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乙女ゲームの退学予定モブ、改造魔法で最強の魔導機甲を造る!  作者: ジャクロの精霊


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第41話 三機の魔導運搬機、ついに修理完了! 男爵家に届いた初めての大きな報酬と、オメガの新たな未来!

――機械を直せば、仕事は終わり。


 以前の俺は、そんなふうに考えていた。


 壊れた部品を交換する。


 動かなくなった装置を修理する。


 そして、もう一度動くようになれば成功だ。


 けれど、今回の仕事を通して、俺は一つ大切なことを学んだ。


 機械が動くことと、安心して使えることは違う。


 そして、修理した機械が本当に役に立つかどうかを決めるのは、俺たち技術者ではない。


 それを使う人たちなのだ。


 ベルンハイムの倉庫で行われる最後の試験。


 それが終われば、俺たちの初めての大きな仕事も、ようやく一区切りを迎える。


 ……もっとも。


 その朝の俺は、別の問題に直面していた。


「レオン! これ、どういうこと!?」


「……え?」


 朝食の前。


 工房に響き渡ったリナの声に、俺は思わず振り返った。


 赤茶色の髪。


 琥珀色の瞳。


 ぴんと立った狐耳。


 そして、背後で大きく揺れるふさふさの尻尾。


 リナは、両手に小さな木製の部品を持っていた。


「昨日、ちゃんと部品を整理したんだよ!」


「うん。ありがとう」


「でも、これ!」


 彼女は二つの部品を突き出した。


「右と左、同じ形に見えるんだけど!」


 俺は覗き込んだ。


 ……あ。


 確かに。


 《ヴァーミリオン・フォックス》の脚部模型に使う予定の部品だ。


 左右で角度がわずかに違うのだが、並べてみるとほとんど同じに見える。


「……ごめん。印をつけ忘れてた」


「ほらー!」


 リナは頬を膨らませた。


「レオンが間違えたんじゃん!」


「……その通りです」


 俺は素直に頭を下げた。


 すると。


「ふふっ」


 背後から、小さな笑い声が聞こえた。


 振り返ると、マルタが扉のそばに立っていた。


 白いブラウスに深紅のリボン。


 銀糸の刺繍が施された濃紺の上着。


 膝丈のプリーツスカートと、小さな青いケープ。


 栗色の髪を留める銀色の髪飾りが、朝日を受けて輝いている。


「レオンハルト様。部品の管理も、立派な技術者のお仕事でございますよ」


「……分かってる」


「それに、今回はリナ様が間違いを見つけてくださいました」


 マルタはリナへ微笑んだ。


「ありがとうございます」


「えへへ!」


 リナの尻尾が勢いよく揺れた。


「やっぱり、あたしってすごい?」


「ええ。とても助かりました」


「やったー!」


 ……うん。


 リナは褒められると、本当に分かりやすいな。


 そのとき、エリスが小さな声で言った。


「……レオンくん」


「ん?」


 赤い髪と緑色の瞳をした少女は、作業台の上を指差していた。


「こっちの部品にも……印がないよ」


「……え?」


 俺は確認した。


 《セイレーン》の操縦席模型に使う、小さな支持部品。


 確かに、区別する印がない。


 ……しまった。


 俺は頭を抱えた。


「……今日の夜、全部確認するよ」


「私も……手伝うね」


「ありがとう、エリス」


 リナが胸を張った。


「あたしも手伝う! 今度はレオンが間違えないように!」


「……よろしくお願いします」


 マルタは楽しそうに笑った。


「ふふっ。頼もしい整備班ができましたね」


 ……まったくだ。


 俺は苦笑した。


 でも。


 こんな朝も、悪くない。


     ◇


 朝食の席では、父上が今日の予定を説明していた。


「三号機の最終試験を行う」


 ラインハルト・ヴァイス男爵――俺の父上は、机の上に置いた書類を確認しながら言った。


「昨日は無負荷での低速試験まで完了した。今日は、実際の運搬作業に近い条件で確認する」


「……はい!」


 俺は大きく頷いた。


「ただし、試験中に異常があれば、即座に中止する」


「分かりました」


 父上は、俺の顔をじっと見つめた。


「本当に分かっているな?」


「……はい」


「前のように、自分の身体を使って魔力を補おうなどとは考えるなよ」


「しません!」


 俺は慌てて答えた。


 ……あのときのことは、俺だって反省している。


