第43話 小さな騎士たちの魔法訓練! マルタが隠していた二つの属性とは!?
魔法。
それは、この世界に生まれ変わった俺にとって、何度見ても不思議なものだった。
前世では、物語やゲームの中にしか存在しなかった力。
炎を生み出し、水を操り、大地を動かす。
この世界では、それらが特別な奇跡ではなく、学問や技術として研究されている。
もちろん、誰もが自由自在に魔法を使えるわけではない。
生まれ持った適性。
魔力量。
そして、長い訓練。
それらが必要になる。
俺も、魔力を扱うことはできる。
だが、正直に言おう。
魔導機械をいじっている時間の方が、ずっと長い。
そして、そのことを父上に指摘されたのは、ベルンハイムから帰って数日後の朝だった。
◇
「レオンハルト」
「はい、父上!」
朝食の席。
俺は、父上の声に背筋を伸ばした。
ラインハルト・ヴァイス男爵は、紅茶のカップを置き、俺をじっと見つめていた。
「最近、工房にいる時間が長すぎるのではないか?」
「……え?」
「昨日も、一昨日も、朝から夕方まで機械の研究をしていただろう」
「で、でも、ちゃんと休憩はしています!」
「それはマルタから聞いている」
父上は頷いた。
……よかった。
マルタが報告してくれていたらしい。
しかし。
「では、魔法の訓練は?」
「…………」
俺は、固まった。
……あ。
そういえば。
最近、ほとんどやっていない。
父上は、深いため息をついた。
「レオンハルト。お前が魔導技術に興味を持っていることは理解している」
「……はい」
「だが、将来、王立魔導騎士学院へ進むつもりなら、魔法の基礎も疎かにしてはいかん」
俺は、ゆっくり頷いた。
……その通りだ。
魔導機甲は、ただの機械ではない。
操縦者の魔力を利用する機構も多い。
魔力の制御が未熟なら、機体の性能を十分に引き出すこともできない。
「……分かりました」
「うむ」
父上は、少しだけ表情を和らげた。
「今日は工房での研究を休み、庭で魔法の訓練をしなさい」
「……今日ですか?」
「そうだ」
俺は、少しだけ肩を落とした。
……今日は、オメガの右膝の新しい支持具を考えるつもりだったのに。
すると。
「レオンハルト様」
背後から、柔らかな声が聞こえた。
マルタだ。
栗色の髪を銀色の髪留めでまとめ、白いブラウスに深紅のリボン。
濃紺の上着とプリーツスカートには、銀色の縁取りが施されている。
肩から下がる小さな青いケープが、彼女の動きに合わせて揺れた。
「たまには、機械から離れることも大切でございますよ」
「……マルタまで」
「ふふっ」
彼女は楽しそうに微笑んだ。
「それに、今日は皆様と一緒に訓練できますから」
「……みんなと?」
「はい。リナ様とエリス様も、お誘いしております」
俺は、少しだけ顔を上げた。
……それなら。
悪くないかもしれない。
◇
「魔法の訓練!?」
庭に響き渡ったのは、リナの元気な声だった。
赤茶色の髪。
琥珀色の瞳。
頭の上でぴんと立った狐耳。
そして、背後で大きく揺れるふさふさの尻尾。
リナは、両手を腰に当てて胸を張っていた。
「いいよ! あたし、得意だから!」
「……本当?」
俺が尋ねると、リナは得意そうに笑った。
「もちろん!」
その隣では、エリスが静かに立っていた。
赤い髪を青いリボンでまとめ、淡い水色のワンピースを着ている。
緑色の瞳が、庭に用意された訓練用の道具を興味深そうに見つめていた。
「……私も、頑張るね」
「うん。一緒に頑張ろう!」
俺が笑顔で答えると、エリスも小さく微笑んだ。
庭の中央には、木製の的が三つ並んでいた。
その近くには、水の入った桶。
小さな石。
そして、魔力量を測定するための簡単な魔導器具が置かれている。
「……本格的だね」
俺が呟くと、マルタが頷いた。
「旦那様から、基礎訓練用の道具をお借りしました」
「へえ……」
「ただし、本日は競争ではございません」
マルタは、俺たち三人を見渡した。
「魔力を正確に扱うこと。それが目標でございます」
「はーい!」
リナが元気よく手を挙げる。
エリスも、小さく頷いた。
俺も、背筋を伸ばした。
「分かりました!」
すると、マルタが微笑んだ。
「では、始めましょう」
◇
最初の訓練は、魔力の集中だった。
手のひらへ魔力を集め、一定の状態を維持する。
言葉にすると簡単だが、実際にはなかなか難しい。
「……よし」
俺は、両手を前へ出した。
身体の内側に意識を向ける。
胸の奥から、ゆっくりと温かいものが流れてくる感覚。
それを、腕へ。
そして、指先へ。
……集中。
手のひらに、淡い光が灯った。
「……おお」
俺は、思わず声を漏らした。
……できた。
しかし。
光が、急に強くなった。
「……あれ?」
次の瞬間。
パチッ!
