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今夜しか、ありません

潘巧雲でございます。


裴如海様は、何度断っても来ました。

夫も石秀殿も、私の話は信じません。

そして今夜、二人は揃って出かけます。


――戻ってくる前に、私たちも出ます。

裴如海は、それからも来た。

一日目は門の外。

二日目は道の向こう。

三日目には、迎児へ文を渡そうとした。

破って捨てても、翌日には別の紙を持ってくる。

寺へ申し入れると言った。

楊雄の名も出した。

人を呼ぶとも伝えた。

それでも、来る。

最初のうちは、門前で待っていた。

そのうち、買い物へ出た迎児の後をつけるようになった。

迎児が戻るなり、青い顔で私の部屋へ来たことがある。

「奥様、あの御僧が……」

「何かされたの?」

「いいえ。ただ、ずっと後ろに」

それだけでも十分だった。

私は迎児を一人で出さなくなった。

必要な物は下男へ頼み、外へ出る時は必ず誰かを連れた。

裴如海は、避けられていることにも気づかなかったらしい。

会えない分だけ、近くへ来た。

門の隙間から声を掛ける。

塀の外から名を呼ぶ。

寺の用だと言い張り、帰ろうとしない。

気味が悪い。

それ以外に言いようがなかった。

今の言葉なら、ストーカーだ。

そう楊雄へ言えれば早いのだが、この世界には、その一言で話が通じる便利さはない。

「付きまとわれております」

そう伝えても、楊雄は眉を寄せただけだった。

「嫌なら、相手にするな」

「相手にしておりません」

「なら、そのうち諦める」

諦めないから話している。

そう言うと、今度は私の態度が悪いと言われた。

「男を刺激するような言い方をするな」

「刺激しているのではなく、断っております」

「断り方があるだろう」

また、それだった。

届かせ方、言い方、態度。

いつも私の方に直すところがある。

裴如海が毎日のように現れても、なぜ来るのかではなく、なぜ来させたのかと聞かれる。

石秀殿も同じだった。

彼は毎回すべてを見ているわけではない。

だが、見なくても分かるようになっていた。

門前に僧がいる。

迎児が怯えている。

私が奥へ引っ込む。

下男が困っている。

それだけで、十分だったのだろう。

「義姉さん、またあの御僧が」

「追い返していますが?」

「話を聞かずにですか」

「聞くことはございません」

「相手にも言い分があるかもしれません」

「私にはありません」

石秀殿は黙る。

その沈黙を、私は何度も見た。

そして夜になると、楊雄から呼ばれる。

「石秀が心配している」

知らない――

「お前があまりに頑なだから、かえって妙に見えるそうだ」

妙に見えるのは、毎日来る裴如海の方だ。

「妻の立場も考えろ」

考えているから困っている。

何を言っても、同じ場所へ戻った。

二週間を過ぎた頃には、私も数えるのをやめた。

今日もいる。

また来た。

まだいる。

それだけだった。

裴如海の声が聞こえるたび、迎児の肩が固くなる。

石秀殿の足音がすると、今度は別の意味で息を詰める。

家の中まで、落ち着かなくなった。

楊雄は私を疑い、石秀殿は見張り、裴如海は待つ。

三人とも、私のためだという顔をしていた。

いい迷惑である。

その日の夜、楊雄は酒を飲まなかった。

珍しいと思ったのは、それだけではない。

石秀殿も早くから来ていた。

二人は奥の部屋へ入り、戸を閉めた。

迎児が酒を運ぼうとすると、楊雄は要らないと言った。

声は低かった。

聞こうとしなくても、途切れ途切れに言葉が届く。

「今夜」

「寺の裏」

「呼び出せば来る」

「二度と」

私は針を持ったまま、動かなかった。

迎児がこちらを見る。

見ないでと言ったのに、今夜だけは私も目を返した。

迎児の顔から血の気が引いていた。

やがて、戸が開く。

楊雄が先に出てきた。

腰に刀を差し、上衣の裾を整えている。

石秀殿は普段より軽い格好だった。

だが、目だけが違う。

二人とも、遊びに行く顔ではない。

「遅くなる」

楊雄は私にそれだけ言った。

「どちらへ?」

聞くつもりはなかったのに、口から出た。

楊雄がこちらを見る。

「役目だ」

石秀殿は何も言わない。

役目――

随分便利な言葉だった。

二人はそのまま門を出ていった。

足音が遠ざかる。

家の中が静かになった。

今度こそ、本当に静かだった。

迎児が私の袖を掴んだ。

「奥様……」

私は窓の外を見た。

裴如海は嫌いだ。

助けたいとは思わない。

いなくなれば、むしろほっとする。

けれど、楊雄と石秀殿が今夜、何をしに行ったのかは分かる。

呼び出して、戻ってこないようにする。

その後は?

