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乙女ゲームの退学予定モブ、改造魔法で最強の魔導機甲を造る!  作者: ジャクロの精霊


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第18話 雷魔法で身体能力が覚醒!? 壊れたオメガの改修と、古代AIが語る敵の秘密

翌朝、目を覚ました俺は、いつもと違う感覚に戸惑っていた。


「……痛っ!」


 ベッドから起き上がろうとした瞬間、両脚に鋭い痛みが走った。


 特に太腿とふくらはぎがひどい。まるで何時間も全力疾走した翌日のようだった。


 いや、前世で運動不足だった俺なら、階段を十往復しただけでも似たような状態になったかもしれない。


「……雷魔法って、こんなに体に負担がかかるのか」


 昨日の戦いを思い出す。


 盗賊たちが屋敷へ攻め込んできた。


 俺は未完成のオメガに乗り、氷魔法と溶岩魔法を使って応戦した。


 そして、敵の魔導甲冑に追い詰められたとき、初めて雷魔法を発動した。


 あの瞬間だけは、はっきりと覚えている。


 世界の動きが遅く見えた。


 自分の体が羽のように軽くなり、普段なら間に合わないはずの動作ができた。


 あれは錯覚だったのだろうか。


「アリア、起きてる?」


『はい。おはようございます、レオンハルト様』


 枕元に置かれた黒い腕輪から、聞き慣れた声が返ってきた。


「昨日のこと、少し聞きたいんだけど」


『雷属性魔力による身体能力の変化についてでしょうか』


「うん。あのとき、俺は本当に速くなっていたの?」


『記録された身体動作から判断すると、通常よりも短時間で移動していた可能性が高いと考えられます』


「やっぱり……!」


 思わず身を乗り出した。


 途端に腹筋が痛んだ。


「うぐっ……」


『ただし、喜ぶ前に確認すべきことがあります』


「……何?」


『レオンハルト様は昨日、身体が許容できる範囲を超えて動こうとしていました』


 俺は黙った。


『魔力によって動作を補助しても、筋肉や骨、関節そのものが急激に強化されるわけではありません』


「つまり、速く動けても、体が耐えられない?」


『そのとおりです』


 なるほど。


 魔法で足を速く動かしたとしても、その衝撃を受け止めるのは俺自身の体だ。


 今の俺は八歳。


 大人と比べても、体はまだ十分に成長していない。


 そんな状態で無理に加速すれば、怪我をするのも当然だった。


「……便利な魔法だと思ったんだけどな」


『適切な研究を行えば、将来的に有用な技術となる可能性はあります』


「本当?」


『ただし、現段階で再使用することには反対します』


「……はい」


 即答されてしまった。


 俺は苦笑しながら、再び枕に頭を沈めた。


 それでも、胸の奥には小さな興奮が残っていた。


 俺の魔法には、まだ知らない可能性がある。


 そして、オメガにも。


 昨日、雷魔法を流した瞬間、オメガの腕は普段よりも速く反応した。


 関節から火花が散り、機体は壊れかけたけれど。


 もし、あの力を安全に使えるようになれば――。


「……次のオメガは、もっとすごいものになるかもしれない」


『まずはレオンハルト様の回復を優先してください』


「分かってるよ」


 そう答えた直後、扉がノックされた。


「レオンハルト様、お目覚めでしょうか?」


 マルタの声だった。


「うん、起きてるよ」


「失礼いたします」


 扉が開き、朝食を載せた盆を持ったマルタが入ってきた。


 いつもの紺色の使用人服に白いエプロン。栗色の髪はきちんとまとめられている。


 けれど、目の下には薄い隈ができていた。


「……マルタ、眠れなかったの?」


 俺が尋ねると、彼女は一瞬だけ動きを止めた。


「誰のせいだと思っていらっしゃるのですか?」


「……ごめんなさい」


「本当に、心配したんですよ」


 マルタは盆を置くと、ベッドの脇に腰を下ろした。


 そして、俺の顔をじっと見つめる。


「昨日、あの黒い魔導甲冑がレオンハルト様に向かってきたとき……私は、もう駄目なのではないかと思いました」


 その声が少し震えていた。


 俺は言葉を失った。


「レオンハルト様が立ち上がって、突然ものすごい速さで動かれたときも……嬉しいより、怖かったんです」


「……うん」


「どうか、私たちを守るために、ご自分を犠牲にしようとなさらないでください」


 俺は布団の上で拳を握った。


 昨日、俺は確かにみんなを守りたかった。


