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乙女ゲームの退学予定モブ、改造魔法で最強の魔導機甲を造る!  作者: ジャクロの精霊


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第17話 未完成のオメガで盗賊を迎え撃つ! 複合魔法の覚醒、そして雷をまとった俺の身体に異変が!?

屋敷の北門から、激しい衝撃音が響いた。


 ドォンッ!


 続いて、木材が砕ける音と男たちの怒号。


「門を破れ! 中に金目のものがあるはずだ!」


「邪魔する奴は叩きのめせ!」


 俺はオメガの操縦空間で息を呑んだ。


 昨日、ようやく歩くことに成功したばかりの青と銀の魔導甲冑。その胸部を通して伝わってくる振動は、試験中に感じたものとはまるで違っていた。


 これは訓練じゃない。


 本物の戦いだ。


『北門付近で複数の魔力反応を確認。詳細な人数と装備は判別できません』


 アリアの声が耳元に響く。


「分かってる。まずは警備隊の人たちを助けないと」


『レオンハルト様。現在のオメガは実戦運用を想定していません。特に脚部の姿勢制御は――』


「うん。無茶はしない」


 そう答えながら、俺は右脚へ慎重に魔力を流した。


 ゴトン。


 一歩。


 続いて左脚。


 ゴトン。


 二歩。


 昨日は二歩目で転びかけた。


 今日は四歩、五歩と進めるようになったものの、少しでも重心を間違えれば機体が傾く。


 走るなんて、とても無理だ。


「レオンハルト様!」


 背後からマルタが駆け寄ってきた。


 栗色の髪が揺れ、紺色の使用人服の裾が風になびいている。白いエプロンには、避難してきた人々の世話をしていたときについた汚れが残っていた。


「どうして門のほうへ向かわれるのですか!?」


「門までは行かないよ。中庭の端で待機する。もし怪我人が出たら、魔法で手伝えるかもしれないから」


「……本当ですね?」


「本当」


 マルタは俺をじっと見つめた。


 それから、大きなため息をついた。


「昨日まで、歩くだけで大騒ぎだったというのに……」


 俺は返す言葉がなかった。


 そのときだった。


 北門の上から、火のついた瓶が投げ込まれた。


 瓶は中庭の端に置かれた荷車へぶつかり、割れた。


 ボワッ!


 炎が乾いた藁へ燃え移る。


「火事だ!」


「水を持ってこい!」


 近くにいた使用人たちが悲鳴を上げた。


 荷車のすぐそばには、避難してきた老人と幼い少女がいた。


 老人は少女の手を引こうとしていたが、足がもつれて倒れてしまう。


「……まずい!」


 俺は反射的に右手を掲げた。


「水よ!」


 掌から青い魔法陣が広がり、水の塊が飛び出した。


 だが、ただ水を放つだけでは炎の中心まで届かない。


 俺は風の魔力を重ねた。


 水の流れを細く絞り、風で軌道を調整する。


「……そこだ!」


 水流が燃える荷車を直撃した。


 ジュウウッ!


 白い蒸気が立ち上る。


 一度では消えない。


 俺は続けて水を放ち、燃えている藁を濡らした。


 警備隊の兵士たちも駆けつけ、老人と少女を安全な場所へ運んでいく。


「助かったぞ、坊ちゃん!」


 兵士の一人が叫んだ。


 俺は安堵した。


 だが、その直後。


『警告。魔力消費量が増加しています』


 アリアの声が響いた。


 オメガを動かしながら魔法を使う。


 それだけで、思った以上に魔力を消費する。


 俺自身の魔力制御は以前よりずっと上達した。


 水と風を組み合わせることも、短時間ならできるようになっている。


 けれど、魔力の総量が無限になったわけじゃない。


 俺は息を整えた。


「……大丈夫。まだ動ける」


 そのとき、北門から激しい破砕音が響いた。


 バキィンッ!


