第38話 天才少年、修理に大苦戦!? 動かない魔導運搬機と小さな姫騎士の名推理!
機械は、嘘をつかない。
壊れた部品には、必ず何かしらの痕跡が残る。
摩耗した金属。
焼け焦げた魔導回路。
緩んだ固定具。
あるいは、正常に動いているように見えて、実際には機能していない装置。
前世で情報技術の仕事をしていた俺は、何度もそんな問題に遭遇した。
だからこそ、今回も何とかなると思っていた。
……昨日までは。
「レオンハルト。もう一度聞くぞ」
父上の声に、俺は顔を上げた。
「はい!」
「今日、我々が最初にすることは何だ?」
「故障した魔導運搬機の修理です!」
「違う」
「……え?」
父上――ラインハルト・ヴァイス男爵は、静かに首を横に振った。
「修理を始める前に、何を修理するのか決めなければならん」
俺は瞬きをした。
「……あ」
「昨日の調査で分かったのは、あくまでも故障の症状と原因の候補だ。まだ確定していない部分も多い」
「……はい」
「そして、もう一つ」
父上は机の上に置かれた帳簿を指差した。
「費用だ」
……費用。
俺は思わず帳簿を見つめた。
そこには、交換部品の価格、職人の人件費、運搬費などが細かく記されている。
「いくら技術的に修理できても、必要な費用が依頼人の予算を超えてしまえば、仕事として成立しない」
「……なるほど」
「だから今日は、まず一号機の修理費用を確定させる。二号機と三号機については、調査を続ける」
俺は大きく頷いた。
「分かりました!」
父上は微笑んだ。
「よし。では、出発するぞ」
そのときだった。
「旦那様。お待ちくださいませ」
扉の向こうから、落ち着いた声が聞こえた。
マルタだ。
彼女は今日も、白いブラウスに深紅のリボン、濃紺の上着とプリーツスカートを身につけていた。
栗色の髪には銀色の髪留め。
肩には小さな青いケープ。
外見は八歳ほどの少女だが、その立ち姿は相変わらず堂々としている。
「どうした、マルタ?」
父上が尋ねる。
「本日の調査について、一つお願いがございます」
「何だ?」
「三号機の操縦者から、もう少し詳しくお話を伺いたいのです」
父上は少し考えた。
「昨日も聞き取りをしたはずだが?」
「はい。しかし、まだ確認できていないことがございます」
「……ほう?」
マルタは静かに答えた。
「故障する直前、操縦者が何を感じたのか。それを知りたいのです」
俺は首を傾げた。
「……何を感じた?」
「はい」
マルタは俺を見た。
「機械の異常は、計器だけに現れるとは限りません。操縦桿の抵抗、機体の振動、足元から伝わる衝撃……操縦者の体にしか分からない変化もございます」
……なるほど!
俺は思わず手帳を開いた。
「それ、すごく大事だね!」
「ふふっ。ありがとうございます」
マルタは少しだけ微笑んだ。
「では、本日もよろしくお願いいたします。私の小さな騎士様」
「……マルタ!」
父上が小さく笑った。
……もう!
最近、完全にからかわれている気がする。
◇
ベルンハイムの商業区に到着したのは、昼前だった。
昨日と同じように、倉庫の前には荷馬車が並んでいる。
ただし、今日は少し様子が違った。
作業員たちが慌ただしく荷物を運び、商人たちが帳簿を片手に話し合っている。
「おお、ヴァイス男爵閣下!」
グスタフ・ベルナーが駆け寄ってきた。
灰色の上着を着た彼は、昨日より少し疲れているように見えた。
「本日もよろしくお願いいたします!」
「うむ。まずは一号機から確認したい」
「もちろんです!」
グスタフは俺たちを倉庫へ案内した。
中には、三台の魔導運搬機が昨日と同じ位置に並んでいた。
一号機。
二号機。
そして、奥に置かれた三号機。
……よし。
今日こそ、少しでも進めよう。
俺は拳を握った。
「レオンハルト様」
「……ん?」
マルタが隣から声をかけてきた。
「何か、決意を固めていらっしゃいますか?」
「うん! 今日は絶対に――」
「絶対に?」
「……いや」
俺は言葉を止めた。
昨日、学んだばかりじゃないか。
原因を決めつけない。
無理に結果を出そうとしない。
まずは確かめる。
「……今日は、できることを一つずつ進めるよ」
マルタは嬉しそうに微笑んだ。
「それがよろしいかと」
……危なかった。
また、焦るところだった。