 でも、その結果、マルタを泣かせてしまった。


「……約束する」


 俺は彼女を見つめた。


「次は、ちゃんと準備する。危ないことをする前に、父上たちにも相談する」


「……本当ですね?」


「うん」


 マルタはようやく、小さく笑った。


「でしたら、まずは朝食を召し上がってください。今日は絶対安静です」


「……倉庫に行くのも駄目?」


「駄目です」


「少しだけでも?」


「駄目です」


「オメガを見るだけ――」


「レオンハルト様」


「……はい」


 俺は大人しくスプーンを手に取った。


 どうやら、今日のマルタには逆らえそうになかった。


     ◇


 昼前になると、父上が俺の部屋を訪ねてきた。


 ラインハルト・ヴァイス。


 四十六歳。


 普段は穏やかな表情をしている父上だが、今日は少し疲れて見えた。


 昨日の戦いで、父上自身も相当な負担を受けたのだろう。


「具合はどうだ、レオン」


「だいぶ良くなりました。まだ足は痛いですけど」


「そうか」


 父上は椅子を引き、ベッドのそばに座った。


 しばらく俺を見つめたあと、静かに口を開いた。


「昨日の戦いについて、聞かせてほしい」


 俺は頷いた。


 氷魔法を使ったこと。


 土と火を組み合わせ、溶岩を生み出したこと。


 雷魔法でオメガの動きを速くしようとしたこと。


 そして、自分自身にも雷の魔力を流したこと。


 できる限り、正直に話した。


 父上は途中で口を挟まず、最後まで聞いてくれた。


 話し終えると、深いため息をついた。


「……なるほどな」


「怒ってますか?」


「怒っていないと言えば、嘘になる」


 俺は肩を落とした。


「だが、それ以上に驚いている」


「……え?」


「氷結、溶融、放電。お前は昨日、三つの新しい現象を魔法で引き起こしたということだ」


 父上は腕を組んだ。


「普通の魔法使いなら、一つの属性を安定して扱えるようになるだけでも時間がかかる。まして、異なる属性を組み合わせて新しい現象を生み出すとなれば、なおさらだ」


「……そんなに難しいんですか?」


「難しいとも。魔力は、ただ混ぜればいいというものではないからな」


 父上は机の上に置かれた水差しを指差した。


「例えば、水を温めるのと、蒸発させるのでは必要な熱が違う。さらに、その蒸気を狙った方向へ動かそうとすれば、別の制御が必要になる」


「……なるほど」


「お前の魔法は、その複数の操作を同時に行っているように見える」


 俺は少し考えた。


 確かに、昨日の溶岩魔法はただ火を放ったわけじゃない。


 地面を狭い範囲に区切り、熱を集中させ、溶けた部分を動かした。


 魔力の使い方は、機械の回路を調整するときに似ていた。


「……父上」


「何だ?」


「俺の《魔導構造解析・改変》と関係があると思いますか?」


 父上は顎に手を当てた。


「可能性はある。お前は物質や魔導機構の構造を理解し、それを調整することが得意だ。魔法そのものの流れも、同じように捉えているのかもしれん」


「……そうか」


 俺は自分の手を見つめた。


 この力は、まだ分からないことだらけだ。


 でも、だからこそ面白い。


「それで、父上。オメガなんですけど――」


「修理の話なら、しばらく禁止だ」


「……えっ!?」


 俺は思わず声を上げた。


 父上は苦笑した。


「昨日、医師に何と言われた?」


「……安静にしなさい、と」


「そのとおりだ」


「でも、オメガの状態が気になって……」


「状態なら、私が確認しておいた」


 俺は目を見開いた。


「本当ですか!?」


「ああ。肩部装甲の変形、右腕の駆動部の損傷、脚部関節の摩耗。それに、魔力分配回路の一部が焼けている」


「……うわぁ」


 想像以上にひどい。


「ただし、主骨格は無事だ。魔力蓄積器も破損していない」


「……よかった」


 俺は胸を撫で下ろした。


 あの小さな魔力蓄積器を造るために、どれだけ苦労したことか。


 また最初からやり直すことになったら、かなり大変だっただろう。


「それで、レオン。お前に一つ、考えてほしいことがある」


「……何ですか?」


「昨日のオメガは、なぜ壊れたと思う?」


 俺は少し考えた。


「……雷魔法に回路が対応していなかったから?」


「それもある」


 父上は頷いた。


「だが、もっと根本的な問題がある。お前は機体を動かすために、必要な力を直接関節へ送り込んでいる」


「……はい」


「その方法では、魔力が急に増えたとき、関節も急に動こうとする。結果として、機械そのものに無理がかかる」