 補強された門の片側が、内側へ大きく傾いた。


 そして、隙間から武装した男たちがなだれ込んできた。


     ◇


「いたぞ! 貴族の屋敷だ!」


「倉庫を探せ! 金貨でも魔導石でも、持てるものは全部奪え!」


 盗賊たちは剣や斧を手に、中庭へ侵入してきた。


 警備隊の兵士たちが迎え撃つ。


 金属音が響き、怒号が飛び交った。


 俺はオメガを後退させようとした。


 しかし、そのとき。


「おい、何だありゃ?」


 盗賊の一人が、こちらを見た。


 無精髭を生やした大柄な男だった。革鎧の上から鉄板を継ぎ足したような防具を着込み、片手には幅広の剣を握っている。


「ちっこい魔導甲冑じゃねえか!」


 男は笑った。


「貴族の坊ちゃんのおもちゃか?」


 俺は返事をしなかった。


 男の後ろでは、別の盗賊が逃げ遅れた使用人へ近づいていた。


 マルタがその使用人の腕を引き、必死に後退させている。


「……マルタ!」


 俺は咄嗟に左手を掲げた。


「土よ、壁になれ!」


 地面が盛り上がり、盗賊とマルタの間に低い土壁が生まれた。


 ドンッ!


 男の剣が土壁にぶつかる。


「何だと!?」


「今のうちに逃げて!」


 俺が叫ぶと、マルタは使用人を連れて走り出した。


 しかし、盗賊はすぐに土壁を乗り越えようとした。


 俺はもう一度魔力を集中させる。


 水。


 そして、冷却。


 水の魔力を集め、周囲から熱を奪うように制御する。


 以前、水と風を組み合わせたときとは感覚が違った。


 冷たさを生み出すには、単に水を動かす以上の精密さが必要だった。


「……凍れ!」


 地面に薄く広がった水が、白く変わった。


 パキパキッ!


 氷だ。


 盗賊の足元に、薄い氷の膜が生まれる。


「うおっ!?」


 男が足を滑らせ、尻もちをついた。


 俺は思わず目を見開いた。


「……できた?」


『水属性魔力による局所的な冷却を確認。氷結現象が発生しました』


「本当に……氷魔法が!」


 嬉しさが込み上げた。


 だが、次の瞬間には別の盗賊が迫ってきた。


「調子に乗るな、ガキ!」


 剣が振り上げられる。


 俺はオメガを動かそうとした。


 しかし。


 ギギッ!


 右膝の関節が引っかかった。


「……っ!」


『警告。脚部駆動に遅延が発生しています』


 間に合わない。


 そう思った瞬間。


「坊ちゃん、伏せろ!」


 警備隊の兵士が横から飛び込み、盗賊の剣を受け止めた。


 ガキィンッ!


