15話 オールオーダー 〜繋がりし者〜
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
今回はシリアス回となりますので苦手な方は読んじゃダメですぞい!
★★★
「精が出るわね、そんなに落ち込んじゃって、まぁ可哀想。」
「うるせぇ!毎度毎度絡んできやがって!お前の挑発は傷に塩なんだよ!」
拠点の訓練場で若い男女が賑やかに罵り合う。
「なんでだ!?なんで、いっつもコウなんだ!」
歯軋りしながら魔力障壁であつらえた模型に向かって剣を遺憾無く振るう青年の名はフォーグル・ベルジャイル。
傍らで茶化す女魔法使いはシシリー・ファルルムという。
「どうしたの?シシリー、フォーグル。」
そんな2人にロゼリアは声をかけながら近付くと傍らにはリースとセリーヌも居て、2人の下へとやって来る。
「あら、ロゼ。丁度良いところに来てくれたわ。ねぇ、ちょっと聞いてよぉ〜この間抜け……。」
シシリーの言葉を堰き止めるようにフォーグルは遮る。
「なによ!今は私が喋るターンでしょ!」
「やかましいんだよ!お前は!」
【奇想天外】の主力の罵り合いが繰り広げられる予兆を見せかけたが、その間をジェノが近くにある大木の幹の裏に背中を預け寝入っていたが煩くて目覚め、そして見事に割って入った。
「歓楽街のお姉さん達にコウの話ばっかり聞かれて頭に来てるらしいぜ、ロゼリア。」
「ジェノ!てめぇ、いつからそこに!」
「あらあら、いつもの事じゃない。」
「そりゃ、ないぜ。ロゼちゃん!」
いつも通りの穏やかな日常にセリーヌはくすくすと笑い、リースは呆れ、シシリーもロゼリアも笑う。
そんな穏やかな光景に必ずと言っていいほどその先の展開は読める。
「まーたお前等だけで楽しんで……でなんか面白い事あったのか?」
コウの登場である。
「出たな……宿敵!」
「なんだよ?敵じゃなくて俺は味方だろ。」
その会話の切り出しは最早一種のネタに成りつつある。
「うるせぇ!うるせぇ!とにかく手合わせしろ!」
「はいはい。んで、今日はどんな理由だ?」
「誰が喋るか!この……人誑しめ!」
「女の尻ばっかり追っかけてる奴に言われたかないね。……この助こましめ!」
決まりきった台詞は両雄の開戦の合図。
2人を除く一同はその場から身を引き、行方を見守る。
互いに剣を抜き立ち会うとコウは魔素を少しだけ刀身に宿し、フォーグルは魔素を全開に走らせ全身に纏う。
甲高い金属音が激しく轟くとフォーグルの剣は断続的にコウの刀身を捉える。
「なんだなんだ、フォーグル。まーた歓楽街でなんか言われたのか?」
「うっせ!馬鹿!余裕こいてねぇで、かかってこいや!こら!」
そして、その間、5分も経過しない内にいつも通りの静寂を取り戻し、団長の仕事を片付けにコウはその場を去ってゆく。
「馬鹿なのはアンタよ。サボり魔が〝明星〟に勝てっこないでしょ。」
(サボり魔……ねぇ……。)
いつも通りに訓練場の草の上で空を仰ぐフォーグルはシシリーに尋ねた。
「……なぁ、シシリー。俺ってそんなに弱いか。」
珍しい事を口にしたとシシリーは言うが、その答えは彼女の口から出てこず、見かねたロゼリアは近付きながらそれを否定する。
「お強いですわよ、フォーグルさんは。」
仰向けになりながら一度だけ視線をロゼリアに向けて、また空へとフォーグルは戻す。
「なんで勝てねぇかな……。」
「コウもジェノも竜人族に鍛えられてきたからじゃないの?学院の剣技レベルじゃ雲泥の差でしょ。」
今度は直ぐにシシリーは答えた。
すると、フォーグルはその場で半身を起こし、ジェノを見た。
ジェノはいつも通りではない男の表情に何かを察し、素直に応えた。