 自分の身体に雷の魔力を流し、危うく命を落としかけた。


 あんな無茶は、もう繰り返したくない。


 母上――ヘレナも、静かに口を開いた。


「レオンハルト」


「……はい、母上」


「仕事が成功することは嬉しいわ。でも、あなたが無事に帰ってくることの方が大切なのよ」


 俺は、少しだけ胸が温かくなった。


「……分かっています」


 母上は微笑んだ。


「なら、よろしいわ」


 その隣で、マルタが小さく頷いた。


「ご安心くださいませ、奥様。私も目を光らせておりますので」


 母上は、くすりと笑った。


「頼りにしているわ、マルタ」


「お任せください」


 マルタは胸を張った。


 ……なんだろう。


 俺の監視役が、どんどん増えている気がする。


     ◇


 ベルンハイムに到着したのは、昼前だった。


 倉庫の前には、昨日よりも多くの荷馬車が並んでいた。


 収穫期が近づき、商人たちの動きも慌ただしくなっている。


「ヴァイス男爵閣下!」


 グスタフ・ベルナーが、俺たちを見つけて駆け寄ってきた。


 短く刈った茶色の髪。


 整えられた口髭。


 灰色の上着の上に革製の作業用ベストを着ている。


「本日もよろしくお願いいたします!」


「うむ。まず、試験の準備を確認したい」


「もちろんです!」


 グスタフは倉庫の中へ案内してくれた。


 三台の魔導運搬機が並んでいる。


 一号機。


 二号機。


 そして、三号機。


 最初に来たときは、どれも故障して動かせなかった。


 今では、一号機と二号機の修理が完了している。


 残るのは、三号機の最終確認だけだ。


 ……ここまで来たんだな。


 俺は、少し感慨深くなった。


「レオンハルト様」


 マルタが隣から声をかけてきた。


「はい?」


「緊張されていますか?」


「……少し」


 俺は正直に答えた。


 彼女は柔らかく微笑んだ。


「それでよろしいと思います」


「……え?」


「緊張するということは、それだけ慎重になっている証でもございますから」


 俺は、少し驚いた。


「……マルタも緊張するの?」


「もちろんです」


 彼女は当然のように答えた。


「《グランガード》に乗っていたころも、出撃前はいつも緊張しておりました」


「……そうなんだ」


「はい。ですが、緊張したままでは操縦できませんので、確認することを一つずつ決めておりました」


 マルタは指を折った。


「操縦装置。魔導炉。駆動系。緊急停止装置。そして、周囲の安全」


 俺は頷いた。


 ……なるほど。


 緊張をなくそうとするんじゃなくて、やるべきことに集中するんだ。


「……ありがとう、マルタ」


「どういたしまして」


 彼女は悪戯っぽく微笑んだ。


「私の小さな騎士様」


「……またそれ!?」


 マルタは楽しそうに笑った。


 ……まったく。


 でも、おかげで少し肩の力が抜けた。


     ◇


 三号機の最終試験は、慎重に進められた。


 まず、操縦信号の確認。


 次に、緊急停止装置の点検。


 そして、補助安全制御装置の状態確認。


 昨日の修理で、操縦桿から伸びる伝達装置の固定具と摩耗した支持部品を交換している。


 そのため、同じ問題が再発しないかを確かめる必要があった。


「……よし」


 父上が測定結果を確認した。


「操縦信号に異常はない」


 職人オルドが頷く。


「支持部の固定状態も問題ありません」


「では、次の段階へ進もう」


 作業員たちが、倉庫の一角を片づける。


 周囲には安全柵が設置され、機体の進行方向から人が離れた。


 操縦者のハンスが、三号機へ乗り込む。


 彼は少し緊張した表情をしていた。


「……大丈夫でしょうか」


 俺は、思わず彼を見た。


 そうだ。


 この人は、実際に三号機が故障したとき、操縦していたんだ。


 怖くないはずがない。


 すると、マルタが静かに声をかけた。


「ハンス様」


「……はい?」


「不安でしたら、無理をなさらなくても結構です」


 ハンスは、少し驚いたように彼女を見た。


「……ですが、試験が」


「試験は、操縦者が安心して行える状態でなければ意味がございません」


 マルタは、まっすぐ彼を見つめた。


「少しでも異常を感じたら、すぐにお知らせくださいませ」


 ハンスは、しばらく黙っていた。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……ありがとうございます」


