6話 おやすみ
何故か朝日川にゲームのレクチャーをする羽目になった。
こうなってくると、俺も好きなゲームのことだから、ついつい喋ってしまう。
「......それで、ゲームはストーリーモードが面白くてな。続きが気になるからどんどん進むんだ」
「へぇ」
「あと少し、もう少しって思ってると時間が溶けてんだよ。あと二十分待てば次のストーリーが読めるから、それだけ読んだら寝ようって思ったりな」
「そっか、夜更かしの理由がわかった。朔弥が特に好きなストーリーは、どのくらい進めれば読めるんだ?」
「結構進めないと......って、なんか俺ばっか喋ってないか?」
ハッと気づいた時にはもう遅い。
上手く相槌を打ってくれる朝日川に乗せられて、俺は異様に語ってしまった。
思わず口を手で押さえていると、優しい笑顔が見えるような声で朝日川は答えてくれる。
「そうか? 俺が朔弥のこと知りたいから色々聞いちゃってるだけだよ」
「......なんで、俺のこと知りたいなんて......」
「これから毎日電話する友だちのことだからな」
「毎日!?」
今日だけじゃないのか!?
夜中なのに声がデカくなる。ベッドの上でバウンドしてしまった。
朝日川は当たり前だろ、なんて言っている。
「一日だけ早く寝てどうするんだよ。『今日から』って言っただろ?」
「言ってたっけ......」
記憶を探ってみると、確かにそんなことを言っていたかもしれない。
言ってなかったかもしれないけど、今の朝日川がその気なんだからどうしようもない。
「頑張ろうな、朔弥。毎日早寝して生活リズム整えるぞ」
「はいはい、珍獣の飼育係さん。お前、楽しそうだな」
なんか、つられて俺も笑ってしまう。
「......朝日川って、頻繁に友だちと通話するタイプなのか?」
「いや? ほとんどオンスタのDMで終わる」
「そっか」
オンスタは俺のスマホにもダウンロードしてあるSNSだ。
といっても、俺にとってはそんなの見る用。DMで友だちとやりとりなんて、ほとんどしたことがない。
俺は話しながらなんとなくオンスタのアイコンをタップした。
「好きなわけじゃないのに通話してくるとか......朝日川の方がよっぽど珍獣じゃねぇか......」
「朔弥は特別」
「へ?」
俺はスマホを触る指を止めた。
特別......その言葉が何回も頭の中をぐるぐるする。
トントントン、と何かが胸をノックし始めた。
(......特別......)
でもその不思議な現象はすぐ終わる。
間抜けな声で聞き返した俺に、朝日川がサラリと説明してくれたからだ。
「DMだとスルーされたら終わりだろ?」
「ああ、そういうことな。うん、スルーしてたよ」
「ほらなー?」
謎の敗北感を覚えて、俺はベッドにバフンと寝転がる。
これだから陽キャはいけない。
軽い気持ちでなんでも言ってしまうんだから。もう惑わされない。俺がそう決心する中で、朝日川の耳心地のいい声はまだスマホから流れてくる。
心なしか、明るかった朝日川の声が低く深くなっていっている気がする。
「普段は通話しないけどさ。通話っていいかもって朔弥と話してて思った」
「なんでだ?」
「なんか楽しいや」
さてはこいつ、人たらしだな?
「朔弥が夜はよく喋るって発見と、朔弥の好きなゲームがわかったのが今日の収穫ー」
平常心平常心。
俺は自分に言い聞かせる。
こいつは誰にでもこんなことを言うやつなんだ。
「はぁ......そうですか」
気のない返事をしようとしたら棒読みになったな。まぁいいだろう。
無駄な演技をする俺に、朝日川があくびする気の抜けた音が聞こえてきた。
「もう眠いのか?」
「んー......ねむ......って、5分だけ話して寝るつもりだったのにとっくに過ぎてるな。そろそろ寝ようか」
一瞬聞こえた無防備な声の後、朝日川は僅かに慌てた声になった。バサバサと布団かタオルケットを動かす音まで聞こえる。
まだ十一時半にもなってないのに、朝日川はちゃんと眠くなるんだと感心する。
俺は全然眠くねぇけど、とりあえず話は合わせよう。
「んー......そうだな。寝るか」
「えらいぞ朔弥。絶対寝ろよー」
「はいはい」
しっかりと釘を刺されてしまった。
「おやすみー」
眠そうに間伸びした声は、これまで聞いた中で一番耳に響く声だった。
不思議と落ち着く、癒しの声。
「おやすみ」
もう少し聞いていたい、なんて思ってしまいながら通話を切る。
「......俺も楽しかった、かも」
Limeを閉じた俺は、そのままスマホを充電器に繋いだ。
ゲームの続きをしようと思ってたけど明日にしよう。
「せっかく、ゆりかごコールしてくれたしな」
電気を消してベッドで目を瞑ると、意外にもすぐに睡魔がやってきた。
まだ、朝日川の声が耳に残っている気がする。
心地よい感覚に浸りながら、俺はゆらゆらと夢に揺られるのだった。
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