◇
一号機の修理は、思っていたよりも順調に進んだ。
昨日の調査で、右脚の軸受けに摩耗が見つかっている。
今日は、その部品を取り外して詳しく確認することになった。
「オルド。準備はいいか?」
父上が尋ねる。
「はい、男爵様」
髭を生やした職人オルドは、工具箱を開いた。
もう一人の職人が、機体の脚部を固定する。
俺は少し離れた場所から、その作業を見守っていた。
魔導炉は停止済み。
残留魔力も確認済み。
機体が倒れないように、支持台も設置されている。
……安全対策は大切だ。
オルドが慎重に固定具を外した。
金属製の軸受けが、ゆっくりと取り出される。
「……これは」
彼は眉をひそめた。
俺も覗き込んだ。
軸受けの内側には、細かな傷が無数についていた。
しかも、一部分だけが大きく削れている。
「……かなり摩耗してますね」
俺が呟くと、オルドが頷いた。
「そうですな。おそらく、長い間、偏った荷重がかかっていたのでしょう」
「……偏った荷重?」
「はい。荷物を積んだとき、機体の重心が少し右へ寄っていたのかもしれません」
俺は目を見開いた。
……なるほど。
ただ部品が古くなっただけじゃない。
使い方によって、特定の場所に負担が集中していた可能性がある。
父上がグスタフへ尋ねた。
「普段、荷物はどのように積んでいる?」
「ええと……作業員たちに任せていますが」
グスタフはハンスを呼んだ。
ハンスは少し困った顔をした。
「……実は、右側に重い箱を積むことが多いんです」
「なぜだ?」
「荷台の左側には、固定用の金具があるので……右側の方が積みやすくて」
父上は静かに頷いた。
「なるほど」
俺は手帳に書き込んだ。
『一号機――軸受け摩耗。積載時の重心偏りが影響した可能性あり』
……よし。
これなら、部品を交換するだけじゃなく、積み方も改善できるかもしれない。
オルドが新しい軸受けを取り出した。
「幸い、同じ規格の部品が手に入りました」
「交換できそうか?」
「はい。ただし、周辺の支持部も確認します」
父上は頷いた。
「頼む」
作業が始まった。
俺はその様子を見ながら、ふと《オメガ》の右膝を思い出した。
……そうか。
オメガも、右膝の荷重が問題になっている。
この運搬機とは構造が違うけれど、負担の分散という考え方は参考になる。
俺は急いで手帳の別のページを開いた。
『オメガ右膝――荷重の集中だけでなく、姿勢変化による偏りも確認する』
……うん。
今回の仕事は、やっぱり勉強になる。
◇
昼過ぎ。
一号機の軸受け交換が終わった。
しかし、すぐに動かすわけにはいかない。
まずは、荷物を積まない状態で、脚部の動きを確認する。
「全員、離れてくれ!」
父上の声が倉庫に響いた。
作業員たちが安全な位置へ移動する。
操縦者のハンスが、機体へ乗り込んだ。
魔導炉が低い音を立てて起動する。
ブゥゥン……。
青い光が、胴体の奥でゆっくりと灯った。
そして。
ガコン。
一号機が、右脚を前へ出した。
続いて左脚。
ゆっくりと歩き始める。
……どうだ?
俺は息を呑んだ。
ギギギ……。
昨日まで聞こえていたという異音は、今のところしない。
ハンスが慎重に機体を動かす。
一歩。
二歩。
三歩。
そして、停止。
「……どうだ?」
父上が尋ねた。
ハンスは操縦席から顔を出した。
「……音がしません!」
グスタフが歓声を上げた。
「おおっ!」
俺も思わず笑顔になった。
「やった!」
しかし、父上は手を上げた。
「まだだ。次は荷重をかけた試験を行う」
……あ。
そうだった。
空荷で動いたからといって、完全に直ったとは限らない。
俺は慌てて口を閉じた。
その後、少しずつ荷物を積みながら試験を行った。
百キロ。
二百キロ。
三百キロ。
機体は、安定して歩いた。
そして、最後に通常の積載量まで増やす。
ハンスが慎重に操縦する。
……大丈夫か?
俺はじっと見守った。
一号機は、ゆっくりと前進した。
異音はない。
脚部の動きも安定している。
オルドが測定結果を確認した。
「……問題ありませんな」
父上が頷いた。
「よし。だが、最終的な引き渡しの前に、もう一度点検する」
グスタフは大きく息を吐いた。
「ありがとうございます!」
俺は胸が熱くなった。
……一台目。
修理成功に近づいた!