 俺は息を呑んだ。


 そうか。


 魔力を強く流せば、速く動く。


 けれど、速く動いた分だけ、関節に衝撃が加わる。


 しかも、オメガはまだ小さな試作機だ。


 その衝撃を吸収する仕組みが足りない。


「……つまり、魔力を増やすだけじゃ駄目なんですね」


「そうだ」


 父上は微笑んだ。


「強い機体を造りたいなら、強い力を受け止められる機体を造らなければならん」


 俺はその言葉を、心の中で何度も繰り返した。


 強い力を受け止められる機体。


 それは、昨日の俺自身にも言えることだった。


     ◇


 三日後。


 医師から短時間の歩行を許された俺は、ようやく倉庫へ向かうことができた。


 もちろん、一人ではない。


「ゆっくり歩いてくださいね」


「分かってるよ、マルタ」


「走ってはいけませんよ」


「走れないってば」


「魔法で速く動くのも禁止です」


「……はい」


 どうやら、俺の雷魔法は家族の間で相当な問題になっているらしい。


 倉庫の扉を開けると、懐かしい油と金属の匂いがした。


 そして、その中央に。


「……オメガ」


 青と銀の魔導甲冑が、修理用の支持台に固定されていた。


 高さは約百四十センチ。


 祖父が遺した古いターボナイトの部品を利用して造った、俺だけの機体。


 昨日まで輝いていた肩の装甲には、大きなへこみが残っていた。


 右腕の関節は取り外され、内部の歯車と導線がむき出しになっている。


 脚部にも、いくつもの傷がついていた。


 俺はゆっくりと近づいた。


「……ごめんな、オメガ」


 思わず、そんな言葉が出た。


 俺が無茶をしたせいで、こんな姿になってしまった。


「機械に謝るなんて、変わってるな」


 背後から声がした。


 振り返ると、セドリック兄上が立っていた。


 赤茶色の髪を短く整え、いつもの訓練服を着ている。


「兄上!」


「足はもう大丈夫なのか?」


「少し痛いですけど、歩けます」


「そうか。ならよかった」


 兄上はオメガを見上げた。


「それにしても、よくこんな小さな機体で盗賊を相手にしたな」


「……ほとんど動けませんでしたけど」


「それでも、屋敷を守る役には立ったんだろ?」


 俺は少し照れくさくなった。


「……はい」


 兄上は笑った。


「なら、胸を張れよ。ただし、次はちゃんと戦える機体にしろ」


「……はい!」


「それと、父上から伝言だ」


「……何ですか?」


「今日の作業は見学だけ。魔法を使った修理は禁止」


「……ええっ!?」


 兄上は楽しそうに笑った。


「当たり前だろ。まだ病み上がりなんだから」


 俺はがっくりと肩を落とした。


 その様子を見て、マルタまで小さく笑っていた。


     ◇


 午後になると、父上とアルブレヒト兄上が倉庫へやってきた。


 大きな机の上には、オメガの設計図が広げられている。


 俺は椅子に座り、父上たちが機体の部品を確認する様子を眺めていた。


「まず、右腕の駆動部だな」


 父上が言った。


「ここは完全に交換したほうがいい」


 アルブレヒト兄上が帳簿を開く。


「交換部品なら倉庫に予備があります。ただし、古い型式なので、加工が必要ですね」


「費用は?」


「新しいものを買うよりは安いです。ですが、ほかの修理と合わせると……」


 兄上は少し顔をしかめた。


 俺は恐る恐る尋ねた。


「……高いですか?」


「安くはないね」


「……うっ」


「ただ、今回の襲撃で屋敷を守れたことを考えれば、必要な支出だと思うよ」


 兄上は帳簿を閉じた。


「それに、父上たちの機体も修理が必要だからね」


 そうだった。


 グラーフも、ヴァイスリッターも、フレイムランサーも、昨日の戦いで損傷している。


 領地の財政は、もともと厳しい。


 そこへ、今回の襲撃だ。


 修理費は決して小さくないはずだった。


「……俺、もっと頑張ってお金を稼げるようになります」


 そう言うと、父上は首を振った。


「レオン。お前が領地の借金を背負う必要はない」


「でも……」


「お前が考えるべきことは、自分の力をどう安全に使うかだ」


 父上は設計図を指差した。


「それに、オメガの改良には、お前の発想が必要だ」


「……俺の?」


「ああ。お前が何を造りたいのか、まずは聞かせてくれ」


 俺は設計図を見つめた。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「……まず、関節の衝撃を減らしたいです」