 俺は、マルタを見つめた。


 ……すごいな。


 ただ機械のことを考えるだけじゃない。


 操縦する人の気持ちまで、ちゃんと考えている。


 俺も、こういう技術者になりたい。


     ◇


 試験が始まった。


 最初は、百五十キロ。


 荷台へ重りを積み、三号機を低速で動かす。


 ブゥゥン……。


 魔導炉が、低い音を立てて起動した。


 青い光が、胴体の奥で灯る。


 ハンスが操縦桿を動かす。


 ガコン。


 三号機の右脚が、ゆっくりと前へ出た。


 続いて、左脚。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 ……よし。


 測定器の針は安定している。


 操縦信号と駆動応答にも、大きなずれは見られない。


「停止!」


 父上の声が響いた。


 ハンスが操縦桿を戻す。


 三号機が、ゆっくりと停止した。


 ……大丈夫。


 次は三百キロ。


 さらに重りを積む。


 機体が、少し沈み込むように姿勢を調整した。


 ブゥゥン……。


 魔導炉の音が、わずかに大きくなる。


 俺は測定器を見つめた。


 ……頼む。


 安定してくれ。


 三号機が歩き始める。


 ゆっくりと前進。


 停止。


 方向転換。


 そして、再び停止。


 ……よし。


 今のところ、異常はない。


 しかし。


 問題は、最後の試験だ。


 通常の積載量に近い五百キロ。


 父上は、慎重に指示を出した。


「荷重を増やす。全員、配置を確認しろ」


「はい!」


 作業員たちが、重りを追加する。


 俺は、思わず拳を握った。


 ……ここまで来た。


 あと少しだ。


     ◇


 五百キロの荷重をかけた三号機が、ゆっくりと立ち上がった。


 ブゥゥン……。


 魔導炉の音が、倉庫の中に響く。


 ハンスが、慎重に操縦桿を動かした。


 ガコン。


 一歩。


 続いて、もう一歩。


 ……大丈夫。


 俺は測定器を確認した。


 魔力供給量。


 操縦信号。


 駆動応答。


 すべて、正常範囲内。


 ……よし。


 そのとき。


 カタッ。


 小さな音がした。


「……ん?」


 俺は顔を上げた。


 機体の右側から、何かが揺れるような音。


 ……今のは?


 俺が測定器を見つめ直した瞬間。


「停止してください!」


 マルタの声が響いた。


 ハンスが、すぐに操縦桿を戻す。


 三号機が停止した。


 父上も、すぐに指示を出した。


「魔導炉を停止! 全員、機体から離れろ!」


 作業員たちが、安全な位置へ移動する。


 俺は、思わず息を呑んだ。


 ……また故障?