 火花が散る。


「早く下がってください!」


「……はい!」


 俺は慌ててオメガを後退させた。


 胸が激しく鳴っている。


 今の一撃。


 兵士が助けてくれなかったら、どうなっていたか分からない。


 俺はまだ、弱い。


 魔法が使えても、オメガに乗っていても。


 戦いの経験が圧倒的に足りない。


 その事実が、胸に突き刺さった。


     ◇


 中庭の戦況は、次第に悪くなっていった。


 警備隊は必死に戦っていたが、盗賊たちの装備は予想以上に優れていた。


 特に厄介だったのが、後方にいる三人の魔法使いだった。


 彼らは革の外套をまとい、短い杖を手にしている。


 火球を放ち、兵士たちを牽制しながら前進していた。


「くそっ! 魔法使いまでいるのか!」


 警備隊長が叫んだ。


 俺はオメガの中から、その様子を見つめていた。


 このままでは、屋敷の奥まで突破される。


 母上も、マルタも、避難してきた人たちもいる。


 俺は唇を噛んだ。


「……アリア」


『はい』


「敵の魔法使いたち、見える?」


『腕輪から取得できる情報は限定的です。ただし、レオンハルト様の視界内にいる三名の魔力使用者は確認できます』


「……分かった」


 俺は目を閉じた。


 頭の中に、これまで学んだ魔法の知識を思い浮かべる。


 水。


 火。


 土。


 風。


 四つの基本属性。


 それらを組み合わせれば、別の現象を生み出せる。


 氷は、たった今成功した。


 ならば。


 ほかにも、できることがあるはずだ。


 俺は以前、倉庫で行った実験を思い出した。


 土と火の魔力を組み合わせたとき、銀色の小さな粒と、正体の分からない紫色の液体が生まれた。


 父上は危険だと言って、実験を中止させた。


 あの液体が何だったのか、今も分かっていない。


 だが、あのとき俺は感じた。


 異なる魔力を組み合わせると、単独では起こせない変化が生まれる。


「……毒」


 俺は小さく呟いた。


 もし、魔力で物質の性質を変えられるなら。


 相手を弱らせるようなものも、作れるのかもしれない。


『レオンハルト様。未知の物質を戦闘中に生成する行為は危険です』


「……うん」


『特に、周囲に味方がいる状況では使用を推奨しません』


 俺は頷いた。


 正体の分からない毒を撒けば、味方まで巻き込んでしまう。


 そんなことはできない。


 それなら。


 俺は地面を見た。


 石畳。


 その隙間にある土。


 そして、火。


 土と火を組み合わせたら、どうなる?


 前世の知識が頭をよぎった。


 岩石は、十分な熱を受ければ溶ける。


 もちろん、そんな温度を生み出すには膨大なエネルギーが必要だ。


 今の俺に、広い範囲を溶岩に変えるだけの魔力があるとは思えない。


 でも。


 ごく小さな範囲なら?


