10話 凹んだ双璧
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的で緩く書いてますので拙い文章力ですが最期までお付き合い下さい。
「二人共には何時も感謝しているんだ。本来ならば先頭に立つべき者が長い間、不貞腐れていて歯痒かった。その気持ちを少しでも軽やかにし続けて居てくれたからな。」
周囲はマウベルが支配する殺気とも呼べる重圧にその場を動くのを躊躇う。
動けばそれは自身に降り掛かってくる気がして、固唾を呑んで成り行きを見守るしか無い。
かつてゼルファークに向けた渾身の魔素が鋭さを増して跪く両者を狙う。
「なに、死にやしないさ。」
その言葉の真意は今のマウベルからしてみれば冗談には聞こえないと周囲は思ったが彼からすると決して冗談ではなく、冒険者として既に寿命を終えている為、ハゼの黒曜鉱の鎧もリースの不死鳥の羽根も今となっては砕けないと確信しているからこそである。
蹌踉めきながらもその場に立つ両者に向かってマウベルは促す。
リースに全力でエルフ族の神授能力を。
ハゼには全力で土竜族の神授能力を。
特にあとに続くマウベルの言葉は2人に向いた。
それは断罪に満ちた怒りを含ませながら。
マウベルの気持ちを察したハゼは荒く乱れる呼吸の中で十数年前のある言葉が突如として蘇ったのだが、他に思い当たる節がなかった。
(そういう事か……。)
言葉を発することなくそれを受け入れるハゼは覚悟を決めて神授能力を発揮し大斧を眼前に構える。
その成り行きを見守るリースもまた、そのやり取りについて腑に落ちたのかマウベルの想いに従う。
「バノス、バノス。なんで涙流してるの?」
「儂じゃ出来なかった事を今マウベルがやろうとしてるんだ。」
〝誓いの鉤爪〟所属のある団員が副団長のバノスに聞くとバノスは牛人族に感謝しつつ団員を諭す。
バノスは思い返す。
副団長として是迄果たしてきた責務の中で唯一果たせなかった事とハゼに対して抱えてきた罪悪感を滲ませながらマウベルへ視線を向けたまま謝意と畏怖の念を惜しみなく抱き、熱望する。
「理解してんなら、それで良い。」
庭の中心地点でマウベルがそう言い放つと、強烈な魔素がマウベルの両手を包みこむ。
その圧力は瞬く間に増加し続ける。
最早その姿は人智の最高領域と言えるのかも知れないとヤンヌは呟く。
冒険者の高みを、頂点を、目の当たりにするのはゼルファーク以来久しく瞬きすらも惜しく感じる。
マウベルの呼吸が深い所で止まるとその一瞬は豪風と共にハゼを庭の分厚い防壁へと吹き飛ばし、次に彼女渾身の魔力障壁を容易く砕いてハゼとは真逆の防壁へとリースを突き飛ばした。
「セリーヌ。手間をかけてすまんが、二人の介抱を頼んでいいか?」
「もとよりそのつもりでしたからご心配なく、マスター。」
そうマウベルと言葉を交わすとセリーヌは双璧の団員達に手伝いを求め、其々が意識の飛んだ団長を宿舎内療養室へと運ぶ為、団員達は手を貸した。
二人の身体を担ごうと動かしたその時、双方の団員達は横目でそれを目の当たりにしては各々想いを馳せる。
ギルドの防壁は訓練場兼用の庭につき不壊とまでは言えないが、かの英雄が何層にも重ねた魔力障壁を開発して何百年もの間ギルドを護ってきた。
それは歴代の英雄達ですら破壊は出来なかった事を冒険者ならば誰でも、まず教えられる。
しかし、その教えは防壁同様、文字通りに砕け散った。
牛人族の能力は他種族からすると力に関する部分は確かに竜族に引けはとらないわけだが、それを極めるとなると、よもや竜族を超えるのではと錯覚させる。
それは人族や並の多種族では到底考えられない所業。
