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肩身を狭くして差し上げました

潘巧雲でございます。


梁山泊からのお返事で、探りは少し減りました。

ついでに、楊雄様と石秀様は肩身が狭くなったそうです。

私は何もしておりません。

ただ、問い合わせただけです。


……文書って、便利ですね。

梁山泊から返書が届いた後、二龍山の空気は少し変わった。

もちろん、山が急に静かになったわけではない。

魯智深は相変わらず大きな声で笑い、武松は必要なことしか言わず、楊志は朝から木の棒を持たせてくる。

孫二娘は炊事場で人を使い、張青は余計なことを言いそうになっては、二娘さんに睨まれていた。

けれど、麓から来る話が変わった。

女二人の行方を聞く者が、ぱたりと減ったのである。

「減った、ですか」

迎児が、帳面のそばで聞き返した。

「ええ。完全に消えたわけではありません。でも、同じ言葉を重ねて聞く者は減りました」

私は書き留めていた紙をめくる。

茶屋。

荷を受ける場所。

十字坡へ戻る道。

これまで探りのあった場所に、印をつけてある。

前は、そこに言葉が重なっていた。

女二人と帳面。

若い下女。

孫二娘と張青。

それが、ここ数日で途切れた。

文書の効果は、地味に出る。

派手に誰かを倒すわけではない。

太鼓も鳴らない。

ただ、相手が動きにくくなる。

会社でも同じだった。

口で言えば流される。

記録にすると、急に態度が変わる。

議事録に残すと、人は少しだけ慎重になる。

まさか二龍山で同じことをするとは思わなかったけれど……

「巧雲」

孫二娘が、広間の入口から顔を出した。

その後ろに張青がいる。

張青は何か言いたそうな顔をしていたが、二娘さんの横で黙っていた。

「麓から戻った者が、面白いことを聞いてきたよォ」

「面白いこと、ですか」

「楊雄と石秀が、梁山泊で叱られたらしい」

迎児の肩が、ぴくりと動いた。

私は筆を置いた。

「叱られた、というのは」

「宋江の前で、二龍山周辺を探るな、と言われたそうだよォ。石秀は頭を下げた。楊雄は苦虫を噛み潰したような顔だったってさァ」

張青がそこで我慢できなくなったように口を開いた。

「楊雄の旦那、ずいぶん肩身が狭そうだったそうで」

「張青」

二娘さんが低い声で呼ぶ。

張青はすぐに口を閉じた。

私は少しだけ息を吐いた。

肩身が狭い。

その言葉は、思っていたよりも重く響いた。

楊雄は、私を家に置いておけると思っていた。

私の言葉を疑い、私の振る舞いを責め、迎児の前で私を小さくした。

石秀は、よく見る男だった。

門先のことも、私の動きも、十字坡の線も、二龍山へ続く人の流れも見ようとした。

その二人が、今は見られる側になっている。

梁山泊の中で。

宋江様の前で。

二龍山を刺激した者として。

「私は、叱ってくださいとは書いておりません」

「そういうところが怖いんだよォ」

孫二娘が笑った。

「ただ問い合わせただけです」

「だから怖いんだって」

私は返す言葉を失った。

二娘さんは、からかっている顔をしている。

けれど、目だけは少し真面目だった。

「殴られた方は、殴られたって分かる。斬られた方も、斬られたって分かる。でもねェ、文で詰められると、どこで足を取られたか分からない時がある」

「詰めたつもりはありません」

「巧雲。お前さん、それ本気で言ってるから余計に怖いねェ」

張青が小さく頷いた。

その頷き方があまりに素直だったので、私は少しだけ傷ついた。

「張青さんまで……」

「いえ、アッシは何も」

「今、頷きました」

「首が勝手に」

「便利な首ですね……」

二娘さんが声を立てて笑った。

迎児は笑っていなかった。

私の横で、じっと紙を見ている。

「迎児?」

「はい」

「どうしました」

迎児は少し迷ってから言った。

「楊雄様と石秀様は、巧雲様を怖いと思われたのでしょうか」

広間の空気が、少しだけ静かになった。

私はその問いにすぐ答えられなかった。

怖い――

私が、あの二人に?

