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冒険者は再び夢をみる 〜序章〜  作者: ユキ サワネ
一章 優良なる平凡
16/18

16話 契約と金色 

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。


今回はゆるギャグ回です。どうぞ〜

 一振りの大きな風圧が舞い、鈍く重たげな音は迷宮の隔壁とぶつかり、瓦礫と共に埋もれ散る。


 かつて1人の女性が愛して止まなかった英雄はその場で何を思うのか……。


 ゆえに英雄に近づいてはその姿を捉えながら静かに囁く。


 「フォーグル……。」


 新人冒険者に啖呵切って一振り目の反撃から始まる人の背丈はあろう剣身が色鮮やかな魔素を纏いつつ軌跡を描いた。


 流れる魔素の連撃は蜘蛛の急所ばかりを的確に斬りつけ刻むも、その奮闘は長くは保たず、相手の猛威を奮う反撃により心躍った趨勢(すうせい)は防戦一方となり、後手に回った。


 終いには蜘蛛の前脚で英雄の身体は露を払うが如く薙ぎ払われて、今や瓦礫に埋もれる。ダサい、実にダサすぎる……。


 英雄の亡骸に手を合わせながら、俺は心の中でシシリーに祈った。


 「うるせぇっ!死んでねぇよ!勝手に殺してんじゃねぇ!」


 心の中での祈りが漏れていた。


 幾らかの瓦礫の欠片を手で払いながら立ち上がった英雄に向かって、なんだ、生きてたのかと言うと、フォーグルは怒りと愚痴を軽やかに走らせる。


 「彼奴(あいつ)の脚切っても切ってもすぐ再生しやがって!理不尽過ぎるだろ!」


 そんな奴、今迄に、ごまんと居ただろうと言うとフォーグルはうるせぇとしか答えないが、確かにその異常なまでの再生の早さに文句をつけたくなるのは一理ある。


 なにより、そんなだらしない大先輩の()()を心配げに見守っている新人冒険者の2人が可哀想になってくる。


 「厄介は厄介だ。で、手、貸すか?」


 「気に入らねぇが、背に腹は代えられん。後輩達にはヤンヌが付いているからな。 ちょっと面貸せや。」


 「珍しいな。お前が素直になるのはいつぶりだか……。ロック!悪いがお前はそこで観ていろ!」


 俺がそう言うとロックは残念がっていたが、時間経過の条件を付けてそれが悪い方に破綻したら参加を認めることを伝えると、ロックは親父の形見である懐中時計を取り出し即座に見始めた。


