第11話 水魔法で畑を救った俺、領地の借金が想像以上だと知る
水魔法を使って畑に水を届けてから、五日が経った。
あの日から俺は、父上とアルブレヒト兄上に協力してもらいながら、毎日少しずつ魔法の訓練を続けていた。
同じ大きさの木桶に、できるだけ一定の勢いで水を注ぐ。兄上が時間と水量を記録し、父上が俺の様子を確認する。疲れが見え始めたら、そこで終了だ。
最初は正直、物足りなかった。
もっと長く続けられる気がするのに、父上は決まったところで止めてしまう。
だが、何日か続けるうちに、そのやり方にも意味があると分かってきた。
昨日と今日を比べられる。
水の量が増えたのか、それとも魔力の使い方が上手になっただけなのか、少しずつ考えられるようになったのだ。
そして今朝、俺たちは再び西側の畑へ向かうことになっていた。
「レオンハルト様、帽子をお忘れですよ」
玄関へ急ごうとした俺を、マルタが呼び止めた。
振り返ると、彼女は小さなつばのついた帽子を持って立っていた。いつもの紺色のメイド服に白いエプロンを重ね、茶色の髪を後ろでまとめている。
「今日は曇ってるよ?」
「午後には晴れるそうです。畑には日陰も少ないですから」
「……分かった」
俺が頭を下げると、マルタは帽子をかぶせ、曲がったつばを指先で直してくれた。
「それから、水筒はこちらです」
「うん」
「魔法を使う前には、必ず旦那様に確認を取ってくださいね」
「分かってるってば」
「前回もそうおっしゃっていました」
マルタは微笑んだままだった。
……こういうときの彼女には勝てない。
「今日は無理しないよ。ちゃんと記録も取るから」
「それなら安心です」
彼女がようやく満足そうに頷いたところで、玄関の外からセドリック兄上の声がした。
「レオン! まだか? 置いていくぞ!」
「今行きます!」
俺はマルタに手を振り、馬車へ駆け出した。
◇
西側の畑に到着すると、以前とは少し違う景色が広がっていた。
土の乾燥はまだひどい。畑の端には枯れかけた葉が目立ち、風が吹くたびに細かな砂が舞い上がる。
だが、水路に近い一角だけは違っていた。
そこには、小さな緑色の葉が残っている。
「……あっ!」
俺は思わず声を上げた。
「あそこ!」
父上が俺の視線を追った。
「ああ。前に水を届けた区画だな」
馬車を降りると、白髪交じりの老人がこちらへ歩いてきた。
以前会った農夫だ。日に焼けた顔には深い皺が刻まれ、粗末な麻の上着の袖を肘までまくっている。
「領主様、お待ちしておりました」
「畑の具合はどうだ?」
父上が尋ねると、老人は少しだけ表情を和らげた。
「こちらへ。お見せしたいものがあります」
俺たちは老人に案内され、水路のそばまで歩いた。
近くで見ると、作物の葉はまだ元気いっぱいとは言えなかった。それでも、以前のように地面へ垂れ下がってはいない。
老人はしゃがみ込み、一本の茎を指差した。
「ご覧ください。新しい葉が出ております」
「……本当だ!」
小さな葉が、茎の先から顔を覗かせていた。
俺は嬉しくなって、思わず膝をついた。
「生きてる……!」
「ええ。まだ安心はできませんが、持ち直したものもあります」
老人はそう言って微笑んだ。
「坊ちゃんが水を届けてくださったおかげです」
「いえ、俺だけじゃ……」
「分かっております。領主様も、皆も、水路を直すために働いてくださいました」
老人は水路の向こうへ目を向けた。
「ただ、あの日、初めて水が流れてきたときは……本当に嬉しかったのです」
俺は返事ができなかった。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
ゲームの中で何かを修理したり、装備を強化したりしたときにも、達成感はあった。
けれど、今目の前にある小さな葉は、それとは違う。
俺が魔法を使った結果が、こうして残っている。
誰かが大切に育てている作物が、まだ生きている。
それが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。
「……よかった」