裴如海と私は通じていたと思われている。

なら、殺した後に誰が悪いと言われるのか。

私だ――

全部、お前のせいだ。

その一言で済まされる。

済まない可能性もある。

石秀殿は、疑った相手を放っておく男ではない。

楊雄も、自分の面目が潰れたと思えば何をするか分からない。

二人が戻る前に出なければならない。

今夜しかない。

「迎児」

「はい」

「ここを出ます」

迎児の唇が震えた。

「今夜、でございますか」

「今夜よ」

「ですが、旦那様が」

「帰ってきてからでは遅いわ」

迎児は門の方を見た。

私は立ち上がった。

もう迷っている時間はない。

奥の箱、官服、衣桁の下、右側。

覚えておいてよかった。

箱を開け、楊雄の官服を引き出す。

古いものと、替えの一着。

二人分あった。

迎児に古い方を渡す。

「着て」

「私が、でございますか」

「女二人では目立つわ」

髪をまとめ、帽子の中へ押し込む。

胸元は布で抑えた。

迎児は手が震えていた。

帯がうまく結べず、私が締めた。

「苦しくありませんか」

「少し」

「我慢して」

自分の帯も結ぶ。

鏡に映った姿は、男には見えなかった。

けれど、暗い中で帽子を深く被り、官服を着ていれば、わざわざ顔を覗く者は少ない。

壁に立てかけてあった朴刀を取る。

重い――

想像していたより、ずっと重かった。

迎児にも一本持たせると、よろめいた。

「振らなくていいわ。持っているだけでいい」

「はい」

銭箱から、持てるだけ取る。

盗みと言われるだろう。

もうどうでもよかった。

西の裏手へ回る。

馬屋には一頭だけ残っていた。

楊雄の馬だ。

迎児が手綱を取った。

「乗れるの?」

「少しだけでございます」

聞かなくて正解だった。

顔に出ていた。

「私よりはましね」

迎児を先に乗せ、その後ろへよじ登る。

官服の裾が邪魔だった。

優雅でも何でもない。

逃げられればいい。

門には陳小九がいた。

帽子を深く被り、私は声を低くする。

「楊都頭の急ぎだ。門を開けて」

自分でも、ひどい男声だった。

陳小九は一瞬こちらを見た。

だが、官服と朴刀を見て、すぐに閂へ手を掛けた。

「こんな夜更けに」

「急ぎだと言ったでしょう」

語尾だけ、いつもの声に戻りかけた。

陳小九は気づかなかったのか、それとも関わりたくなかったのか、何も言わず門を開けた。

馬が外へ出る。

背後で門が閉まる音がした。

私は振り返らなかった。

迎児の腰に腕を回し、落ちないよう必死にしがみつく。

風が顔へ当たる。

帽子が飛びそうになる。

朴刀の柄が脚へぶつかる。

怖い、寒い、お尻も痛い。

でも、家から離れている。

それだけでよかった。

夜が明ける頃、隣の町へ入った。

居酒屋を見つけ、馬を繋ぐ。

官服姿のおかげか、店の者は何も聞かない。

奥の卓に座り、薄い粥を頼む。

迎児は椀を持ったまま、まだ震えていた。

店の隅では、旅人らしい男たちが話している。

「滄州なら、柴大官人を頼ればよい」

「柴進殿か」

「そうだ。訳ありでも追い返さぬ。役人に追われた者まで匿うという話だ」

私は粥を口へ運ぶ手を止めた。

柴進――

聞いたことのない名だった。

けれど、訳ありでも追い返さない。

役人に追われた者まで匿う。

今の私たちに必要なのは、まさにそれだった。

迎児が小さく尋ねる。

「奥様、これからどちらへ」

私は椀を置いた。

「滄州へ行きます」

「柴進様という方のところへ?」

「まずは、その方が本当にいるか確かめましょう」

信じるのは、それからだ。

夫も駄目、父も駄目、寺も駄目。

それでも、町の外にはまだ知らない人がいる。

知らない人なら、少なくとも今まで私を責めてはいない。

私は冷めかけた粥を飲んだ。

もう、あの家へ戻るつもりはなかった。

迎児でございます。


奥様は、今夜しかないと仰いました。

官服を着て、朴刀を持ち、馬に二人で乗って……

怖くないわけがございません。

それでも――


あの家へ戻るよりは、ずっとましでした。

次は、滄州でございます。

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