 「5分か……なら4分だな。」


 昔と変わらず変な所で意地を張るフォーグルの面白さもこれまた変わらない。


 一体、この男の意地の張り方、思考はどうなってんのか見てみたいとさえ思える。


 「よっしゃ……ならやりますか……ね。」


 徐に取り出した剣身を眺めて魔素を注ぎ込むと同時に両足にも分波し、そして咏い始める。


 この敵は、恐らく水蛇より強い。


 見た事も聞いた事も無い異様な回復力に図体に、蜘蛛らしくない吸い付きや噛み付きもして来るし、なによりそれ以外の攻撃方法も豊富。


 基本的な蜘蛛の()()にあたる。


 〝迷宮は奇なり〟を体現している存在に久々に興よりも恐怖が上回る。


 「隙を作ってやる。デカいの頼むぞ。」


 「膝震えてんじゃねーか。隙なんて作れんのかよ?」


 俺はフォーグルに格好けてみたが彼の指摘は的を得ていた。


 正直、ちびりそう。


 だって、俺は万年中位かつ復帰(リハビリ)者だそ。


 上位中の上位地味た敵とこんな所で対峙するなんて聞いてない。


 膝だって震えるに決まってるじゃねーか。


 人生とはいつもそうだ。


 未知に対して恐怖を感じて何が悪い。


 様々な経験から来る予測や予感は大体当たる。


 悪い意味で。


 それでも、()()()と違い逃げずに居るのは、再び俺は冒険者として覚悟を決めたからだ。


 やるだけやって駄目なら所詮それまでだ。


 だが……いや、だからこそフォーグルが誓ったように、ロックが望んだように、負けじと俺は飛び立たなきゃならない。


 過去の栄光なんて引きずるわけじゃないが、これ以上、上位冒険者達との差を拡げられるのは虫唾が走るし、まっぴらごめんだ。


 冒険者の辿り着くところなんて、平民も貴族も魔物も変わりゃしない。


 それまでどう闘い、どう生きたかと思えるか。


 逃げた先に求めている答えなんて有りはしない。


 そうさ、俺は自由に羽ばたく鳥の如く、世界を飛び回るんだ。


 俺の考えなんて知られる必要もないし知ってもらいたいとも思わない。


 ―〝籠の中の鳥〟―


 辟易する毎日に項垂れている暇なんて微塵も有りはしなかったってのに、俺は馬鹿だ。


 籠の扉はずっと開けられていた事に気付かないふりして。


 後悔先に立たず。


 ならばこの一振りの剣は、せめてもの救いとなれ。


 「(うな)れ、(たけ)れ、羽撃(はばた)け……


 (不思議な感覚だ。


 体の底から無限に湧き上がってくる魔素。


 (うた)う最中に、ジェノやロゼリア、ゼルファークもミナイ達の姿が次々と思い浮かぶ。


 あぁ……そうか、そういう事か。


 俺は長らく見失っていたんだ。


 見ないふりして知らないふりして。


 それでもずっと傍に居てくれたんだな。


 答えは解らないが。


 いや、ずっと間違ってきたんだ、今更何を怯む必要があるってんだ。


 そうだろ?きっとそうに違いない。


 それならこの詠唱で再び、本能が赴くままに翔べるまで、共にゆこう。)


 不惑を断ち切れ……断罪の(うた)……駆け抜けろ、この魂と共に……。」


 「お主ら、しかと観ておきなさい。飛び方を忘れていた鳥が、再び飛び立つ瞬間を。」


 ヤンヌがそう言うと中位冒険者以下は口を開きっぱなしに唖然と固まる。


 彼等からしてみれば、その多くの者達は【卯月の騒乱】時、幼き日に友を失い、親を失い、家も夢も砕け、生き地獄の泥を浴び、忌まわしき屈辱を祓おうとがせんと駆け抜けてきたが、眼前に立ちはだかるのは、それをゆうに越える脅威。


 心はすくみ、そして、その日すらも、まともに知らない若い芽は飛び込んだ世界の大きさと深さを真の意味で目の当たりにする感覚に支配される。


 〝天星〟すらも。


 「お主らは、〝万年〟の姿しか見聞きしておらなんだろうが、しかとその眼に焼き付けよ……あれが、〝明星〟と呼ばれていた本来の輝き。あの一番星の煌めきは皆が魅了され、乞い焦がれ、祈り、そして何人も導く。お主らが進むべき頂上のありとあらゆる灯りの一つである〝明星〟たる由縁。」


 中位冒険者以下(彼ら)の観る景色には鮮やかな五色の光よりも一際鮮烈な金色の輝きが飛び込んでいたのだろう。


 冒険者によってはただ、二筋の光源が飛び交う光景しか視えていなくとも判る。


 自身が瞬く度に、脅威の真理が激しく抵抗し、死闘を演じている。


 八本の脚が斬れもげて灰燼に帰してゆく凄絶な光景は嫌でも目につく。


 若き芽達は、この日、初めて近代の伝説を垣間見ることとなった。


☆☆☆

 ガルフ領主の勅命により王都の冒険者宿舎(ギルド)へ足を運んでからというものの、国内外のギルド職員幹部が集まって、黄源迷宮地下都市から呼び出されたマウベルもセリーヌも多忙を極める。