二人を乗せた担架は緩やかにも丁寧に運ばれる中でセリーヌは凹んだ双璧を眺めていて、マウベルは1人宿舎長室に身を寄せていた。
「ゼルファーク、ミナイ……これで良かったのだろうか……俺には正解は解らん。きっとお前達が居てくれたら、彼奴等はもっと大きく成長していただろうな。不器用ですまん。これでも目一杯、約束を違えぬよう努めているつもりなんだが……これではコウの事どうこう言える立場じゃねえわな。」
誰に聞かれることもなく、マウベルは1人天を仰ぎ、一粒の混じりきらぬ感情を眼から零す。
☆☆☆
「そんなに2人が心配です?バノスさん。」
療養室の一角にある病床にてハゼとリースに挟まれる形で背もたれに腕を預けながら椅子に腰を落としていたバノスにセリーヌは声をかけるとバノスは面目なさ気に返事をする。
「セリーヌちゃんってさ、〝魔封戦斧〟以前のハゼを知ってるかい?」
リースとハゼの介抱をしながらセリーヌはほんの少しだけと返答した。
「昔はハゼの奴、主戦武器は鉤爪だったんだよ。儂ら土竜族は身体的に相性が良くてな。団設立以前から儂はよく悪友達の武具を鍛えていもんだ。」
「マウベルさんから聞いたことがあります。バノスさんは鍛冶あがりの冒険者だって。」
〝魔封戦斧〟が設立されるずっと前からゼルファークとは知己であり同郷のハゼとは幼馴染であったバノスはゼルファークとハゼの二人だけの零細冒険団設立以前からの付き合いであり、よく三人で悪だくみをしていた。
まともに小遣いがなかった時代は、おいそれと武具を造れる筈はなく街ゆく冒険者の姿に憧れるも巧く取り入ってはお溢れを貰っり、特に可愛がってくれる冒険者とは物々交換したりしては、ひたすらジルゴの狭い工房で時間を過ごしていた。
時偶、三人で将来を想像しては互いに目標を日夜構わず叫んでいた。
ゼルファークとハゼは英雄達に心ときめかせ、バノスは名工に心を奪われる。
そんなバノスを顔見知りの冒険者達は茶化したが2人は決して笑わなかった。
「良いんじゃないか?冒険者じゃなくともバノスなら名工と呼ばれるに違いない。」
「そうじゃ、そうじゃ。いつかは凄腕の鍛冶師になって笑った奴等を見返してやりゃいい。」
バノスにとってその言葉と2人の顔は今でも鮮明に思い出せるほど強烈で、バノスという男の運命を決定づけた。
「あの頃は至る所で魔物が棲息していてな、ゼルファークもハゼも暴れまくって、周囲からは子供とみなされておらなんだ……んで、儂の作った武具もその甲斐あって徐々に売れていった。その頃くらいからゼルファークから言われたんじゃ。鍛冶が出来る冒険者ってのも稀少中の稀少ってな。」
バノスの柔らかな表情にセリーヌは魔素水を絞った手拭いをリースの額に乗せ終えると身体の向きを彼へと変えた。
「ずっと3人で死ぬ迄冒険を楽しめると思っていた……それはハゼも、いつだったか酒に酔った勢いでぼやいておったよ。ただでさえ土竜族の儂らは人族より長生きするというのにだ。仮にあの日が無くとも終わりはいずれ来る。それまでは楽しんでいたかった……。もっと、もっと冒険を楽しみたかった。」
セリーヌはバノスの切ない表情を黙って見つめている。
バノスのそれは悲愴というよりは悲壮。
「そんな折だ、ハゼが斧を造ってくれと儂に言い出した。鉤爪じゃ駄目なのかと聞いたらハゼはゼルファークの影を追い始めていたんだ。自身の未熟さに加え鉤爪での限界を勝手に決めつけてな。何度も何度もゼルファークのようにはなれんと言ったのだが、聞く耳を持たんかった。中々造たずにおると、ジルゴまで巻き込もうとしてな……遂にはコウのように腐りかけおった。だから、仕方なく造ってしもうたんじゃ。でもそれは間違いだった。悪友として、戦友として仲違いしても、はっきりと伝えるべきだった。ずっとゼルファークが言い続けてきた言葉の意味をな。ハゼには最も鉤爪があらゆる意味で似合うと、〝らしく〟在るべきだと言うべきだった。マウベルに悪い事しちまったわい。」