「ほう」


「雷魔法を使うと、機体の反応が速くなります。でも、今のままだと関節が壊れます」


 父上は頷いた。


「続けなさい」


「だから、魔力が急に流れ込まないようにする装置が必要だと思います」


「……なるほど」


「それと、脚の動きも安定させたいです。昨日は転びそうになってばかりだったから」


 父上は設計図に線を引いた。


「ならば、魔力の流量を調整する弁と、関節の負荷を分散させる構造が必要になるな」


「……はい!」


 俺は身を乗り出した。


「あと、背中の四つの推進器も――」


「それはまだ早い」


「……ですよね」


 父上に即答されてしまった。


 俺は苦笑した。


 オメガの背中には、四つの推進器を取り付けるための装置がある。


 だが、今はまだ外装だけだ。


 本格的な推進機構も、飛行制御も完成していない。


 昨日の戦いで、普通に歩くだけでも問題があることが分かった。


 そんな状態で飛ぼうとすれば、どうなるか。


 ……考えるだけで怖い。


「まずは歩行の安定化。それから、短時間の加速試験だ」


 父上が言った。


「それができてから、次の段階を考えよう」


「……はい!」


 俺は力強く頷いた。


 オメガの改修計画。


 その第一歩が、ようやく始まった。


     ◇


 その日の夕方。


 俺は倉庫の隅にある机で、アリアと話していた。


 父上たちは別の作業をしている。


 マルタは少し離れた場所で、修理用の布を畳んでいた。


「……アリア。昨日言ってた、敵の魔導甲冑のことなんだけど」


『はい』


「何か分かった?」


『部分的な照合が完了しました』


 俺は思わず姿勢を正した。


「……本当!?」


『ただし、情報は不完全です。確定できない事項が多く存在します』


「それでもいい。教えて」


 アリアは少し間を置いた。


『敵機から観測された魔力反応には、通常の魔導蓄積器とは異なる周期的な変動が含まれていました』


「……周期的な変動?」


『はい。一定の間隔で魔力出力が増減していました』


 俺は考えた。


 普通の魔導甲冑は、蓄積器から魔力を取り出し、各部へ分配する。


 出力が変動すること自体は、不思議じゃない。


 だが、アリアが気にしているのは、その変動の仕方らしい。


「……何かに似てるの?」


『損傷した記録領域に、類似する波形が存在します』


「……それって、古代の技術?」


『可能性があります。しかし、現在の情報だけでは断定できません』


 俺は腕を組んだ。


 古代の技術。


 アリア。


 そして、北の廃坑。


 そこには、まだ調べていない謎が残っている。


「……もしかして、あの鉱山と関係があるのかな」


『関連性を示す直接的な証拠はありません』


「……そっか」


 俺は少し肩を落とした。


 けれど、アリアは続けた。


『ただし、確認したい事項が一つあります』


「……何?」


『敵機の炉心に使用されていた物質です』


「……物質?」


『はい。もし炉心の残骸が回収されていれば、近距離での解析によって情報が得られる可能性があります』


 俺は目を見開いた。


「……それなら!」


 椅子から立ち上がろうとした瞬間。


「レオンハルト様」


 背後からマルタの声がした。


 俺はぴたりと止まった。


「……はい」


「今日はもう、お部屋へ戻る時間です」


「……でも、ちょっとだけ父上に――」


「明日でもよろしいでしょう?」


 マルタは微笑んでいた。


 だが、その笑顔には逆らえない何かがあった。


「……はい」


 俺は大人しく椅子に座り直した。


 アリアが小さく告げた。


『適切な判断です』


「……アリアまで」


 俺はため息をついた。


 どうやら、俺の周りには厳しい監督者が多いらしい。


     ◇


 翌日。


 父上に相談すると、思いがけない返事が返ってきた。


「……敵機の残骸なら、すでに回収してある」


「……えっ!?」


