7話 目覚ましが仕事した
早く寝たって朝は眠い。
夜の十一時半くらいに寝たのが早寝なのかはわかんねぇけど。俺にしたら日付を超える前に寝たら早寝なんだよ。
目覚ましが鳴った時、眠くて眠くてキレたかった。
キレたかったけどちゃんと起きた。
これだけで及第点だ。
そして顔を洗いに洗面所に行った俺は、鏡を見て呟いた。
「目覚まし、ちゃんと仕事したな」
寝起きの冴えない顔もボサボサの頭もいつも通りだけど、そこだけは違う。
俺のスマホの目覚ましときたら、いつもは気がついたら止まってるからな。
「......たまにはちゃんと髪するか」
ふわりと朝日川の爽やかな笑顔が脳裏によぎった俺は、櫛を手に取った。
朝起きて、髪を整える時間があるなんて久々だなぁ。
「朔弥、おはよう!」
「あ......あー......おはよう」
教室に入るなり、晴れやかな朝に似合うフレッシュな声が弾けた。
声の主の朝日川が、わざわざ教室の入り口までやってくる。
眩しく輝く朝日川を見た俺は、思わず髪に手をやった。
(やばい。髪、自転車から降りてそのままだ)
せっかくちゃんとしたのに。
悪あがきで適当に髪を押さえたけど、朝日川は俺の髪型なんて気にしていない。
「遅刻しなかったな。偉いじゃん」
遅刻しないなんて最低限のことができただけなのに、笑顔で褒められた。
浄化されかけてる妖怪になったみたいな気分だ。俺は落ち着かなくて、慌てて目を逸らす。
褒められて悪い気はしないのに、無愛想な声が出てしまう。
「おかげさまで」
さっさと席に着くものの、朝日川はピッタリとついてきた。当たり前のように俺の前の席に座って、椅子の背もたれを抱いている。
「早く寝ると、早く起きれただろ?」
「眠いのは変わらねぇけどな」
「素っ気なすぎるぞー」
唇を尖らせた朝日川に、ほっぺたを両方とも掴まれた。痛くない範囲でむにむにと引っ張られる。
もっと愛想よくできればいいのに、俺はバカだ。
朝日川なんて、拗ね顔すら愛嬌があるのに。
自分で自分にガッカリしながら、朝日川の好きにさせることにする。
そうしているうちに、俺の席の横に立ったヤツがいた。
「アサと斉藤くんって、いつの間につるむようになったの?」
大きな丸い目を瞬かせているのは、前村だった。
いつも朝日川の隣にいるイメージがある、小動物系のイケメンだ。
突如増えた一軍男子に、俺はすぐに答えられない。
代わりに朝日川がいい笑顔で俺の方に身を乗り出してきた。
「ふっふっふ。前村、いいことに気がついたな。なんと......昨日からです!」
机を挟んでるのに、無理矢理肩組んでくる。
お互い変な体勢だ。
朝日川の無理やりな仲良しアピールに、前村はツッコまない。黒目がちな目を見開いてから、瞬きを繰り返していた。
「へー! 相変わらずアサは距離の詰め方が急だねぇ。ね、肥後」
「今更だろ」
一軍男子は増殖するらしい。
声のした方を振り返ると、肥後は音もなく俺の後ろにいた。
バスケ部員らしい長身とクールな顔立ちの、これまたイケメンだ。
俺の席なのにどう見ても俺だけ場違い。
なんかクラスの奴らがこっちをチラチラ見てる気がする。朝日川を筆頭に目立ちすぎるから、三人とも俺から離れて会話してほしい。
でもそんなこと言うと空気が悪くなる。俺は知ってるんだ。だから仕方なく黙るしかない。
もちろん俺の気持ちなんて知らない朝日川は、楽しそうに笑ってる。
「朔弥が面白いからさ、つい」
「面白い......? 斉藤くん、実はユアチェーバーだったとか?」
「違います」
そんなわけねぇだろ。
俺は思わず食い気味に返事をしてしまった。
すると前村が机に手をついて、じっと覗き込んでくる。
「クラスメイトなのに敬語なの、面白いかも! 斉藤くん面白いね!」
「な? なんかさー、面白いんだよ!」
「はぁ」
思わず敬語が出ちゃったなとは思うけど、そんなに面白いか?
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