 王都領との境、ガルフ領にある緑生迷宮の上層にて起きた事案の報告書を上位冒険者数名で書き記し、作成した事で王宮からは雁字搦めにされる。


 王宮を含む他国からの使者やギルド幹部との聴取に付き合わされて早三日。


 生きた心地のしない内から紙と筆に向き合い続け、その結果フォーグルは禁断症状に苛ま……。


 「おい、こら。誰が禁断症状だぁ?そりゃまぁ溜まってるもんは溜まってるが、日記つけるなら真面目に書けよ。」


 「勝手に覗き見してんじゃねぇよ。俺はな、こうやっていずれ自伝を書く為に記録してんだ。英雄ヴィンドールのようにな。それに、溜まってるなら、あながち間違ってないじゃねぇか。」


 「お主らは本当に仲がええのぅ。」


 「ヤンヌ……耄碌してんのか?コウとは腐れ縁なだけだ。」


 三日間も王宮の一室に軟禁させられると、さすがに疲れを隠せなくなっているフォーグルは飽きが勝ちかけてきた。


 「でも、あのデカ蜘蛛何だったんだスか、あの変異。」


 俺もフォーグルも黙り込む。


 「緑生迷宮の魔素異常……各国の精鋭調査団が調査を終えれば嫌でも判るであろう。」


 ヤンヌは只管(ひたすら)紙と筆に向き合い続けながら言った。


 「確かにな……つうかヤンヌ、お前は飽きないのかよ?」


 穏やかにも言葉の覇気はやや強めだったが、ヤンヌの言う通り調査団の報告を持たざるを得ない状況に俺は束の間の安らぎを感じる。


 緑生迷宮は中規模迷宮の上位とはいえ、それに似つかわしくない敵の出現。


 想定外の事象は瞬く間に世界中に伝わり駆け巡った。


 ここ数年、世界各地にて頻繁に起こっている魔素の氾濫に関係しているのかもしれない。


 その中でも特段ニーズヤード国は酷い頻度で起きていて各国の機関のみならず民衆さえも注視するほど。


 南部のガルフ領は特に酷く、重要な報告は都度各地のギルドを通し共有されてきた。


 だがそれを今迄、逆手に取ってきたガルフ領内のギルドはそこに商機を生みだし、いつもなら宣伝活動をするのだが、今回の事態を重く受け止め、早々に緊急案件として世界各地へと流布したが、代償にセリーヌの狙いは見事に足留めを余儀なくされた。


 「そういやコウ。王都に用があったんだろ?」


 「あぁ、ちょいと野暮用がな。それに、今頃温めに温めてきた計画をご破算にされたセリーヌが腹いせに仕掛けてる頃だろうよ。」


 今回の一件の発端となった黄源迷宮地下都市の冒険者宿舎(ギルド)の副管理長であるセリーヌの計画。


 セリーヌは自身の経験を基に長年育くんできた強化計画を台無しにされて怒っていた。


 俺の戦線復帰を前提とした計画書とそうじゃない計画書の二つを抱え、特に後者は王宮に何度も取り次ぎ交渉の場を設けるも、門前払い地味た扱いを受け続けてきた。


 後者の計画は前者の計画と全く異なり、俺からしてみても深く良く考えられていた中身であったが、王宮貴族院はそれを頭ごなしに認めようせずどころか話すらまともに聞いてこなかったと以前からセリーヌから聞かされていた。


 それが、今や逆転し、セリーヌの鬱憤の爆発加減にはどうなることやらと心底愉しみだ。


 「野暮用っスかぁ〜そういや俺もギランさんに用があるんスけど……何とかならんもんスかねぇ〜。」


 4人の溜息が静かな王宮の客間に反響する。


 そこからほんの僅かな間をおいて客間の扉が開くと王都近衛騎士の1人がやって来ては謁見の間へと誘う形で俺達を連れ出す。


 向かう足音はまるで何かの福音にすら感じた。


 解放からの喜びと安堵が心地良く思える中、謁見の間に到着すると大きな扉が開かれ、そこには両脇に並ぶは国内外の重鎮やギルド幹部はじめ王国騎士団の主力が玉座まで続く中央に敷かれている深紅の絨毯を挟む形で整列しており、物々しいまでの雰囲気を纏いつつも静観していた。