 俺は目を見開いた。


「本当ですか!?」


「ああ。昨日、警備隊が農村から運んできた。危険な炉心部分は隔離してあるがな」


 父上は腕を組んだ。


「ただし、まだ安全確認が終わっていない。近づくことは許可できん」


「……分かりました」


 俺は少し残念だったが、頷いた。


 あの黒い機体は、戦闘中に爆発しかけた。


 そんなものを不用意に触るわけにはいかない。


「それで、レオン」


「……はい?」


「お前に見せたいものがある」


 父上は机の引き出しから、一枚の紙を取り出した。


 そこには、黒い魔導甲冑の胸部を描いた簡単な図があった。


 中央には、赤黒い炉心の位置が記されている。


「これは、回収した機体の外観を記録したものだ」


 俺は紙を受け取った。


 そして、息を呑んだ。


「……これ」


 炉心の周囲には、見慣れない模様が刻まれていた。


 複雑な円形の線。


 その内側に並ぶ、細かな記号。


 俺はどこかで似たものを見た気がした。


「……アリア?」


『確認しています』


 腕輪がわずかに震えた。


『……一致する可能性のある記録を検出しました』


 俺は目を見開いた。


「……何の記録?」


 アリアは答えなかった。


 数秒。


 十秒。


 いつもならすぐに返事をする彼女が、沈黙している。


「……アリア?」


『申し訳ありません。記録領域に損傷があり、詳細を復元できません』


「……そっか」


 俺は紙を見つめた。


 そのとき。


 アリアが、もう一度口を開いた。


『ただし、一つだけ読み取れた文字列があります』


「……文字列?」


『はい』


 俺は息を止めた。


 そして。


『――《エクリプス計画》』


「……エクリプス?」


 聞いたことのない名前だった。


 だが、その響きには、妙な重さがあった。


 父上も眉をひそめた。


「……何だ、それは」


『不明です。現在の記録では、計画の目的も関係者も確認できません』


 俺はもう一度、黒い機体の図面を見た。


 古代の魔導技術。


 異常な炉心。


 そして、エクリプス計画。


 偶然なのだろうか。


 それとも。


 何か、大きな秘密が隠されているのだろうか。


 俺は小さく息を吐いた。


「……父上」


「何だ?」


「このこと、もう少し調べてもいいですか?」


 父上はしばらく考えた。


 そして、静かに頷いた。


「安全が確認できた範囲でなら、協力しよう」


「……ありがとうございます!」


 俺は笑った。


 けれど、父上の表情は真剣だった。


「ただし、レオン。忘れるな」


「……はい?」


「昨日の盗賊たちは、ただの野盗ではなかった可能性がある」


 俺は頷いた。


 あれほどの魔導甲冑を、普通の盗賊が用意できるとは思えない。


「だからこそ、慎重に動く必要がある」


「……はい」


 父上は窓の外へ目を向けた。


「お前が何かを発見することよりも、お前が無事でいることのほうが大切だ」


 俺はその言葉を、胸に刻んだ。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


     ◇


 その日の夜。


 俺は自分の部屋で、新しい設計図を広げていた。


 もちろん、魔法は使っていない。


 ただ、紙に線を引いているだけだ。


 オメガの右腕。


 脚部関節。


 魔力分配回路。


 そして、雷魔法に対応するための新しい調整機構。


 まだ、具体的な形にはなっていない。


 でも、少しずつ考えがまとまってきた。


「……まずは、急に魔力が流れ込まないようにする装置」


 俺は紙に小さな四角を描いた。


「それから、関節の負荷を減らす仕組み……」


 次に、脚部の図を描く。


 オメガの動きを安定させるには、左右の出力をもっと細かく調整する必要がある。


 それに、俺自身の魔法も。


 昨日の雷魔法は、確かに体を速くした。