「そんなに腕を磨きたければ竜人族の世話になると良い。嫌でも腕は磨けるさ。」
「……。やっぱりいいや、お前等に相談した所で解決する話じゃないしな。」
結局のところ目指す頂きの行き着く先は自分との戦いの連続であると頭では理解しても今日に限っては身体が付いてこないのがフォーグル・ベルジャイルという男なのだ。
「だらしないわね。それでもあたしと同じ〝精霊に愛されし者〟なの?そんなんじゃ、いざって時に精霊は力貸してくんないわよ。」
「言ってろ……お前と違って俺は劣等生だから、そもそも見向きもされてねーよ。本当に愛されてるなら今頃俺の〝五行〟はこんなショボくねぇし、コウだってギッタンギッタンのバッコンバッコンだわ。」
☆☆☆
「ねぇ、フォーグル。ちょっといい?」
明日は一年の半分である節目とも言える英雄ガロンの生誕祭。
そんなお祭りに誘うべくシシリーは夜な夜なフォーグルの部屋にやって来ては部屋の中央付近の椅子に居座る。
「なんで、お前とデートしなきゃいけねーんだっての。」
「はぁ?こっちもアンタなんか誘いたくないわよ。そりゃ団長は良い男だし、でも忙しそうだし、ロゼリアさんも居るし、そもそも私なんか相手にされるわけないわよ。それに……。」
「それに、なんだ?どいつもこいつも団長、団長うるせぇよ。お前とデートするくらいならセリーヌちゃんと居るほうが百倍マシだね。ありゃあ、大きくなったらロゼちゃん以上に上……」
フォーグルが喋り切る前に近くにあった枕を投げつけるシシリーは怒りを示して立ち去ろうと席を立つ。
いつも通りなら痴話喧嘩で済むところだが、異常なまでの圧についついフォーグルもたじろぐ。
「……言い過ぎた……。」
その言葉を聞いてシシリーはつい先程まで座っていた椅子を越えて更に距離を縮めるとベッドの端にフォーグルと向き合う様に座る。
「……学院時代からの十年間、アンタとの付き合いが長いのも有るけど、最近のアンタこそコウ、コウばかりでしょ……もっと自由にお気楽に図々しいアンタらしさ取り戻しなよ。戦闘スタイルも地力も、コウちゃんとは違うんだから。今のアンタ観てるとさ、なんか……ムカつく。」
「はぁ?俺は俺らしくやってるつうの……別に学院でもお前と違って優秀じゃなかったし、上が居たのも理解してるし、自分を見失わずにやってきた。それでもよ、俺は辺境の、しかもド田舎の芋野郎に歯が立たないのが苦しいんだ……。ジェノやロゼちゃんは地頭良いし、育ちも良い。だけどコウだけは、彼奴だけは天性の何かがあってよ、俺の学院での全てが、無意味にしか感じねぇのが……悔しいんだよ……。」
フォーグルが吐いた感情は才能の違いによる感覚と努力だけでは埋まらない溝の深さによるズレであるが、時にそれは人を痛烈に陥れる皮肉ともなる。
〝嫉妬〟
今の彼にハルサメ コウの存在は彼の冒険者として以前に人としても惨めだと自身を思い込ませる石化の病である。
彼を観れば観るほど、自身の素質も何度も何度も血豆を潰してきた掌もみるみる内に固まっていく感覚。
それを解く為に、この数年誰よりも頑張り続けてきた自負はあれど、自信はそっぽを向いている気しか感じない。
「ねぇ、考えすぎ。周りには努力の欠片も見せないその癖、止めなさいよ。アンタが1人で滅茶苦茶頑張ってきたのは私が一番良く知ってるんだからね?誰よりも頑張ってる時のアンタって意外と格好いいんだよ。それなのに、毎回、毎回暗い顔ばっかりして。だから、私が……。」
いつもなら茶化してくる学友の違う雰囲気に違和感を憶えたのは恐らく言葉尻の窄み方、この十年間で初めて見たそれは違和感しかない。