でも、まだ二台残っている。
◇
二号機の調査は、午後から始まった。
こちらは、積載時に魔力供給が不安定になる問題だ。
昨日、俺は胴体の奥にある接続部で、魔力の流れが乱れていることを確認した。
しかし、それが原因なのか、結果なのかは分からない。
今日は、職人たちが接続部を詳しく調べることになった。
「……ここですね」
オルドが工具を使い、外装の一部を外した。
内部には、複数の魔導導線が並んでいる。
そのうち一本の接続部に、わずかな変色が見られた。
「……あれ?」
俺は目を細めた。
「ここ、少し色が違いませんか?」
オルドが確認する。
「……確かに」
父上も覗き込んだ。
「熱の影響かもしれんな」
俺は頷いた。
……魔力の流れが不安定になっている場所。
そして、変色した接続部。
もしかして、ここが原因なのか?
俺は口を開きかけた。
しかし。
昨日のマルタの言葉を思い出した。
『その異常は、故障の原因なのでしょうか。それとも、故障した結果なのでしょうか』
……そうだ。
まだ決めつけちゃいけない。
「……父上」
「何だ?」
「この接続部を交換する前に、ほかの部分も確認した方がいいと思います」
父上は少し驚いたように俺を見た。
「……ほう?」
「ここが熱くなった原因が、別の場所にあるかもしれません」
父上は静かに頷いた。
「その通りだ」
そして、オルドへ指示を出した。
「接続部だけでなく、供給回路全体を確認しよう」
「承知しました」
調査は、思った以上に時間がかかった。
回路の接続状態。
固定具の緩み。
魔導炉からの供給経路。
一つずつ確認していく。
俺も、父上の許可を得て《魔導構造解析・改変》を使った。
ただし、短時間だけだ。
視界に淡い光の線が浮かび上がる。
……ふむ。
昨日よりも、少し詳しく見える。
魔導炉から伸びる供給線。
その途中にある分配装置。
そして、脚部へ向かう回路。
……あれ?
俺は一つの部分に目を留めた。
分配装置の内部。
そこに、小さな乱れがある。
……もしかして。
「……父上」
「何か見つけたか?」
「分配装置の中です。魔力の流れが、少し偏っています」
父上は眉をひそめた。
「……分配装置か」
オルドが図面を確認する。
「ここは、負荷に応じて魔力を各部へ振り分ける装置ですな」
「……はい」
俺は頷いた。
「もし、ここが正常に働いていなかったら……」
父上が言葉を続けた。
「荷物を積んだとき、必要な魔力を脚部へ供給できなくなる可能性がある」
……そうだ!
俺は目を輝かせた。
しかし、父上はすぐに続けた。
「ただし、まだ仮説だ」
「……はい」
「明日、分配装置を取り外して詳しく調べよう」
俺は頷いた。
……よし。
二号機も、少し前進した。
◇
夕方。
俺たちは、いよいよ三号機の調査に取りかかった。
倉庫の一番奥。
木製の柵に囲まれた機体は、昨日と変わらず静かに立っていた。
魔導炉は停止したまま。
脚部にも、大きな損傷は見られない。
しかし、操縦装置は反応しない。
……一体、何が起きたんだろう。
俺は三号機を見上げた。
そのとき、マルタが操縦者の男性へ声をかけた。
「少し、お話を伺ってもよろしいでしょうか」
「……はい」
男性は頷いた。
マルタは静かに尋ねた。
「故障する直前、操縦桿の感触に変化はありませんでしたか?」
「……感触?」
「はい。いつもより重くなったり、軽くなったりしませんでしたか?」
男性は少し考えた。
「……そういえば」
彼は眉をひそめた。
「止まる直前、操縦桿が妙に軽くなった気がします」
俺は顔を上げた。
「……軽くなった?」
「はい。普段は少し抵抗があるんですが、あのときは……何というか、手応えがなくなったような」
マルタの表情が変わった。
「……なるほど」
彼女は続けて尋ねた。
「そのとき、機体はすぐに停止しましたか?」
「……いえ」
男性は首を横に振った。
「ほんの少しだけ、前へ進んだんです」
「……前へ?」
「はい。操縦桿を戻しても、すぐには止まらなくて……そのあと、突然動かなくなりました」
俺は思わず手帳を開いた。
……待てよ。
操縦桿が軽くなった。
操作を戻しても、すぐには止まらなかった。
そして、突然停止した。
……これって。
マルタが静かに口を開いた。
「レオンハルト様」
「……うん」
「操縦者の操作が、機体へ正しく伝わっていなかった可能性がございます」
俺は目を見開いた。
……そうか!