考えたことがなかったわけではない。

けれど、言葉にされると妙だった。

私は剣で勝てない。

腕力でも勝てない。

楊雄が本気で腕を掴めば、私は振りほどくのに苦労する。

石秀に見張られれば、うかつに動けなくなる。

だから逃げた。

だから隠れた。

だから記録した。

怖がらせるためではない。

生きるためである。

「分かりません」

私は正直に答えた。

「けれど、私を簡単には連れ戻せないと分かっていただけたなら、それで十分です」

迎児は、ゆっくり頷いた。

「それで、十分なのですね」

「ええ」

私は帳面に視線を戻した。

楊雄と石秀の肩身が狭くなった。

それは、私にとって勝ち誇る話ではない。

あの二人が追い詰められれば、別の形で動くかもしれない。

面子を潰された男は、時に面子のためだけに無理をする。

そこは注意しなければならない。

「楊志様には報告します」

「もう呼んであるよォ」

二娘さんが、さらりと言った。

少しして、楊志と武松が来た。

魯智深も一緒だった。

魯智深は酒を持っていたが、楊志に見られて、少しだけ不満そうにしている。

私は麓から来た話をそのまま伝えた。

余計な感想は入れない。

誰が聞いたのか。

どこで聞いたのか。

内容は何か。

どこまで確かか。

楊志は最後まで聞いてから言った。

「石秀は、しばらく動かぬ」

「しばらく、ですか」

「あれは見る男だ。今度は自分が見られていると知った。軽くは動けぬ」

武松が短く続けた。

「だが、楊雄は別だ」

「楊雄様は」

「面子で動くことがある」

武松の声は静かだった。

悪口ではない。

ただ、そういう男だと言っているだけだった。

魯智深が酒壺を置いた。

「来たら追い返せばよい」

「それは最終手段でございます」

「面倒だのう」

「面倒にしないための準備です」

魯智深は少し黙り、それから大きく笑った。

「そなたは本当に面倒を先に始末する女だ」

褒められているのか、呆れられているのか分からない。

たぶん両方である。

楊志が私の帳面を見た。

「探りの記録は続けよ。減った時こそ、消えたものを見落とす」

「はい」

「それから、噂も記録しろ。楊雄と石秀がどう扱われているか。誰が同情し、誰が笑っているか」

「そこまで、ですか」

「そこまでだ」

楊志は当たり前のように言った。

「肩身の狭い者には、近づく者がいる。慰める者、煽る者、利用する者だ」

私は筆を取った。

なるほど――

叱られたから終わり、ではない。

叱られた後に、誰が近づくか。

そこから次の動きが見える。

本当に、この山の新人研修は実務が重い。

私は新しい項目を書いた。

楊雄と石秀。

梁山泊内にて詮索を控えるよう注意されたとの噂。

石秀は頭を下げた。

楊雄は不服の様子。

今後、二人へ近づく者に注意。

書き終えると、迎児がそっと覗き込んだ。

「巧雲様」

「何でしょう」

「肩身が狭くなった方にも、近づく者がいるのですね」

「ええ。弱った時、人は話しかけられやすくなります」

「では、怖いですね」

「そうね」

私は筆を置いた。

怖いのは、楊雄と石秀だけではない。

あの二人が肩身を狭くしたことで、新しい誰かが動くかもしれない。

梁山泊は大きい。

人も多い。

善意もあれば、面白がる者もいるだろう。

でも、前とは違う。

私と迎児は、ただ隠れて震えているわけではない。

二龍山には、私たちを見る目がある。

守る手がある。

そして、記録する帳面がある。

戦えるとは言えない。

勝てるとも言えない。

けれど、もう何も知らないまま連れ戻される女ではない。

帳面の端に、私は小さく書いた。

肩身が狭くなりました。

それは楊雄と石秀のことだった。

けれど少しだけ、昔の私のことでもある気がした。

あの家で、言葉を疑われ、顔色を見て、息を潜めていた私。

今、肩身が狭いのは、私ではない。

そう思えたことが、この日一番の変化だった。

迎児でございます。


梁山泊で、楊雄様と石秀様が叱られたそうです。

巧雲様は、ただ問い合わせただけだと仰いました。

ですが、探りは減りました。

お二人の肩身も、少し狭くなったそうです。


文に書くというのは、思っていたより怖いことなのですね。

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