フォーグルは何かを言おうとしたが、先にシシリーが喋る。
「生誕祭の言い伝えは知ってる?」
「言い伝え?なんだそれ?」
「……男女が愛を誓いあえば……永遠に……結ばれるってさ。」
「あぁ、その文言、聞いたことある。英雄モントレーが海魔女に永遠の愛を誓……ってそれ、【英雄の片道切符】に出てくるやつじゃねーか。シシリー、お前、その意味本当に知ってて言ってんのか?」
「……何よ。本当の意味って。」
「いいか、【英雄の片道切符】の表向きは生涯通じて愛を謳い続けて永遠の愛を貫く。だが、それは裏を返せば叶わぬ恋路であるってのが本筋だって著者は伝えてんだ。人族の英雄と災いの海魔女は決して交わる事のない愛に生き、溺れ、やがて果てる。って悲劇だぞ?そんな物騒な物語を生誕祭で言い伝えた奴誰だよ。縁起でもねぇ。」
シシリーは驚くも何処か不安気な、曇った表情をしたが、意に介さず気を取り直して告げる。
「なんだ、嘘かぁ〜!……喋っといて良かったぁ〜……じゃあ明日の昼ね!約束よ!んで美味しいもん食べて、元気になるのが一番!早く寝なよ、学友!」
束の間の会話に意気揚々と引き揚げようとする後ろ姿に疑問符を突きつけるフォーグルだが、去り際のシシリーはフォーグルに視線は向けなくともある事を囁きながら彼の部屋を出た。
フォーグル自身もその言葉の意図に気付いてからは心のどこかで何かが軽く弾けた気がした。
その後寝付くまでの間、ベッドの上で繰り返し思い返していたのは憎き宿敵の顔ではなく、喜怒哀楽の学友の眼差しだった。
☆☆☆
「冒険者の諸君。こんな日に集まってもらい済まない。緊急依頼だ。」
マジかよと落胆したのはフォーグルだけではないが、これも冒険者の宿命、如何なる時でも命を賭さなければならない。
ガルフ領の南部にある都市の冒険者宿舎からの救援要請。
王都からさほど距離は無く、ちゃちゃっと終わらせれば夕暮れ時前には帰って来れる。
依頼内容は、ようやく完成した都市へ魔物群が度々ちょっかいを出してきていたがここ数日間で、その数が目に見えて増え、大事なこの時期まで処理が延びてしまった。
魔物の不可侵用に魔力障壁を張り直すとの依頼で人手が足りないからだ。
王都からは【奇想天外】を筆頭に10を超える大きな冒険団が派遣される事となったが、各々の口からは文句が散見していた。
わざわざこんな日にとか、ギルドの判断が遅すぎるとか、結界の再構築かよとか。
特に魔法使いや精霊使いにとって結界の再構築には莫大な魔素と神通力、要は精神力が必要とされる為、一度経験が有る者は解るのだが、およそ向こう三日間は魔素薬の回復すらまともに通じないので生誕祭の催しが充分に楽しめないのではと危惧している。
「つべこべ言うな!時間が惜しい!とっとと終わらせて王都の夜を愉しむぞ、野郎共!!」
コウの激により、集められた全団は結束すると、真新しい転送魔具で王都からガルフ領南部の地上都市へと移動する。
その後は中層にある地下都市まで、破竹の勢いで進み抜き王都を離れてからものの数時間で到着するや否や、早速、各地からの援軍含め魔力障壁の準備に取り掛かる。
集められた魔法使いや精霊使いらが一斉に各地点に配置する間、前衛職は都市内に侵入していた魔物を駆逐し、それを確認した後衛職はあっという間に障壁を生み出し地下都市を魔物の不可侵領域と化し外敵の侵入を結界により防ぐ。
全魔法士の大幅な魔素量と神通力を引き換えに。
「よっしゃ!これで依頼完了!」
誰かの勝ち鬨に皆が浮かれていると、コウの一団も安堵していたそんな矢先に悲劇は訪れた。
