4話 一緒に寝よう
嘘をついたみたいで後ろめたい俺に、朝日川はスッと手を差し出してきた。
「朔弥、ちょっとスマホ貸して」
「へ? ど、どうぞ」
俺、マイペースって言われて生きてきたんだけどな。朝日川の真っ直ぐな目に見られると従ってしまう。
指紋認証でロックを外した俺は、変なもん検索してなかったかだけ確認する。よかった、大丈夫だ。
スマホを渡すと、朝日川は画面に親指を滑らせた。
目覚ましでもセットされてんのか? それで起きられるならとっくに起きてるけどな。
そんなことを考えていると、朝日川がスマホ画面を俺の目の前に突きつけてきた。
「十一時だ」
「え?」
スマホ画面を見ると、連絡用アプリのLIMEの画面だった。
家族と中学の友達三人しか登録されてないはずのそこに、新しい名前が一つ増えている。
「アサ」というのは、間違いなく朝日川のアカウントだろう。
で、何が十一時なんだ?
疑問でいっぱいの俺の心を読んだみたいに、朝日川は口を動かした。
「夜は十一時に寝よう」
「十一時? 無理無理。ゲームの時間なくなっちまう」
「十時五十五分に、俺から連絡するから。ちょっと通話しよう。それで、おやすみって言ったら朔弥も寝ろよ」
ちょっと意地悪な顔で笑うのも様になっちまう発光男子。
頷きたくなるけど、こればっかりは言うこと聞けねぇ。
俺は朝日川からスマホをひったくった。
「無理だっつってんだろ。そんな早くに寝れねぇよ」
「寝る時に通話すんのって、なんて言うんだろ。モーニングコールの逆だからナイトコールか......おやすみコール......」
「呼び方なんてどうでもいいだろ。赤ちゃんじゃないんだから、寝る時間くらい好きにさせてくれ」
「赤ちゃん......そうだ。ゆりかごコールとかどうだ?」
「俺の話、聞こえてるか?」
陽キャには陰キャの声が聞こえないのだろうか。
それとも朝日川は俺以上のマイペースなのだろうか。
完全拒否体制の俺だけど、朝日川は強行突破する気だ。
俺を見る目がギラギラしている。怖いって。
「朔弥さ、休み時間はいつもずーっと寝てるよな? しかも、授業中に居眠りしてることも数え切れないくらいあるよな?」
「......はい」
「このままだと、本当に留年するぞ」
「ぐ......っ」
胸にぐさっときた。光の矢がブッ刺さったに違いない。
言葉に詰まった俺を見る朝日川の目尻が下がる。
勝ち誇った顔しやがって!
「な、決まり。今日からゆりかごコールするからよろしく」
「ネーミング、ほんとにそれで大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫」
「はぁ......お前がいいやつなのはわかったけど、なんで今朝初めて会話しただけの俺にここまで......」
「なんかお前、面白くて」
面白いだと?
全然納得いかねぇ。
「どこがだ? 具体的にどうぞ」
「朔弥はいっつも当たり前の顔で遅刻してきててさ。心臓強いなーって思ってたんだよ、俺。でも実は忍び込むのを狙ってあんなにコソコソしてるなんて......面白いだろ」
「そうか?」
「そうだよ。とにかく俺はお前のこと面白いって思って、興味持ったんだ。諦めてくれ」
朗らかに言い切られてしまった。
これはマジで諦めるしかないやつか。
「俺のこと珍獣だと思ってるってことは理解した」
すっかり脱力して、俺は机に頬をくっつけた。
朝日川は犬にするみたいにわしゃわしゃと俺の頭を撫でてくる。
珍獣を否定しないところを見ると、マジでそう思ってんなこいつ。
「夜は俺と一緒に寝ような、朔弥!」
はつらつとした、よく通る声が教室内で弾けた。
近くの女子たちがパッと振り返る。
ちょっとした騒めきと共に、俺たちに視線が集まった。
「誤解を招く発言はやめろ」
クラスの人気者一軍男子は、どうもツッコミどころが多い男のようだ。
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