俺は小さく呟いた。
だが、老人は少し離れた畑へ視線を向けた。
「こちらは何とか持ちこたえています。しかし、向こうの区画は……」
俺も顔を上げた。
水路から遠い畑では、葉が茶色く変色している。
地面には細かなひびが走り、風に吹かれた茎が乾いた音を立てていた。
「……あそこには、まだ水が届かないんですか?」
「ええ。人手で運んではおりますが、足りません」
老人は申し訳なさそうに笑った。
「水を運ぶだけで一日が終わってしまう者もおりますからな」
俺は乾いた畑を見つめた。
前回、水が届いたことを喜んでいた。
だが、助かったのはほんの一部だけだったのだ。
◇
「レオン。今日はこの区画で、前回と同じ条件に近い試験をしよう」
アルブレヒト兄上が手帳を開いた。
父上の許可を得て、俺たちは補修済みの水路の近くへ移動した。
兄上は水量を測るための容器を用意していた。
「最初は、いつもの練習と同じように水を出してごらん」
「はい!」
俺は深呼吸した。
手のひらを前に向け、魔力を集中させる。
「《ウォーター》」
透明な水が現れた。
以前なら、最初に少し勢いが強くなり、そのあと急に弱くなることがあった。
だが、今日は違う。
水の流れが、ほとんど揺れない。
俺は呼吸を整えながら、一定の量を維持した。
水が容器へ流れ込み、静かな音を立てる。
「……ふむ」
アルブレヒト兄上が記録を取っている。
父上は少し離れた場所から、俺の様子を見守っていた。
「レオン、無理に増やさなくていいぞ」
「はい!」
俺は頷いた。
不思議だった。
最初に畑へ来たときは、魔力を外へ押し出すだけでもかなり集中が必要だった。
今は、水の流れを維持する感覚が以前より自然になっている。
もちろん、疲れないわけではない。
体の奥から、少しずつ力が抜けていく感覚はある。
それでも、まだ余裕があった。
やがて、兄上が声をかけた。
「そこまでにしよう」
「……はい!」
俺は魔法を止めた。
息を吐き、手を下ろす。
アルブレヒト兄上は容器の水量を確認し、手帳に書き込んだ。
「……やっぱり、増えているね」
「本当ですか?」
「ああ。同じくらいの時間で、以前より多くの水を出せている。それに、今の様子を見る限り、疲労も少ないようだ」
俺は自分の手を見つめた。
「じゃあ、魔力量が増えたんでしょうか?」
「その可能性はあるね。ただ、魔力の使い方が上手になった影響もあると思う」
兄上は手帳を閉じた。
「でも、少なくとも成長していることは間違いなさそうだよ」
「……!」
俺は思わず笑みを浮かべた。
父上も穏やかに頷いた。
「毎日、無理のない範囲で続けてきた成果だな」
「はい!」
嬉しかった。
だが、同時に、少しだけ欲が出た。
もっと水を出せるようになれば。
もっと長く魔法を使えれば。
あの乾いた畑にも、水を届けられるかもしれない。
「父上、もう一度……」
「今日はここまでだ」
父上は俺が言い終える前に答えた。
「えっ?」
「今の試験で、十分に成果は確認できた。あとは休息だ」
「……はい」
俺は少し残念に思ったが、素直に頷いた。
以前なら、もう少しだけと頼み込んでいたかもしれない。
けれど、今は分かっている。
今日無理をして倒れてしまえば、明日も明後日も何もできなくなる。
父上は俺の頭を軽く撫でた。
「よく頑張ったな」
俺は照れくさくなって、帽子のつばを少し下げた。
◇
昼前、俺たちは老人の家に招かれた。
小さな木造の家だった。
壁には何度も修理した跡があり、窓辺には乾燥させた薬草が吊るされている。室内には土と薪の匂いが漂っていた。
老人の妻らしい女性が温かい麦茶を出してくれた。
「こんなものしかありませんが……」
「十分です。ありがとうございます」
父上が礼を言うと、女性は恐縮したように頭を下げた。
俺は木製の椅子に座り、湯気の立つ器を両手で持った。
そのとき、部屋の隅に置かれた袋が目に入った。
中には、何かの種が入っているようだった。
「それ、次に植える種ですか?」
俺が尋ねると、老人は頷いた。
「ええ。来季のために残してあるものです」