爆音が数回聞こえた後に人であろう悲鳴が聞こえ、近くに居た冒険者達が向かった先には血塗れになって横たわる瀕死の女性が倒れ込んでいて、その近くで震え怯えている子供の頭を親らしき女性が必死に抱えながら家屋の外壁に吸い付くように身を寄せて座り込んでいた。
そして、その場に君臨している人影……いや、魔物は知性を持った人型の影。
「【魔霊種】だ!!それも間違いなく亜種だッ!!」
その場から遠く離れていたコウ達の耳に届いたのは連絡用魔具のお陰であったが、伝わってくる状況から察するに嫌な予感しかしない。
コウは事の起点となっている地点まで駆け抜けながら徐々にあちらこちらから集まってくる冒険者達を都度振り返るが、そこにいつまで経っても見知ったとある顔が見当たらない。
胸の奥で鼓動が激しく叫ぶ。
だが、それ以上に人知れず鼓動が張り裂けそうになっていたのはフォーグルである。
その場に到着すると、魔力を枯渇させた魔法使いや精霊使いが数名倒れ込み、魔霊種の対応に当たっている冒険者達は手が離せない戦況であったが、続々と集まってくる冒険者の数に流石の魔物も宙へと高く舞い上がる。
コウの感じていた悪い予感は当たり、フォーグルの張り裂けそうな鼓動の叫びは途端に行方をくらます。
横たわる女性の服が乱れ破れ所々、肌が露わになっているが、派手に裂けていたのはそれだけではない。
想定以上に傷は深く、近くに居た魔法使い達は先程の結界構築にて殆ど魔力を使っていた為に、応急処置程度しか魔法を使えていなく、気絶間際の様子にコウは急ぎ手持ちの魔具袋から魔素薬を取り出して女性に打ち込むも、魔霊種の呪いによってそれは阻害される。
「誰か!呪いを解いてくれ!」
近くに来た精霊使いが手当てに参加するも呪いの重さがそれを嘲笑う。
駆けつけてきた何人もの精霊使いが代わる代わる試みるも呪いは一向に消えず、1人、また1人と魔力欠乏を起こしては卒倒しかけ、コウは焦りを募らせる。
やがて地下都市の教会僧侶が駆けつけ治療にあたる。
「おい、しっかりしろ!フォーグル!!」
コウは脱力し呆けるフォーグルの頬を軽く叩いたが、彼の様子は魂を抜かれたかの様で、そこにへたる。
「コウ!魔霊種を討つぞ!」
ジェノの怒りを滲ませた怒声にコウも応えるもののフォーグルから離れるのを躊躇う。
宙に浮かぶ魔物は眼下を見下ろすが如く、ふわふわと慌ただしい冒険者と対比するように、静かに浮かんでいた。
「あぁ、そんな……。」
ロゼリアがそう口走った矢先、僧侶は何とか呪いを解こうとしたがあと一押し足らず、その場に倒れ込みながら、地上の教会へ運べば、まだ間に合うと弱々しく告げる。
その一連のやり取りを近くで聞いていたコウは、魔具袋をロゼリアに託し、女性を抱えて有りったけの魔素を脚に宿し、転送魔具のある階層まで駆け抜ける。
疾風の如く。
その間、意識が朦朧としている女性は呟きを断続的に止めようとしなくコウは声を返し続けながら時折、それを制していた。
「糞ッ……やい、卑怯者!宙にばっか逃げてねぇで降りてきやがれ!死に損ないの屁垂れ魔法士!鎌持ってるから魔法士じゃねぇな!屁垂れ外道士!」
ジェノの発した安っぽい挑発に魔霊種は知性がある為か反応して襲い来ると、その勢いと相対して地上にいる戦士達は飛びかかる様に討ち迎え、交戦は激しく火花を散らす。
荒れ狂う戦士達の奮闘に未だ参加しないフォーグルにロゼリアは痺れを切らして、フォーグルの頬を強烈に叩く。
「まだよ!まだシシリーは死んでなんかいないわよ!貴方はあの娘の英雄なんでしょ!?闘え!」
頬から伝わってきた突然の衝撃にフォーグルはある日の想い出を思い出していた。
☆☆☆
コウが地上都市の教会へ着くと、神官達はじめその異様な雰囲気に教会の僧侶達は急ぎ手当ての準備を始め、コウは事の経緯を伝えた。