 せっかく、ここまで来たのに。


 マルタは、三号機の右脚をじっと見つめていた。


「……何か聞こえたの?」


 俺が尋ねると、彼女は頷いた。


「はい。右側から、少し気になる音がいたしました」


「……右側?」


「機体の動きと、音の間隔が一致しておりませんでした」


 俺は目を見開いた。


 ……そんなことまで分かるのか。


 父上とオルドが、右脚の周辺を確認する。


 しばらくして。


「……男爵様」


 オルドが声を上げた。


「荷台の固定具が、一つ緩んでおります」


「……固定具?」


 俺は覗き込んだ。


 荷台を支える金属製の固定具。


 その一つが、わずかに動いていた。


 どうやら、荷重をかけたことで振動が大きくなり、固定具が揺れていたらしい。


「……危なかった」


 俺は小さく呟いた。


 もし、そのまま動かし続けていたら。


 荷台が不安定になっていたかもしれない。


 父上は、静かに頷いた。


「マルタ。よく気づいたな」


「ありがとうございます、旦那様」


 マルタは丁寧に頭を下げた。


 俺は、彼女を見つめた。


 ……本当にすごい。


 ただし、マルタは少しだけ首を横に振った。


「ですが、私だけの手柄ではございません」


「……え?」


「停止の指示に、すぐ従ってくださった操縦者の方と、整備を行ってくださった皆様のおかげです」


 俺は、思わず微笑んだ。


 ……そうだね。


 みんなで、機械を守っているんだ。


     ◇


 固定具の調整と周辺部品の点検を終えたあと、試験が再開された。


 今度は、五百キロの荷重をかけた状態でも、異音は発生しなかった。


 前進。


 停止。


 方向転換。


 再始動。


 そして、最後の停止。


 ガコン。


 三号機が、ゆっくりと動きを止めた。


 魔導炉の出力が下がる。


 ブゥゥン……。


 やがて、静寂が戻った。


 俺は、測定器を見つめた。


 ……異常なし。


 オルドが、最終記録を確認した。


「……男爵様」


 父上が顔を上げる。


「どうだ?」


「操縦信号、駆動応答、魔力供給、いずれも正常範囲内です」


 父上は、しばらく記録を見つめていた。


 そして。


 ゆっくりと頷いた。


「……よし」


 俺は、息を呑んだ。


「三号機の修理も、完了だ」


 ……!


