39話 発光してる
店の入り口から奥まで、所狭しとステッカーが並んでいた。
メッシュパネルにステッカーがかけてあるから、ステッカーでできた壁が並んでるみたいだ。
俺はステッカーの専門店なんて初めて来た。そんなものがあるのもアサに聞かなきゃ知らなかった。
ステッカーを掛けてあるメッシュパネルの間は、人一人がやっと通れるくらいの幅しかない。俺はアサの後ろにぴったりくっついて歩く。
透明のシートで包装されたステッカーを眺めていると、アサがチラリと振り返った。
「どんなのがいいとか……もう決めてくれてたりするか?」
太陽。と心の中で即答しながら、俺は声にはならなかった。
手を繋いでるせいだ。
自分で聞いといて照れくさそうにすぐ前を向いてしまったアサのせいだ。
このままじゃ、落ち着いてプレゼントを選べない。
「あー......と......なぁ、アサ。別々で探さないか?」
言った途端、アサの手の力が強くなった。
けど、すぐに緩む。
「そうだな。お互い何をプレゼントするかサプライズにしようか」
「ああ、それがいい」
「じゃあ見つかったら声かけて」
ぎゅっぎゅっと何度か握った後、名残惜しそうに手が離れていった。
いや、名残惜しいのは俺だ。
空気しか掴めなくなった手が急激に冷えて、寂しく感じる。
めんどくさいな、俺。
女々しい気持ちを振り切るために、俺はプレゼントのステッカー探しに集中することにする。
文字だけのもの、有名なアニメのキャラクター、花や動物をモチーフにしたものなど、統一性はない。でもだからこそ、賑やかでどれも魅力的なデザインに見えた。
こんなにたくさんあるんだから、太陽もあるだろう。
俺はステッカーに向きあい、カニみたいな横歩きで店内を回る。
(太陽、太陽......やっぱ結構あるな......あ)
呼ばれたような気がした。
そのくらい、吸いつけられるように目に留まったシールがあった。
(宝箱だ)
銀色の宝箱の中から、オレンジ色の太陽が顔を出しているポップなデザインのステッカーだ。
派手すぎないラメが入っていて、角度を変えるとキラキラ光る。
朝日川宝にプレゼントするのに、こんなにぴったりなステッカーはないんじゃないか?
俺はスマホをジーンズのポケットから取り出し、ステッカーを当ててみる。
これなら二枚くらいステッカーがはさめそうだな。丁度いい大きさだ。
「アサは......すげぇ真剣だな」
口元に手を当てている端正な横顔に見惚れてしまう。じっくり吟味してるのがステッカーなのがまた面白い。
あれだけ一生懸命考えてくれてるんだ。
この後なにがあっても、ステッカーは宝物にしよう。
(......夜に告白したら......もしダメでもすぐ帰れるよな......)
俺は手に持ったステッカーを人差し指で撫でる。
正直、告白するのがちょっと怖くなってきた。
ダメでも、このステッカーを使ってくれるんだろうか。俺の気持ちと一緒に、無かったことにされたりしないだろうか。
想像しただけで鳥肌がたった。
心を落ち着けようと、もう一度アサを見る。
あんなに心が綺麗なやつが、貰ったものをあっさり捨てるなんてことするはずない。
希望を持とうとする俺と、体を動かしたアサの目線がバッチリと合う。
一秒も待たないうちに、アサは自然な笑顔を見せてくれた。
ステッカーのラメなんて目じゃないくらいピッカピカの笑顔だ。
今の俺にはトキメキよりも安心を与えてくれた。
体から力が抜けていく。
アサはステッカーの壁の間を歩きながら、俺に問いかけてきた。
「朔弥、どのステッカーにするか決まった?」
「ああ。お前はゆっくり探してくれよ」
「大丈夫、俺も決まったよ」
いつの間に決まってたんだ。
俺が暗い妄想で勝手に沈んでる間か。
一体どんなステッカーをアサは選んでくれたんだろう。
アサの俺に対するイメージってのはどんななんだろう。
楽しみなような、少し怖いような気持ちのまま、俺たちはそれぞれステッカーを買った。
店を出てから、すぐにアサがステッカーの入った袋を見せてくる。
プレゼントって感じは全くしないシンプルなポチ袋みたいなやつだけどな。外側なんてどうでもいいだろ。
俺とアサはステッカーを交換した。
口元がだらしなくニヤつくのを止められない。
目の前ではアサも、嬉しそうに笑ってくれていた。
「じゃあ朔弥、せーので開けるぞ」
「ん。せーの」
俺が持ってる袋から出てきたのは、月だった。
大きな三日月の上に、有名なゲームのモンスターたちが寝ているステッカーだ。
手元を見つめ、俺は噴き出してしまう。
「お前の中の俺は、やっぱりゲームと居眠りのイメージなのか」
「それもあるけどさ。月がみんなのゆりかごになってるだろ? これは朔弥だって思った」
アサは俺にくれたステッカーを一緒に覗き込んでくる。それから、ヒソヒソ話をするみたいに俺の耳に唇を寄せてきた。
「俺のゆりかごだからな」
「......っ」
深くて甘い囁き声に、項がゾクッとする。
急に大人っぽい声になるのは反則だ。勘弁してくれ。
なにも言わずに縮こまっていると、アサは俺からのプレゼントを口元に当てた。
キスしてるみたいで、ソワソワする。
目を細めたアサの声のトーンが、今度は高くなる。
「朔弥のは宝箱だな。俺の下の名前覚えててくれたのか......すげぇ嬉しいよ」
「ん......宝と、太陽。お前はいつもキラキラしてるから」
言えた。ちゃんと、思ってることが言えた。
言葉にして本人に伝えるのは、恥ずかしくて仕方ない。羞恥プレイだろこんなの。
でもアサは言ってくれたんだから、返せてよかった。
アサは燃えそうなくらい熱い俺の頬に、そっと触れてきた。
「朔弥の方がキラキラしてるよ、いっつも」
聞き間違いだろうか。
そんなわけないのに。
そう思うけど、心臓が口から飛び出そうなくらい動いてて喋れない。また頭がくらくらしてきてしまった。
キャパオーバーを起こした俺を気遣ってくれたのか、アサの手が離れていく。
「これさ、同じやつもう一枚ずつ買って二人で同じステッカー挟もう」
アサはステッカーとステッカー同士をペチッと合わせた。
「朔弥が俺をイメージして選んでくれたステッカーも、朔弥をイメージして俺が選んだステッカーも、どっちも欲しくなった」
欲張りだよな、と白い歯を見せるアサは言うまでもなく光り輝いている。絶対発光してる。
俺はついつい目を閉じてしまった。
「お前ってほんと......」
素直でいいなぁ。
愛しいなぁ。
俺もぜひそうしたいって伝える前に、アサは俺の手を引いて店に入って行った。
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