そこに居合わせていた神官たち数名含む腕利き冒険者の一団が急ぎ地下都市へと駆け出す。
そんな慌ただしい最中、息が細くなり始めていたシシリーはコウを口元に呼び寄せると、語った。
「あのね……コウちゃ……聞いて……」
「もういい、充分だ!喋るなシシリー!」
コウはシシリーの全てを拒絶するかの様にシシリーを遮断しようとしたが、血に塗れた口元から血飛沫をあげて怒鳴った彼女の目一杯の力強さに言葉を呑む。
一変して穏やかな表情に戻るシシリーは学院時代の野外活動でのフォーグルについて弱々しく語りはじめた。
止めてはいけない。
コウの両眼は次第に悪化してゆくが、それは悲観の感情というには余りにも違いすぎる。
彼女の覚悟に対して、生命の煌めきに対してのそれだった。
コウはシシリーの昔話を聞きながら心の中で治療を急かしていたが、シシリーの顔色が徐々に薄くも何とも言えない色へと変わり始めてきていて、目の下は青黒さを次第に帯びゆく。
「もう喋らないでくださいシシリーさん。コウさん今から治療しますので離れて下さい。」
コウは近場にあった長椅子に蹌踉めきながら腰を落とすと、必死で視界を妨げ続けるそれを拭い続けた。
どのくらいの時間が経ったか、未だ連絡用魔具からは報告がこない。
ふと視界外から覗き込んできたのは僧侶の革靴だ。
「シシリーさんの治療は終わりましたよ。此方へ。」
促されるままについて行くと、幾分シシリーの顔色は色を取り戻していたのを見て確信したコウの両眼のそれは溢れた。
「コウちゃん……おねがい……きいてくれる?」
か細い声はいつも通りの活発さとは程遠い。
そんなシシリーは連絡用魔具を弱々しく指差す。
シシリーの思うままにコウは連絡用魔具を渡すと、彼女は思うがままにそれに声を通す。
「ねぇ、……聞こえてる?私は……救われたよ……コウちゃんが一生懸命に……走ってくれたから……だから……言える……ありがと……フォーグル、大好きだよ、愛してる……んで……勝て英雄……オールオーダー……。」
ガロンの誕生祭にて愛を告げたシシリーの姿に教会の色鮮やかな窓から晴天の一筋の光が祝福するかの様に彼女を照らすとコウも内情の〝な〟の字すら知らない僧侶達も感情を抑えることは最早不可能だった。
☆☆☆
連絡用魔具を通じて多くの冒険者は歓喜をあげながらシシリーの声に反応した。
方方から漏れ伝わる声は盛大な、うねりとなって士気を高め、ロゼリアは口元を必死で押さえ続けて、その場に経垂れ込むと1人で泣き崩れ嗚咽を垂らす。
確かに聞こえたシシリーの言葉に英雄は今迄に感じたことの無い熱量を体の内側から解放すると、まるで誰かと会話をしている様に思えた。
そして英雄はその場に無音で立ち上がる。
身につけていた甲冑の擦れる音さえもさせず。
そして声を挙げる。
「力が欲しい、護れる力……大切な身も心も全てだ……、……あぁ、そうだ……【精霊との誓約】、誓いの掟を行使する。」
色鮮やかな魔素がフォーグルを包み込むと、現場に居合わせた神官達や一部の者は、とある挿絵を思い出していた。
5色の色鮮やかな精霊を象るは、精霊紋。
ロゼリアから手当てを受けて徐々に快方に向かっていた魔法使いも精霊使いも、その光景を目の当たりにすると霞み揺れる目眩さえも掻き消された。
「〝五行〟……。」
誰かが呟いた2文字の言葉は、魔法使いや精霊使いじゃなくとも人生において一度は耳にする単語だが、それを目にする機会はそう多くないゆえに片時もそこから視線を逸らそうとせず、ただただ、ひたすらに色鮮やかな光を見つめる。
冒険者達を、神官達さえも手こずらせていた魔霊種までもが、その強烈で鮮烈な光に目を奪われ、静観する。