小さな火花のような光が弾けた。
「うわっ!」
俺は、慌てて魔力を止めた。
……びっくりした。
マルタが、すぐに近づいてきた。
「レオンハルト様。お怪我はございませんか?」
「う、うん。大丈夫」
俺は、手のひらを確認した。
痛みはない。
ただ、少し熱くなっている。
マルタは、ほっとしたように息を吐いた。
「魔力を集めることはできていますが、少し急ぎすぎでございますね」
「……急ぎすぎ?」
「はい。必要以上に魔力を流そうとしておられます」
俺は、少し考えた。
……なるほど。
機械を動かすときの感覚で、つい魔力を多く流してしまったのかもしれない。
「……もう一度やってみる」
「はい。今度は、ゆっくりと」
俺は頷いた。
……よし。
焦らずに。
少しずつ。
手のひらに、再び淡い光が灯った。
今度は、さっきより小さい。
でも、安定している。
「……できた!」
俺は、思わず笑顔になった。
マルタも微笑んだ。
「お見事でございます」
……よかった。
魔法って、やっぱり面白いな。
◇
「次は、あたしの番!」
リナが元気よく手を挙げた。
彼女は庭の中央へ進み、両手を広げる。
「見ててね!」
琥珀色の瞳が、きらりと輝いた。
彼女の身体から、淡い魔力が広がっていく。
そして。
ふわっ。
リナの隣に、もう一人のリナが現れた。
「……おお!」
俺は、思わず声を上げた。
狐耳。
赤茶色の髪。
ふさふさの尻尾。
見た目は、ほとんど同じだ。
「すごい!」
俺が褒めると、リナは得意そうに胸を張った。
「でしょ!」
しかし。
幻影のリナが、突然ふらりと揺れた。
「……あれ?」
次の瞬間。
ぽふんっ!