魔導炉の故障じゃない。
脚部の故障でもない。
操縦系統の問題かもしれない!
「……マルタ!」
「はい?」
「操縦桿と制御回路の間を調べてみよう!」
彼女は頷いた。
「それがよろしいかと」
俺は父上へ向き直った。
「父上! 三号機の操縦系統を確認したいです!」
父上は、少し考えた。
そして、頷いた。
「よし。ただし、機体は停止状態のままだ。分解は職人に任せる」
「はい!」
調査が始まった。
操縦席の外装を外す。
内部には、操縦桿から伸びる細い機械式の伝達装置と、魔導信号を送る回路が並んでいた。
俺は、その構造をじっと見つめた。
……なるほど。
操縦桿を動かすと、機械的な動きが変換装置へ伝わる。
そこから魔導信号となり、制御回路へ送られる仕組みらしい。
俺は父上の許可を得て、短時間だけ能力を使った。
《魔導構造解析・改変》。
視界に、淡い光の線が浮かび上がる。
……あれ?
操縦桿から伸びる信号経路。
その途中にある変換装置。
そこまでは、構造が正常に見える。
しかし。
……その先。
制御回路へ向かう経路の一部で、魔力の流れが途切れている。
俺は目を細めた。
「……父上」
「何だ?」
「ここです」
俺は変換装置の奥を指差した。
「操縦信号が、制御回路へ届いていないように見えます」
父上は図面を確認した。
「……なるほど」
オルドも覗き込んだ。
「ここは、操縦信号を制御回路へ送る部分ですな」
俺は頷いた。
……やっぱり。
ここに問題があるのかもしれない。
しかし、父上は慎重だった。
「まだ、原因は分からん。接続部の問題か、変換装置そのものの故障か……あるいは、別の部分が影響している可能性もある」
「……はい」
俺は頷いた。
……でも。
昨日よりは、確実に前進した。
マルタが、静かに微笑んだ。
「操縦者のお話を伺って、正解でしたね」
「うん!」
俺は嬉しくなった。
「ありがとう、マルタ!」
「ふふっ。どういたしまして」
彼女は少しだけ胸を張った。
「元操縦者として、お役に立てたようで何よりです」
……本当に、すごいな。
俺は改めて思った。
マルタがいてくれて、よかった。
◇
調査を終えたころには、外が暗くなり始めていた。
グスタフが、父上へ近づいてきた。
「男爵閣下。いかがでしょうか?」
父上は静かに答えた。
「一号機は、修理がほぼ完了した。明日、最終点検を行う」
「おおっ!」
グスタフの顔が明るくなった。
「二号機は、魔力分配装置に問題がある可能性が高い。明日、詳しく調べる」
「なるほど……」
「三号機については、操縦信号の伝達経路に異常が見つかった」
グスタフは、少しだけ表情を引き締めた。
「……修理できそうでしょうか?」
父上は首を横に振った。
「まだ、断言はできん」
「……そうですか」
「だが、昨日よりは原因に近づいている」
グスタフは、ゆっくり頷いた。
「分かりました。引き続き、お願いいたします」
父上は頷いた。
「できる限りのことはしよう」
俺は、三号機を見つめた。
……まだ、分からないことが多い。
でも。
少しずつ、答えに近づいている気がする。
◇
帰りの馬車の中。
俺は、今日の記録を整理していた。
一号機――修理ほぼ完了。
二号機――魔力分配装置に異常の可能性。
三号機――操縦信号の伝達経路に異常。
……よし。
昨日より、ずっと進んだ。
俺は満足そうに頷いた。
すると、隣に座っていたマルタが声をかけてきた。
「レオンハルト様」
「……ん?」
「本日は、よく頑張られましたね」
「……ありがとう」
俺は少し照れくさくなった。
マルタは微笑んだ。
「ですが、一つだけ申し上げてもよろしいでしょうか」
「……何?」
「今日の三号機の調査では、少し興奮されていましたね」
「……うっ」
俺は思わず目を逸らした。
確かに。
操縦系統に問題があるかもしれないと分かったとき、かなり興奮していた。
「……ごめん」
「謝る必要はございません」
マルタは優しく答えた。
「ただ、原因が分かったと思ったときほど、慎重になっていただきたいのです」
俺は頷いた。
「……うん」
「私も、以前はそうでした」
「……マルタも?」
「はい」
彼女は少し遠くを見るような表情になった。
「軍にいたころ、訓練中に機体の反応が遅れたことがございました」
「……反応が?」
「ええ。私は操縦装置の故障だと思い、整備士に確認を依頼しました」
「……それで?」