 俺は、思わず拳を握った。


「やったあああっ!」


 声が、倉庫の中に響いた。


 グスタフが、両手を上げる。


「ありがとうございます!」


 作業員たちも、嬉しそうに笑っていた。


 ハンスは操縦席から降りると、大きく息を吐いた。


「……本当に、助かりました」


 俺は、胸が熱くなるのを感じた。


 ……終わった。


 三台とも。


 ちゃんと、動くようになった。


 父上が、俺の肩に手を置いた。


「よく頑張ったな、レオンハルト」


「……はい!」


 俺は、笑顔で頷いた。


 ……嬉しい。


 こんなに嬉しいとは、思わなかった。


     ◇


 その後、俺たちはグスタフの事務室へ案内された。


 机の上には、修理報告書と契約書が並べられている。


 父上は、一台ずつ修理内容を説明した。


 一号機は、右脚の軸受け交換。


 二号機は、魔力分配装置の可動板交換。


 三号機は、操縦信号の伝達装置と支持部品の修理。


 さらに、三台とも安全確認と負荷試験を実施した。


 グスタフは、報告書を一枚ずつ確認した。


 そして、静かに頷いた。


「……確かに、すべて確認いたしました」


 父上が尋ねた。


「問題はないか?」


「ございません」


 グスタフは、深く頭を下げた。


「このたびは、本当にありがとうございました」


 父上も、静かに頭を下げた。


「こちらこそ、依頼していただき感謝する」


 そして。


 グスタフは、机の引き出しから革製の袋を取り出した。


 チャリン。


 金属の触れ合う音がした。


 ……お金だ。


 俺は、思わず目を見開いた。


「こちらが、契約に基づく修理代金でございます」


 グスタフは、袋を父上へ差し出した。


 父上は中身を確認し、帳簿へ記録した。


「……確かに受け取った」


 俺は、少しだけ胸が高鳴った。


 ……報酬。


 初めての大きな仕事で得たお金。


 もちろん、全部が利益になるわけじゃない。


 交換部品の費用。


 職人たちの人件費。


 移動費。


 そのほかにも、いろいろな経費がかかっている。


 でも。


 それでも、ヴァイス家にとって大切な収入だ。


 グスタフは、少し考えてから口を開いた。


「男爵閣下。もし、よろしければ……」


「……何だ?」


「今後も、魔導機械の整備をお願いできないでしょうか?」


 父上は、少し驚いたように目を見開いた。


「……今後も?」


「はい」


 グスタフは頷いた。


「今回の修理を見て、確信いたしました。ヴァイス家の工房には、確かな技術がございます」


 俺は、思わず父上を見た。


 ……父上。


 グスタフは続けた。


「商業区には、古い魔導機械を使っている商人が大勢おります。修理や点検に困っている者も少なくありません」


 父上は、しばらく考えた。


「……ありがたい話だ」


 そして、静かに続けた。


「ただし、我々にも受けられる仕事の限界がある。無理な依頼は引き受けられん」


「もちろんです!」


 グスタフは笑顔になった。


「まずは、定期点検からお願いできればと思っております」


 父上は頷いた。


「それなら、検討できるだろう」


 俺は、胸の奥が熱くなった。


 ……すごい。


 一度きりの仕事じゃない。


 これからも、続くかもしれない。


 ヴァイス家の工房に、新しい未来が開けようとしている。


     ◇


 屋敷へ戻ったのは、夕方だった。


 玄関では、母上が待っていた。


「お帰りなさい」


「ただいま戻りました、母上!」


 俺が元気よく答えると、母上は微笑んだ。


「どうだったの?」


 俺は、思わず父上を見た。


 父上は、小さく頷いた。


「……三台とも、修理を完了した」


 母上の目が、大きくなった。


「……本当に?」


「うむ。正式な引き渡しも終わった」


 母上は、胸元に手を当てた。


「……よかった」


 その声には、深い安堵が込められていた。


 俺は、少しだけ胸が熱くなった。


 ……母上も、ずっと心配していたんだ。


 父上は続けた。


「それに、今後の定期点検についても相談を受けた」


「……まあ!」


 母上は、嬉しそうに微笑んだ。


「それは、素晴らしいことですわ」


 そのとき。


「レオーン!」


 廊下の向こうから、リナが駆け寄ってきた。


「どうだった!? 機械、直った!?」


「うん! 三台とも!」


「やったー!」


 リナは両手を上げた。


 ふさふさの尻尾が、大きく揺れる。


「すごいじゃん、レオン!」


「ありがとう!」


 その後ろから、エリスが小走りでやってきた。


「……お帰り、レオンくん」


「ただいま、エリス」


「……よかったね」


 彼女は、嬉しそうに微笑んだ。


 俺も笑顔になった。


「うん!」


 マルタが、静かに口を開いた。


「皆様のおかげで、無事に仕事を終えることができました」


 リナは首を傾げた。


「……マルタも頑張ったんでしょ?」


「ええ。少しだけ」


「少しだけじゃないよ!」


 俺は、思わず声を上げた。


「マルタがいなかったら、三号機の問題に気づくのがもっと遅くなってた!」


 マルタは、少し驚いたように俺を見た。


「……レオンハルト様」


 俺は、笑顔で続けた。


「本当に、ありがとう!」


 彼女は、しばらく黙っていた。


 そして。


 柔らかく微笑んだ。


「……こちらこそ、ありがとうございます」


 その笑顔を見て、俺も嬉しくなった。


     ◇


 夕食のあと。


 父上は、俺を執務室へ呼んだ。


「レオンハルト。少し話がある」


「……はい!」


 俺は、少し緊張しながら部屋へ入った。


 机の上には、帳簿が広げられている。


 父上は椅子に座り、俺へ向かいの席を示した。


「座りなさい」


「はい」


 俺は椅子に腰を下ろした。


 ……何だろう。


 父上は、帳簿を指差した。


「今回の仕事について、収支を整理した」


「……はい」


「修理代金から、交換部品の費用、職人たちの賃金、移動費などを差し引いた」


 俺は、真剣に耳を傾けた。


 父上は続けた。


「結果として、家に残る利益は決して大きくない」


「……そうなんですか?」


「うむ。三台を修理したからといって、受け取った金額がそのまま利益になるわけではない」


 俺は頷いた。


 ……そうだよな。


 前世の仕事でも、売上と利益は違った。


 材料費。


 人件費。


 設備費。


 全部、考えなければならない。


「だが」


 父上は、少しだけ微笑んだ。


「今回の仕事には、金額以上の価値があった」


「……価値?」


「信用だ」


 俺は、目を瞬かせた。


「……信用」


「そうだ。約束した仕事を、安全に、責任を持って終える。それが、次の仕事につながる」


 俺は、静かに頷いた。


 ……なるほど。


 今回の仕事が成功したから、グスタフさんは定期点検を依頼したいと言ってくれた。


 つまり。


 一度の利益だけじゃなく、これからの仕事にもつながるんだ。


「……父上」


「何だ?」


「俺、もっと頑張りたいです」


 父上は、少し驚いたように俺を見た。


「……ほう?」


「今回の修理で、いろいろ勉強になりました。だから、もっと技術を身につけて、工房の役に立ちたいです」


 父上は、しばらく俺を見つめていた。


 そして、静かに微笑んだ。


「……そうか」


 俺は頷いた。


「はい!」


 父上は、帳簿を閉じた。


「では、一つ提案がある」


「……提案?」


 俺は首を傾げた。


 父上は、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。


 そこには、見覚えのある名前が書かれていた。


 《オメガ》。


 ……!