幻影が、白い煙のように消えた。
……。
……。
「……あれ?」
リナが、目を瞬かせた。
俺は、思わず笑ってしまった。
「……ぷっ」
「笑った!?」
「ご、ごめん!」
「もう!」
リナは頬を膨らませた。
マルタが、静かに口を開いた。
「リナ様。幻影を作ることは、十分にできております」
「……本当?」
「はい。ただし、維持するための魔力が少し不安定でございますね」
リナは首を傾げた。
「……どうすればいいの?」
「まずは、動かずに幻影を維持する練習から始めましょう」
「えーっ! 動かないの?」
「はい」
マルタは微笑んだ。
「走りながら幻影を作るのは、そのあとでございます」
リナは、少しだけ考えた。
そして。
「……分かった!」
元気よく頷いた。
……うん。
リナは、こういうところが素直なんだよな。
◇
次は、エリスの番だった。
彼女は、水の入った桶の前に立っていた。
「……私、あまり派手なことはできないけど……」
エリスが、小さな声で呟いた。
俺は、笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。自分の得意なことを見せて」
「……うん」
エリスは、ゆっくりと目を閉じた。
そして、水面へ手をかざす。
……あ。
俺は、思わず息を呑んだ。
桶の水が、静かに揺れ始めた。
最初は、小さな波。
次に、ゆっくりとした渦。
そして、水面の中央に、小さな水の盛り上がりが生まれた。
……すごい。
エリスは、目を閉じたまま呟いた。
「……水の中の魔力が、少しずつ動いてる」
「……分かるの?」
「……うん」
彼女は頷いた。
「水の流れと、一緒に感じるの」
俺は、目を見開いた。
……なるほど。
エリスは、水の中の魔力を感じ取ることができる。
以前、オメガの魔力供給の異常を見つけたときも、彼女の感覚が役に立った。
でも、こうして見ると。
やっぱり、すごい能力だ。
「……エリス」
「……何?」
「すごいよ!」
俺が笑顔で言うと、エリスは少し頬を赤くした。
「……ありがとう」
マルタも、静かに微笑んだ。
「素晴らしい集中力でございますね」
エリスは、嬉しそうに頷いた。
……よし。
みんな、それぞれ得意なことがあるんだ。
◇
しばらくして。
俺たちは、少し休憩することになった。
庭の木陰に腰を下ろし、用意された水を飲む。
リナは、まだ幻影の練習をしたそうにしていた。
「ねえ、もう一回やっていい?」
「少し休んでからにしよう」
「えーっ!」
「魔力を使いすぎると疲れるよ」
「……分かった」
リナは、しぶしぶ頷いた。
その隣で、エリスが小さく笑った。
「……リナちゃん、元気だね」
「だって、楽しいんだもん!」
リナは、尻尾を揺らした。
俺も、思わず笑った。
……確かに。
魔法の訓練って、思っていたより楽しい。
そのとき。
「レオンハルト様」
マルタが、静かに声をかけてきた。
「……何?」
「午後は、少し違う訓練をしてみませんか?」
「……違う訓練?」
「はい」
彼女は、庭の端に置かれた小さな石を見つめた。
「魔法を使って、周囲の状況に対応する練習でございます」
俺は、目を輝かせた。
「……面白そう!」
リナも、すぐに反応した。
「やる!」
エリスも、小さく頷いた。
「……私も」
マルタは、柔らかく微笑んだ。
「では、準備いたしましょう」
◇
午後の訓練は、簡単な障害物を使ったものだった。
庭の中央に、木製の棒を数本立てる。
その間を移動しながら、魔力を安定して維持する。
ただし、走ってはいけない。
まずは、ゆっくり歩くこと。
「……簡単じゃん!」
リナが胸を張った。
俺は、少しだけ笑った。
「本当に?」
「もちろん!」
彼女は、両手を広げた。
淡い魔力が、身体の周囲に広がる。
そして。
ふわっ。
隣に、幻影のリナが現れた。
「……よし!」
リナは、ゆっくり歩き始めた。
一歩。
二歩。
三歩。
……おお。
今度は、幻影が消えない。
「すごい!」
俺が声を上げると、リナは嬉しそうに振り返った。
「でしょ!」
しかし。
その瞬間。
幻影が、ふらりと揺れた。
「……あ」
リナが、慌てて魔力を集中させる。
すると、幻影の足元がぼやけた。
彼女自身も、少しバランスを崩した。
「……わっ!」
リナは、慌てて足を踏み出した。
その拍子に、近くに置かれていた木製の支柱へ肩が触れる。
ガタン!
支柱が傾いた。
その上に置かれていた小さな木箱が、ぐらりと揺れる。
……まずい!
木箱の中には、訓練用の石が入っていた。
このまま落ちれば、リナの足元へ降ってくる。
「リナ!」
俺は、思わず叫んだ。
しかし。
次の瞬間。
「――《土壁》!」
凛とした声が、庭に響いた。
ゴゴッ!