その光が、やがて英雄の剣に集束しきると解き放たれた一筋の光線は【魔霊種】を貫き一瞬で塵と化し、浄化する景色を描いた。
挿絵を思い出していた者達はその景色は紛れもなく【英雄の片道切符】の一幕だったと後に語り継ぐ事となる。
☆☆☆
生誕祭の夕暮れは見事なまでに赤々として安らかな風の福音がすり抜けるとフォーグルの姿を綺麗に形抜く。
そこから少し離れてロゼリア達は静かに事の成り行きを見守っていた。
英雄の背後から1人の影が近づいていくとその距離は肩が触れる位置まで歩み寄る。
「よぉ、勝ったぜ。注文通りに。」
フォーグルは明るい声をかけると、近寄ってきた影は無言のまま寄り添う。
「なんか言えよ、コウ。」
返事を躊躇っていたコウは口を開いた。
「聞いたよ、シシリーから。学院時代の話。」
「……想い出あり過ぎてどのことやら。」
「初めてフォーグルに惚れた日の話。」
そこから少し間を挟み、互いに会話の再開機会を探るが、上手く見つからず、視線すら合わせないでいたが、フォーグルは意を決して聞き返す。
「そりゃ、ひょっとして野外活動の時か?」
「あぁ……お前がシシリーを救ったってさ。それからずっと惚れてたらしい。」
「へっ、単純な奴だな。劣等貧乏貴族なんかに惚れるから罰が当たったんだ。」
思わずロゼリアは口を挟もうとしたがジェノとリースが言葉なき制止を計る。
「なんで彼奴が死ななきゃなんねぇ?」
コウにはその答えは答えられない。
「あんだけ冒険者居たのによ、魔霊種がふざけた強さしててよ……なんで彼奴なんだ……死ぬなら毎日ふざけてた不肖な俺だろ……違うか?答えろよ団長!」
「……。皆、精一杯やるだけの事はやっ……」
コウは喋り切る前に突如として胸ぐらを掴まれたが、向き合った仲間の顔を見てしまうと、ただ黙るしか選択肢はなく、それだけでも心の器から溢れ出しそうになる感情を隠すために下唇に八つ当たりをする。
「シシリーは生きてた!お前が間に合ったお陰だし、教会の治療のお陰もあった!だから最期まで喋る元気取り戻せたのは俺だって……俺だってそんな事は理解してんだって!なのに、それなのに、もう皮肉も挑発も聞けねぇ……聞けねぇんだ!なんで彼奴なんだよ!あれだけ冒険者居たんだぞ!?あんな化物が居て!なんで、戦死者はシシリーだけなんだよ、居たじゃねぇかよ、瀕死になって倒れていた冒険者なんて幾らでも居たじゃねぇか!なんで……シシリーだけ連れてってんだよ……。」
向き合って目一杯に吐露した英雄は膝から崩れ落ちるもコウの胸ぐらを掴んでいた両手を今度はサルエルの裾へと移す。
「お前の気が済むまでとことん付き合ってやるさ。シシリーが最期まで話していた事も全部伝えなきゃ俺も夢見が悪くて仕方ねぇ。」
やっとの思いで声を出したコウだったが、その声は微妙に震えていて、滅多に聞く事のなかったそれにフォーグルも滅多に聞かせる事のなかった嗚咽を盛大に垂れ流す。
王都大聖堂の敷地内にある高台で陣取る英雄墓地に吹いた風は夕暮れ時の蒸し暑いはずの微睡みを優しく連れ、宙を駆けていった。
高台で途方に暮れる2人に何かを告げ去ったかのように。
そして英雄は精霊達との誓いと同じく心の中で叫び誓った。
―もう、何人も傷つけやさせない、殺させやしない、やられやしない―
★★★
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
今回はフォーグルの過去についてでした。
シリアス回書くのゲロ吐きそ……
一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




