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梁山泊へ問い合わせます

潘巧雲でございます。


探りが、止まりません。

聞かれる言葉を並べてみると、どうやら私たちだけでは済まないようです。

石秀殿は、見る方です。

なら、こちらは記録します。


今回は――

梁山泊へ問い合わせるお話でございます。

探りは、止まらなかった。

麓の茶屋。

荷を受け取る場所。

十字坡へ戻る道の途中。

同じ顔ではない。

けれど、聞かれることは少しずつ重なっている。

女二人はどこへ行った。

片方は帳面をつけていたのか。

もう片方は下女だったのか。

孫二娘はまだ十字坡にいるのか。

張青は、最近見かけたか。

私は帳面とは別に、聞かれた言葉だけを書き出していた。

場所と相手の姿。

聞かれた内容と答えた者。

そして、答えた言葉。

米や薪の出入りより、よほど面倒だった。

物は減れば分かる。

言葉は、言った者の中で形を変える。

けれど、記録して並べれば癖が見える。

「女二人だけではありませんね」

私は紙の上に並んだ言葉を見ながら言った。

迎児が隣で、小さく頷く。

「孫二娘様と、張青様のことも聞かれております」

「ええ」

楊雄が私を追うのは分かる。

嫌だが、分かる。

夫という名を持っているつもりなのだろう。

だが、孫二娘と張青まで探るなら話が違う。

それは、私たちの居場所だけではなく、十字坡と二龍山のつながりを探している。

石秀は、道を見ているのではない。

人と人との線を見ている。

厄介な人だ。

ただ、厄介だからこそ、弱いところもある。

「魯智深様、楊志様、武松様にお話しした方がよろしいですね」

迎児がそう言った。

少し前なら、私が言う前にそこまで考えなかったかもしれない。

今は、聞いた言葉を自分で並べようとしている。

「そうしましょう」

私は帳面を閉じた。

広間では、魯智深が大きな椀を前にしていた。

楊志は地図のようなものを広げ、山道を確認している。

武松は壁際に座っていた。

孫二娘と張青も呼ばれている。

私は紙を広げた。

「探りの報告をまとめました」

魯智深が顔をしかめる。

「また細かいものを作ったな」

「細かくしないと、見えないものがございます」

「ワシには、見ても分からぬ」

「では、分かるように申し上げます」

孫二娘が笑った。

「巧雲、強くなったねェ」

強くなったのではない。

慣れてきただけだ。

この山では、言わなければ話が進まない。

私は紙の端を指した。

「最初は女二人の行き先だけでした。次に、帳面と下女。それから、孫二娘様と張青様の所在が加わっています」

楊志の目が細くなる。

「十字坡と二龍山の線を探っているな」

「はい」

武松が短く言う。

「石秀だ」

「本人でしょうか」

「本人かどうかは分からねえ。だが、やり方はアイツらしい」

張青が腕を組んだ。

「その石秀って男は、よほど暇なんで?」

「暇ではないから厄介なのです」

私は言った。

「目的があって探っています。女二人を見つけるだけなら、十字坡で済みます。孫二娘様と張青様まで探るなら、二龍山へつなげたいのでしょう」

孫二娘の目が笑っていなくなった。

「アタイらを巻き込む気かい」

「もう巻き込んでいます」

魯智深は椀を置いた。

「ならば、来たところを捕まえればよい」

「それも一つです。ですが、捕まえる前に止められるなら、その方がよろしいかと」

「どう止める」

魯智深が問う。

私は少し息を吸った。

「梁山泊へ、問い合わせます」

広間が静かになった。

張青だけが、目を丸くする。

「問い合わせ、ですかい」

「はい」

現代なら、まず窓口に確認する。

担当者が勝手に動いているのか。

組織としての判断なのか。

それを切り分ける。

この時代に問い合わせフォームはない。

だから、文を出す。

「楊雄と石秀は、今は梁山泊の人間です。二龍山周辺で探りを入れている者が、二人の名に連なるものなら、それは梁山泊の意向なのか。まずそこを尋ねます」

魯智深は鼻を鳴らした。

「面倒な文だ」

「喧嘩を売る文ではありません」

楊志が言った。

「そうだ。問うだけなら角は立たぬ。梁山泊として動いているのか、私事なのか。それを答えさせる」

武松も頷く。

「上へ上げれば、石秀は動きにくくなる」

「なぜですか」

迎児が聞いた。

武松は迎児を見た。

以前なら、迎児は視線だけで下がったかもしれない。

だが、今日は下がらなかった。

「梁山泊は、二龍山と事を起こしたくねえ」

楊志が続ける。