 俺は視線を上げた。


 盗賊たちの前方には、崩れた門の外へ続く石畳がある。


 味方の兵士たちは、その手前で防衛線を維持していた。


 もし、敵の進路を一瞬でも遮断できれば。


「……アリア」


『はい』


「土と火を組み合わせる。ほんの少しだけ、地面を溶かしたい」


『必要な熱量は非常に大きくなります。現在の魔力量では、広範囲への使用は不可能です』


「分かってる。狭い場所だけでいい」


『……実行する場合、魔力枯渇と周囲への熱被害の危険があります』


 俺は深呼吸した。


「だから、先にみんなを下がらせる」


 俺は警備隊長へ声をかけた。


「隊長さん! 門の前から少し離れてください!」


「坊ちゃん!?」


「敵の進路を塞ぎます! だから、みんなを下がらせて!」


 隊長は一瞬迷った。


 だが、俺の表情を見て、すぐに兵士たちへ指示を出した。


「全員、後退! 門の前を空けろ!」


 兵士たちが防衛線を下げる。


 盗賊たちは、それを見て笑った。


「逃げるのか!?」


「追え! 屋敷の中まで――」


 その言葉が終わる前に。


 俺は両手を掲げた。


     ◇


 まず、土の魔力を地面へ流す。


 石畳の下にある土を押し固め、周囲から隔離するように狭い溝を作った。


 次に、火の魔力を集中させる。


 熱を、ただ広げるのではない。


 一点へ集める。


 以前なら、こんな細かな制御はできなかった。


 だが、オメガの魔力分配機構を造るために、俺は何度も魔力の流れを調整してきた。


 少しずつ。


 少しずつ。


 無駄を減らす。


 必要な場所へ、必要なだけ。


「……熱くなれ」


 溝の底が赤く輝き始めた。


 じりじりと熱が広がる。


 俺の額から汗が流れた。


『警告。魔力消費量が急増しています』


「……もう少し!」


 地面が赤く染まる。


 そして。


 ボコッ。


 溝の底で、石の一部が溶け始めた。


「……できた!」


 俺は息を呑んだ。


 溶岩。


 いや、正確には、ごく少量の溶けた岩石だ。


 でも、確かに土と火の魔力を組み合わせて生み出したものだった。


「何だ、あれ!?」


 盗賊たちが足を止めた。


 赤く輝く溝から、熱気が立ち上る。


「近づくな! 焼けるぞ!」


 俺は最後の魔力を振り絞った。


「溶岩魔法――《紅蓮の奔流》!」


 赤く輝く溶融物が、溝に沿って勢いよく広がった。


 轟音とともに石畳が砕け、門の前に熱い障壁が生まれる。


 盗賊たちは悲鳴を上げて後退した。


 武器を落とす者。


 転んで逃げ遅れる者。


 炎と熱気に驚き、門の外へ逃げ出す者。


 数人は逃げる途中で倒れ、動かなくなった。


 俺はその光景を見て、息を止めた。


 ……人が、倒れた。


 魔物じゃない。


 人間だ。


 俺が放った魔法で。


 胸の奥が冷たくなる。


 だが、考える暇はなかった。


『危険! 魔力残量が限界に接近しています!』


 アリアの声が響いた。


 次の瞬間。


 オメガの胸部が激しく震えた。


「……っ!?」


 視界が揺れる。


 脚部の関節が、ぎこちなく動いた。


『魔力分配機構に過負荷が発生。駆動停止を推奨します!』


「……分かってる!」


 俺は魔力供給を止めようとした。


 だが、そのとき。


 門の外から、ひときわ大きな影が現れた。


 黒い装甲。


 太い腕。


 そして、巨大な鉄槌。


 盗賊たちが連れてきた、もう一機の魔導甲冑だった。


「……嘘だろ」


 俺は呆然と呟いた。


 黒い機体の胸部から、男の怒鳴り声が響く。


「よくも仲間をやりやがったな、クソガキ!」


 巨大な鉄槌が持ち上がった。


 俺はオメガを動かそうとした。


 しかし。


 動かない。


『脚部駆動出力、低下。通常歩行は困難です』


「……くっ!」


 鉄槌が振り下ろされる。


 俺は反射的に地面へ魔力を流した。


 土の壁が盛り上がる。


 ドガァンッ!


 壁は一撃で砕け散った。


 衝撃がオメガを襲う。


 機体が後ろへ倒れかけた。


「レオンハルト様ぁっ!」


 遠くから、マルタの叫び声が聞こえた。


 俺は歯を食いしばった。


 ……このままじゃ、やられる。


 でも、もう魔力がほとんど残っていない。


 どうすればいい?


 どうすれば――。


 その瞬間。


 俺の頭の中に、ある考えが浮かんだ。


 雷。


 前世の知識。


 電気は、機械を動かすためのエネルギーになる。


 そして、人間の体も、微弱な電気信号で筋肉を動かしている。


 もし。


 もし、その流れを魔法で補助できたら?


「……アリア」


『はい』


「雷の魔力を……使えると思う?」


『雷属性の直接使用記録はありません。風属性と火属性の魔力を応用し、放電現象を発生させる可能性はありますが、危険性が高く――』


「……分かってる」


 俺は息を整えた。


 無茶だ。


 そんなことは分かっている。


 でも、今はほかに方法がない。


 俺は目を閉じた。


 風の魔力。


 火の魔力。


 二つの流れを、慎重に重ねる。


 空気が、わずかに震えた。


 パチッ。


 小さな青い火花が、指先に生まれた。


「……雷?」


『放電現象を確認しました』


 俺は目を見開いた。


 できた。


 ほんの小さな火花だけど。


 確かに、雷の魔法だ。


 俺はその魔力を、オメガの回路へ流そうとした。


『警告! 現在の回路は雷属性魔力に対応していません!』


「……少しだけ!」


『過電流による損傷の危険があります!』


 俺は歯を食いしばった。


 青い火花が、オメガの胸部を走る。


 次の瞬間。


 ギュインッ!


 機体の関節が、突然大きく動いた。


「……っ!?」


 俺は驚いた。


 いつもより反応が速い。


 ほんのわずかに魔力を流しただけなのに、腕がすぐに動いた。


 だが、同時に。


 右腕の関節から火花が散った。


『右腕駆動機構に異常発熱!』


「……くっ!」


 俺は慌てて魔力を止めた。


 オメガの腕が止まる。


 雷の魔力は、確かに機体の反応を速くした。


 でも、このままでは壊れる。


 俺は荒い息を吐いた。


 そのとき、再び黒い機体が迫ってきた。


「終わりだ、ガキ!」


 鉄槌が振り上げられる。


 俺は反射的に胸部の装甲を開いた。


 そして、オメガから飛び降りた。


 小さな体が地面へ転がる。


 直後。


 ドガァァンッ!


