8話 内緒
ケラケラと肩を震わせている朝日川と前村だけど、全然わかんねぇ。
そしてどうやら、そう思っているのは俺だけじゃなかったらしい。
「アサも前村も面白いの感覚がズレすぎだ」
心底つまんなそうな肥後の声に、俺は頷いてしまう。
「だよな。肥後の言う通り。何が面白いのかさっぱりだ」
「......やっぱ面白ぇわ」
肥後、まさかの裏切り。
「いや、どこがだよ。肥後、全然笑ってねぇじゃん」
「面白いっつーかギャップ? もっと会話できねぇヤツだと思ってた」
「わかるわかる! ずっと寝てるもんね!」
前村まで乗ってきた。
みんなが俺にどんなイメージなのかは知らねぇけど、これだけは言える。
「それ、よく言われる」
「よく! 言われるんだ!!!」
俺の言葉を聞いた瞬間、前村が腹を抱えて蹲るほど笑い始めた。
箸が転がっても笑えるってこのことだろ。
つーか、なんなんだこの状況。
なんでクラスの人気者たちが俺の席の周りに集まってんだ。
早くチャイム鳴れよと念じていると、フッと体が軽くなる。朝日川が俺から離れて、椅子から立ち上がったのだ。
「二人とも、急にぐいぐいいったら朔弥が困るからそろそろ向こう行くぞ!」
「それ、アサが言う~?」
笑いすぎて息も絶え絶えな前村は、目尻に滲む涙を拭っている。
どんだけ笑うんだよって感じだけど、こればっかは同意見だよ。
朝日川が言うな。強引さはお前がトップだ。
「俺はいいの。な、朔弥」
「なんでだよ」
即座に否定してやると、また前村が噴き出した。
「ぜーんぜん! 納得してもらってないじゃん!」
「一方通行すぎだろ。マジで何繋がりなんだお前ら」
肥後の疑問は、今こちらに意識を向けている全ての人が持っている疑問だろう。
おそらく朝日川もわかっているだろうに、人差し指を唇に当てた。
「内緒」
「当ててみろってことか?」
「言ってない言ってない」
どこまでも淡々としている肥後に首を左右に振る朝日川。
でも、前村はピンっと手を上げた。
「わかった! 恋敵だ!」
「前村、不正解~」
「生き別れの兄弟」
「肥後、不正解。正解は......同じ小学校だった、でした!」
「違うだろ」
「バラすの早いよ朔弥~」
朝日川は何故か答える気がないらしい。
ニコニコしながら質問を煙に巻き、黒板の上の時計を指差した。
「ま、とにかく。そろそろ先生来るから席戻ろ」
この言葉を合図に、三人は俺の席から離れていった。
ホッとしながらも、俺の目は自然と朝日川を追ってしまう。
すれ違う相手に微笑み、声を掛けられては返事をして、ようやく朝日川は窓際の席にたどり着いた。
(マジで人気者だな............っ!?)
椅子に座った朝日川は、不意にこっちを見た。
バッチリ目があって、心臓がドキッと跳ねる。
逸らそうとしても、捕まったみたいに目が離せない。
朝日川の唇がふわりと弧を描き、そこに人差し指が当たる。
『内緒』
そう言ってる気がした。
俺は小さく頷いてから、ようやく朝日川から顔を背けることができた。
ゲームのやり過ぎで寝坊するから、ゆりかごコールしてもらってるなんて。
恥を晒すようなこと、自分から人に言うわけないだろ。
(......なんで秘密にするのか謎すぎる)
ふぅ、とため息が漏れる。
朝から致死量のイケメンを浴びて疲れた。
ちょっとでも休憩したくて机に突っ伏した俺だったが......時間は無情だ。
休む間もなく先生が入ってきた。
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