バノスは一瞬曇る表情をして見せ軽く息をつき遠い目をする。
セリーヌはそれでも黙っていた。
長い間吐き出せていなかったのはなにも〝長〟だけではない事実をセリーヌは深く理解していたからこそ、ここでバノスにも吐き出させるつもりだ。
「悲観することは無い。奴が言いたかった事は拳で理解したからな。」
意識を取り戻したハゼが痛々しくも身を起こしながらバノスとセリーヌの間を縫うように言葉を交わす。
すると、バノスとセリーヌは驚くと直ぐ様ハゼの方に視線を送り身を寄せた。
「すまんな。心配かけたようで。」
ハゼの幾分疲れてはいるが元気な口調に2人は安堵するが、その身を起こすハゼを気遣って声をかける。
「なぁ、バノス……儂は間違っていたのだろうな。土竜族の命とも呼べる鉤爪を捨ててでも掴みたかったものはマウベルからしたらしょうもないものにしか映っておらなんだ……所詮、儂はゼルファークみたく傑物には成れんのだと自覚した。今迄短くも長い間、迷惑かけた事、すまなかった。」
バノスは素直に謝るハゼの表情に感慨深くも何かを悟りつつもハゼに問う。
すると、ハゼは『また鉤爪を頼む。大斧に負けず劣らずの。』と注文を返す。
バノスは涙目を擦り拭くと二つ返事で了承し足早に拠点へと去る。
セリーヌは一声だけハゼにかけると彼女もまたギルドへ向かう為に療養室を出た。
療養室にハゼと眠るリースのみとなった。
「盗み聞きは良くないぞ。エルフよ。起きてるんだろう?」
視線は誰も居なくなった場に向けながらもハゼが穏やかに問うと、リースは未だ眼を瞑りながら、沈黙を挟んだ少し後に、答える。
「私も間違ってきた……。」
悔しさを孕みながらリースは静かに病床の上で横たわったまま背をハゼに向けた。
その姿にハゼは視界の角にて捉えて気持ちを察したが、沈黙を破る。
「寂しいものだな、猿山の大将というのは。差し詰め儂らは天狗猿だな。」
鼻で笑いながらもハゼの視線は依然誰もいない方向を直視する。
是迄、本気で死んでもいいとさえ思う気概で両者は団員達を引っ張ってきた自負があった。
その為には変えるところは変えて進化を求め続けてきたが、マウベルとの死闘の先で手に入れた経験は愚の骨頂だった。
言葉を交わさずとも2人は、数刻前のマウベルの一撃必中、その直前を振り返る。
★★★
「ハゼ。貴様は何故〝爪〟を捨てた?それはゼルファークが真に求めたものか?彼同様に〝戦斧〟を倣ったつもりなんだろう。お前はあの日地に伏せ、お前なりに悩みに悩んだ末の選択と覚悟だったのは知っているが、俺からしたら単なる剽窃だ。忘れているようだから言わせてもらうぞ、ハゼ……〝お前はお前だ。〟……どうだ?解るか?リースあの時、君はセリーヌと呆けていたとはいえ聞こえていただろう?2人が託くした想いは……想いの答えはこれか?」
★★★
ハゼはこの十数年を思い返しながら天井へ視線を送り、純白のシーツを握りしめながら、歯を食いしばり、リースは静寂を必死に保とうとしながらも、ついぞ堪えきれなくなったのか、シーツを頭が埋まるまで被り、悲泣を漏らす。
療養室の出入り口際で立ち尽くしていたセリーヌは、そっとその場を去る。
笑顔を溢して。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身上の都合により不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・
投稿遅くなりましたが、ご容赦!