 鉄槌がオメガの肩をかすめ、装甲を大きくへこませた。


 俺は地面に手をつき、息を呑んだ。


 ……危なかった。


 あと少し遅ければ。


 そのときだった。


 俺の指先に、まだ青い火花が残っていた。


 パチッ。


 俺はそれを見つめた。


 雷の魔力。


 オメガだけじゃない。


 自分の体にも、流せるのだろうか。


 ……いや、危険だ。


 電気を筋肉へ流すなんて、普通に考えれば怪我をする。


 でも。


 俺の魔法は、ただの電気ではない。


 魔力で生み出した放電を、細かく制御することができる。


 もし、筋肉へ直接強い電流を流すのではなく、体の動きに合わせて魔力で補助できたら?


 俺は息を呑んだ。


「……試すしかない」


『レオンハルト様! 生体への雷属性魔力の直接使用は、重大な危険を伴います!』


「分かってる!」


 俺は小さく叫んだ。


 そして、ほんのわずかな雷の魔力を、自分の体へ流した。


 パチッ。


 指先が痺れた。


「……っ!」


 痛い。


 けれど、次の瞬間。


 俺は不思議な感覚を覚えた。


 体が、軽い。


 いや、違う。


 周囲の動きが、少しだけ遅く見える。


 黒い機体が鉄槌を振り上げる。


 その動きが、いつもよりはっきりと見えた。


 俺は反射的に横へ跳んだ。


 ザッ!


 足が地面を蹴る。


 そして。


「……え?」


 俺は自分の動きに驚いた。


 いつもより、ずっと速い。


 八歳の体では考えられないほど、鋭く動けた。


 ほんの一瞬。


 でも、確かに。


 俺の体そのものが、速くなっていた。


「……何だ、これ」


 俺は自分の手を見つめた。


 青い火花が、指先から消えていく。


 心臓が激しく鳴っていた。


 筋肉が震えている。


 体の奥に、熱が残っていた。


『レオンハルト様。直ちに使用を中止してください。身体への負担が大きすぎます』


「……分かってる」


 俺は荒い息を吐いた。


 でも、胸の奥では別の感情が膨らんでいた。


 驚き。


 興奮。


 そして、恐怖。


 俺は今、自分の体が変わったように感じた。


 魔法で機械を速くするだけじゃない。


 自分自身の動きまで、速くできる。


 もし、これを制御できたら。


 俺は、もっと強くなれるかもしれない。


     ◇


 だが、その考えはすぐに打ち消された。


 膝が、がくりと折れたのだ。


「……っ!?」


 俺は地面に片手をついた。


 足が震えている。


 さっきまで軽かった体が、急に重くなった。


『警告。筋肉への負担が増大しています。魔力残量も危険域です』


「……うん」


 俺は歯を食いしばった。


 強くなったわけじゃない。


 無理やり、体を速く動かしただけだ。


 その代償が、今になって襲ってきている。


 黒い機体がこちらを向いた。


「……何だ、今の動きは?」


 操縦者の声には、驚きが混じっていた。


 俺は立ち上がろうとした。


 だが、脚に力が入らない。


 ……まずい。


 そのとき。


「坊ちゃんから離れろ!」


 警備隊長の怒号が響いた。


 数人の兵士が黒い機体へ向かって走る。


 槍と盾を構え、俺との間に立ちはだかった。


「坊ちゃん! 下がってください!」


「……はい!」


 俺は必死に体を起こした。


 けれど、思うように動けない。


 そのとき、背後から誰かが俺を抱きしめた。


「レオンハルト様!」


 マルタだった。


 顔は真っ青で、目には涙が浮かんでいる。


「何をしているんですか! どうして、そんな危険なことを……!」


「……ごめん」


 俺は小さく答えた。


 マルタは俺の肩を強く抱いた。


「もう、もうやめてください……!」


 その声を聞いて、俺はようやく気づいた。


 自分が、どれだけ無茶をしたのか。


 魔法で人を傷つけた。


 オメガを壊しかけた。


 そして、自分の体まで危険にさらした。


 俺は唇を噛んだ。


「……ごめん、マルタ」


 マルタは何も言わず、俺を抱きしめ続けた。


     ◇


 そのころ、北の農村では。


 ラインハルトのグラーフが、巨大な黒い魔導甲冑と激しくぶつかり合っていた。


 ガァァンッ!