「魯智深、武松、孫二娘、張青。山ごと敵に回す価値はない。楊雄の私事なら、上は止める」

魯智深が不満そうに言う。

「ワシらは、そう安く見られておるのか」

「安く見られていないからです」

私が答えた。

「二龍山と争う価値がない、ではありません。二龍山と争う損が大きすぎるのです」

魯智深は少し考えた。

それから、にやりと笑った。

「ならば、文を出せ」

話が早い。

ただし、早すぎると困る時もある。

「文面は、選ばせてください」

「好きにせよ」

楊志が紙を引き寄せる。

「二龍山から梁山泊へ。周辺で、十字坡の女二人と孫二娘、張青の所在を探る者あり。楊雄、石秀両名の関わりが疑われる。これは梁山泊の命によるものか、と」

「疑われる、は強いです」

私は言った。

「では、名が出ている、とするか」

「はい。こちらは断定しない方がよろしいかと」

楊志が頷いた。

「ならば、こうだ。二龍山周辺にて、十字坡にいた女二人、および孫二娘、張青の所在を問う者あり。問いの中に、梁山泊の楊雄、石秀の名が関わるようにも聞こえる。これは梁山泊の意向か。もし私事であれば、二龍山周辺での詮索は控えられたい」

丁寧だ。

だが、刺さる。

「それでよろしいかと」

「最後に加える」

楊志は続けた。

「二龍山は、梁山泊と事を構える意はない。されど、逃げ込んだ者を本人の意思なく渡すこともない」

魯智深が大きく頷いた。

「それは入れよ」

「入れます」

私は紙に下書きを始めた。

文を書きながら、少し不思議な気持ちになる。

楊雄から逃げるために、家を出た。

寺を避け、父の家を捨て、十字坡を離れた。

今度は、梁山泊へ文を出している。

逃げているだけのはずなのに、だんだん書類仕事が大きくなっている。

転職先が二龍山とは、人生分からない。

もちろん、今は人生ではなく命の話である。

文ができると、楊志が読み、武松が短く直し、魯智深が最後に大きく頷いた。

「よし。これでよい」

孫二娘が私を見た。

「巧雲、怖いねェ」

「何がですか」

「石秀を追い返すんじゃなくて、梁山泊の上に聞きに行くところだよォ」

「石秀殿は、見る方です」

私は筆を置いた。

「なら、こちらは見られたことを記録します。記録された探りは、もう忍び足ではありません」

孫二娘はしばらく私を見て、それから笑った。

「やっぱり怖いよォ」

張青が小さく頷いている。

納得しなくていい。

文は、山の下へ行く者に持たせることになった。

ただし、途中で奪われても困る。

楊志は、別の口から同じ内容を伝える手配もした。

文だけでなく、噂としても梁山泊へ届かせる。

一つの道だけに頼らない。

それも情報管理である。

夕方、迎児と二人で自室に戻った。

迎児は、文の控えを見つめている。

「巧雲様」

「何でしょう」

「梁山泊へ、そのようなことを聞いてもよろしいのでしょうか」

「よろしいかは分かりません」

迎児が目を丸くした。

「分からないのですか」

「でも、黙って探られるよりはましです」

私は控えの端を揃えた。

「相手がこそこそ聞くなら、こちらは表へ出します。梁山泊の意向ですか、と」

「石秀様は、困りますか」

「困るでしょうね」

「楊雄様も」

「困ればいいのです」

少し強く言いすぎたかもしれない。

けれど、迎児は驚かなかった。

むしろ、小さく頷いた。

「はい」

その返事が、思ったより頼もしかった。

私は帳面を開き、新しい項目を書いた。

梁山泊へ問い合わせ。

二龍山周辺の探りについて。

楊雄、石秀の名。

私事なら控えられたい。

本人の意思なく渡さぬ。

最後の一行で、筆が少し止まった。

本人の意思なく渡さぬ。

この言葉が、何度も私を助けている。

柴進の屋敷で守られた時とは違う。

十字坡で働いていた時とも違う。

二龍山では、私の意思が、文の中に入る。

私は控えを畳んだ。

石秀は見ている。

なら、こちらも見る。

見られた跡を書き残す。

それが積もれば、ただの探りではなくなる。

梁山泊へ差し出せる話になる。

逃げるだけではない。

隠れるだけでもない。

問い合わせる。

なんとも事務的で、なんとも私らしい反撃だった。

迎児でございます。


探りの話が、梁山泊へ届くことになりました。

私には、少し難しい話でございます。

でも、巧雲様は仰いました。

黙って探られるよりは、表へ出した方がよいのだと。

石秀様は、見る方だそうです。


――巧雲様は、それを書き記す方でした。

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