 通路の中央を闊歩し玉座の手前まで連れてこられると、案内役の騎士は整列された持ち場へと退き、俺達はその場に拝礼するが如く跪く。


 「此度の一件、誠に御苦労であったな。冒険者よ。」


 その言葉の響きは威圧とは遠く違うものの威厳を感じるほどの重みを放ちながら俺達に降り注ぐ。


 王が一言、面を上げるよう促してくると、その場にて顔を上げる。


 「うむ……。この数日、調査団からの報告を基に精査しておったが、待たせたな。よくぞ、負傷者無く生還してくれた。感謝の意を述べる。」


 ヤンヌが直ぐ様に返事をするあたり、流石は高貴の出。


 慣れたものだと感心せざる得ない。


 俺にはその辺の知見は縁遠い……。


 「さて……何から話そうか。そうだな、先ずは緑生迷宮にて遭遇した変異体についてだが、未だ解析中であるゆえ、現状解っている事を話そうか……。」


 王曰く、緑生迷宮上層の20層で討伐した蜘蛛の変異体の魔核からは尋常ではない魔素量を確認した事を告げられる。


 王都の学者が言うには従来の迷宮主の魔核が保有する魔素量と比較しても100倍近くにあたる量であるらしく、今回回収できた魔核の転利用値、即ち生活利用に使える魔素量で換算すると迷宮主100体分以上の価値があるという。


 そこに加えて、その変異体の分体、ロックが討伐した蜘蛛の魔核も一体につき迷宮主10体分に相当するらしく、両方合わせるとニーズヤード国の年間消費魔素量を考えると実に何十年分かに相当するという。


 その事実に当初、王宮内でも騒ぎになったようだが、魔核が内包する異常なまでの魔素量というのは長い歴史を遡ってもそうは無く、今回の事象はとにかく異様で警戒せざる得ない。


 だが、そんな中で不可解な事もある。


 それは、俺達が緑生迷宮へ潜る前に何組もの冒険者が先に20層を越えていたが、誰一人して変異体に出くわす事は無かったらしく、その先の中層、下層でもその規模の敵の確認はされておらず、調査団もまた、確認できなかったらしい。


 王宮貴族院からは俺達の中にそんな化け物を解き放ったのではと怪しむ声も上がっていた様なのだが甚だ話にならねぇ。


 こちとら命からがらの辛勝だったと散々報告書に記載したにも関わらず、そんな世迷言を吐かす貴族を俺はぶん殴りたい気に駆られる。


 現に蜘蛛の親玉を討伐できたのは、ロックの参戦があったからだ。


 俺とフォーグルだけでは勝てていたかどうか実に怪しかった。


 神授能力を最大限使用しても敵の物量に押し負けていた。


 「そこでだ、吝嗇(けち)をつけた貴族院の一部を納得させる為にお主らには先日鑑定魔具で真偽を測らせてもらった。見事な活躍であったな。それで、褒美として4人の希望を伺いたい。申せよ。」