 大斧が盾を叩く。


 衝撃でグラーフの脚が地面へ沈み込む。


「……っ!」


 ラインハルトは歯を食いしばった。


 敵機の出力は異常だった。


 通常の魔導甲冑なら、これほどの力を長時間維持することはできないはずだ。


 だが、その胸部にある赤黒い炉心は、なおも強い光を放っていた。


「父上!」


 セドリックのフレイムランサーが横から飛び込む。


 赤銅色の機体が剣を振るい、敵の右腕を狙った。


 しかし、黒い機体は大斧を振り回し、その攻撃を弾いた。


「邪魔だ!」


 敵の操縦者が叫ぶ。


 セドリックは機体を後退させた。


「くそっ、硬すぎる!」


 そのとき、アルブレヒトの声が通信に響いた。


『セドリック、右脚を狙え! さっきから動きが鈍くなっている!』


「……右脚?」


『あの機体、出力が高すぎるんだ。関節が熱を持っている!』


 ラインハルトは敵機の動きを見た。


 確かに、右脚の動きがわずかに遅れている。


 赤黒い炉心の光も、時折不規則に揺らいでいた。


「……なるほど」


 ラインハルトは静かに頷いた。


「アルブレヒト、防御を頼む。セドリック、私が隙を作る」


『了解です!』


「任せてください!」


 グラーフが前へ出る。


 敵の大斧が振り下ろされた。


 ラインハルトは盾で受け止める。


 ガァンッ!


 衝撃が走る。


 だが、今度は後退しなかった。


「……今だ!」


 セドリックのフレイムランサーが横から飛び込んだ。


 脚部加速機構が赤く輝く。


 長剣が、敵機の右膝を正確に捉えた。


 ガキィィンッ!


 金属が砕ける。


 黒い機体が大きく傾いた。


「ぐおっ!?」


 敵の操縦者が叫ぶ。


 アルブレヒトのヴァイスリッターが魔法障壁を展開し、倒れ込む機体から周囲の兵士たちを守った。


 ラインハルトは剣を抜いた。


「これで終わりだ!」


 グラーフの長剣が、敵機の左腕の駆動部を貫いた。


 火花が散る。


 大斧が地面へ落ちた。


 黒い機体は膝をつき、動きを止めた。


「……やった!」


 セドリックが叫んだ。


 だが、次の瞬間。


 敵機の胸部が赤く輝いた。


『警告! 炉心の魔力反応が急上昇しています!』


 アルブレヒトの声が響く。


 ラインハルトは目を見開いた。


「……まずい! 全員、離れろ!」


 三機が後退する。


 直後。


 ドォォンッ!


 黒い機体の胸部から、赤い魔力が噴き出した。


 爆発。


 周囲の地面が揺れ、土煙が舞い上がる。


 ラインハルトたちは盾と障壁で衝撃を防いだ。


 やがて、煙が晴れる。


 黒い機体は、胸部を大きく破損した状態で倒れていた。


 操縦者の姿は見えない。


 逃げたのか。


 それとも、爆発に巻き込まれたのか。


 まだ分からなかった。


「……何だったんだ、あの炉心は」


 セドリックが呟いた。


 ラインハルトは答えなかった。


 ただ、黒い機体の残骸を見つめていた。


 あの魔力出力。


 あの異常な反応。


 普通の盗賊が扱えるものではない。


 何かがおかしい。


 そのとき、アルブレヒトの通信装置が鳴った。


『こちら屋敷北側警備所! 緊急連絡!』


「どうした!?」


『屋敷が盗賊に襲撃されています! 現在、警備隊が応戦中!』


 ラインハルトの表情が変わった。


「……何だと!?」


『さらに……レオンハルト様が、オメガを使用して防衛に参加されたとの報告が!』


 一瞬、沈黙が落ちた。


 そして。


「……レオンが?」


 セドリックが呆然と呟いた。


 ラインハルトは目を見開いた。


 昨日、ようやく一歩動いたばかりの機体。


 まだ歩行試験さえ終わっていない。


 そんなオメガに、レオンが乗った?