地面が、小さく震えた。
そして。
リナの前に、土の壁がせり上がった。
高さは、彼女の膝ほど。
厚さも、それほど大きくない。
だが、落ちてきた木箱は、その壁にぶつかって止まった。
ガタン!
石が、地面へ転がる。
……。
……。
俺は、目を見開いた。
「……え?」
リナも、ぽかんとしていた。
エリスが、小さく声を漏らす。
「……土の、魔法……?」
俺たちは、同時に振り返った。
そこには。
片手を前へ伸ばしたマルタが立っていた。
濃紺の上着。
深紅のリボン。
小さな青いケープ。
そして、彼女の足元には、淡い茶色の魔法陣が浮かんでいた。
……マルタ?
俺は、思わず叫んだ。
「マルタ!? 土属性の魔法が使えるの!?」
彼女は、少し驚いたように目を瞬かせた。
そして。
「……あら」
小さく微笑んだ。
「まだ、お話ししておりませんでしたか?」
「聞いてないよ!」
俺は、思わず声を上げた。
マルタは、少しだけ首を傾げた。
「そうでしたか……」
……いやいや。
そんな、忘れていたみたいな反応!?
俺は、思わず頭を抱えた。
リナが、目を輝かせて駆け寄る。
「マルタ! 今のすごい!」
「ありがとうございます、リナ様」
「もう一回やって!」
「ふふっ。まずは、お怪我がないか確認いたしましょう」
マルタは、リナの前にしゃがんだ。
「どこか痛いところはございませんか?」
「ううん! 大丈夫!」
「それは何よりでございます」
マルタは、ほっとしたように微笑んだ。
俺も、胸を撫で下ろした。
……よかった。
でも。
それ以上に、驚きが大きかった。
マルタが、土属性の魔法を使えるなんて。
◇
「……マルタ」
「はい?」
「いつから、土属性の魔法を使えるの?」
俺が尋ねると、彼女は少し考えた。
「軍にいたころには、すでに使っておりました」
「……軍にいたころ?」
「はい」
マルタは、静かに頷いた。
「《グランガード》の操縦者として訓練を受けていたころ、魔導機甲の操縦だけでなく、基礎的な戦闘魔法も学んでおりました」
俺は、目を見開いた。
……なるほど。
確かに、軍人なら魔法の訓練を受けていてもおかしくない。
でも。
「……じゃあ、土属性が得意なの?」
「比較的、扱いやすい属性でございます」
マルタは頷いた。
「特に、防御や地形の安定化に向いております」
「……へえ!」
俺は、思わず目を輝かせた。
……土の魔法。
小さな壁を作ったり、地面を固めたりできる。
防御型の魔導機甲を操縦していたマルタには、ぴったりの能力かもしれない。
そのとき。
「……あの」
エリスが、小さく手を挙げた。
「……マルタさん」
「はい、エリス様」
「……さっき、土の魔法を使ったとき……」
エリスは、少し不思議そうに首を傾げた。
「……水の魔力も、少し感じた気がするの」
……え?
俺は、思わずエリスを見た。
「水の魔力?」
「……うん」
エリスは頷いた。
「土の魔力とは、少し違う流れがあったの」
マルタは、少しだけ驚いたように目を瞬かせた。
そして。
「……よくお気づきになりましたね」
柔らかく微笑んだ。
俺は、首を傾げた。
「……どういうこと?」
マルタは、静かに答えた。
「実は、私にはもう一つ扱える属性がございます」
……もう一つ?