 俺は、思わず身を乗り出した。


「……父上!?」


 父上は、少しだけ笑った。


「今回の利益の一部を、工房の研究費として確保しようと思う」


 俺は、目を見開いた。


「……本当ですか!?」


「うむ。ただし、条件がある」


 ……条件。


 俺は、姿勢を正した。


「何でしょうか?」


 父上は、真剣な表情になった。


「まず、オメガの安全性を最優先すること」


「……はい!」


「右膝の問題を解決するまでは、無理な歩行試験を行わない」


「分かりました!」


「次に、研究費の使い道を明確にすること」


「……使い道?」


「必要な部品、材料、試験方法。それらを整理し、予算内で進めるんだ」


 俺は頷いた。


 ……なるほど。


 好きなものを、好きなだけ作れるわけじゃない。


 ちゃんと計画を立てなければならない。


 父上は続けた。


「そして、最後に」


「……はい」


「一人で無理をしないこと」


 俺は、少しだけ黙った。


 父上は、静かに言った。


「お前には、仲間がいるだろう」


 ……仲間。


 俺の頭に、みんなの顔が浮かんだ。


 リナ。


 エリス。


 マルタ。


 そして、父上や工房の職人たち。


 ……そうだ。


 俺は、一人じゃない。


「……はい」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「みんなと一緒に進めます」


 父上は、満足そうに微笑んだ。


「よし」


 そして、紙を俺へ差し出した。


「では、次の研究計画を作ってみなさい」


 俺は、その紙を両手で受け取った。


 ……オメガ。


 ついに、また一歩進めるんだ。


 胸の奥が、熱くなった。


「……ありがとうございます、父上!」


 父上は、静かに頷いた。


「期待しているぞ、レオンハルト」


     ◇


 その夜。


 俺は、工房の机に向かっていた。


 目の前には、《オメガ》の設計図。


 青銀の装甲。


 四つの推進器。


 そして、まだ問題の残る右膝。


 ……さて。


 どこから始めよう。


 俺は、鉛筆を手に取った。


 まず、右膝の荷重分散。


 次に、操縦信号の安全対策。


 そして、緊急停止機構。


 ……うん。


 やることは、山ほどある。


 でも。


 今は、以前とは違う。


 父上が、研究費を認めてくれた。


 仲間もいる。


 そして、今回の仕事で学んだこともある。


 ……よし。


 俺は、新しい紙を取り出した。


 そこに、大きく文字を書いた。


『魔導機甲開発計画・第二段階』


 そして、その下に四つの名前を並べた。


 《オメガ》。


 《プリンセス・ヴァルキュリア》。


 《ヴァーミリオン・フォックス》。


 《セイレーン》。


 ……いつか。


 この四機が、同じ場所に並ぶ日が来る。


 そのとき。


 俺たちは、どんな景色を見ているんだろう。


 俺は、小さく微笑んだ。


 ……楽しみだ。


 そのとき。


「レオンハルト様」


 扉の向こうから、聞き慣れた声がした。


 ……マルタだ。


「もうお休みになるお時間ですよ」


「……分かってる!」


「本当でしょうか?」


「本当だって!」


 扉の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。


「ふふっ。では、おやすみなさいませ。私の小さな騎士様」


「……おやすみ、マルタ!」


 俺は、図面を丁寧に片づけた。


 そして、ランプを消した。


 ……明日から、また新しい挑戦が始まる。


 オメガの改良。


 三人の少女たちの機体開発。


 そして、いつか訪れる王立魔導騎士学院への入学。


 まだ、遠い未来だ。


 でも。


 少しずつ、近づいている。


 俺は、布団に潜り込んだ。


 ……頑張ろう。


 自分の未来を、自分の手で変えるために。


 ――その夜。


 ヴァイス家の工房では、机の上に置かれた《オメガ》の設計図が、月明かりに照らされていた。


 青銀の装甲。


 四つの推進器。


 そして、まだ完成していない右膝の構造。


 その図面の隅には、レオンハルトが新しく書き込んだ言葉が残されていた。


『安全に動くこと。それが、強い機体の第一条件』


 ――少年の挑戦は、まだ始まったばかりだった。

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