動型神授は魔素の質による所が大きく、優れた素質でないと授からないですし、発動条件さえ理解すれば、どんな常時発動型神授にも勝り、練度次第で常時発動型の様に扱えるとありますから、まずはコウの発動条件を探り、磨きましょう。」
「……少なくとも英雄色の神授持ち2人と組めてるだけでも良しとするか。」
そこから【禽困覆車】について3人で資料室にある限りの情報を探し数日かけて辿り着いた答えを知る。
圧倒的な絶望による死地を迎えた時、己の精神力を極限にまで高めれば一撃必中の境地に至る。と言うことと、その反動による代償は心身に凄まじくエグい負担を背負わせるという。
「なぁ、やっとの思いで見つけた答えがこれだけって……なんだかなぁ。」
「圧倒的絶望による死地か……上位迷宮にでも潜るか?」
✦✦✦
あの時はジェノの冗談に半ば本音で言ってるのではと勘ぐったっけか。
3人で書物を端から端まで読み漁った結果、稀少価値があるお陰でその解説や真相はどうやら手探りで見つけるしか無いと落胆した日が酷く懐かしい。
そんな想い出を振り返っていた事なんて露ほども知らずな周りにいた冒険者達の怒涛の連携による甲斐もあり、俺の一撃【禽困覆車】が舞台の幕引きとなったのは程なく気付く。
長年連れ添ってきた鋼鉄製の剣もその寿尽に幕を下ろす形で静かに砕けていた。
単純に俺が放った魔素量の圧力に耐え切れなかっただけの話なのだが、この時ばかりはそれだけじゃないと思えた価値を感じて仕方ない。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




