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45/51

説明責任が始まりました

「迎児、梁山泊が間に合ったわ」

「ようございましたね」

「しかも先頭が女二人なのよ」

「巧雲様のお仲間でございますか?」

「その括り方やめて」


片方は双刀。

もう片方は槍。


私は帳面。


「ずいぶん違いますね」

「だから言わないで!」


でも、これで少しは楽になる。

……はずだった。


「巧雲様」

「何?」

「なぜ皆様、巧雲様が動くたびに腰を落とされるので?」

「昨日のことを身体が覚えてるみたい」

「それは大変でございますね」

「他人事!?」


というわけで第45話。

援軍は来ました。


でもなぜか――

味方の男たちが、まだ私を警戒しています。

扈三娘様と呂玉楼様が、呼延灼軍の左へ回っていく。

さっきまで梁山泊軍の先頭にいた二騎は、呼延灼軍が向きを変え切るより早く横へ膨らみ、後ろの兵まで引っ張っている。

「……速くないですか?」

私が呟くと、楊志様は呼延灼軍から目を離さないまま答えた。

「速い。だから見ていろ。向こうの動きが変わる」

言われた直後、呼延灼が双鞭を上げた。

桃花山へ攻め上がっていた青州兵が梁山泊へ向き直り、そのうえ左側面まで守ろうと動き始める。

「忙しいですね……」

「お前が言うな」

「何でです?」

「昨日、一番忙しくさせたのはお前だ」

否定できない。

敵味方まとめて前かがみにしたうえ、夜まで眠らせなかった。

しかも当の兵器は現在、弾切れである。

念のため胸の奥へ意識を向けた、その瞬間だった。

近くにいた周通殿が、さっと腰を落とした。

楊志様まで半歩下がり、魯智深様は禅杖を支えにして妙に足を開く。

武松様だけは立ったままだったけれど、こちらを見る目には明らかな警戒が浮かんでいた。

「……まだ何もしてませんよ?」

「する顔だった」

「どんな顔ですか!」

「昨日と同じ顔だ」

そこまで覚えなくていい。

改めて探ってみるが、やはり何もない。

「……出ません」

男たちが、揃って息を吐いた。

「何で安心してるんですか!」

「安心するだろう!」

楊志様に即答された。

「味方まで巻き込む兵器を、味方の真ん中で試すな!」

「出ないから試したんです!」

「出たらどうするんだ!」

「出ても微量だと思ったんです!」

「戻る条件は柴進殿だと言ったのはお前だろうが!」

その通りなのだけれど、自然回復がほんの少しくらいあってもいいと思う。

ないらしい。

徹底している。

周通殿が恐る恐る腰を上げた。

「もう平気なんだな?」

「平気です!」

「本当に?」

「何で二回聞くんですか!」

「昨日ひどかったからだよ!」

反論できなかった。

「巧雲!」

武松様の声に、私は慌てて顔を上げる。

「ぼんやりするな。こっちも動くぞ」

「はい!」

梁山泊が来たからといって、こちらが休めるわけではない。

呼延灼軍は梁山泊側へ向き直り始めたが、桃花山を警戒する兵はまだ残っている。

こちらが山を下りる構えを見せれば、そのぶん桃花山側にも兵を割かせられる。

今度はこちらが、呼延灼の兵を縛る番だった。

「追いますか?」

「追わん。下りすぎれば、こちらが逆に崩れる」

「じゃあ、圧をかけるだけ?」

「そうだ。下りてくると思わせればいい」

なるほど。

勝ちに行かなくても、相手に考えさせるだけで意味がある。

兵を置いて動きを見せ、必要な道を塞ぐ。

必要なら男を前かがみにする。

……最後だけ何か違う。

「潘巧雲」

「はい?」

「今、余計なことを考えただろう?」

「考えてません」

「顔に出ている」

「副官の顔を読むのやめてもらえます?」

楊志様は無視した。

私が無意識に胸元へ手をやると、周通殿がまた腰を落としかける。

「だから出ませんって!」

「紛らわしい動きをするな!」

ひどい……

もう条件反射になっている。

桃花山側の兵を少し前へ出す。

疲れているから走らせない。

武松様が先頭に立ち、その横へ魯智深様が並んだ。

「押すぞ!」

禅杖を上げた魯智深様へ、武松様が先に釘を刺す。

「ただし追うなよ」

「分かっておる!」

「昨日も聞いた」

「今日は本当に分かっておる!」

昨日も本当に分かっていたと思う。

たぶん。

青州兵がこちらを振り返る。

その後ろでは呼延灼軍の本隊が梁山泊へ向き直り、左からは扈三娘様と呂玉楼様が迫っていた。

兵たちの視線が揃わない。

その瞬間、二騎が左側面へ斬り込んだ。

扈三娘様の双刀が閃き、その隣では呂玉楼様が馬上から槍を突き出す。

二人は止まらず、左側の列を押し込んでいく。

「……何ですか、あれ?」

「見たままだ」

「見たままがおかしいんですけど!」

左の列が完全に崩れたわけではない。

それでも呼延灼が左へ兵を回さざるを得なくなったことは、私にも分かる。

「楊志様」

「何だ?」

「あの二人、私より危なくないですか?」

「比べるな」

「でも私は今、何も出ませんよ」

「そういう意味ではない!」

怒られた。

今の私は帳面を持って立っているだけなのに、向こうは馬に乗って双刀と槍で敵陣へ入っている。