「じゃあ、また植えれば……」
そこまで言って、俺は口を閉じた。
老人の表情が少し曇ったからだ。
「……種があれば、何とかなるわけではないのです」
「え?」
「畑を耕すにも、人手が要ります。道具も直さなければなりません。家畜に食わせる餌も必要です」
老人は膝の上で手を組んだ。
「今年の収穫が少なければ、それらを用意する金が足りなくなります」
俺は器を見つめた。
……そうか。
作物が育たなければ、食べ物が減るだけではない。
次の作物を育てるためのお金もなくなる。
それに、畑で働く人たちにも生活がある。
「……じゃあ、ポンプが直っても、全部元どおりになるわけじゃないんですね」
老人は静かに頷いた。
「ええ。失った時間は戻りませんからな」
俺は何も言えなかった。
父上は老人の話を最後まで聞いてから、穏やかな声で言った。
「今年の負担については、村の代表とも相談している。すぐに結論は出せないが、できる限りのことは考えよう」
「ありがとうございます、領主様」
老人は深く頭を下げた。
父上は小さく首を振った。
「まだ礼を言われるようなことはしていない。まずは、残っている作物を守らなければな」
その横顔は、いつも食卓で見る父上より少し疲れて見えた。
俺は胸の奥が重くなるのを感じた。
◇
屋敷へ戻ったあと、アルブレヒト兄上が俺を書斎へ呼んだ。
「レオン。今日、農夫の話を聞いて、何か気になったことはあるかい?」
「……はい」
俺は椅子に座った。
「ポンプが直っても、全部解決するわけじゃないんですよね?」
「そうだね」
兄上は机の引き出しから、分厚い帳簿を取り出した。
以前にも見せてもらった、領地の収入と支出を記録したものだ。
「今日は、もう少し詳しく見てみようか」
「お願いします」
兄上は帳簿を開いた。
そこには、細かな数字が何列も並んでいた。
農地からの収入。
街道の通行料。
木材の売却益。
使用人や領地の職員への給金。
道路の補修費。
魔導設備の維持費。
そして、借入金の返済。
「……こんなにあるんですか?」
俺は思わず呟いた。
「うん。領地を維持するには、いろいろな費用が必要なんだ」
兄上は一つの項目を指差した。
「ここが、魔導ポンプの修理に必要な見積もりだよ」
俺は数字を見た。
予想していたより、ずっと大きかった。
「……高い」
「そうだね。部品代だけじゃない。専門の技師を呼ぶ費用、運搬費、作業に必要な道具の費用もかかる」
「……」
「しかも、これは最初の見積もりだ。実際に分解してみて、別の故障が見つかれば、さらに増える可能性もある」
俺は言葉を失った。
昨日、魔導ランプを修理したときは、古い導線を一本交換するだけで済んだ。
だが、魔導ポンプは違う。
大きく、複雑で、専門的な技術が必要になる。
そのうえ、今は農地からの収入まで減ろうとしている。
「……兄上」
「何だい?」
「うちには、借金があるんですよね?」
アルブレヒト兄上の手が止まった。
少しの沈黙が流れた。
「……あるよ」
兄上は静かに答えた。
「以前、道路や水路を整備したときの借入金がまだ残っている。それに、今回の修理費も必要になる」
「返せるんですか?」
「今すぐ返せなくなるわけじゃない。でも、今年の収入が大きく減れば、予定どおりに返済するのは難しくなるかもしれない」
俺は帳簿を見つめた。
数字が、急に重く感じられた。
……これが、ヴァイス家の現実なのか。
乙女ゲーム『ターボナイト ~エターナル・ハーツ~』。
前世の俺が何度も遊んだ作品。
その中で、レオンハルト・ヴァイスは魔導学院に登場する脇役だった。
特別な恋愛イベントもなく、物語の中心に関わることもない。
そして、家の経済的な事情によって、学院を去ることになる。
ゲームを遊んでいたころは、ただの背景設定だと思っていた。
だが、今なら分かる。
あの一文の裏には、こうした問題が積み重なっていたのかもしれない。
壊れた機械。
収穫の減少。
修理費。
借入金。
そして、家族が抱える負担。
ただし、今起きている洪水が、ゲームで描かれた未来と直接つながっているかどうかは分からない。