 急な展開に俺達は、まごつくもヤンヌは今回の一件に殆ど関与していなかったと返すが、王は未熟な冒険者達の保護をしていた事も鑑みてこの場に呼んでいると告げる。


 「なら、俺は自団の拠点強化に幾つかの設備が欲しいですね。今回の件で上位冒険者と言えども油断ならないことくらい肌でまざまざと感じさせられましたし……。」


 俺はフォーグルのあっけらかんとした性格が都合いいとさえ思えた。


 フォーグルは拠点の強化で団員達のレベルの底上げを狙い、ロックは緑生迷宮の異常を確認したいからと探索の権限を、ヤンヌは報酬の保留とした。


 俺はというと、正直何も考えが出てこず、黙っていた。


 何も要らないから、早くこの場から解放してくれなんて言えるわけが無い。


 王もまた、そんな俺を見てか困り果てていたが、ふと一つだけ思い浮かぶものがあり、口に出そうとした瞬間、強烈な魔素が俺を貫き、それに耐えきれず思わず倒れ込んだ。


 その場が動揺するほどに。


 激しい頭痛が俺を襲いつつも、幻聴なのか何か声が聞こえる。


 そしてその声は当然、その場に居合わせた全ての者達にも届いていた。


 ざわめく謁見の間は少しの混乱の後、1人の伝令が駆け足でやって来て言い放った言葉に静寂……というよりは度を超えた混乱具合で思考停止の様相となり、悶える俺は堪らず王に告げた。


 「王様……宝玉……。」


 異様な魔素感知と何処からともなく聞こえてくる声の言葉もあり、程なくして宝物庫から謁見の間へと金色の宝玉が運ばれてくると途端に一面を支配していた強烈な魔素は終息した。


 声の主は、宝玉からだ。


 その頃には俺の頭痛も嘘だったかのように治まっていた。


 「ふぅ~……やっと語り合えるな、英雄よ。」


 周囲の者達は皆、目配せをするが声の主も英雄と呼ばれた相手も見当がついていない様子。


 「主じゃ、主。我が加護を授けたであろう。よもや知らぬとは言わさぬぞ。」


 間違いない……俺だ。


 「なぁ、ひょっとしてアンタが黄源迷宮の龍神か?」


 王宮内は解析不可であった金色の宝玉が、黄源迷宮の龍神だと初めて知り、俺は精霊達の言葉を思い返す。


 「左様。しかし、見ないうちにこれまた幾ばくか歳をとったな貴様。あの時は、冥の守護星はなんちゅう化物を遣わせよったんじゃと思う瞬間もあったが結局……ふむふむ。やはり我の眼に狂いは無かったな。時に人よ。まず、一つ言わなければならぬ。」


 喋る宝玉を前にして、俺以外の者達は呆気にとられてしまい、まるで石化の病にかかっているようにその場を動かない。


 「英雄よ……よくもあの時我の声を無視こいてくれたのう?何度も……何度も……何度も声かけていたのに……貴様はとことん耳を傾けることなく立ち去りおって!お陰で我は魔素が中々に巧く扱えん黴臭(かびくさ)い部屋に閉じ込められていたのだぞ!20年もな!我からしたら然程(さほど)大した時の経過では無いが、それでも人らと時間の感覚は変わらないのだ!そこの王よ!貴様、20年黴臭い部屋に幽閉してやろうかッ!?こんちくしょうッ!」


 流石の王も龍神が相手だと威厳のへったくりもないな。


 先程までの威厳が見事に萎んでいる。


 だが、俺はある疑問をここで得た。


 「今こうして喋れるならなんで王宮に居る間そうしなかったんだ?」


 「今はこの場に我の加護を持つ貴様が居るから持たざる者達も影響を受けて聞こえているだけよッ!そもそも持たざる者が我に触れる事など断じてあってはならんのだッ!……とはいえ英雄とだけ話していても此奴らの事だ、難癖つけてそなたを困らせるのは明白。ゆえにお主を介しこうして話す方が話が早くてよかろう。」


 20年間の鬱憤は相当だな……舌の根も乾ききらぬ内に大した時間じゃないって言った癖に……それにしても貴族院の連中は何をそんなに顔真っ青にしてるのか……。


 「この20年、うぬら貴族(平凡)の会話を知らんとでも思うとるのか?かの英雄達と比べるまでもなく稚拙で矮小な器をしとるわ……我があちらこちらに迷宮を作り出して嫌がらせしていたのも禄に気付かぬとはな。」