どう考えても、今この瞬間の危険度はあちらが上だと思う。

「扈三娘様って、いつもあんな感じなんですか?」

「知らん」

「呂玉楼様も?」

「本人に聞け!」

「聞ける空気じゃないですよ!」

現在進行形で敵を押している人に、世間話をしに行けるわけがない。

その時、呼延灼軍の太鼓が変わった。

楊志様の顔つきも変わる。

「下がるぞ」

「え?」

「呼延灼が兵をまとめる」

青州兵はばらばらに左へ寄るのをやめ、呼延灼の旗の近くへ集まり始めた。

崩れた兵を拾いながら、まとまり直している。

扈三娘様たちも深追いしない。

「追わないんですね」

「追わないんだ。罠かもしれんからな」

戻ってきた武松様は、汗と土で顔が汚れていた。

「呼延灼は退く」

「勝ったんですか?」

「違う。ここでは続けないだけだ」

呼延灼は梁山泊が来る前なら、桃花山を押し切れたかもしれない。

でも今は、前後と左から圧を受けている。

ここで無理に兵を失う必要はない。

「……しぶといですね」

「官軍の将だ。無駄に兵を捨てる男ではない」

少し離れたところで、魯智深様が不満そうに禅杖を担ぐ。

「逃げるなら追えばよいではないか」

「追わん」

「まだ殴れるぞ」

「だから追わん」

「ワシは元気だぞ」

「兵が元気じゃない!」

楊志様の怒鳴り声が山へ響いた。

周通殿まで頷く。

「今日は楊志殿が正しい」

「今日は?」

振り向かれた瞬間、周通殿は黙った。

本当によく学習する人だ。

呼延灼軍は少しずつ距離を取り、梁山泊軍も追い立てるようには進まない。

扈三娘様と呂玉楼様も本隊へ戻り始めた。

戦場に残ったのは、壊れた荷車と踏み荒らされた道、それから疲れ切った人間たちだった。

私はようやく息を吐く。

「……終わった?」

武松様を見る。

「桃花山はな」

「その言い方、嫌な予感しかしないんですけど」

「呼延灼は青州へ戻る」

「ですよね……」

やっぱり終わっていない。

でも、ここは守った。

孔明殿を助けられたわけではなく、青州城も呼延灼もまだ残っている。

それでも桃花山は落ちなかった。

私は帳面を閉じる。

荷車と獣道で時間を稼ぎ、最後にはフェロモンまで使った。

弾切れになってからは武松様たちが普通に耐え、その時間があったから梁山泊も間に合った。

思ったより長かった。

「巧雲」

呼ばれて顔を上げると、扈三娘様と呂玉楼様がこちらへ馬を進めてきていた。

近くで見ると、やっぱり二人とも女だった。

当たり前だけど。

扈三娘様の双刀には戦った跡が残り、呂玉楼様は槍を持ったままこちらを見る。

私は思わず、自分の帳面へ目を落とした。

向こうは双刀と槍で、私は帳面。

昨日までなら、そこへフェロモンまで加わる。

「……方向性が違いすぎる」

小さく呟いたつもりだった。

「何の話?」

扈三娘様に拾われた。

「いえ、こちらの話です!」

しまった。

この人も現代語で返してくる。

扈三娘様は馬を降り、呂玉楼様も続いた。

「潘巧雲さんよね?」

「はい」

「閻婆惜から聞いてるわ」

そこで扈三娘様が首を傾げた。

「さっきから男の人たちが妙に距離を取ってるけど……何かした?」

私は固まった。

武松様は少し離れ、楊志様もこちらへ近づいてこない。

魯智深様まで妙に間合いを取っている。

そして周通殿は、私がそちらを向いただけで反射的に腰を落とした。

「何で座るんですか!」

「こっち見るな!」

扈三娘様が目を丸くした。

呂玉楼様も、周通殿と私を交互に見る。

「……何したの?」

「何もしてません!」

「本当に?」

「今日は!」

扈三娘様の眉が上がる。

しまった。

そこを拾われた。

「今日『は』?」

私は逃げるように楊志様を見る。

目を逸らされた。

武松様も助けてくれない。

魯智深様に至っては笑っている。

周通殿だけは、まだ腰を落としたままだ。

「もう立っていいですよ!」

「その言い方も嫌なんだよ!」

ひどい……

実際にはもう一滴も出ないのに、男たちだけが昨日を覚えている。

扈三娘様はしばらく皆を見回してから、もう一度私へ向き直った。

「潘巧雲さん」

「はい……」

「昨日、何したの?」

私は帳面を胸の前へ抱えた。

呼延灼より説明しにくい相手が来た。

戦は終わった。

なのに説明責任が始まった。

巧雲様は、扈三娘様に問い詰められたそうでございます。


「迎児、問い詰められたって言わないで」

「では、ご説明を求められたので?」

「そっち!」


男の皆様は、巧雲様が少し動くだけで腰を落とされたとか。


「もう何も出ないのよ!」

「ですが、お身体が覚えておられるのでしょう?」

「誰の身体!?」

「皆様の」

「言い方!」


しかも周通様は、巧雲様に「立っていい」と言われるのも嫌だったそうです。


「そこ拾わなくていいから!」


ともあれ、桃花山は守れました。


「やっと終わった……」

「いいえ」

「何?」

「扈三娘様への説明が残っております」

「戦より嫌なんだけど!」


というわけで次回。

悪魔、事情聴取されます。

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