俺は、レオンハルトの家がどのような経緯で苦しくなったのか、詳しく覚えていなかった。
……いや。
そもそも、ゲームでは詳しく語られていなかったのかもしれない。
「……レオン?」
兄上の声で我に返った。
「顔色が悪いよ。大丈夫かい?」
「……はい」
俺は小さく頷いた。
だが、胸の奥には不安が残っていた。
「兄上。もし、お金が足りなくなったら……俺は魔導学院へ行けなくなるんでしょうか?」
アルブレヒト兄上は、すぐには答えなかった。
しばらく俺を見つめ、それから静かに口を開いた。
「……その可能性がないとは言えないね」
「……」
「でも、まだ何年も先の話だよ。それまでにできることはある」
兄上は帳簿を閉じた。
「それに、父上も母上も、君たちの将来をとても大切に考えている。簡単に諦めるつもりはないさ」
俺は膝の上で手を握った。
……分かっている。
父上も兄上も、必死に頑張っている。
だからこそ、何かしたかった。
◇
その日の夕方、俺は父上の執務室を訪ねた。
扉を叩くと、中から低い声が返ってきた。
「入りなさい」
「失礼します」
部屋へ入ると、父上は机に向かって書類を書いていた。
窓から差し込む夕日が、濃い茶色の髪に赤みを帯びた光を落としている。
「レオンか。どうした?」
「……少し、お話がしたくて」
父上はペンを置いた。
「もちろんだ。こちらへおいで」
俺は机の前に立った。
何から話せばいいのか分からず、しばらく黙ってしまった。
父上は急かさなかった。
ただ、俺が話し始めるのを待ってくれていた。
「……今日、アルブレヒト兄上に帳簿を見せてもらいました」
「そうか」
「うちには、借金があるんですよね?」
父上は少しだけ眉を寄せた。
「……ああ」
「ポンプを直すのにも、たくさんお金が必要なんですよね?」
「そうだな」
俺は拳を握った。
「……俺、もっと頑張ります」
父上は驚いたように目を瞬かせた。
「レオン?」
「水魔法も、もっと練習します。魔導工学も勉強します。ポンプだって、いつか直せるようになりたいです」
言葉が止まらなかった。
「だから……」
俺は俯いた。
「……俺も、家の役に立ちたいんです」
しばらく沈黙が流れた。
父上は椅子から立ち上がり、俺の前にしゃがんだ。
「レオン」
「……はい」
「お前がそう思ってくれるのは嬉しい」
父上は穏やかな声で言った。
「だが、領地の問題を解決するのは、私たち大人の仕事だ」
「……でも」
「お前はまだ八歳だ。今すぐ何かを背負う必要はない」
俺は唇を噛んだ。
……分かっている。
でも、俺は知っているんだ。
このまま何もしなければ、いつか家の経済的な事情で学院を去る未来があることを。
もちろん、そのことを父上に話すわけにはいかない。
前世の記憶も、この世界がゲームの舞台だったことも、まだ誰にも打ち明けていない。
「……父上」
「何だ?」
「もし、お金が足りなくなったら……俺、学院に行けなくなりますか?」
父上の表情が変わった。
すぐには答えなかった。
窓の外から、遠くで鳥の鳴く声が聞こえてくる。
「……レオン」
父上はゆっくり口を開いた。
「私は、お前たちに学ぶ機会を与えたいと思っている。アルブレヒトにも、セドリックにも、お前にもな」
「……はい」
「だが、将来のことをすべて約束できるわけではない」
その言葉は、優しかった。
けれど、はっきりしていた。
「……そうですか」
俺は視線を落とした。
父上は俺の肩に手を置いた。
「ただ、一つ覚えておいてほしい」
「……?」
「お前が学院へ行けるかどうかで、お前の価値が決まるわけではない」
俺は顔を上げた。
「お前は私たちの大切な息子だ。何かを成し遂げたから大切なのではない。最初から、大切なんだ」
「……父上」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
前世でも、家族は俺を大切にしてくれていた。
それなのに、仕事に追われていたころは、そんな当たり前のことさえ忘れかけていた。
今度こそ、大切にしたい。
この家族と過ごす時間を。