俺は、思わず身を乗り出した。
「……まさか」
マルタは、右手を前へ出した。
その手のひらに、淡い青色の魔法陣が浮かぶ。
そして。
ふわり。
小さな水の球が、空中に現れた。
「……!」
俺は、息を呑んだ。
透明な水の球。
太陽の光を受けて、きらきらと輝いている。
マルタは、静かに微笑んだ。
「水属性の魔法も、少し扱えるのでございます」
「……ええええっ!?」
俺とリナの声が、同時に響いた。
エリスは、目を輝かせていた。
「……きれい」
マルタは、水の球をゆっくり動かした。
そして、地面に落ちた土埃へ近づける。
水の球が、細い流れとなって広がった。
土埃を洗い流し、地面へ染み込んでいく。
……すごい。
俺は、思わず呟いた。
「……二つの属性を使えるんだ」
マルタは頷いた。
「はい。ただし、どちらも大規模な魔法を使えるわけではございません」
俺は、彼女を見つめた。
「……それでも、すごいよ!」
マルタは、少しだけ照れたように微笑んだ。
「ありがとうございます」
◇
「ねえ、マルタ!」
リナが、元気よく手を挙げた。
「土の魔法って、あたしも使える!?」
マルタは、少し考えた。
「属性への適性によりますね」
「……適性?」
「はい。魔力を持っていても、すべての属性を同じように扱えるわけではございません」
リナは、少しだけ首を傾げた。
「……じゃあ、あたしは?」
「リナ様は、幻影を作る魔法に優れた適性をお持ちです」
「……うん!」
「まずは、その力を十分に伸ばすことが大切でございます」
リナは、少し考えた。
そして、元気よく頷いた。
「分かった!」
……よし。
素直でよろしい。
しかし。
「でも、一回だけ試してみたい!」
……やっぱり。
俺は、思わず苦笑した。
マルタは、少しだけ笑った。
「では、魔力の感覚を確かめるだけにいたしましょう」
「やった!」
リナは、地面に手をかざした。
「……むむむ!」
狐耳が、ぴんと立つ。
尻尾が、ゆっくり揺れる。
……どうだ?
俺は、少し期待して見守った。
しかし。
地面は、まったく動かなかった。
「……あれ?」
リナが、目を瞬かせた。
もう一度。
「……むむむむ!」
……。
……。
やっぱり、何も起こらない。
俺は、思わず口元を押さえた。
「……ぷっ」
「また笑った!?」
「ご、ごめん!」
「もう!」
リナは、頬を膨らませた。
マルタが、優しく声をかける。
「リナ様。無理に魔力を流す必要はございません」
「……でも」
「今は、ご自身の得意な魔法を大切にしてくださいませ」
リナは、少し考えた。
そして、にっこり笑った。
「……うん!」
……よかった。
無理に新しい魔法を覚えようとするより、得意なことを伸ばした方がいい。
それは、機械の設計にも似ている気がした。
◇
そのあと。
俺は、マルタにもう一つ質問した。
「……マルタ」
「はい?」
「今の身体でも、前と同じように魔法を使えるの?」
マルタは、少しだけ表情を変えた。
そして、自分の小さな手を見つめた。
「……正直に申し上げますと、まだ分かりません」
「……そうなんだ」
「はい」
彼女は、静かに頷いた。
「魔法の使い方は覚えております。ですが、今の身体では、以前と同じ量の魔力を扱えるとは限りません」
俺は、黙って聞いていた。
「先ほどの《土壁》も、思っていたより魔力を消費しました」
「……え?」
俺は、思わず目を見開いた。
「大丈夫なの!?」
「はい。少し疲れただけでございます」
マルタは、柔らかく微笑んだ。
「ですが、無理は禁物ですね」
俺は、ゆっくり頷いた。
……そうだ。
マルタは、以前と同じ身体じゃない。
見た目だけじゃなく、魔力の扱い方も変わっている可能性がある。
「……マルタ」
「はい?」
「これからは、少しずつ練習しよう」
彼女は、目を瞬かせた。
「……少しずつ、ですか?」
「うん。俺たちと一緒に」
俺は笑顔になった。
「無理しないで、今の身体に合った魔法の使い方を見つけようよ」
マルタは、しばらく黙っていた。
そして。
柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます」
その声は、いつもより少し静かだった。
「レオンハルト様は、本当にお優しいですね」
「……そ、そんなことないよ!」