 けれど、その代償は大きかった。


 同じ方法を繰り返せば、いつか本当に大怪我をするかもしれない。


「……安全に使う方法を考えないとな」


『その方針には賛成します』


 アリアの声が響いた。


 俺は小さく笑った。


「……アリア」


『はい』


「俺、もっと強くなりたい」


『理由をお聞きしてもよろしいでしょうか』


 俺は少し考えた。


 前世では、恋愛に失敗し、仕事に追われ、最後は突然命を落とした。


 この世界に生まれ変わったとき、俺は決めた。


 今度こそ、自由に生きようと。


 誰かの都合で、自分の人生を決められたくない。


 ゲームのシナリオに従って、何もできずに退場するなんて嫌だ。


 でも、今はそれだけじゃない。


「……家族を守りたいから」


 俺は静かに答えた。


「父上も、母上も、兄上たちも、マルタも。みんなが安心して暮らせるようにしたい」


『……理解しました』


「それに、オメガを完成させたい」


 俺は設計図を見つめた。


 青と銀の魔導甲冑。


 まだ小さくて、弱くて、壊れやすい。


 でも、俺にとっては何より大切な夢だ。


「いつか、誰にも負けないくらいすごい機体を造るんだ」


『目標を記録しました』


 アリアが答えた。


 俺は笑った。


「……頼りにしてるよ、アリア」


『こちらこそ、よろしくお願いいたします。レオンハルト様』


 そのとき。


 廊下から、慌ただしい足音が聞こえてきた。


 続いて、扉がノックされる。


「レオンハルト様!」


 マルタの声だった。


「……どうしたの?」


「旦那様がお呼びです。至急、執務室へお越しください!」


 俺は首を傾げた。


 こんな時間に?


 何かあったのだろうか。


「……分かった。すぐ行く」


 俺は設計図を畳み、椅子から立ち上がった。


 まだ少し脚が痛む。


 それでも、ゆっくり歩くことはできた。


 廊下へ出ると、マルタが待っていた。


 その表情は、いつもより真剣だった。


「……何があったの?」


 俺が尋ねると、マルタは少し迷ったあと、答えた。


「王都から、使者が到着したそうです」


「……王都?」


 俺は足を止めた。


 王都。


 その言葉を聞いた瞬間、前世の記憶が蘇った。


 乙女ゲーム『ターボナイト ~エターナル・ハーツ~』。


 魔法学園。


 そして、ゲームの中心となる登場人物たち。


 俺が本来なら、ただのモブとして登場するはずだった場所。


「……まさか」


 胸が、どくんと鳴った。


 マルタは続けた。


「詳しいことは分かりません。ただ、使者の方は……レオンハルト様について、お話があるそうです」


「……俺について?」


 俺は呆然と呟いた。


 王都からの使者。


 しかも、俺に用事がある?


 そんなこと、ゲームのシナリオにはなかったはずだ。


 俺はゆっくりと拳を握った。


 オメガを造ったこと。


 盗賊たちと戦ったこと。


 そして、魔法の新しい可能性を見つけたこと。


 そのどれかが、未来を変え始めているのだろうか。


 まだ分からない。


 でも。


 俺は確かに感じていた。


 ゲームの物語が、少しずつ動き始めている。


 そして、俺自身も。


 もう、ただのモブではいられないのかもしれない。


 俺は深呼吸した。


「……行こう、マルタ」


「はい、レオンハルト様」


 俺たちは、父上の執務室へ向かって歩き始めた。


 その先で待っているものが、俺の未来を大きく変えることになるとも知らずに。

この章を読んでいただき、本当にありがとうございます!


楽しんでいただけたなら幸いです。もしお時間があれば、コメント欄でご感想をお聞かせいただけると嬉しいです。また、もしこの物語が気に入っていただけたら、星評価をいただけると大変励みになります。


お時間とご支援、本当にありがとうございました!

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