そして、この家族の未来を。
「……分かっています」
俺は小さく答えた。
「でも、俺もヴァイス家の一員です」
父上は目を見開いた。
「だから、できることをしたいんです。父上や兄上たちが頑張っているのに、俺だけ何もしないのは嫌なんです」
父上はしばらく俺を見つめていた。
やがて、小さく笑った。
「……まったく」
その声には、少しだけ呆れたような響きがあった。
「お前は本当に、頑固なところがあるな」
「……すみません」
「謝ることではない」
父上は俺の頭を撫でた。
「では、こうしよう。お前は今までどおり勉強を続けなさい。そして、何か気づいたことがあれば、私たちに教えてくれればいい」
「……それでいいんですか?」
「ああ。今のお前にできる、一番大切なことだ」
俺は頷いた。
「……はい!」
父上は微笑んだ。
「それに、今日の水魔法の記録は立派だったぞ。アルブレヒトも感心していた」
「本当ですか?」
「ああ。だからこそ、焦らず続けなさい」
俺は笑った。
……そうだ。
焦る必要はない。
できることを、一つずつ増やしていけばいい。
◇
翌朝、アルブレヒト兄上が倉庫の前で俺を待っていた。
「レオン。少し時間はあるかい?」
「はい!」
「昨日の話を考えていたんだけどね。修理費を減らす方法がないか、もう一度調べてみようと思うんだ」
「修理費を?」
「うん。新しい部品をすべて買うのではなく、使えるものが残っていないか確認したい」
俺は目を輝かせた。
「それ、俺も考えていました!」
「本当かい?」
「はい! 祖父上が使っていた機械の部品が、倉庫に残っているかもしれません!」
兄上は嬉しそうに笑った。
「実は、昨日の夜、古い帳簿を調べていたら、祖父上の時代の備品記録が見つかったんだ」
「備品記録?」
「倉庫に何を保管していたのかを書いたものだよ」
兄上は一枚の紙を取り出した。
そこには、古い文字でいくつもの品名が並んでいた。
俺は兄上の隣に立ち、紙を覗き込んだ。
古い工具。
金属板。
魔導回路の部品。
交換用の歯車。
そして――。
「……あれ?」
俺は一つの項目で目を止めた。
『灌漑設備用予備部品 一式』
「兄上、これ……!」
「ああ。僕も気になったんだ」
兄上は頷いた。
「祖父上は、灌漑設備のために予備部品を保管していたらしい」
「じゃあ、魔導ポンプに使えるものがあるかもしれないんですね!」
「可能性はある。ただ、何年も前の記録だからね。今も残っているかどうかは分からないし、規格が合うとも限らない」
俺は紙を見つめた。
……それでも。
何も手がかりがないより、ずっといい。
「探してみましょう!」
俺が言うと、兄上は笑った。
「そうだね。ただし、今日は父上にも確認してからだよ」
「はい!」
俺たちは倉庫の扉を見上げた。
その奥には、祖父が残した古い機械や部品が眠っている。
そして、銀色のターボナイトも。
俺は胸の奥が高鳴るのを感じた。
もし、あの倉庫に使える部品が残っているのなら。
魔導ポンプの修理費を、少しでも減らせるかもしれない。
それは、家族の負担を減らすことにつながる。
そして、いつかオメガを作るための知識にもなるはずだ。
「……よし」
俺は小さく拳を握った。
ゲームの中で、レオンハルト・ヴァイスは家の経済的な事情によって魔導学院を去った。
その未来を、俺は知っている。
けれど、そこへ至る道筋をすべて知っているわけではない。
だからこそ、今できることを探すしかない。
大きな奇跡なんて、起こせなくてもいい。
まずは、目の前にある問題を一つずつ解決していこう。
俺はアルブレヒト兄上と顔を見合わせ、笑った。
古い倉庫の奥には、まだ俺たちの知らない可能性が眠っているのかもしれない。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
もしこの物語を楽しんでいただけたなら、コメントや星評価を残していただけると大変嬉しいです。皆様のご意見や応援は、私にとって大きな励みになります。
お時間をいただき、本当にありがとうございました!