「原因は、私の操作でした」
「……え?」
俺は驚いた。
マルタは苦笑した。
「疲労で判断が遅れていたのです。それを、機械の故障だと思い込んでしまいました」
……なるほど。
機械だけじゃない。
操縦する人間にも、問題が起きることがある。
「……でも、どうして分かったの?」
「整備士が、操縦記録を確認してくれたからです」
マルタは微笑んだ。
「その方は、私を責めるのではなく、まず休むように言ってくださいました」
俺は、しばらく黙っていた。
……いい整備士さんだったんだな。
「……マルタ」
「はい?」
「俺も、そういう技術者になりたい」
彼女は目を瞬かせた。
「……そういう技術者?」
「うん。機械だけじゃなくて、使う人のことも考えられる技術者」
マルタは、しばらく俺を見つめていた。
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「……素敵な目標ですね」
俺は少し照れくさくなった。
「……ありがとう」
マルタは小さく頷いた。
「きっと、なれますよ」
そして、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私の小さな騎士様なら」
「……またそれ!?」
俺は思わず声を上げた。
マルタは楽しそうに笑った。
……まったく。
でも。
俺も笑ってしまった。
◇
その夜。
俺は自室で、今日の記録を整理していた。
机の上には、三台の魔導運搬機の図面。
そして、《オメガ》の右膝の設計図。
……うん。
今回の仕事で学んだことは、オメガにも役立つ。
荷重の分散。
魔力供給の安定性。
操縦信号の伝達。
どれも、魔導機甲にとって重要な要素だ。
俺は、オメガの設計図を見つめた。
青銀の装甲。
四つの推進器。
そして、まだ完成していない脚部。
……いつか。
この機体を、安全に動かせるようにしたい。
そのためにも、今は学ばなければならない。
俺は手帳の最後のページに、新しい言葉を書いた。
『機械を見るだけでは足りない。使う人の声を聞くこと。』
……よし。
俺は鉛筆を置いた。
明日は、二号機の分配装置を詳しく調べる。
そして、三号機の操縦信号の異常も確認する。
残された時間は、あと八日。
……まだ、間に合う。
俺は小さく笑った。
「……頑張ろう」
そのとき、扉の向こうから声が聞こえた。
「レオンハルト様」
……マルタだ。
「もうお休みになるお時間ですよ」
「……分かってる!」
「本当でしょうか?」
「本当だって!」
扉の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「ふふっ。では、おやすみなさいませ。私の小さな騎士様」
「……おやすみ、マルタ!」
俺はため息をついた。
……最近、完全に見透かされているな。
でも。
悪い気分じゃない。
俺はランプを消した。
そして、布団に潜り込んだ。
――そのころ。
ベルンハイムの倉庫では、夜間の見回りをしていた作業員が、三号機の前で足を止めていた。
「……ん?」
彼は、ランタンを掲げた。
三号機は、昨日と同じように静かに立っている。
魔導炉は停止したままだ。
しかし。
胴体の奥で、何かが小さく光った。
「……またか?」
作業員は眉をひそめた。
昨日も、同じような光を見た気がする。
彼は、慎重に機体へ近づいた。
すると。
カチッ。
小さな音がした。
「……え?」
作業員は足を止めた。
機体の内部から、何かが動いたような音。
しかし、脚部は動いていない。
魔導炉も起動していない。
……一体、何だ?
彼は、しばらく機体を見つめた。
そして、ゆっくり後ずさった。
「……明日、男爵様に伝えた方がいいな」
作業員はランタンを握り直し、倉庫の出口へ向かった。
誰もいなくなった倉庫。
三号機の内部で。
小さな青い表示石が、再び明滅した。
今度は、昨日よりも長く。
そして。
制御回路の奥で、何かが静かに切り替わる音がした。
カチン。
――それが何を意味するのか。
まだ、誰も知らなかった。
この章を読んでいただき、本当にありがとうございます!
楽しんでいただけたなら幸いです。もしお時間があれば、コメント欄でご感想をお聞かせいただけると嬉しいです。また、もしこの物語が気に入っていただけたら、星評価をいただけると大変励みになります。
お時間とご支援、本当にありがとうございました!