 龍神様(アンタ)も大概器小せぇなと、この時思ったのは俺だけじゃ無いはずだ。


 「ん?なんか文句あるか?」


 やっぱ龍だ。感情の波を捉えるのに長けている。


 「で、その矮小者を呼んで何の用なんだ?」


 すると、ロックが俺に間髪入れず釘を差してきた。


 「コ、コ、コウさん!相手は龍神様っスよ!そんな失礼な物言いしたら石にされちまいまスって!」


 「知ったことかよ、勝手に人に加護付けといて英雄呼ばわりするなんて、はたはた迷惑だ。いいか、俺は精霊達から龍神様(宝玉)を戻すようお小言を散々貰ってんだ。そっちから現れてくれて手間省けて助かったぜ。帰るぞ、龍神。」


 「ほう。話が早くて助……じゃないわ!此方の話を聞かんか!痴れ者!」


 「何だよ、まだ何かあんのかよ?精霊達のお小言にうんざりなんだ。手短に頼む。」


 「うむ、ならば手短かに致そう。英雄よ、ちょいと手を宝玉に乗せよ。」


 「こうか?」


 言われるがままに宝玉に手を乗せると突然手の甲に強烈な熱が宿る。


 「うむ。契約完了よ。では帰るとするぞ。」


 場はどよめく。


 そして俺の心はざわめく。


 竜と関わると何かと苦労する経験しかないからと突然の出来事に嫌な予感しかしないからだ。


 「ちょ、ちょっと待て!何しやがった!?」


 「何って、契約だが?」


 契約だが?じゃ、ねぇよ。


 「お主が手短にと言ったではないか。本来ならば20年前に交わしていたのだぞ?」


 確かにそうだ、そうだが、何か違うだろ。


 いや、俺に非がある……いやいや、待て待て。


 「ふむ。何だそうか、この感じだと誰も契約について知らぬのか。よかろう、ならば語るとしよう。」


 ―契約―


 それは、かの英雄達の中でも特段に、龍神好みの者にしか与えられず、それを刻まれた者は龍神に認められたも同然で、加護主の力を分け与えられ刻まれた紋はその証となる。契約とはつまるところ死ぬ迄龍神の眷属として生きる意味を持つが、その生き方は様々であるという。


 「……コウさんって桁違いの度胸ありません?」


 「昔からそうじゃが、あれでもかなり丸くなったものよ。」


 「ただ馬鹿なだけだろ、ヤンヌ。」


 ロックはともかく2人は俺に聞こえるようにあえて言っていたが、それよりも今は龍神様だ。


 20年も前から人に断りもなく勝手に加護を付けといて何を偉そうにしてやがる。


 こっちはそんなの一度も望んじゃいないし、一方的につけられたんだ。


 寧ろ取り外して貰いたいくらいだ。


 「加護付けた張本人なんだから取り外しも出来るんだろ?加護なんて望んじゃいないから外せよ。」


 俺の言葉に龍神様以外は震えあがっていたが、当の本人ならぬ本龍は大笑いをかまし、破棄はしないと言い切って、俺は腹の虫が治まらない。


 「本当、お前って馬鹿なのか大物なのかわからんよな。あのなぁ、龍神様の加護って言やぁ、基礎能力や耐性度の上昇とか、運気が良くなったり様々な効果が覿面(てきめん)なんだぞ?それを外せだぁ!?お前の頭の中どうなってんだよ……。」