俺は、少し恥ずかしくなった。
すると、マルタが悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふっ。では、これからもよろしくお願いいたします。私の小さな騎士様」
「……またそれ!?」
リナが、楽しそうに笑った。
「レオン、またからかわれてる!」
エリスも、小さく笑っていた。
……まったく。
でも。
俺も、笑ってしまった。
◇
夕方。
訓練を終えた俺たちは、庭の木陰に座っていた。
リナは、芝生の上に寝転がっている。
「……疲れたあ!」
「だから、無理しないでって言ったでしょ」
「だって、楽しかったんだもん!」
彼女は、尻尾をぱたぱたと動かした。
エリスは、静かに水を飲んでいた。
「……でも、今日はいっぱい練習できたね」
「うん」
俺は頷いた。
……本当に。
今日は、いろいろなことを学んだ。
魔力の集中。
幻影の維持。
水の流れ。
そして。
マルタの土属性と水属性の魔法。
……まさか、マルタが二つの属性を扱えるなんて。
俺は、隣に座る彼女を見た。
「……マルタ」
「はい?」
「今日は、ありがとう」
彼女は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……何のお礼でしょう?」
「いろいろ教えてくれたから」
俺は笑顔になった。
「魔法のことも、訓練のことも」
マルタは、柔らかく微笑んだ。
「どういたしまして」
そして、少しだけ遠くを見つめた。
「……私も、楽しかったです」
俺は、彼女を見た。
「……本当?」
「はい」
マルタは頷いた。
「以前は、魔法の訓練といえば、任務のためのものでございました」
彼女は、静かに続けた。
「ですが、今日は違いました」
「……違った?」
「はい。皆様と一緒に、笑いながら学ぶことができましたから」
俺は、胸の奥が少し温かくなった。
……そうか。
マルタにとっても、今日は特別な日だったんだ。
「……じゃあ、またやろう!」
俺が言うと、リナが勢いよく起き上がった。
「やる!」
エリスも、小さく頷いた。
「……私も」
マルタは、嬉しそうに微笑んだ。
「はい。ぜひ」
◇
その夜。
俺は、自分の部屋で机に向かっていた。
目の前には、オメガの設計図。
青銀の装甲。
四つの推進器。
そして、まだ問題の残る右膝。
……さて。
明日から、また研究を再開しよう。
でも。
今日の訓練で、少し考えが変わった。
魔導機甲を作るためには、機械の知識だけでは足りない。
操縦者の魔力。
身体の動き。
そして、それぞれが得意とする能力。
それらを理解する必要がある。
リナの幻影。
エリスの水への感覚。
マルタの土と水の魔法。
……うん。
みんな、違う。
だからこそ。
それぞれに合った機体を作りたい。
俺は、設計図の端に新しい文字を書き込んだ。
『操縦者の能力を理解すること』
そして、その下にもう一つ。
『魔法訓練を定期的に行う』
……よし。
これからは、工房での研究だけじゃなく、魔法の練習も続けよう。
俺は、鉛筆を置いた。
そのとき。
「レオンハルト様」
扉の向こうから、聞き慣れた声がした。
……マルタだ。
「もうお休みになるお時間ですよ」
「……分かってる!」
「本当でしょうか?」
「本当だって!」
扉の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「ふふっ。では、おやすみなさいませ。私の小さな騎士様」
「……おやすみ、マルタ!」
俺は、設計図を丁寧に片づけた。
そして、ランプを消した。
……明日から、また新しい挑戦が始まる。
オメガの改良。
三人の少女たちの魔導機甲開発。
そして、魔法の訓練。
やることは、山ほどある。
でも。
不思議と、嫌な気分じゃなかった。
むしろ。
少し、わくわくしている。
俺は、布団に潜り込んだ。
……いつか。
四機の魔導機甲が並び、みんなで一緒に戦う日が来るかもしれない。
そのとき。
今日学んだ魔法が、きっと役に立つはずだ。
俺は、小さく微笑んだ。
そして、静かに目を閉じた。
――四人の小さな騎士たちの、新しい訓練は始まったばかりだった。
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