「……あの馬鹿息子!」


 ラインハルトは思わず叫んだ。


 だが、その声には怒り以上に、強い不安が混じっていた。


「アルブレヒト! セドリック! すぐに屋敷へ戻るぞ!」


「はい!」


「分かりました!」


 三機のターボナイトが、屋敷へ向かって動き出した。


     ◇


 屋敷の中庭では、戦いが終わりに近づいていた。


 溶岩魔法によって門の前を塞がれた盗賊たちは、すでに戦意を失い始めていた。


 警備隊の兵士たちが連携し、逃げようとする者を捕らえていく。


 黒い魔導甲冑も、兵士たちの攻撃を受けて後退していた。


 そのとき、遠くから重い駆動音が響いた。


 ズシン。


 ズシン。


 俺はマルタに支えられながら、顔を上げた。


 北門の向こうに、三機の魔導甲冑が見えた。


 灰色。


 白銀。


 赤銅色。


「……父上?」


 俺は小さく呟いた。


 グラーフ。


 ヴァイスリッター。


 フレイムランサー。


 父上と兄上たちが、戻ってきたのだ。


 その姿を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。


「……よかった」


 俺は小さく笑った。


 父上たちは無事だった。


 それだけで、今は十分だった。


 だが。


 グラーフの胸部装甲が開き、父上が降りてきた瞬間。


 俺は思わず背筋を伸ばした。


 父上の顔が、怖かったからだ。


「……レオンハルト」


「……は、はい」


 父上はゆっくりと近づいてきた。


 その視線が、壊れかけたオメガへ向かう。


 肩の装甲はへこみ、右腕の関節からは焦げた匂いが漂っていた。


 さらに、地面には赤黒く固まり始めた溶岩の跡が残っている。


 父上は何も言わなかった。


 そして、俺の前に膝をついた。


「……怪我は?」


「……少し、足が痛いです」


 父上の表情が変わった。


「どこだ?」


「……膝と、腕が少し」


 父上はすぐにマルタへ目を向けた。


「医師を呼んでくれ」


「はい!」


 マルタが走り出す。


 父上は俺の肩に手を置いた。


「……レオン」


「……はい」


「お前が屋敷を守ろうとしたことは分かる」


 俺は黙って頷いた。


「だが、なぜ自分の命まで危険にさらした?」


 俺は言葉に詰まった。


 父上の声は、怒鳴っていなかった。


 それが、かえって辛かった。


「……怖かったんです」


 俺は小さく答えた。


「父上たちが、帰ってこないかもしれないって……」


 父上の手が、わずかに動いた。


「それに、屋敷に盗賊が来て……母上も、マルタも、みんな危険で……」


 俺は俯いた。


「……何か、しなきゃって思って」


 しばらく、沈黙が続いた。


 やがて、父上が俺を抱きしめた。


「……馬鹿だな、お前は」


 その声は、少し震えていた。


「お前が無事でいてくれることが、私たちにとって何より大切なんだよ」


 俺は目を見開いた。


 父上の腕が、強く俺を抱きしめている。


「……父上」


「守ってくれてありがとう。だが、もう二度と、こんな無茶はしないでくれ」


 俺は唇を噛んだ。


 そして、小さく頷いた。


「……はい」


 そのとき、セドリック兄上が近づいてきた。


「……レオン」


「兄上……」


 兄上は壊れかけたオメガを見た。


 そして、俺の顔を見つめた。


「……お前、本当にすごいことをしたんだな」


「……でも、オメガ、壊しちゃいました」


 兄上は少し笑った。


「直せばいいだろ」


「……え?」


「お前なら、また造れる。そうだろ?」


 俺は兄上を見つめた。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……はい」


 アルブレヒト兄上も近づいてきた。


「ただし、修理費はきちんと計算させてもらうよ」


「……うっ」