 フォーグルがそう言うと、ロックやヤンヌ以外にも王宮貴族院の連中や各国の要人、王すらも言葉が出て来ないのか頻りに頷いている。


 相手が龍神様だろうと勝手は許せない。


 「馬鹿はお前だ、フォーグル。契約破棄(クーリングオフ)は立派な権利だ。」


 俺がそう言うと宝玉に文字が浮かび上がる。


 『〝当宝玉は一切の苦情を受け付けません〟』


 俺はジルゴ特性の剣にありったけの魔素を込めて振り上げ、3人は必死にそれを抑えかかってきた。


 「さて、冗談はこのくらいにしておいて時に英雄よ、冒険者なのであろう?」


 その問いに俺は頷く。


 「何故冒険者となったのだ?我はそれが一番気になっておったのだ。初めてお主と邂逅した際、(あら)ゆる感情が読み取れ実に不器用極まりない生き方をしてきた者だと興味を持ったのだ。」


 俺はその問いに直ぐには答えなかった。


 それに答える必要性が無いと感じた上に、しょうもない身の上話をする気になれなかった。


 世の中、口の軽い奴ほど中身も軽いとはよく言ったもんだ。


 だから、俺は口を閉ざす。


 龍神様もそんな俺に勘づいたか知らないが、質問の角度を変えてきた。


 『冒険者として何を成したいか』と。


 そんなもん昔から決まっていた。


 世界各地に散らばる景色や食べ物、海の広さも山の険しさも、地を這う魔物も天高く飛ぶ魔物も、そこに息づく文化や歴史も全て観れるとしたら、冒険者しか有り得ないのだから。


 「俺は、世界中を飛び回りたい……それだけだ。」


 静まり返る場に龍神様の笑い声だけが反響する。


 「やはりお主は……。ならば尚の事、我が加護を連れてゆけ。お主次第で感じる世界は〝色〟を変えようぞ。」


 俺には龍神様の言葉の意味も意図も計るのは至難。


 だが、その言葉だけは何故か嬉々として素直に聞き入れる事が出来た。

 

 「お主が求めるものの道中、我が加護が救いになるのは間違いないぞ。世界は未知に溢れ、容赦なくお主に試練や絶望を与えるだろう。生き死にの境目に加護の有無によって救われてきた英雄達もまた少なからず居おったからな。存外、我が加護を有するというのは悪い話ではないぞ。何せ、磨かれた綺麗な魂にしか加護を付けれんからな。」


 俺の何処に綺麗な魂があるというのか……。


 負けて、折れて、逃げ回って、死に場を求めた魂がとても綺麗とは思えなかった。


 「なぁ、龍神。一つ聞くが、何で俺なんだ?」


 「虹の迷宮で非常時発動型の神授能力を乱発しおったとんでもない人族が現れたと、専ら守護星は騒いでいたからな。我も黄源迷宮で対峙した際、聖とも邪とも呼べぬ、お主から感じた違和感は相当な物だった。ゆえに試す形で試練を与えたが、容易く乗り越えおって……。それでは理由にならんか?我がお主を気に入る理由に。」


 話を聞いている内に俺は一つだけ確信できた。


 水蛇に狙われたのは龍神様(コイツ)が元凶じゃねぇか!


 道理で可笑しい訳だ。


 だが、今となってはもうどうでもいいとさえ思えるのも事実で、これもまた一興なのだろう。


 俺は吐くのを止めた。


 「……。解った、龍神。四の五の言った所で俺の人生で、冒険者として、成すことは変わりないからな。なら、存分に使わせてもらうぜ、アンタの加護。」


 「ふむ……。お主の心の内、確かに我も理解した。やはり、お主は英雄(優良なる平凡)よ。そういう事だ、この国の王よ。我は黄源迷宮に帰らせてもらうぞ。良いな?」

 

 ―ヤンヌはこの時の情景を後に、著書『優良なる平凡』と云う伝書にて後世に語り継ぐが、それはまた別のお話―


これにて一章終わりです!

お付き合い有難う御座いました!

次話からは二章となりますが色々考察して更新遅くなるかもですが、更新したらまた目を通してやって下さいね。でわ!


というわけでここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪



書き溜め… …_φ(・_・

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