 俺が顔をしかめると、兄上は苦笑した。


「冗談だ。今は休みなさい」


 俺は小さく笑った。


 家族が、無事に戻ってきた。


 それが、何より嬉しかった。


     ◇


 その夜。


 俺は自分の部屋のベッドに横になっていた。


 医師の診察では、幸い大きな怪我はなかった。


 ただし、筋肉に強い負担がかかっており、しばらく安静にするよう言われた。


 腕と脚には、まだ鈍い痛みが残っている。


 俺は天井を見つめた。


 今日、いろいろなことが起きた。


 氷魔法。


 溶岩魔法。


 そして、雷魔法。


 自分でも信じられないほど、多くの魔法を使った。


 でも、一番驚いたのは。


 ……自分の体が、速くなったことだ。


 俺はゆっくりと右手を持ち上げた。


 指先に、わずかな痺れが残っている。


「……アリア」


『はい』


「今日の雷魔法……俺の体にも影響があったよね?」


『はい。短時間ですが、身体動作の速度が上昇した可能性があります』


「……やっぱり」


 俺は小さく呟いた。


『ただし、筋肉と神経への負担が大きく、現在の方法を繰り返すことは推奨しません』


「……分かってる」


 俺は目を閉じた。


 でも、確かに感じた。


 あの一瞬。


 体が軽くなり、周囲の動きが遅く見えた。


 まるで、自分だけが別の時間を生きているような感覚だった。


 もし、あの力を安全に制御できたら。


 オメガの反応速度も、自分自身の動きも、もっと高められるかもしれない。


 俺は小さく笑った。


「……まだまだ、知らないことばかりだな」


『肯定します。レオンハルト様の魔法には、未解明の要素が多数存在します』


「……うん」


 俺は窓の外を見た。


 夜空には、星が輝いている。


 今日の戦いで、俺は多くのことを学んだ。


 力があるだけでは、人を守れない。


 強い魔法を使えても、制御できなければ危険だ。


 そして、何より。


 自分一人で、すべてを背負う必要はない。


 父上がいる。


 兄上たちがいる。


 母上も、マルタもいる。


 俺には、大切な家族がいる。


 そのことを、忘れてはいけない。


「……オメガ」


 俺は小さく呟いた。


 壊れかけた青と銀の魔導甲冑。


 まだ未完成の、俺の夢。


 でも、今日。


 確かに、誰かを守るために動いた。


 俺は拳を握った。


「……次は、もっとちゃんと造ろう」


 そして、もう一度呟いた。


「誰かを守るために、自分まで壊れないように」


 アリアが静かに答えた。


『オメガ計画の改修を提案します』


「……うん」


 俺は笑った。


「次は、もっと強くて……もっと安全なオメガを造ろう」


 そのとき。


 アリアの声が、少しだけ変わった。


『……レオンハルト様』


「……何?」


『本日の戦闘中、敵の魔導甲冑から特殊な魔力反応が観測されました』


 俺は目を開いた。


「……特殊な魔力反応?」


『はい。私の損傷した記録領域に、類似する反応が存在する可能性があります』


「……え?」


 胸が、どくんと鳴った。


『ただし、詳細な照合には時間が必要です』


 俺は天井を見つめた。


 盗賊たちの魔導甲冑。


 赤黒い炉心。


 そして、アリアの失われた記憶。


 それらが、どこかでつながっているのだろうか。


 まだ分からない。


 でも。


 俺は、確信に近いものを感じていた。


 今日の戦いは、終わった。


 けれど。


 本当の物語は、ここから始まるのかもしれない。


 窓の外では、夜風が静かに木々を揺らしていた。


 俺は目を閉じた。


 そして、疲れ切った体を休めるように、ゆっくりと眠りへ落ちていった。

この章を読んでいただき、本当にありがとうございます!


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